準備
「シンしっかりして? シン」
気がつくとリリーや青木、みんなが俺の顔を心配そうに覗き込んでいた。
どうやら俺は立ったまま気を失っていたようだ。
俺が瞬きをしみんなの顔を見渡すと、溜息をついて微笑み、薄らと涙を見せるリリーが少し困った顔で話しかけてきた。
「いきなり立ったまま気を失うからビックリしちゃっちゃた。それにシンさっきから変なんだもん」
リリーの言葉に同調する青木。
「全くだ! 竜崎本当にどうしたんだよ。」
そうだ、中二病の所為でみんな俺が頭可笑しくなったと思ってるんだ。
誤解を解きたいけど、どう説明すればいいか分からないな。
どうしたものかと考えているとレッグさんが俺の両肩を力強く掴み、瞳を潤ませながら何度も感謝の言葉を述べてくる。
確か自分の所為でザックさんが片腕とか言っていたな。
逸れた間に一体何があったのだろう?
それに何より青木があのミノタウロスブラックと遣り合っていたってのが未だに信じられない。
「それより俺とリリーがここに来るまでの間に何があったんだよ? 青木のさっきの光の掌、あれも何なんだよ?」
俺の言葉を聞き、思い出したようにザックさん、レッグさん、ロウダさんの三人は青木に向かい頭を下げ礼を言い、同時に謝罪した。
「青木ありがとう。君がいなければ俺たちは確実に死んでいただろう」
「ああ、レッグの言う通りだ。そして覚悟を決めここにやって来たオメェに、俺たちは侮辱とも言える言葉を言っちまった。すまない」
「覚悟を決めた男に……冒険者に逃げろなんて、すまないあたし達を許しておくれ」
一体三人は何の事を言ってるんだろう?
青木は照れくさそうに笑って、すぐにいつもの青木に戻った。
「そんなの全然いいよ。それに言ったでしょ、俺の実力はまだ出していないって」
だから一体何の事なんだよ。
三人は笑って頷いているけど俺とリリーには意味がわからない。
「あの、説明してもらえると嬉しいんだけど」
四人は俺の顔を見て「っあ」って、完全に俺を忘れていやがったな。
四人は俺とリリーに逸れてからの事を説明してくれた。
青木の命をかけた相撲の事を話してくれた。
相撲って! 俺と青木以外知らないだろう。
でも四人とも何らかの特殊な武術だと思い込んでいる。
まぁ強ち間違いではないけどな。
四人は俺達の事も尋ねてきたが……言えない。
言えるわけない、みんなが死に物狂いで戦っていた時にリリーの胸を揉み、洞窟内デート楽しんでいましたなんて死んでも言えない。
なので話題を変えて倒れている他の冒険者の中に生存者がいないか確認をしようと促し、確認する。
もっと早くに確認しろよと思うかもしれないけど、興奮してみんな忘れていた。
結論から言うと生存者はいた。
ちなみに二名だ。
二十代後半くらいの男の人と、二十代前半くらいのヒーラーの女性だ。
二人に俺が同時にヒールを使い、俺達はさっさと鉱山から出ようと話し合い、鉱山内の洞窟を後にした。
外に出ると既に日は暮れていた。
ここから歩いて帰るのかと嘆息していると、今朝帰還組と別れた辺に一台の竜車が迎えに来てくれていた。
竜車の手綱を握る男がこちらに手を上げると、俺達の顔は綻び皆一斉に駆け出した。
一同はパルムに帰還した。
俺達がパルムの西門に着いた時には街はすっかり眠りについていた。
ザックさん、レッグさん、ロウダさんに無事だった二名の冒険者と街に入ってすぐに別れた。
別れ際ザックさんとレッグさんが「明日ギルドで待っている」と言っていた。
みんなと別れ三人で歩いていると青木が立ち止まり声をかけてくる。
「なぁ、こんな遅くに酒場に帰るのか? ビッグママも寝てるんじゃないのか」
「それもそうだな。」
「ムーンてなに? 二人が泊まってる宿?」
リリーはムーンを知らないのか。
「ムーンは酒場で俺達が泊めてもらっている場所なんだ」
「今日は街で野宿か……」
悲しそうに呟いた青木の言葉を聞いたリリーが救いの手を差し伸べてくれた。
「それならリリーの『小瓶の中の隠れ宿』に泊まれば?」
リリーの一言で俺も青木の顔も一瞬で笑顔になる。
「「いいの」」
「うん」
本当にリリーは女神だ。
というか初めから俺は期待していたのだけど。
だって酒場にはベッドもなければ風呂もない。
タダで泊めてもらってて言える義理じゃないけど。
ならリリーに初めから泊めてと言えば済む話なのだけど。
女の子の家に軽々しく泊めてくれなんて言う男はクズと相場が決まってる。
リリーから申し出てくれて本当に助かる、そういうところも含めて気が利く女神なのだ。
