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野盗

更新が遅くなって、本当にごめんなさい。m(__)m

 ヘインマルセイに住む老人から野盗達のアジトを聞いた俺達は、東の酒場の前までやって来ていた。


 東の酒場は他の建物に比べて崩壊箇所が少ないようだ。

 だからこそ野盗達はこの酒場をアジトに選んだのだろう。


 建物の外周を見てみるが入口は正面しかないようだ、出来ることなら正面突破は避けたかったのだが、やむを得ない。

 意を決して建物の目前まで近づくと、中から蛮声の笑い声が聞こえる。


 間違いない、野盗はこの中にいる。

 三人とも緊張している様子だが、ここまで来たら引き返すわけには行かない。

 壊れた扉からそっと息を殺し、店内に入り辺を見渡すと、薄暗い店内には照明代わりに至る所にランタンが置かれている。


 ランタンの明かりで照らされた店内は、空き瓶が転がり、割れた硝子の破片や木材製の壊れた椅子や円卓が放置されている。


 目を凝らし店内の奥を見ると、複数のガラの悪い男が床に座り、酒瓶を片手に持ち一杯やっている。

 その近くには椅子に座り円卓に足を投げ出した、一際偉そうな態度で酒を飲む体格のいい男がいる。


 恐らくあの偉そうな男が野盗のボスで間違いないだろう。

 奴らはまだ俺達に気づいていない、今なら油断している奴らを不意打ちで倒せるかもしれない。


 だがそう上手くはいかなかった。

 俺達が忍び足で近づこうと歩き始めると、渚が足元の酒瓶を蹴ってしまい、カランカランと店内に音が鳴り響き、一斉に男達がこちらに視線を向けたのだ。


 全員で十二人……十二人の男達が俺達に敵意を剥き出しにし、怒鳴り声を撒き散らす。


 「なんだテメーら」


 殺気立つ男達を無視し、瀬世達を探すため辺を見渡すと、男達から少し離れた場所でうずくまり、怯え切った五人が顔から血を流し、涙を零しながら身を寄せ合い恐怖に耐えている。


 渚も瀬世達に気が付き「蛍! 香織、恭子、葵、梨花!」と瀬世達の名前を叫び、瀬世達の傷ついた顔を見て涙目になりながらも、偉そうに座るボスらしき男を睨みつけている。


 渚に睨まれ、突然の俺達の登場にも一切動じず余裕を見せながら、手に持っていた酒瓶を口に押し当て「ぷあぁ」と憎たらしい態度をとっている。


 円卓に足を放り出したままの姿勢で渚に目をやり、不敵な笑みを浮かべた。


「何だ逃げ出したちびっ子じゃねーかよ」


 男の言葉に同調するように場に笑い声が響き、ボスらしき男は睥睨するように俺達を見下している。


 人を馬鹿にしくさった態度で踏ん反り返る男に嫌悪感を抱き、瀬世たち女の子に手を挙げたこの男を見ているだけで、心の底から怒りがフツフツとこみ上げくる。


 瀬世達とはもちろん喋った事はない、だけど無抵抗の女の子を傷つける奴に怒りを覚えない奴はいないだろう。

 故に怒りで体が震えてしまう。


 青木も同じなのだろう、怒りに顔を歪め瀬世達の傷ついた顔を見たとたん、涙を浮かべ怒りに震えている。

 青木は元々見た目によらず正義感の強い奴だ、そんな青木が怒らないわけがない。


 リリーも同じ同性として女性がこのような扱いを受けている事に怒りを覚えている。


 渚はバカ笑いをする男達に「あんたら蛍達に何したのよ」と感情を抑えきれず怒りをぶつけるが、男は見下し笑いながら「ギャーギャーうるせぇから殴って静かにさせただけだろう」と悪びれる様子もなく言い放った。


