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閃と伝授

 小鬼と化してしまった二人の怒れる雌ゴブリンをイケメンパワーで封じ込めた矢野と青木の三人で、女神リリーに薦められ風呂に入ることにした。


 脱衣所にはまだ女子が放つ妖艶な香りが微かに漂い、俺と青木は鼻の穴を広げ、なるべく多くの香りを吸い込もうと、スーっと音たて吸い込んでいると、その光景が滑稽だったのか、矢野は衣服を脱ぎながら俺達を見て笑っていた。


 「お前達ってアホだよな、いい意味で」


 いい意味でアホとはどういう意味だと二人で首を傾げたのだが、細かい事はどうでもいい。

 脱衣所から風呂場に続く扉をガラガラと開けると、豪華すぎる風呂場が広がっていた。


 どこかの宮殿に住む成金が入りそうな風呂である。

 何の為にあるのかわからない太くて立派な柱が数本聳え立ち、大理石で作られた浴槽には女性を象った石像が肩に壺を担ぎ、壺から湯を流し込んでいる。


 浴槽だけではなく風呂場の床は全て大理石が使用されているようだ。

 壁の一部には鏡が設置され、その近くに桶が丁寧に並べられている。


 この建物の中で明らかに一番豪華な作りだ。リリーにマジックアイテム『小瓶の中の隠れ宿』を差し出したメルナーとか言う奴はよほど風呂が好きなのだろう。


 こんな豪華な風呂に入ったことのない俺達は「おおー」と歓喜を上げ、我先にと駆け込み、浴槽へダイブしたのだ。


 ジャブーンと音を上げ、体を洗いもせずに飛び込んでしまうほど興奮してしまったのだ。

 なにせ昨日も俺と青木は風呂に入っていなかったのだ、恐らく矢野も同じだったのだろう。


 しばらく湯に浸かり、鏡の前に置かれていた石鹸を手に取り、体を洗い再び湯船に浸かり、この二日間の疲れを癒す。


「ここに悟と明彦もいられればよかったのに……」

「……そうだな」


 哀愁漂う矢野にそれ以上掛ける言葉が見つからなかった。

 黙り込む青木もきっと同じ想いだったと思う。


 それから少しして風呂から上がり、タオルで頭を拭きながら食堂へ向かい、食堂のテーブルに目をやると、そこにはザックさんとレッグさんが座っていた。


 ザックさんは俺に気が付くと二ターっと相変わらずのやらしい笑みを浮かべ「邪魔してるぜぇっヒ」と手を挙げ声をかけてくれた、その手にはリリーが用意してあげたのか杯が握られていた。


 俺達もテーブルの席に着き二人に声をかけた。


「ザックさんにレッグさんどうしてここに?」


 俺が二人に尋ねると奥のキッチンからエプロン姿のリリーが現れ「お世話になったから食事をご馳走しようとリリーが来てもらったの」と手に持った料理をテーブルに並べていく。


 エプロン姿のリリーに見とれていると「なにニヤニヤニヤついてんのよ、まさかアンタさっきの思い出してんじゃないでしょうね」とエプロン姿の五月がチクリと嫌なことを言ってくる。


 何の話だと俺の顔を見てくるザックさんとレッグさんに、この話題を酒のつまみにされるは嫌なので話題を変える。


「っあ、それより今日は色々ありがとうございました。二人がいたから心強かっですよ」

「突然コボルトの群れに襲われた時はびっくりしたもんなっヒ」

「君たちの知り合いも含め10人程殺られてしまった」


 レッグさんの言葉に一瞬暗くなった矢野達を察して、すぐに話題を変える青木。


「それにしても二人の剣術は流石でしたね。やっぱり本物の冒険者は違うな」


 青木の言葉を聞いてザックさんはまたやらしい笑みを浮かべ、エールを飲み干し杯をテーブルに置き、誇らしげに胸を張った。


「俺の剣技は酔剣だからなっヒ、酔えば酔うほどに強くなるのさっヒ」

「それを言い訳に毎日浴びるほど飲んでいては世話がないがな」


 他愛のない話をしていると、テーブルに次々と料理が運び込まれ、朝ビッグママの特性サンドイッチを食べてから何も口にしていなかった俺と、テーブルを囲む男性陣は腹が鳴る。


