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一章2

  アデル様は腕を組んで、扉に寄りかかっている。


  あたしがぶつぶつと考え込んでいる間、黙って見ていた。


「……ハルナ。月の神殿で修行をするということは忘れてないだろうな?」


「殿下、巫女様は気を失われたばかりなんですよ。あまり、そういうことは……」


 シルビアさんが止めに入るもアデル様はあたしを見据えたまま、言い募る。


「そなたの肩にこの国の命運がかかっているのだ。こんな頼りない巫女では私も信用できそうにない」


「……わかりました。あたし、巫女としての修行はやります。ただ、あの。女神様方からお言葉をいただいたので。説明をしてもいいですか?」


 あたしが素直に応じた上で見上げると、アデル様は目を見開いた。


「本当に女神方に会ったのか。いいだろう、言ってみろ」


 あたしはまず、カティス様に言われたことを話した。

 本当は闇の巫女に選ばれるはずだったのがアーシェ副神官長がいたから、できなかったこと。

 月の女神のルシア様にも会ったことなどを説明する。シルビアさんも驚いた表情でこちらを見ている。


「月の女神に会ったのか。そして、カティス神からも加護の証を与えられた。その腕輪がそうなのか?」


 あたしの左腕には銀色の透き通ったブレスレッドがつけられている。それを指摘されて、驚愕した。 けど、シルビアさんは困惑した表情になっている。


「……わたしには見えません。殿下にはわかるのですか?」


「ああ。見たこともない花の装飾が施された細い腕輪だ。銀製のな」


 アデル様は頷きながらあたしの左手首を指さした。


「申し訳ありませんけど。やはり、見えませんね」


 あたしはブレスレットを確認してみた。ブレスレットには確かに、綺麗に咲いた花の文様が彫り込まれていた。葉っぱの形からすると、蓮の花のようだ。

 そういえば、お姉ちゃんが蓮は仏様の象徴ともいえる花であると教えてくれたことがあった。あたしの家も仏教を信じていたから、女神様がそれに合わせてくれたのだろうか。


「見れば見るほど、不思議な文様だな。ハルナは知っているのか?」


「……文様として描かれているのは蓮の花ですね。その、あたしの世界では結構、好まれていますよ。仏様のおられる死後の世界ー浄土にもたくさん咲いていると信じられています。あ、仏様というのはこちらの神様みたいな方々のことを指します」


 簡単に説明するとアデル様はほうと感心したようにこちらを見てきた。


「ほとけ、か。描かれている花にそんな謂れがあったとはな。闇の女神はそなたの故郷のことをよく知っておられるようだ」


「あの、それはともかく。あたし、どうやってこちらのお部屋に来たのでしょうか?」


 あたしが質問するとアデル様はため息をつきながら、答えてくれた。


「そなたを運んだのは私だ。神官どもでは対応しきれなかったからな。それと、こちらは本来は男子禁制だ。神官と王族は例外だが」


「アデル様や陛下方だったら月の神殿に入れるんですね」


「そうだ。私は光の神子でもあるから、月の巫女の部屋であっても入ってよいと神官長から許可はもらっている」


 あたしはアデル様がここにいた理由を聞いて、やっと合点がいった。


「とりあえず、今日はゆっくりと休んだ方がいい。シルビア、少し席を外してくれ」


「わかりました。殿下、手は出さないでくださいよ」


 わかっていると言って、アデル様はあたしの部屋の中へと入ってきた。入れ替わるようにシルビアさんは出ていった。それを見送ると、アデル様はベッドの枕元の側までやってくる。


「……ハルナ、他に伝えていないことがあるだろう?」


 小声で囁かれて、心臓が早く動き出した。跳ね上がりそうになる。


「…その。あたしが闇の神に守られることで闇の気に飲み込まれるんじゃないかと。後、新月の日は魔物に狙われやすくなるからともいわれました」


「だから、私の側にいるようにともいわれたか?」


 はいと答えるとアデル様は困ったように笑う。


「そうか。月の巫女は闇の巫女と近いからな。そなたの気が闇に影響されやすいのは確かだ。闇の巫女は自身の霊力で守ることが可能だが、月の巫女の場合は難しい。だから、対の光の神子が必要になる」


「それってつまり、光の神子から離れちゃ駄目ってことですか?」


「……新月の夜は特にな。普通、光の神子も女性が選ばれることが多いんだが。何故か、ここ、二、三百年は男が光の神子となることがほとんどだ」


 へえと頷くと、アデル様はあたしの手を握ってきた。そして、手の甲に柔らかな感触がする。

 キスをされたと気づいた時にはアデル様はにっこりと笑っていた。

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