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マジックアイテム

 泣き崩れる三人にかける言葉が見つからないのだが、このままだと日が暮れてしまう。夜になると活発になり攻撃的になる魔物(モンスター)も現れるかもしれない。


 残酷かもしれないが、死んだ人間はいくら泣いても生き返りはしない、今生きている者の安全が第一なのだから。


「そろそろ日が暮れる、このままここに居たらどんな危険があるかわからない。辛いかもしれないが移動しよう」


 言葉をかけると坂下はゆっくり頷き、矢野は相変わらず俯いたままだ、それに対し五月は涙目で俺を睨みつけてくる。

 よほど俺のことが嫌いなのか、二人が死んだのに平然としている俺が気に食わないのか、どちらにせよ相当嫌われているらしい。


「どうして! どうして明彦も悟も死んだのにそんな風にしていられるの。悲しんだり心が痛んだりしないわけ! あんた悪魔よ」


 五月の言葉が胸に刺さって、何かに心臓を掴まれたような感覚でキュッと苦しくなる。

 だけど仕方ないじゃないか。ほとんど喋ったこともない、ただのクラスメイトというだけの関係の奴が死んで、お前達みたいに泣いていたらそっちの方が嘘くさいだろ。そんな演技みたいなことしたらお前達にも失礼だろ。


 この時、俺はどんな表情をしていたのだろう。つい矢野が俺を庇ってしまうほど悲しそうな表情だったのだろうか。


「もうよせ沙也加。今俺達が生きて悟と明彦の死を悲しめるのもコイツがいたからなんだ。それに美穂の事も見捨てずに助けてくれた、感謝はしても恨むのは違う」


「そうですわ沙也加、私たちは間違っていたんですわ。竜崎達は谷垣さん達の事も私たちのように助けようと――」


 坂下も俺を擁護しようと言葉を紡ぐのだが、五月の言葉がそれを遮りどうしようもない胸の内を曝け出す。


「わかってるよ! そんなこともう分かってるの。だけど何かの……誰かのせいにしないとやっていられないの」


 五月の気持ちは何となくわかる気がする。だからこそ全てを俺に吐き出せばいい、そうすることで間違っていたとしても前を向けるのなら。かつて俺の中二病がそうであったように。


「俺を恨め、憎め。それでお前が生きていけるなら、ムカついたことがあったなら俺に吐き出せ。その全てを俺が受け止めてやるよ」

「竜崎……」

「……シン」


 まるで駄々を捏ねて泣きじゃくる子供みたいに泣き叫ぶ五月。

 その五月を諭すように優しく撫でる母親のような坂下、二人を見つめる矢野が俺を見て軽く頭を下げ、ゆっくりこちらに近づいてくる。


「教えてくれないか竜崎! どうすれば力を手に入れられるんだ。俺は悟と明彦の分まで二人を守らないといけない、でも俺には竜崎のような力がない。教えてくれ!」


 困ったな。俺の力はユニークスキルによるものだ。

 だけど坂下の話じゃ矢野はユニークスキルを所有していない、仮に通常のスキルを習得できるとしても俺には習得方法がわからない。


「矢野はユニークスキルを持っていないんだよね?」


 矢野の質問に青木が割り込んできて本人に直接確かめている。

 確かに本人に直接確かめた方がいい、見落としている可能性もあるからな。


「ユニークスキル? 腕輪の機能で観られるやつか? それなら確かめたが何もなかった」

「俺や竜崎には初めからユニークスキル二種に加護が一種あったんだよ。竜崎の左目から出ていた魔法陣あったろ? あれが竜崎のユニークスキル魔眼なんだ。」

「……そうか」


 肩を落とし、落胆の色を隠せない矢野にリリーも自分の知っていることを話してくれた。


「ユニークスキルというのはこの世界に生まれた時に与えられる才能の一つで、加護も又この世界に生まれ落ちた時に祝福を受けた物が与えられるお守りのようなモノなんです。なので得ている人の方が珍しいのでそんなに落ち込まないでください」