 「ふふ」と笑う女性陣もすべての料理を運び終え席に着き、「召し上がれと」と言うリリーの合図で「いただきます」と声を上げフォークとナイフを両手に持ち食事時を楽しむ。


 テーブルの上にはサラダにトマトとコンソメを使ったスープ、角煮のような肉を煮込んだものなど、数種類の料理が所狭しとテーブルに並べられていた。


 ビッグママ顔負けの手料理を頬張りながら談笑していると、レッグさんは父親のような顔で俺達に視線を向けると今日の事を振り返った。


「本当に無事でよかった。あれだけの数のコボルトが出現したから、ついコボルトキングが群れを率いていると心配したが、奴はいなかったようだな」

「コボルトキングなんて現れたら並の冒険者じゃ太刀打ちできなかっただろう」


 そうか二人にはまだ言ってなかったな。

 一応報告していた方がいいのかなと考えていると、先に青木が報告していた。


「コボルトキングなら竜崎が倒したよ」

「シンの炎火消滅剣カッコよかったね」


 リリーが俺の目を見つめ、俺の新技を笑顔で褒めてくれている事が嬉しくて、つい口元が緩んでしまったのだが、ザックさんとレッグさんは青木の言葉を聞いて驚愕に固まり、頓狂な声が上がる。


