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俺様、登場!?

 痛い、重い、そして柔らかい。

 ん? 柔らかい? もみもみと手を動かすと「っあ」というリリーの色声が聞こえ、手の方に目をやるとリリーが真っ赤な顔で俺を見ていた。


 慌てて飛び起きジャンピング土下座を披露し「わざとじゃないんです」と謝ると、リリーは「ふふ」と笑を見せ「特別だよ」とウインクしてきた。


 俺の鼻から見事な紅が噴出しよろけてしまう。


「こ、これは落ちた時に鼻を打ってしまい」


 慌てて取り繕った。

 リリーは相変わらず笑みを浮かべ、透かさず呪文を唱え、俺にヒールを掛けてくれた。


 なんて優しいんだ!

 これが坂下や五月なら「自害なさい、死んでしまえばいいんですわ」「何すんのよこの蛆虫、殺すぞ」って考えただけでも気分が悪くなる。


 其れに引き替えなんなんだこの女神は!

 出来ることなら付き合いたい、結婚したい。

 プロポーズしようかな? ぐへへへ。


 「どうかしたの?シン」


 いかんいかん。ついニヤけてしまった。

 どうしたんだろうとお目目をパチパチさせているだけで艶かしい。

 なんでもないさマイスウィートハニーと心で呟き、目の前のリリーにクールに決める。


「なんでもないよリリー」

「それなら良かった。頭打っちゃったのかなって、ヒールでも治らないのかなって心配しちゃった」


「心配かけちゃったね。リリーのヒールは世界一だよ」と言いながら然りげ無く手を取る。

 柔らかい、スベスベしている。


 女の子の手を握ったなんて母ちゃんが知ったら赤飯炊いてくれるな。

 手だけじゃなくもみもみしちゃったんだった。


 っあ! いつまで握ってるんだという顔をしている、惜しいがそろそろ離すか。


「それにしても結構落ちちゃったみたいだね」


 リリーの言葉で二人して頭上を見上げたのだが、確かに意外と落ちたみたいだ。

 これは這い上がるのは無理そうだな。


「上に登るのは無理そうだな」

「みたいだね。別のルートから合流するしかなさそうだね」

「みたいだな」


 幸いさっきザックさんから無数に掘られた穴はどこを辿っても最終的には同じ場所に出ると聞かされていたから、まぁ大丈夫だろう。


 俺とリリーは取り敢えず先へ進むことにした。


 しかしリリーと初めての二人切り、まるでデートみたいだ。

 まぁデートと言うには雰囲気悪すぎるけど、そんなことは気にしない。

 苦節十八年初めて女性の乳房をもみもみし、さらに洞窟初デート。


 フフ、笑いが止まらん。不味いまたニヤリ顔が止まらない。

 このままではいい加減変態だと思われてしまう。

 両手で頬を叩き気合を入れ、リリーに顔を向けると「すごくほっぺが腫れてるよシン」と俺の頬を心配していた。


 できる事ならこのまま二人で恋の逃避行と洒落込みたいところだ。

 もうミノタウロスブラックなんてどうでもいいよ。

 他のパーティーの冒険者かザックさん達のどちらかが、俺達が合流する頃には倒してくれてたらいいのに。


 そうしたらこのままパルムに帰ってリリーとショッピングデート出来るのになぁ。

 でも待てよ、リリーはパルムにいつまでいるのだろうか?

 初めに会った時の口振りだとパルムに来たのは俺たちと然程変わらないんじゃないのか。


 だとしたらいずれリリーはパルムから出て行ってしまうのか?