 落ち込む矢野を気遣ったリリーが、ユニークスキルと加護について話してくれているのだが、俺達はこの世界で生まれたわけじゃない。この世界で生まれたという意味がこちらの世界に転移した時だと仮定した方がいいな。


「こっちの世界で生まれていない二人がどうして祝福を受けれるんですの?」

「二人はもともと異世界人だったの?」


 五月を宥めていた坂下が泣き止み、冷静になった五月と共に話に加わってきた。


「これは飽く迄も俺の考えだけど、多分こちらの世界に転移してきた昨日の朝に、こちらの世界で俺達は生まれたってことじゃないかな」


 俺の話を聞き少し納得したと頷く一同だが、腑に落ちない顔の矢野が話を続ける。


「だとしたらなぜ竜崎と青木には才能、ユニークスキルがあったんだ? っあ、気を悪くしないでくれ別に二人のことを蔑んでいるわけじゃないんだ、単純に気になったんだよ」


 俺たちのことを気遣ってくれているのか、なんか矢野の印象が違うな。

 考えてみればそれもそうか、俺たちはお互いに敵意を向けていたからお互いのことを何も知らなかったんだ。


 特に俺はイケメンでいつも周りからチヤホヤされていた矢野が嫌いだったもんな。でも今は先ほど庇ってくれたからなのか、俺の矢野に対する敵対心も消えているし、多分矢野も同じだと思う。


「これも俺なりに考えたことなんだけど、想いが才能なんじゃないかな?」

「「想い?」」


 突拍子もない言葉に一斉に俺の顔を見てどういうことと首をかしげ、俺の次の言葉を待つ。


「つまり設定? もしくは願い。例えば俺の魔眼は俺が中二病全開だった時にいつも想像していた力に似ていて、それが魔法なんかが存在するこの世界で現実になったんじゃないかな。青木のユニークスキルも観測者だしな」


 自分で中二病全開なんて言って、あぁ心が痛い。ヒールで精神的ダメージも癒せたらいいのに。

 でもこれでみんな納得したという顔をしている、リリーを除いて。


「っあなるほど! だから俺のユニークスキルは観測者なのか。全く使い方がわからないけどな」

「この世界では中二病だった奴の方が強いってことですの!」

「そんな馬鹿な話ってあるの!」


 まぁ五月の言う通りそんな馬鹿な話なのだが、これまでの情報を整理したらそうなるんだよな。

 一人神妙な顔で腕を組み考え込む矢野はまだ何か腑に落ちないことでもあるのだろうか?