ということで俺たちはリリーが腰袋から取り出した『小瓶の中の隠れ宿』に吸い込まれ、宿という名のお屋敷に来た。
玄関を入り右に進み扉を開け、リリーが座って待っててと言うからテーブルの椅子に腰掛け待っていると、すぐにリリーが昨夜の残りの料理を出してくれた。
「昨夜の残りでごめんね」
「何言ってんだよ、飯が食えるだけありがたい。それにこれ美味かったもんな」
「青木の言う通りだ。本当にありがとうリリー」
リリーはハニカミちょっと照れくさそうだった
そして飯を食う俺の顔をまじまじと見つめ、笑って俺を慌てさせる。
「でも良かった。シンが鉱山で俺の女になれって言った時はビックリしちゃった」
リリーの思いがけぬ言葉に口の中の物が全て吹き出されていく。
完全に忘れていた、そして出来る事なら忘れていたかった。
「汚いな。竜崎マナー悪いぞ」
「大丈夫シン?」
「はは、うん。……平気」
平気な訳ないだろ!
でも嫌われていなくてよかった。
それにしてもユニークスキル『中二病』なんて恐ろしいスキルだ。
絶対にもう二度と使用しないぞ。
でも俺は今もあの部屋で見ているのかな?
まぁいっか。
その後食事を済ませリリーが風呂に入り、その間に俺と青木で食器を洗い居間のソファーで寛ぎ、リリーが風呂から上がり入れ替わる形で俺たちが風呂に入った。
風呂から上がった後は自室に戻りベッドに潜り、その日は就寝した。
翌朝、目が覚めて食堂に行くと既に青木が食堂のテーブルでリリーが作ってくれた朝食を取っていた。
青木は俺と目が合うなり「いつまで寝てんだよ」と言いながらオムレツのような品に、ベーコン、チーズ、美味しそうな焼きたてのパンを頬張っていた。
突っ立っているとリリーが「座って、待ってて」と言うので椅子に座り待っていると、青木と同じ朝食を出してくれたので美味しく頂いた。
朝食を済ませ三人でギルドへ向かう事にした。
夕べ別れ際にザックさんとレッグさんがギルドで待っていると言っていたし、依頼の報酬や指名手配魔物の報奨金なども受け取りに行く為だ。
街を歩きギルドに到着し中に入ると、左端に置かれた円卓を囲むザックさん、レッグさんそれに矢野、坂下、五月の三名が居た。
矢野たち三人はザックさん達と話をしていたが、俺達が近づくとすぐに五人はこちらに気づき昨日の事を労ってくれる。
「話を聞いたよ。三人とも大変だったな」
「リリー怪我はありませんの?」
「こいつ等になんか変な事されなかった」
矢野は俺達を労ってくれているが、坂下はリリーだけかよ。
五月に至っては俺達は変態扱いだ。
本当になんなんだこの二人は。
しばらく話しているとザックさんとレッグさんが「お前達には本当に感謝してるぜっヒ」「俺達に出来る事があったら何でも言ってくれ」と言ってくれたので。
俺は二人に矢野達の師匠になってあげてはくれないかと頼むと、二人は快く引き受けてくれた。
矢野も俺に深く頭を下げ「ありがとう竜崎」と感謝してくれた。
俺はずっと矢野達の事が気掛かりだったのだけど、二人が師として三人についてくれるのなら安心して任せられる。
ミノタウロスブラックには適わなかった二人だが、二人の実力はここパルムに拠点を置く冒険者の中でも間違いなく上位に位置すると俺は考えている。
それにレッグさんは矢野を鍛える事に意欲満々だ。
きっとレッグさんのひとつの悲しい人生にもピリオドが打たれ、新たな人生で弟子を持つのが嬉しいのかもしれない。
早速矢野達は二人の師に連れられて近くの荒野で狩をするといいギルドを後にした。
俺達はギルドの支払い窓口へ進み、魔気の換金などをしてもらうと「全部で395万です」と言われ俺達は目が点になり、時が止まった。
だがすぐに歓喜した。
「マジかよ! 俺たち大金持ちじゃないか。これで当分狩りに行かなくて済むな」
「すごい! たった二日でこんなに!」
「ああ、これで金の事はしばらく考えず元の世界に帰る方法を調べられるな青木」
俺達がたった二日でこれ程の大金を稼げたのには理由がある。
その理由がこれ。
一、依頼料が一人二十万で三人合わせて六十万だった事。
二、俺が初日に倒した指名手配魔物の報奨金100万。
更に昨日倒した指名手配魔物の報奨金200万。
三、そして俺とリリーの二人が倒した魔物の魔気が35万。
全て合わせて395万ルカになった計算だ。
これを三人で分けると一人約131万になる。
フフフ、やばい笑いが止まらない。
これでリリーとデートできればもう最高なんだけどな。
パルムのシャレオツなデートスポットってどこなんだろう。
ってデートって何するんだろう?