「コボルトキングを倒したってどういうことだ!」

「冗談言うなよ青木っヒ。コボルトキングは懸賞金100万の化け物だぜっヒ!」


「「ひゃ百万!」」


 皆思わず声が上ずってしまう。

 百万だと! マジかよ、でも倒したことをどうやってギルドに証明するんだよ。

 死体なら置いてきちゃったぞ。


「俺達が襲われて……仲間が殺られたのがそのコボルトキングなんです」


 矢野の悲しげな顔を見てすぐに表情を引き締め、確認をしてきた。


「そいつは間違いなくコボルトキングだったのか」

「竜崎が魔眼で確認したから間違いないよ」


 レッグさんの質問に透かさず青木が俺の魔眼のことを伝えた。


 俺も自分の魔眼には相手の個体情報などを見破る力があることを二人に説明した。

 二人は俺の話を黙って静かに聞き「なるほど」と深く頷いた。


「ひとつ聞いてもいいですか?」

「なんだ?」

「コボルトキングを倒した事をどうやってギルドに証明したらいいんですか」

「それなら心配ない」

「スキルリングっヒ。この腕輪には手配魔物(モンスター)を倒した事を記録してギルドに証明する機能が備わっているんだっヒ」


 ザックさんが左腕を前に突き出し、俺の知らなかった腕輪の機能を教えてくれる。

 腕輪にそんな機能があることなんて知らなかった、きっとギルドのお姉さんも俺達みたいな子供が手配魔物(モンスター)を倒すなんて露ほども考えなかったのだろう。


 俺と青木にリリーの三人で分けたとしても一人頭約33万ルカ手に入る計算だ。

 当面は食い扶持に困ることはなくなったということだ。

 できればもうこのままパルムに帰ってしまいたいと考えていたのだが、そんなに都合良くはいかないらしい。


「戦力は十分だと考えてもいいんじゃないかレッグっヒ」

「十分かどうかは分からないがやれなくはないだろう」

「何の話ですか?」


 二人の会話にいまいちピンとこなかったのか青木が反応した。


「ミノタウロスブラックの討伐だ」


 そう彼らの本来の目的はミノタウロスブラックなのだ。

 だがコボルトキングが群れを率いて住処から逃げ出すほどの相手だ、できることなら関わりたくない。


「シンがいれば大丈夫だね」


 リリーが笑顔を向けてくるが、その笑顔が眩し過ぎて顔を逸らしてしまいそうだ。

 そしてリリーの意見を真っ向から否定するレッグさん。


「いや、ミノタウロスブラックはコボルトキングのように甘くはない」

「そんなに強いんですか?」

「正真正銘の化け物だ!」


 真顔で見開くその瞳の奥に、狂気じみた凄みが感じられる。

 ミノタウロスブラックと何か因縁でもあるのだろうか。


「でもまだ38人も冒険者がいるんだから楽勝ですよ」


 青木の言うことも最もだと俺も思うのだが、ザックさんの口から予想外の答えが返ってくる。


「その事なんだがなっヒ」


 ザックさんはレッグさんとアイコンタクトを取り、レッグさんが頷くのを確認して話を続けた。


「今回コボルトに襲われてわかったんだが。今集まっている冒険者じゃ足でまといにしかならないと判断してだなっヒ」

「俺がやれると判断した者以外、明日パルムに帰還してもらう予定なんだ」


 確かにレッグさんの言う通りコボルトキングよりもやばい相手ならそう判断するのが賢明だろうな。

 それはコボルトキングと戦った俺や矢野が一番良くわかっているつもりだ。


 現に矢野もそうすべきだと頷いている。

 でも一体何人ほど残るのだろうか? まぁそれは明日には分かることだよな。


「そうですか、なら仕方ないですね。気をつけて行ってきてくださいね」

「何寝ボケたこと言ってんだっヒ! おめぇーも行くんだよ青木」

「っえ!」


 青木は思わずテーブルに両手を突いて立ち上がり、冗談じゃない何言ってんだこの人と、言いたげな顔で固まってしまっている。


「それで誰が行くんですか? シンはもちろん行くんですよね?」

「ああ、そのつもりだ。だがそこの三名には申し訳ないが今回は辞退してもらいたい」


 坂下、五月の二人は何も言わずコクりと一度頷いた。

 矢野はテーブルの下で拳を作り、絶望に顔を歪める青木と俺に交互に視線を向け、俺達の身を心配する言葉を掛けてくれる。


「せっかく友達になれたんだ、無事に帰ってきてくれよ。これ以上大事な友人を失いたくはない」


 矢野のその言葉に嘘や偽りはないだろう、ただ役に立てない自分に苛立ちに似た何かを感じているのだろう。


 自分の気持ちを押し殺し、俺達の無事を心配してくれる矢野の言葉が嬉しかった。

 何か矢野の力になれないかと、ザックさんとレッグさんにスキルについて尋ねてみる。


「聞きたいことがあるんですが? ザックさんには昨日話したから知っているとは思うけど、俺達は異界送りに遭ったばかりでスキルの事について何も知りません。教えてもらえませんか」


 俺の言葉を聞き矢野の顔色も変わり、俺の気持ちが伝わったのだろうか。

 俺の顔を見て頷いた。


「是非教えてください! 俺には竜崎や青木のような特別な力がありません、それでも俺は亡くなった友人達の分まで強くなって、彼女たち二人を守らなくちゃいけないんです。」

「祐也……」

「ゆう……」


 矢野を見る二人の目が少し潤んで見えた。

 今ならなんとなくわかる気がする。コイツがモテる理由が。


「力になれるかわからねぇーがっヒ」

「俺たちが知っていることを話そう、君の思いに応える為にも」


 矢野の熱意が伝わったのだろう、ザックさんとレッグさんはスキルについて語ってくれた。


 二人が語ってくれた事は二つ、まず一つが閃き。閃きとは日々の戦いの中で、ある日突然頭の中にビジョンが浮かび、そのスキルの能力や使い方が何故か把握できているという事。