「それが事実だとしたら……俺は強くはなれない。誰も守れないのか」


 寂しそうに俯き呟いた矢野の言葉で坂下と五月も肩を落とした。

 三人を見ていて可哀想になってきたのでフォローしておく。


「そんな事はないんじゃないか。確かにユニークスキルや加護はどうしようもないかもしれないけど、通常スキルや魔法は習得できるんじゃないのか」


 俺の言葉を聞いて先程までの暗い表情は消え、微かな希望が瞳に宿っている。信じるものは救われる、そうやって俺も危機を乗り越えてきたんだ。


「そうだな。まだ諦めるには早いよな。ありがとう竜崎」


 なんだよやっぱりコイツ意外といい奴じゃないかよ。話せて良かった。

 ちゃんと話してみないとわからないもんだよな。


「もう日が暮れます。急いで鉱山の麓まで行きザックさんやレッグさん達と合流しましょうシン」

「うん」


 俺達は堀川と田辺の遺体を埋葬し、その場を後にした。

 何度も立ち止まっては振り返り、寂しそうにする三人を見ると胸が苦しくて張り裂けそうになった。

 どうしてやることもできない俺は谷垣達を見送った時のように、夕暮れに染まる大空を見上げながらただ歩いた。昨日の今日で知り合いを七人も失った。

 この世界は無情だ。





 ◇◆◇◆◇◆




 完全に日が暮れる前に鉱山の麓にたどり着くと既に、ザックさんにレッグさんそれに他の冒険者たちも集まっていた。

 初めに西門に集まった時よりも少し人数が減っていたものの、まだ俺達を含め40人程残っていた。


 ザックさんとレッグさんは無事麓にたどり着いた俺達を見つけると、笑顔で歩み寄ってきてくれた。


「お前達も無事だったかっヒ」

「今日は日が暮れて洞窟内に入るのは危険だからここで野営することになった。お前達も各自テントを張るといい」


 ニヤついたザックさんとは対照的に、真面目な顔をしたレッグさんが状況を教えてくれたのだが、鉱石所で一夜を過ごすんじゃなくて野営なのか?

 てかテントなんて俺達持ってないよな。

 それに冒険者のみんなもテントなんてそんなものどこに隠し持っていたんだ。


「みんなテントなんて持参していたんですか?」

「ああ当然だろ、っえ? お前達持ってねぇーのっヒ」


 俺の質問に当然といった態度で答えるザックさんだがそんな当然知らないし、一体どこにそんな馬鹿でかい代物を隠し持っていたんだよ。


「そんなテントなんてどこにあるんですか? どうやって持ち運んでいたんですか?」


 ナイス青木! 青木はあんた等そんなもん持ってなかったじゃんと眉をひそめている。てか普通そういうリアクションになるわな。


「ああ、それはな、これだよ」


 ザックさんは腰袋から小さな小瓶を取り出し俺達に見せてきた。

 10センチほどの小さな小瓶の中にはテントの骨組みや布が見えるのだが、いくらなんでも小さすぎる。


 この酔っ払いわ何を考えているんだ。

 そんなミニチュアサイズのテントを組み立てたところで誰が入れるんだよ。


「ハハハハ、ザックさん酔っ払ってるんじゃないんですか。もうウケるー」


 青木はバカ笑いしながらザックさんの肩をツンツン突っついている。

 そんな青木のことを、何言ってんだコイツと首を傾げたザックさんが小瓶の蓋を開け、ひっくり返し中に入っていたテントを取り出すと、小瓶から中の物が飛び出た瞬間、本来の大きさであると思われるサイズになって出たきた。


「「っえー!」」


 リリー以外の俺達は頓狂な声が上がり、ザックさんの手に持つ小瓶を二度見してしまう。


「な、なんですのそれ!」

「うそーん!」

「まるでどこかの狸だな!」

「反則だろそれ!」


 一体何が反則なのかはわかからないが、矢野の言う通りどっかのロボットみたいだ。しかしこのままじゃ不味い! テントもなくここで野宿なんて嫌だ。

 それに鉱石所があるなら何もわざわざテントなんて張らなくていいだろ。


「鉱石所に泊まる事は出来ないんですか?」

「鉱石所はこの麓にはないんだ。魔物(モンスター)の被害を避ける為、鉱山の中腹に位置してるから行くのは無理だな」

「じゃあ俺達も準備するからまたなっヒ」


 テントを張るため二人は去ってしまった。

 レッグさんの説明を聞いて納得はしたけど、それじゃ困るんだよなと頭を掻き困っていると。


「大丈夫ですよシン。リリーも似たようなのを持っていますから」


 おお! 女神の救済発動です! 本当にリリーは美人で気が利いて頼りになるな。でも一つのテントに六人は少しキツいんじゃないのかと考えているとリリーも腰袋から小瓶を取り出し見せてきた。


「これです!」


 リリーが取り出したのもザックさんのと同じような小瓶なのだが、中に入っているモノが違う。モノというか家だ!