 それは困る。この世界にはもちろん携帯もパソコンもないから連絡を取る手段がない。


 いくらお互い愛し合っていたとしても、時間と距離には例えエルフでも敵わないだろう。


 いつかは引き離される恋か、切ないな。


 なんて考えていたらリリーが突然立ち止まる。

 どうしたのだろうとリリーを見ると、リリーは目を閉じ両手を耳に当て音を聞いている。

 すると目を開けたリリーが俺の顔を見て、声のトーンをワントーン下げ話しかけてくる。


「シン! 誰かの悲鳴が聞こえる」

「悲鳴?」


 何も聞こえないけど、リリーには聞こえているのだろうか。


「急ごうシン! きっと青木さん達も向かっているはずだよ」


 駆け出したリリーの後を追うように駆け出し、リリーは複数の穴を躊躇する事なく進んでいく。

 右へ左へ坂を駆け上がり、ふと思う。


 もしもリリーの聞いた悲鳴が冒険者の声だとして、既にミノタウロスブラックと交戦していたとして。

 そこに青木達が合流していたら不味くないか。


 青木は戦えないのにあのバカが適当な事ばっかり言うから、ザックさん達は青木がそれなりの実力を持っていると勘違いしてる。

 ザックさん達は心配ないと思うけど青木が心配だ。


「リリーもう少し急ごう」

「うん」


 俺たちはペースを上げ走った。

 しばらく走り広い空間に出た時、俺とリリーは足を止め絶句した。


 そこには理解しがたい光景が広がっていた。

 数名の冒険者が横たわり、ロウダさんが膝を突き口から血を流し、左腕を失ったザックさんが苦痛に顔を歪め、壁を背にして動けずにいる。


 レッグさんも脇腹から夥しい血を流し苦痛に顔を歪めている。


 そしてそんな動けずにいるみんなをを庇いながら夥しい血に体を染め、ミノタウロスブラックと思われる禍々しい黒い何かを纏った化け物と、あの青木が一騎打ちを繰り広げているのだ。


 青木は突進し迫り来る化け物に、まるで相撲でも取っているような姿勢で掌を前に突き出すと、青木の掌から60センチ程の光る掌が放たれ、化け物を後方へと押し返しているのだ。


 俺とリリーは堪らず叫んだ。


「青木ー!」

「青木さん!」


 青木は俺達の声に気づき、こちらを見ると一瞬安心したような表情を見せ、その場に倒れ込んだ。

 俺は魔眼とスピードランナーを瞬時に発動させ、疾風の速さで青木の元に駆け寄り、倒れ込む青木の体を抱きかかえた。


 青木は俺の顔を見ると目を真っ赤にし、悔しさを自分の無力さを嘆いている。


「竜崎……俺じゃアイツには勝てない、悔しいよ。アイツ俺のことをゴミでも見るような目で見てきたんだ」


 余程悔しかったのだろう、小刻みに震える身体がそれを物語っている。


「あとは……たのむ」


 一言俺に言い残し、青木はそのまま意識を失った。

 俺はその言葉に応えることができなかった。

 溢れる涙を止められず、声が出せなかった。


 あの青木が……ゴブリンにすら勝てなかった青木が。

 たったひとりで命を懸け、戦っていたのだ。


 ザックさんでもレッグさんでも勝てなかった相手に、決して臆することなく戦う仲間(親友)の姿に誇らしさを感じたのだ。


 今なら少しわかる気がする、俺がみんなから褒められる都度に胸を張り、鼻高々にしていた青木の気持ちが。


 俺は抱き抱える青木をゆっくりと地面に寝かせ、立ち上がっり、少し離れた距離で俺たち二人を見守っていたリリーに青木を頼んだ。


「リリー青木とみんなにヒールだ!」

「うん」


 リリーはすぐに青木の元まで駆けつけ、呪文を唱えヒールを掛け、俺は前方に立つ化け物を睨みつける。

 同時に魔眼がこのクソ野郎の正体を知らせる。


『危険度未知数 特殊個体ミノタウロスブラック』


 やっぱりコイツがミノタウロスブラックか!