した事ないからわからない……。
まぁ取り敢えず分けるか。
俺は二人に三等分した金を分けると、リリーは遠慮してこんなに受け取れないと言っていたけど、三等分すると初めに言っていたので受け取ってもらう。
青木はまた一匹も魔物を倒していないのに遠慮するどころか当然のように懐に収めた。
まぁコイツも相当頑張ったみたいなのでいいのだけど。
俺と青木はこの世界に来た日にギルドからレンタルしていたレンタル料を支払い、俺の折れた剣と青木の使わない剣を返却した。
ちなみに着ていた衣類などは買い取る事にした。
これからの予定もなくどうしようかと考えていると、青木が提案してきた。
「これから武器を見に行かないか? 俺はともかく、竜崎は剣があった方がいいだろう」
「確かに武器はあった方がいいよね」
「それもそうだな」
決まりだ。
俺達はギルドを後にし、最初にこの街に来た時に通った南門の側にあった武具屋に行く事にした。
街の南門の通りは武具屋が数件立ち並んでいる。
ショーケースなんてモノはないからどこのお店も一部の商品を店先に展示してある。
更に誰が見ても武具屋だと分かるように、剣や盾の絵を店の看板に描いてある。
ここパルムはカルタ王国でもかなり大きい街だという事はザックさんから聞いていた。
パルムを拠点に置く冒険者も多いようで、武器や防具を取り扱う店も多いらしい。
しかしこれだけあるとどこの店に入ればいいか迷うな。
どこの店に入ろうかと見渡していると、一軒目に飛び込んできた。
魔法屋だ。魔法屋には行きたいと考えていたので武器を調達したら後で行ってみよう。
「ほら入るぞ。竜崎」
声の方に目をやると既に青木とリリーが入る店を決めたようで、店の前で手招きをしている。
小走りで駆け寄り青木が店の扉を開けると、呼び鈴代わりに扉に取り付けられていた鐘がカランカランと鳴り店内に入る。
店の中は意外と広く壁には剣、斧、槍、盾、様々な武具が綺麗に掛けられており、陳列棚にも数種類の武具が綺麗に並べられている。
棚の横には見事な鎧、篭手、兜、なども飾られていた。
店の奥には支払いをするカウンターが設けられ、カウンターの前にはバケツのような長い筒に、剣が乱雑に差し込まれている。
カウンターに膝を突き、気怠そうに葉巻を咥え、小さな丸眼鏡を鼻に乗せた五十代くらいで痩せ型の中年が顎を引き、無愛想な態度で俺たちを見ている。
「いらっしゃい」の一言もない。
なんていう店だ、店変えたほうが良くないか。
なんて考えていると亭主が話しかけてきた。
「何探してる? 予算はどれくらいだ?」
鼻に乗せた眼鏡の隙間から鋭い眼光を向け、めんどくさそうな口調で問いかけてきた。
一応接客はするみたいだな。
「剣を探しているんです」
リリーが丁寧に応えているのにニコリともしない、何なんだこの爺。
「探しているのはそっちの連れの二人か?」
「ああ」
「まぁ一応」
俺と青木が答えると爺さんは俺達二人を舐め回すように見てくる。
なんか気味悪いなこの爺さん。
「で、予算は?」
予算を決めていなかったな、あまり武器に金をかけたくはないな。
俺も青木も剣なんて碌に使えないし、青木に至っては全く使っていない。
それに魔法屋でも何か買いたいし、当面の生活費もある。
「十万ルカくらいかな」
「俺も一緒で」
「だったらそこの中から選ぶといい」
爺さんはカウンターから身を乗り出し、カウンターの前に置かれている長い筒を指差している。
筒の中に乱雑に差し込まれた剣はその扱いから見ても安物だ。
だけど壁や棚に飾られている剣はどれも確かに高そうだ。
武器の平均相場がわからないから何とも言えないが、十万じゃ仕方ないのかもしれない。
俺は乱雑に差し込まれた剣を適当に一本抜き取り、手に取ってみる。
意外と軽い、握った感触も悪くはない。
鞘から抜き、刃を確かめると、真っ黒な刃によく手入れされ研がれた刃先。
適当に抜き取った一本だったが妙に惹かれる。
黒い刃が元中二病の心をくすぐる。
俺は剣は見た目も大事だと個人的に思っている。