「リリーちゃん何それ? 家?」

「まさか家まで出てくるんですの?」


 青木と坂下の問いかけにフフフと笑みを浮かべるリリー。


「そんな家なんて出てきませんよ」

「出てこないならどうするんだ? 何処に泊まるんだリリー?」

小瓶(ここ)に泊まるんですよシン」


 俺達五人は再びポカーンと固まってしまう。いくらなんでも10センチ程の小瓶の中のミニチュアサイズの家に泊まるなんてありえない。

 だがリリーの顔は至って真剣だ。


「リリーちゃんはお茶目だなー。メルヘン思考かなー、いや俺もそういうの嫌いじゃないんだよ。むしろ好きさファンタスティックだからねー」


 青木のバカの言葉に可愛らしく首を斜めに傾げるリリーは可愛い。

 だが今はそんなこと言ってる場合じゃない。青木(バカ)はともかくどうやってこのミニチュアの家に泊まるんだろう?


「青木さんここに手を翳してみて下さい」


 リリーは小瓶の蓋を開け縁に手を翳すように青木に促し、青木は躊躇うことなく手を翳すと、青木の百キロを超える巨体が瓶の縁に吸い込まれ、青木のみっともない悲鳴とスポッと吸い込まれる音を残し青木が消えた。


「「えー!」」


 先ほどのザックさんの小瓶以上の衝撃で、つい声を張り上げてしまった。

 リリーはそんな目を丸くして驚く俺達に小瓶を差し出してきた。


「これ大丈夫なんですの?」

「怪我とかしないよね?」

「考えていても仕方ない。せっかくの好意だ、先行くぞ!」


 躊躇う事なく手を翳し吸い込まれていく矢野。ある意味怖いもの知らずだな。しかし矢野の姿を見て覚悟を決めたのか、坂下も五月も小瓶に吸い込まれていく。

 リリーは最後に残った俺にも瓶の縁に手を翳すように促してくる。


「さぁシンも早く」

「……うん」


 リリーの目を見つめ頷き手を翳し、小瓶の中に飛び込んだ。






 ◇◆◇◆◇◆





 まるで巨大掃除機で吸われたような感覚だった。敢えて下品に例えるなら、便所に嵌り抵抗など出来ず流されるそんな感覚だ。

 こうゆう時自分の語彙の無さにため息が出る。


 とにかく小瓶の中に吸い込まれ、ふと目を開けると立派な洋館のような巨大な建物が目の前にあった。

 周囲を見渡すと建物以外には何もなく。建物を巨大な箱の中に閉じ込めたみたいだった。物は何もないのだが、一箇所だけ何か発光しており。目を凝らすと建物の入口の扉の脇に魔法陣が描かれ、燐光を放っている


 先に吸い込まれた青木達も同じように周囲を見渡していた。青木は俺が来たことに気づくと徐に駆け寄り、説明しろと言わんばかりの眼差しを向けてくるのだが。説明して欲しい気持ちは同じである。


「どうなってんだこれ」

「俺だって知らねぇーよ」

「此処は小瓶の中の隠れ宿ですよ」


 声が聞こえ振り返るとリリーもやって来たようだ。

 リリーの言葉に真っ先に反応する青木。


「小瓶の中の隠れ宿! それって魔法?」

「マジックアイテムですよ! ちなみにザックさんが使っていたのはマジックアイテム収納小瓶ですね」


 なんだよその便利な道具は! それって一般的に売られているのかな、もし売られているなら俺も欲しい。

 それにこんなに立派な建物、宿に泊まれるなら街の宿なんかいらないじゃないか。でもなんでザックさん達はテントなんだ? こっちの方が断然いいのに。


「なぁリリー、そのマジックアイテムって普通に街に売っているのか?」

「マジックアイテムは街の魔法屋さんに売ってると思いますよ。もちろん品揃えは魔法屋さんによって違いはありますが」


 いいこと聞いたぞ。街に帰ったら青木を連れて早速魔法屋に行ってみよう。


「リリーさんのこのマジックアイテムもそこで買えるんですか?」

「でしたら私も欲しいですわ」


 近くにいた坂下や五月にも会話は聞こえていたみたいで歩み寄ってくる。


「リリーのこれは森を出るときメルナー様に頂いたもので、とても貴重で珍しいものなので恐らく街の魔法屋さんには置いていないかと……」


 だからザックさん達はテントなのか。まぁそうだよなこんな物が普通に売られていたら街の宿屋は商売上がったりだ。リリーのマジックアイテムはかなりのレアものということか。