 だが魔眼はコボルトキングの時のように逃げろとは指示を出さない。

 出せるわけがない、魔眼(お前)は俺なんだ。


 数少ない友達を……俺の親友をこんな目に合わせたクソ野郎に背を向ける事なんて出来るはずがない。

 生まれて初めて得た感情、それは明確な殺意。


 この殺意がトリガーとなったのか、発動条件が分からなかったもうひとつのユニークスキルが力を示す。


『感情の爆発を確認、ユニークスキル『中二病』の発動条件を満たしました。中二病発動可能』


 もうなんでも良かったんだ。

 目の前のこの糞を殺せるなら、一刻も早くみんなを安全な場所に運べるなら。

 安心させてあげられるなら。


 そう思い何も考えずにその言葉を口にした。


「中二病発動!」


 中二病発動と同時に俺の体からミノタウロスブラックをも超える禍々しいオーラが放たれ、俺の意識は何故か遠のいていく。

 意識が遠のくと同時に聞き覚えのある声が聞こえる。


『ようやく俺様の出番か! 後はこの俺様に任せお前はそこで見物でもしていろ。』


 声が聞こえ、気が付くと俺は真っ暗な部屋に居た。

 部屋には漫画やゲームに出てくるような魔王が座っていそうな豪華な椅子が、十畳ほどの部屋の中央に一脚だけ置かれていた。 


 椅子の正面には半透明な巨大なモニターから、先程まで居たはずの場所が映し出されていた。


 何が起こったのか理解できず、ここから出る術はないものかと、もう一度辺りを見渡してみるがどこにも扉なんてない。


 突然の事に混乱し、つい声を荒げてしまう。


『なんだよこれ! どうなってんだよ!』


 俺の声に応えるように誰かの声が部屋に響いた。


『うるせぇな、黙って見てろ。俺様が魔眼の使い方を教えてやるからよ』

 使い方? てかこの声……俺の声!


 確かに部屋に響いた声はいつも聞いている自分自身の声だった。

 ただその口調は荒々しく、どこか懐かしさを感じた。




 ◆




 俺様は目を開ける、久方ぶりの外だ。

 一年ほど前に突然、俺様はあの暗くてなんにもない部屋へと追いやられた。


 なぜ(アイツ)が俺を拒んだのかは分からねぇ。

 ただ(アイツ)は確かに俺を拒んだ。


 そして俺は封印された、まるでかつて俺がこの目に封じた魔王と同じように。

 俺は何度も部屋から脱出しようと試みたが、無理だった。

 部屋には出入りする扉なんてものはなく、途方に暮れ絶望した。


 ところが状況が一変する。

 突如俺の魔眼(左目)が疼きだし、俺に奇妙なことを掲示しやがる。


 『力を欲し求めるとき汝解き放たれん』


 意味がわからなかった、だがすぐに理解した。

 何もなかった部屋に突如俺好みの椅子が現れ、同時に下界の景色を見ることができたんだ。


 椅子に腰掛け下界を見ると、そこはかつて俺が過ごした世界じゃなかった。

 奇妙な魔物(モンスター)アイツ()に楯突きやがる。


 俺は必死に叫んだ、魔眼を使えと、だけど暗い部屋に声は木霊し(アイツ)には届きはしなかった。


 (アイツ)は魔眼を使ったことは使ったのだが、まるで全てを忘れてしまったかのようにクソみてぇな火球(ファイヤーボール)ばかり放ちやがる。


 きっと(アイツ)は忘れてちまったんだ、魔眼の事も俺との日々も。

 だけど俺は少し安心した、何故なら聖魔協会の観測者が一緒だったから。


 だが観測者は相変わらず口だけ野郎でクソ弱かった。

 俺が観測者から聞いていた話とまるで違う。


 俺が観測者から聞いていた話は、聖魔協会からお俺様を監視する為に送り込まれた、聖魔協会指折り屈指のエースだという事だ。


 まぁ観測者の事なんてどうでもいい。

 俺はまたすぐにあの何もない部屋に戻されるだろう。

 それまでに俺の存在を、魔眼の使い方を(アイツ)に思い出してもらう。


 きっと(アイツ)はあの部屋で今の俺を見ているはずだ、だから見せてやるんだ。

 俺様のかっこよさを、魔眼の使い手の真の力を。


 目を開いた俺様の前方にはみっともねぇ牛が一匹立っていやがる。

 警戒した様子で俺をジロジロと見てきやがる。


「お前人間か? なんだその禍々しさ。まぁ所詮は餌だ」


 なんだコイツ? この俺が餌だと!