剣の見た目がかっこいいとやる気も出るし、できる男っぽくて相手を威圧できるかもしれない。
心は決まっているが見た目で決めたと思われたくないので、その場で剣の確認をしていると思わせる為その場で一度振ってみる。
爺さんは相変わらず眼鏡の隙間からジロっと見ているが、青木とリリーは「おぉ」と目を輝かせている。
爺さんに「こいつを貰うよ」と言い、俺は爺さんに十万ルカを渡すと「そいつは8万だ」と言われ二万返ってきた。
てっきり十万だと思っていたがそれ以下の安物だったみたいなのだが、気にしない。
安いに越した事はないのだから。
青木はどれにするのだろうと見ていると、リリーが何やら青木にアドバイスをしている。
「青木さんは剣より盾の方がいいんじゃない?」
「っえ! なんで?」
「青木さんはあまり剣を使っていないようだし、青木さんのスキル真空張り手は剣を握っていたら使えないんじゃないかなって」
なるほど、確かにリリーの言う通りだ。
青木も納得したようで爺さんに予算内で買える盾を尋ねている。
「十万で買える盾ってありますか?」
「それならコレなんかどうだ」
爺さんはカウンターの奥から菱形の盾を取り出し青木に手渡した。
「おぉ! かっこいいじゃん」
黒を基調とした盾の縁には、細やかな模様が刻まれていて、青木に似つかわしくない程かっこいい。
どうやら青木も一目惚れした様子だ。
「そいつの内側には短剣が備え付けられている。いざという時はそいつで戦う事もできるから、丸腰よりはいくらかましだろう」
青木の持つ盾の内側には確かに短剣が備え付けられている。
青木は左手で盾を持ち、右手で盾から短剣を抜き、俺の真似をして剣を振っている。 腹も豪快に揺れている。
ニヤリと笑い、気に入ったのだろう。
青木も盾をジャスト十万で購入し、爺さんに礼を言い俺たちは武具屋を後にした。
店を出てすぐに俺は魔法屋に行こうと二人を誘い、斜め向かいにある魔法屋に入っていった。
店の中は武具屋の半分ほどの広さだったが、棚には謎の道具が所狭しに置かれ、カウンターの奥には六芒星が描かれた布が掛けられている。
カウンターには小太りなおばさんが、黒いマントに尖り帽姿で、水晶に両手を翳しブツブツ何かを呟き、俺達が入って来た事に気づき慌てて愛想笑いを浮かべ「いらっしゃいませー」と甲高い声で迎えてくれた。
なんとなくテレビで見た事のある女芸人さんがするモノマネの人に似ている。
カウンターの奥に置かれた椅子から立ち上がり、ニコッと愛想笑いを浮かべながらおばさんはゆっくり近づいてくる。
「いらっしゃませー、本日は何かお探しですか? うんうん」
まだ何も言っていないのに「うんうん」頷いている、なんか苦手だ。
「二人は異界送りに遭ったばかりでマジックアイテムに興味があるらしくて、どんな物があるのか見に来たんです」
こういう人の相手は俺や青木には無理だ、リリーに任せよう。
「あらあらそうなの。見たところ見習い冒険者のようね、だったら丁度良いのがあるわ、これなんてどうかしら? あらお似合い。あははは」
反論する隙を与えない為にわざとやっているのだろうか。
おばさんは棚から焦げ茶色の腰袋を手に取り、俺に合わせてきた。
こんな小汚い腰袋を買う為に来たんじゃないのだが。
「いや……腰袋は別に」
俺の言葉など聞かず、小汚い腰袋の説明をしてくるおばさんを止めれる程俺のコミニュケーションは高くない。
「腰袋と言ってもただの腰袋じゃないのよ、これは魔法の腰袋。この腰袋に入れる事ができるものなら何でも入れる事ができるの。どれだけ入れても重量は変わらないのよ。更に取り出す時は腰袋に手を入れて取り出したい物をイメージしたり念じれば取り出せるの。わざわざあれはどこにしまったかしらとバックをひっくり返す必要もないの。いいでしょ?」
ものすごい喋るなこのおばさん、ただ確かに便利だ。
あまり大きな物は入れる事はできないけど、持っていて困る事はないだろう。
「じゃ――」