 もう一つが伝承。伝承とは文字通り誰かから受け継いだり教えを乞い、誰かが閃いたスキルを伝授してもらう事だという。


 だがこの伝承は教えを乞うても必ず身に付くものではないという。

 人には向き不向きがあるように、スキルにも向き不向きが存在しするのだという。


 また使用する武器の種類や体質なども関わってくるらしい。

 例を上げるならレッグさんが使う烈風斬は剣以外では使用不可能である事。

 またザックさんの使用するスキルは基本的にザックさんしか扱えないという。


 なぜならザックさんのスキルは酔っ払っていないと発動しないらしいのだ。

 仮にザックさんのスキルを伝授してもらっても酔っ払いながらでは戦闘にならない。

 ザックさんが酔っても戦闘可能なのはユニークスキル『酒豪』を所持しており、酔うほどに強くなるからだという。


 また伝承してもらったスキルを第三者へと伝承する事も不可能だというが、これについてはザックさん達もよくわからないのだという。


 ザックさんがユニークスキル『酒豪』を所有していることを知った俺はザックさんがいつからそのユニークスキルを得たかを尋ねると、今から二十年ほど前だと教えてくれた。


 ザックさんの年齢から考えても、恐らくユニークスキルを手にしたのは大人になってからだろう。

 そう考えると、望みは薄いが矢野達がこれからユニークスキルを得る事も不可能ではないということか。


 さらに俺がこの世界にはレベルやステータスが存在するのかと尋ねると、「なんだそりゃっヒ」と言っていたのでそれらは存在しない事が判明した。


 ただ閃きというものが一種のレベルによるものではないのかと俺は考えている。なぜなら最初からめちゃくちゃ強いスキルを閃く事はないのではと考えたからだ。


 そう考えると向き不向きの意味も違ってくる、つまり不向きだったのではなく、レベルが足らなかったのではないだろうか。

まぁこればかりは俺の憶測でしかない。


 一通りスキルについて教えてもらい矢野達も今後修行し、スキルを手に入れる事を決意したようだ。


 食事も済み、広間のソファーで寛いでいると、坂下がソファーで寛ぎながらまだ飲んでいるザックさんに近づき、元の世界に帰る方法がないのか尋ねていた。


「すまねぇーなぁっヒ。俺にはわからねぇなっヒ」

「ただ異世界人はいい意味でも悪い意味でもこの世界の歴史に深く関わることが多い」

「そういう意味では世界を旅したら、歴史に名を残す異世界人の足取りから何か掴めるかもしれねぇーなっヒ」

「……そうですか」


 あからさまに落胆する坂下と五月だがそんなに落胆する事はないと思う。

 要は異世界人に縁のある場所に行けば何らかの情報が手に入る可能性があるということだ。


「そこまで落ち込むことないと思うぞ」

「どういう事ですの?」


 不思議そうにこちらを見る坂下、五月、矢野の三名と、未だにショックから立ち直れていない青木。


「全く何の手がかりもなかったさっきまでとは違い、ザックさんの言う通りこの世界の歴史なんかを調べて、異世界人に縁のある場所に行けば何かわかるかもしれないだろ」

「過去の異世界人だって帰れたかわからないじゃない」


 確かに五月の言ってる事も一理あるな、苦労して旅をしたとしても、端から帰れないという事もある。


 俺達の会話を聞いてショックから立ち直れていなかった青木が自分の考えを話しだした。


「これは飽く迄俺の考えだけど、過去に異界送りに遭った人の中には極一部だけど帰れた人がいたんじゃないかな」

「どういうことだ?」


 矢野と同じくなぜ青木がそう思ったのかが俺にもわからない。

 皆、青木の言葉に耳を傾ける。


「例えば北欧神話とか、特にバリガー旅行記の作者サンジョナウィフストは、こちらの世界の体験を元に執筆したんじゃないかな? 他にもナスカの地上絵とか、俺たちの世界の不思議はこの世界が元になってても可笑しくないだろ」