 しかしメルナー様って何者なんだ? こんなにすごいマジックアイテムを上げちゃうくらいの人? エルフ? どちらにしても気なるな。


 まさか婚約者! 待て待てそれはない、確かリリーの話だとメルナー様は予言の人だ。リリーに何らかのアホな予言をした人物。

 でもそのアホな予言をした人物が婚約者や恋人じゃないなんてどうして言えるんだ?


 そもそも人とエルフはありですか? もう俺気が早いなぁ。今日出会ったばっかりじゃないか、それに元の世界に帰る方法を探すんだろ俺。

 そんなこと言ったって帰れるかわからないし、元の世界には女の子の友達だっていないんだぞ。いっそのことこっちでリリーと暮らすのも悪くないかもな、なんて照れるだろ。ふふふ


「おい、なにニヤついてるんだ竜崎! みんな行っちゃたぞ」

「っえ!」


 俺を呆れた顔で見ている青木の向こう側で、手招きをするリリーと、何やってんだと冷めた目で見ている三人の姿が目に入る。


「シン中に入るよー」


 優しく俺を呼ぶ女神の声が全ての淀みを払っているようだ。

 そんなビーナスリリーの元まで全力疾走。


 リリーが木目調の扉に手を掛け開けると、室内は思った以上に綺麗で広く、まず目に飛び込んできたのは入口入ってすぐにある木製の大きな階段だ、数名が横並びに上り下りしても十分に通れるほどの幅がある。階段の手摺部分の両先端には洒落た壺が飾られてある。


 入口入って右側と左側の両端にも扉が確認でき、更に階段左側の脇の奥にも一つ扉が見える。リリーは宿と言っていたが宿というよりお屋敷だ。


 リリー以外のみんなも豪華な作りに感激しているようだった。

 宿のことを聞こうとリリーに視線を向けると、リリーは坂下と五月と何かをコソコソと話していて、リリーの言葉を聞いた坂下と五月の顔が綻んでいる。


 一体何を話しているんだろうとリリーの方を見ていたら、俺の視線にようやく気がついたみたいだ。


「シンどうかした?」


 リリーの問いかけに一瞬ドキッとしてしまい少し顔が熱くなる気がする。

 リリーはずっと敬語だったのに気がついたらタメ口に変わっていることが新鮮で、二人の距離が近づいたみたいでなんか嬉しくなる。


 きっと坂下や五月が加わったことでリリーの緊張も解けてきているんだろう。なんかこういうのってリア充みたいでいいなってしみじみ思う。


「この宿の部屋数とかってどうなってるの?」

「二階は五部屋ありすべて寝室になってて――」


 リリーが説明してくれているのに坂下と五月がリリーの腕を引っ張りどこかに急かしている。なんか三人とも楽しそうなので邪魔しては悪いと思い、あとは自分で確認するからいいよと言い、宿という名の屋敷を探索することにした。


 まずは2階の寝室を確認するため階段を上り左奥の部屋から確認していく。

 扉を開けるとそこは六畳ほどの部屋にベットが一台に机が一前置かれたシンプルな部屋だ。

 窓は一応あるのだがここは小瓶の中なので陽当りや景色を気にしても意味がないので、気にせず次の部屋を見てみる事にした。


 二階にある寝室五部屋全て見てみたのだが作りも内装もすべて同じであった。

 次は一階の部屋を見て回ろうと階段を下り、入口から入って右側の扉を開けると、そこは食堂になっており大きな木製の長方形のテーブルに椅子が並べられ、使い勝手が良さそうな大きなキッチンが見える。