「購入ね。そちらの丸い僕も購入でいいわね、ひとつ十万ルカ、二つで二十万ルカよ」
は、早い。それに青木も購入する事になっている。
青木はあわあわしているが諦めて購入するみたいだ。
俺と青木はこのままここに居たら不味いと判断し、すぐに代金を支払い店を出ようとしたのだが。
捕まった。
おばさんはここぞとばかりに俺達に「あれはどうかしら」と次々に商品を紹介し始めた。
「これは炎石、水石、収納小瓶、魔法の地図、配達鳥なんて物もあるわよ」
その後三十分間、ほとんど押し売り状態で俺と青木は一人二十万近く買わされた。
魔法の腰袋を合わせると三十万も使ってしまった。
今日一日で四十万以上使ってしまった計算だ。
ほぼ強制的に買わされたマジックアイテムの数々、使い道のなさそうな物は後でクーリングオフできないだろうか。
今は疲れ果て噴水広場の石段に腰掛け休憩している、小腹が空いたと言い近くの露天で青木が串肉を買いに行き、青木が帰ってきたところだ。
青木の両手には串肉が四本握られ、片方の手を突き出し俺とリリーに一本ずつ差し出しくれるようだ。
青木に貰った串肉を食べながらずっと気になっていた事をリリーに尋ねた。
「リリーは一体何の為にそんなにお金が必要だったんだ?」
ずっと気になっていた。
リリーは俺達と違い住む隠れ宿もあるし、それほどお金に困っていないんじゃないかと。
それなのに初めて会ったとき手配書を見ていた、なぜなんだろうと疑問だった。
「お金が必要だったのはここよりさらに東へ向かう予定だったから、でも旅の資金が底をつきそうだったの」
「だったって、もう東に向かはないの?」
青木の言う通りだ。
なぜ東に向かわなくてよくなったのだろう。
「うん。りりーの目的地はどうやらここだったみたい」
「ここだったみたいってどういう事?」
「目的地があったんじゃなかったのか?」
「目的地は初めからなかったの。ただ東だって事しか分からなかったから東を目指していたの」
どこに目的のモノがあるかも分からないモノを探し回っていたのか。
そしてそれをこの街、パルムで見つけたって事か?
でもリリーはあの日からずっと俺達と一緒にいるぞ、目的のモノを探す暇なんてなかったはずだろ。
まさか! 目的のモノがが俺達だったなんて事はないよな?
でも待てよ、リリーは何度かメルナー様とか予言とか言っていたよな。
仮にリリーの探し物が俺達だったとして、なぜ予言のモノが俺達だと判断できたんだ。
それにヤバそうな匂いがプンプンしないか?
リリーの為ならある程度は協力したいと思うけど……嫌な予感しかしない。
リリーは隣に座る俺の顔をじっと見つめている。
「シン!」
来た! ヤバそうなのはやめてくれよ!
いくら愛しのリリーの頼みでも限度はあるぞ!
リリーが俺を見つめる瞳は真剣だ。
「なに?」
「リリーと一緒にアルフヘイムまで来てほしいの」
「アルフヘイム?」
「アルフヘイムって光の国の事か?」
青木の言葉にリリーが驚き、青木を見ている。
「青木さんアルフヘイムをご存知なんですね」
「も、勿の論だよ。忘れたかいリリーちゃん俺は観測者だよ」
なにが勿の論だ!
ただの北欧神話に出てくる光の国の名前と同じだっただけだろ。
とにかく詳しい話を聞かなきゃ何も分からない。
「それでリリーアルフヘイムって何処にあるんだよ?」
「ここからずっと西、生命の森の奥です」
「「生命の森!」」
ほら見ろ! わけのわからん単語が出てきたじゃないか。
北欧神話で生命の樹ってのは出てくるが、生命の森なんて出てきたか?
青木のバカも必死に記憶の断片をかき集めてるのか、頭に手を当て必死に考えてやがる。
仕方ない、聞くか。
「それでなに――」
「みつけたー!」
はぁ? な、なんだ!
リリーに向けていた顔を正面に向き直すと、ツインテールの背の小さな女の子が俺を指差し立っていた。
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あと、評価の方もよろしくお願いします。m(__)m