 なるほど面白い考えだな。三人も青木の言葉を聞いて考え込んでいる。

 青木の言ったことは強ち間違いという訳ではないかもしれないな。


 考え込んでいた矢野も青木の言葉で何か気がついたのか話を始める。


「青木の推測が合っていたとするなら、死んだ人間を生き返す何かが有ってもいいよな、例えば神話に出てくるアスクレピオスとか」

「ユウの言うアスクなんちゃらって何?」

「アスクレピオスですわ沙也加。アスクレピオスは神話の中で人間だった頃に死者蘇生を成功させたとされているんですのよ」

「すごい! じゃあみんな生き返るかもしれないの!」


 矢野達の気持ちはわからなくもないけど、望みはあまり持たない方がいいんじゃないかな。

 それにアスクレピオスはハデスの怒りを買い、ゼウスの雷電で殺されたんだ。

 仮にこの世界で死者を生き返らせれる方法があったとしても、神話がこの世界をモチーフに語られているのなら、それはしてはいけないという警告だ。


 希望に満ち溢れている三人にとても言えることじゃないけど。

 青木もそのことに気づいているから、少し寂しそうな顔をしているのだろう。


 俺たちは何も言えなくなり、黙り込んでいるとレッグさんが「明日は早いからそろそろテントに戻り休むとする」そう言って二人はリリーに食事の礼を告げテントに帰っていった。


 俺達も明日に備え休むことにした。

 寝室は五部屋しかなかったが、坂下と五月が相部屋でいいと言ってくれたので、部屋割りで揉める事もなかった。


 階段を上って左端の部屋に入り、そのままベッドに倒れ込み眠りについた。


 その晩夢を見た、夢の中で青木は馬鹿でかい何かと相撲を取り、俺は何故か青木と出会った頃のように中二病全開だった。


 朝が来て目が覚めた俺はどうせ見るならリリーの夢が見たかったと項垂れ、気乗りしない討伐へ向かう為の支度を整え部屋を出る。


 部屋を出て階段を下りると、既にみんな集まっていた。


「いつまで寝てんだよ竜崎」

「あんた昨夜のこと部屋で思い出してニヤついてたんじゃないでしょうね」

「いやらしですわ」

「そう苛めてやるなよ二人共」

「さぁ行くよ。シン」


 五月と坂下はいつまで昨夜のことをネタにする気だ。

 それにしても今日も一段と綺麗だなリリーは。

 でもどうやってこの小瓶中から出るんだろう?


「リリーこの小瓶の中からどうやって出るんだ?」

「宿の入口に魔法陣あったでしょ? それを踏めば外に出られるんだよ」


 リリーの言葉を聞き全員なるほどと頷いている。

 俺達は宿を出て燐光の魔法陣を一人ずつ順番に踏んでいくと、魔法陣を踏んだ瞬間、体が発光し姿が消えていく。


 まるで神隠しにでも遭ったみたいだ、って遭ったんだよな。

 俺達がこの世界に来た時もこんな風だったのかな?

 そんなことを考えながら魔法陣を踏み、外に出ると既に大勢の冒険者達が二手に分かれていた。


 鉱山側を背に立つレッグさんとザックさんを含めた九人と、パルム方面に立ち並ぶ残りの冒険者たち。

 矢野、坂下、五月の三名はパルムに帰還する冒険者達の元に加わろうと歩き出し、矢野が突然立ち止まりこちらに歩み寄り話掛けてくれた。


「三人とも無事に帰ってくるんだぞ。パルムで待っているからな」


 矢野は手を差し伸べ握手を求め、俺はその手を取り、強く握り返した。

 そのまま矢野達は他の帰還組の冒険者と、無事だった二台の竜車に乗り込みパルムへと帰還した。


 討伐組に残った俺達はレッグさんの元に行き、これからの説明を受ける。

 レッグさんは残った十一人のメンバーにこれから鉱山内の洞窟に潜むミノタウロスブラックの討伐に向けて、六人二組のパーティーを組んで洞窟内を捜索するという趣旨を話してくれた。