 食堂の奥は広間に続いていて座り心地の良さそうな革張りのソファーがあり、そのソファーにゆったりと腰を掛け寛ぐ青木と矢野がいる。

 青木も矢野とすっかり打ち解けたのか何やら楽しげに談笑している。


 二人が楽しげで何よりだ、昨日に引き続き今日もとんだ一日だったからな。

 それに矢野は大切な親友を二人も同時に亡くしているんだ、心に負った傷は簡単には消えないだろう。たとえ作り笑いだったとしても笑えないより全然いい。


 今は青木のバカ話で気を紛らわせるのが一番の薬だと思う。

 とっとと残りの部屋も見てしまおう。

 階段左脇にある扉を開けるとそこはトイレだ、トイレを念入りに見る趣味はないので扉を閉め、最後の入口入って左側の扉を開ける。


 扉を開けるとそこは……。

 綺麗な縦髪ロールの真っ裸の女の子と、黒髪ショートヘアーがよく似合う下着姿の女の子に、まさに今下着を履こうとしている特徴的な耳をした絶世の美少女が立っていた。


 俺の視界の向こうで目を丸くし、引きずった顔がみるみる紅葉のように染まり、次第にゴブリンのように変貌した。

 突然の出来事に俺も目を丸くし思考が停止してしまったのだ。


「いつまで見ているんですのー!」

「早く閉めなさいよー! この変態!」

「ご、誤解だ! わざとじゃないんだ!」


 俺は慌てて扉を閉めたが、扉の向こうから罵声が飛び続けている。

 く、くそぉ。わざとじゃないのに。

 こんなラッキースケベでリリーに嫌われたらどうしよう。ああぁ最悪だ。


 坂下と五月はブチギレていたけどリリーはそんなに怒っていなかったようにも見える。現に今も扉の向こうから罵声を浴びせてくるのはゴブリンのような二人だ。

 でもちょっとラッキーだったな……って何考えてんだよ、アホなのか俺はアホなのか。


 ゴブリン二人の金切り声を聞き広間のソファーで寛ぐ青木と矢野が何事かとすっ飛んできた。

 青木も矢野も二匹のゴブリンの声を聞き状況を察したみたいで、青木は呆れ矢野はなぜか笑っていた。


「ラッキースケベとかラノベの主人公みたいな羨ま……じゃない馬鹿みたなことするなよ」

「ハハハハ、あぁー笑った。まだこんなに笑えるんだな俺」


 笑いすぎて溢れそうになる涙を人差し指で拭いながら俺を見て笑う矢野はなんか切なかった。


「当たり前だろ! 何度だって笑えるさ、つーか笑わせてやるよ」

「……竜崎」

「まぁ笑わせてるんじゃなくて笑われてるんだけどな」

「うっせーバーカ」

「バカはあんたでしょ」

「そうですわ」


 男の会話に割り込んでくる嫌な声が後ろから聞こえてきて、振り返ると女ゴブリンが仁王立ちしていた。

 二人の背後にはメラメラと燃え盛る殺意の炎が俺には見えた。

 きっと魔眼を発動していたら『警告直ちに避難を推奨します』と表示されていただろう。


 堪らず青木と矢野の背後に隠れ矢野が必死に坂下と五月を宥めてくれた。

 命拾いした異世界二日目の夜の始まりの出来事だった。


 リリーはそれほど怒ってなくて、俺の耳元までやってくると。


「覗きはダメよシン」


 耳元で囁かれたその声は、まさにエンジェルボイスであった。

 お風呂上がりのなんとも言えない艶のある色気と香りに、俺の心はすっかり癒されたのだ。

初めて書いているので、読みにくいかもしれません。

もし読みにくければ感想欄でおっしゃって下されば、見直しますのでお気軽に言ってください。

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