 男の手下達も憎たらしい笑みを浮かべながら、腰に提げた剣や、壁に立て掛けていた斧等の武器を手に取り、俺達を威嚇している。


「仲間を連れて助けに戻ってきたつもりか? おチビちゃん」


 手下の一人が斧を片手に挑発的な態度と言葉を浴びせてくる。

 その余裕と人を馬鹿にした態度に、渚の怒りはさらに激しさを増す。


 「そうよ、あんた達なんか慎一達がすぐに倒すんだから。か、覚悟しなさい」


 渚の言葉を聞いた男達は大口を開け、肩を揺らしながら今日一番の笑い声を響かせていた。


「おいおい聞いたか? そこのブルブル震えてるひ弱な小僧と、今にも泣き出しそうに震えているおデブちゃんが、俺達を倒すってよ」


 耳障りな笑い混ざった声で、俺と青木を罵倒する男に俺の怒りは煮えくり返っていた。

 渚は男の言葉を聞き俺と青木に顔を向け、怒りに俯き震える俺と、瀬世達の痛ましい姿を目にし、泣きそうな青木を見て絶望に顔を歪めてしまう。


 きっと渚から見た俺達は野盗に恐怖し怯えているように見えたのだろう。

 そして、その瞬間悟ったのだろう、俺達では野盗に勝てないと。

 それと同時に目の前の男達に対する恐怖が渚を襲い、怒りで押さえつけていた心は砕け、体は小刻みに震えだしたのだ。


 そんな渚の姿を見た男達は、怯えきった野兎を追い詰めるハイエナのようだった。


「見ろよ! おチビちゃんもブルブル震え始めたぞ」


 高笑いを繰り返すハイエナ達、そんな中手下の一人がリリーに目を向け騒ぎ始めた。


「おい! こいつエルフじゃねーかよ」


 男の言葉に一斉に野盗達はリリーに目を向け、歓喜を上げた。


「コイツはついてるぜ」

「エルフは一部の悪趣味な貴族に高値で売れる」

「あぁ、それにコイツはエルフの中でも上物だ、俺達で遊んでから売っぱらっちまうのがいいだろう」


 男達の言葉を聞いたリリーは真っ直ぐに男を睨みつけ、怒りと不快さを露にした。

 男は続け様に渚に屈辱的な言葉を浴びる。


「上出来だおチビちゃん。わざと一人逃がして正解だったな」


 男の言葉を聞いて渚は愕然とする。

 自分はうまく逃げ、助けを呼びに行ったと信じていたのに、目の前の男はわざと逃がしたと言ったのだ。


 自分は更なる生贄を、この男達に連れてくる為に利用されていたのだと知り、悔しさで涙が零れてしまった。


 渚は振り返りリリーに体を向け、悔しそうに俯きながらもリリーを気遣っている。


「ごめんなさい、あたし知らなかったの。……あなただけでも逃げて」


 渚の言葉を聞き、リリーがはいそうですかと引き下がるはずなどない。

 リリーもまた同胞であるエルフ達を売り飛ばすと言う言葉を聞き、その顔は美しくも凛々しさの中に確かな怒りを秘めていたのだから。


 だからこそ渚の逃げてという言葉を聞いて、すぐに否定する言葉を返したのだ。


「逃げる? なんの冗談ですか、リリー怒ってるんです」


 渚は一瞬固まってしまった。

 このエルフの女の子はこの状況を全く理解していないのかと。

 相手は十二人の野盗、頼りにしていた二人は怯えきっている、もう自分達に勝ち目などないのだと、どうしようもないのだと。


 なのに、このエルフの女の子は逃げないと言っている、まともな状況判断もできない心理状態なんだと、それに俺と青木を巻き込んでしまった事も後悔していたのだろう。


 だから逃げないといったリリーに強く迫ったのだろう。


「怒ってるって……そんな事を言ってる場合じゃないわ! お願い、慎一と青木の二人を連れて逃げて。二人は恐怖で動けなくなっているのよ」


 渚がリリーを説得していたのだが、不意に物騒な音が響き渡り、体を震わせ渚が男達に視線を向け直すと、偉そうなボスらしき男が手に持っていた酒瓶を、床に投げつけ立ち上がっていた。


 男は渚とリリーを交互に見てニヤにと笑を浮かべた。


「確かにおチビちゃんの言う通りだ。だが一人も逃がさねぇーに決まってんだろ」


 ボスの男が首でクイッと合図をすると、男たちは一斉に俺達の周囲を取り囲み、俺達は完全に包囲されてしまった。


 ボスの男もゆっくりとこちらに近づき、腰に付けていた湾曲型の剣を鞘から抜き、刃を下品にひと舐めし手下に指示を出す。


「女は殺すなよ、色々と使い道がある。男は何か言い遺す事でもあるか、せめてもの情けってやつだ! 優しいだろ、俺!」


 男の言葉を聞いた渚は何かを決意し、腰に付けたレイピアを震える手で抜き取った。

 ガタガタと震えながら構え、俺達を横目で確認して。


「本当は怖いのに、それでもここまで付いて来てくれて嬉しかった……ありがとう。できるだけあたしが一秒でも長く時間を稼ぐから、三人は逃げて」


 ありがとう、そう言った渚は涙を流しながらも微笑んでいた、何なんだこの感情は。

 あの時と一緒だ!