 現在回復魔法を扱える者、ヒーラーは俺とリリーを含めて四名いるらしく、二つのパーティーに二人ずつヒーラーが入ることになるらしい。


 もちろん俺と青木とリリーは同じパーティーみたいだ。

 俺達のパーティーにはレッグさん、ザックさんにロウダさんと言う女性が加わった六人パーティーだ。


 ちなみにこのロウダさんもそこそこの冒険者だとザックさんが教えてくれた。

 ロウダさんは見た目が二十代後半でかなり背が高く、身長は170センチ程の細身でモデルさんみたいだった。

 引きずるんじゃないかと思うほど長いスカートに、真っ赤なルージュを引き、腰には丸めた鞭をぶら提げ、夜の女王様みたいな見た目の人だ。


 かなり気の強そうな人なのだが、見た感じザックさんやレッグさんには遠く及ばないんじゃないかと思う。

 まぁ二人がそれだけ強いということなのだろうけど。


 レッグさんの「さぁ行くぞ」と言う呼びかけで鉱山麓の穴から俺達は洞窟内に潜入した、洞窟内は普段鉱山の作業員たちが作業をするための明かりが設けられ洞窟内は意外と明るかった。


 一体どういう仕組みなのか気になり辺を見渡していると、ロウダさんが不思議そうに辺を見渡す俺に気付いたみたいで話しかけてきた。


「この洞窟内には作業員たちがそこらの壁に光石を埋め込んでるのさ」


 光石? 光石ってなんだろ。


「光石って何ですか?」

「光石っていうのは魔石の一種でね、近くの人や魔物(モンスター)から漏れ出た魔力を少しだけ吸い取って光を放つ石のことよ」


 つまりソーラーパネルの魔力バージョンってことかな。

 違うかな? とにかく自然発光する石ってことか。


 ロウダさんに光石についてレクチャーを受けていると、先頭を行くレッグさんの「分かれ道だ」と言う声が聞こえ、駆け寄ると。

 前方で道が左右に分かれている、俺達は当初の予定通り二手に分かれた。


 二手に分かれた事は別に構わないのだが、もし仮に向こう側にミノタウロスブラックがいたとしたら助けに行くまでに時間が掛かりすぎるんじゃないのか?


 それにもしどちらかでミノタウロスブラックを発見したとしても知らせる手段がないじゃないか。


 レッグさんにどうするのか確認していた方がいいな。


「レッグさん、仮に向こう側にミノタウロスブラックが居た場合、どうやって連絡を取るんですか? それに駆けつけるのにも時間が掛かりすぎるんじゃ」


 レッグさんは後方を歩く俺に振り返り視線を向け、すぐに前方を見直し、俺に背中を向けた状態で質問に答えくれた。


「連絡を取る手段はない。二手に分かれたのは取り残された作業員が居たら発見することが出来るかもしれないからだ。」

「鉱山の洞窟は無数に道が分かれているが結局全部同じ場所に繋がっててなっヒ、数百メートル進むとまた合流してそんでまた分かれるんだっヒ」


 なるほど結局二手に分かれても大したデメリットじゃないのか。

 それにザックさんの言ったように幾つもの分かれ道に先程から差し掛かっている。


 二人の説明を聞き納得していると、先程まで俺の横を歩いていたロウダさんがレッグさんと並んで歩いている。

 ロウダさんはレッグさんに耳元で何か話しかけていると、前方の分かれ道に差し掛かった時、分かれ道に潜んでいた胡桃色をした二メートル程の魔物(モンスター)がロウダさんに襲い掛かった。


 不意打ちを受けたロウダさんは体から血を流し、その場に倒れ込んだ。

ここまで読んで下さりありがとうございます。

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