 だけど今日は中二病(お前)の出番はないぞ。


「青木……」

「なんだ? 竜崎」


 囁く俺たち二人の会話が静けさの中、荒れた酒場に小さく木霊する。


「俺は初めて人を殺したいと思ったよ、もう止まらないんだよ……殺意の武者震いが!」

「安心しろ相棒。俺も同じだ!」


 俺達の会話が微かに聞こえたのか、手下の男が剣を握り締めながら斬り掛かってくる。


「何ごちゃごちゃ言ってんだぁ、死ねや」


 俺は男が動くと同時に、透かさず魔眼を発動させ、微動だにする事なく黒き刃を抜き、炎火消滅剣を発動させ、襲い来る手下の一人の剣先が俺に届く前に、燃え盛る炎の剣が創り出した二メートルの炎で、手下の一人の胴体を焼き斬った。


 直後、その場にいた青木とリリーを除いた全ての者が驚愕し、俺の殺意に満ちた顔を見るなり震え上がっていた。


 俺達の力を見誤っていた事に、圧倒的強者だという事に気づいたのだろう。

 手下の一人が一目散に逃げようとした時、青木の怒りの声が落雷の如く鳴り響く。


「真空張り手ぇえええ!」


 背を向け一目散に逃げようとした、手下の背中に強烈な光の張り手が炸裂し、男は茹で上がった海老の如く反り上がり、鈍い音を響かせ床に転がった。


 目の前で一体何が起きているのか理解できない野盗達と、圧倒的な俺達の強さを目の当たりにし、固まる渚。

 その光景を少し離れた所で身を寄せながら見ていた瀬世達は、大口を開け驚き、大粒の涙を零しながら願いを乗せた言葉を口にした。


「「助けてぇえええ!」」


 声にならない声が荒れ果てた酒場に響き渡れば、その悲痛な願いは確かに俺と青木に届く。

 そしてその願いが、瀬世達の苦しみと恐怖が俺達の怒りに更に油を注ぐ。


「「待ってろ! この糞共を今ぶち殺すからよぉ」」


 俺と青木の怒りは見事にシンクロする。

 確かに届いた願いが、瀬世達の元に大気の振動と共に返てくると、瀬世達は頷いた。


 哀れな捨てられた仔犬のように小刻みに震え上がる男達。

 お前達には俺が悪魔に見えたか? 青木が鬼に見えたか?


 だがお前達は女神すらも怒らせた事に気づいてはいないだろう。

 ほら見ろ、震え上がるお前達の額に女神の怒りが突き刺さる。


「エルフを愚弄した罪、万死に値する。死を持って償いなさい」


 完全にキレた俺たち三人を、お前たち程度のチンケな野盗如きが束になったところで敵うはずもない。


 リリーは弓の名手だ。

 青木はあのミノタウロスブラックと相撲を取った男だ。

 今や俺達はパルムでも指折り屈指のパーティーなんだと自負している。


 人を殺める事も、こんなクズ達なら俺は躊躇わない、こいつらが生きているだけで罪のない者達が餌食になるのだから。


 これは人殺しではない、害虫駆除なんだ。


 俺の燃え盛る剣が切り裂けば、横綱も真っ青な光の張り手が襲いかかり、女神の怒りの矢が突き刺さる。


 呆気なく倒れていく男達。

 最後の一匹を敢えて残してやった。


 一際体格のいいその男を、ずっと威張り散らしていた態度のでかかった男を、今は無様にヘタレ込み、情けなく命乞いする哀れな男。


「俺が悪かった、頼む命だけは取らないでくれ」


 無様に泣き叫ぶ男を悪念に満ちた表情で睨みつけると、男の股間は湿り気を帯び湯気を立てている。


 いい歳した大人がお漏らしするとは情けない、こんなのが野盗のボスなのか。

 こんな汚いものを買ったばかりの俺の漆黒剣で斬るのは嫌だな。


 俺は炎火消滅剣を解き、剣を鞘に収めた。

 俺が刃を鞘に収めた姿を見てホッとしたのか、男は安心した顔をしている。


 俺はそんな男を冷え切った目で見下ろした。


「お前何か勘違いしてないか? 俺はお前みたいな小便漏らした汚いものを、この剣で斬りたくないだけだ」


 男はキョトンとした表情で俺を見ている、だから俺は一言コイツに言ってやる。


「死ね」


 俺の最期の言葉を聞いた男は凍りつき、哀れな氷像が完成した。

 中級魔法絶対零度(スノーフリーズ)によって、魔眼で捉えていた男の血液など全ての水分を瞬時に凍らせたのだ。


 すべてが終わり渚は安堵したのか、レイピアを持ったままその場に膝から崩れ落ちた。

 俺は渚に近づき、笑顔で大丈夫かと優しく声をかけた。


 渚は俺の顔を見ると、燃え上がったように顔を真っ赤にし「と、当然よ」といい、小さな胸を包み込むシャツを握り締め俯いていた。


 俺は瀬世達五人の元に歩み寄り「もう大丈夫だから」とひと声かけると安心したのか、押し殺していた声を上げ泣いていた。


 瀬世達の様子を見た渚も涙を浮かべ立ち上がり、瀬世達に駆け寄り力強く抱きしめた。

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