 こんな低俗な下等生物が俺を見下してんじゃねぇだろうな。

 仮にも俺は魔王を宿す者だぞ、舐めやがって。


 俺が(ここ)にいられるのもそう長くわねぇ。

 話したい奴もいるしサクッとやるか。


「おい牛、光栄に思え俺様が相手をしてやる」


 俺の言葉に明らかに殺気立ち全身に力が入ったな。

 だけどそのくらいじゃ俺はビビったりしねぇよ。


「餌の分際で図に乗るな。人如きが図に乗ったことを後悔させてやる」


 目の前の牛は巨大な大剣を右手に持ち、剣先を地に引き摺りながら真直ぐ突っ込んできやがる。

 まずはコイツのお手並みを拝見するか。


 俺は腰に付けていた剣を抜き、走り込み、力任せに振られた刃を手にした剣で受け止めた。

 轟と同時に大気が振動し、俺と牛の重なり合う刃を中心点に風が外に吹き荒れ、俺の髪が風に逆立ち周囲の者達にも強風が襲う。


 エルフの女が強風に煽られ、堪らず顔に手を翳し目を細めている。

 観測者も意識を取り戻し強風に顔を伏せている。


 他の連中も同様だ。どうやらエルフの女のヒールで回復したようだな。


 だが気に食わねぇなこの牛、俺を見下ろし薄ら笑いを浮かべてやがる。

 俺と剣を交えているこの状況を楽しんでいやがる。


 それに俺の剣が持たねぇ、刃に亀裂が生じてやがる。

 牛の馬鹿でかい大剣に比べ、俺の剣はなんでこんな安物なんだよ。

 こんな安物使ってるからこんな牛に舐められるんだ。


 交えていた刃を払い後方へ大きく跳躍し、右手に持つ剣を見ると案の定折れやがった。

 俺の剣が折れたのを見るなり牛が高笑いしやがる。


 「がははは、お前の負けだ。降参すれば苦しまずに殺してやる」


 安物一本折ったくらいで何興奮してんだコイツ。


「シン!」

「竜崎!」

「俺達も力を貸す!」

「俺も片腕だが手を貸すぜ」

「あたしも協力するよ」


 ったく、どいつもこいつも剣が折れただけで騒ぎすぎだろ。


「問題ねぇよ。病み上がりはそこで見てろ」


 見てろと言ってるのに何か喚いてやがる。

 まぁ無視だな。

 牛が俺の言葉を聞いて鼻息荒くキレてやがる。


「俺を舐めているのか人間。苦痛の中で死に絶えろ」


 どうやら完全にキレた牛が必殺技でも見せてくれるみたいだ。

 少しだけワクワクするじゃねぇか。


 牛が剣を頭上に掲げると、黒々した大剣の剣先に石や岩が吸い寄せられ巨大な岩石を作り上げやがった。


 観測者たちは顔面蒼白になり狼狽えて嫌がる。

 無理もない、あんなものまともに受けたら大抵の奴は絶命してしまうだろう。

 まともに受ければな。


「シン逃げて!」

「竜崎逃げろ!」


 牛は岩石を俺に向け放ってきやがったが、俺はそれを跡形もなく消し去った。

 牛は岩石が俺の目前で消滅した事に驚愕していやがる。


 何が起きたのか理解できていないようだ。

 牛だけじゃない、この場にいる者全てが身を固め思考が追いついていない。


「き、貴様何をした!」

「消しただけだ」

「消しただと! ありえん!」


 まぁこの程度の雑魚には到底理解できないだろうな。

 理解できない奴に見せてやろうこの俺の力の一部を。


 「これが見えるか牛」


 俺は奴にも見えるように魔眼から黒煙を右手に移動させた。

 牛にもようやく見えたようで、俺の右腕を凝視してやがる。


「な、なんだその禍々しい黒煙は」


 牛だけじゃなく全員俺の腕をガン見していやがる。

 ただひとり観測者だけは気づいたみたいだな。


「まさか……邪煙!」

「覚えてたか」


 やはり観測者は覚えていたか。

 そうこの黒い煙は邪煙。

 かつて俺と(アイツ)と観測者が必死に考え生み出した力だ。


「邪煙? なんだそれは!」


 戸惑う牛に観測者がご丁寧に説明を始めやがった。


「邪煙、それは邪悪で生命の無いモノと魔眼が認識したモノを煙のように消し去る力」

「その通りだ」

「でもなんで? その能力は俺と二人で考えた、ただの設定だ! 現実に存在す……待てよ。そんなこと言ったら魔眼だって」


 何言ってんだ観測者は、それに設定ってなんの事だ?


「そうか! 竜崎が言っていた通りかもしれない、願いや想いで架空のモノがユニークスキルとして現実化しているんだ。だとしたら……邪煙を扱える事をなぜ今の竜崎が当然のように知っているんだ?」


 架空? 現実? アイツはさっきから何を言ってるんだ。

 まぁいい。そろそろ終わらせるか。

 俺は固まる牛の目の前まで行き、牛を見上げた。


 牛は自身の最大の技をいとも簡単に封じられた事で俺に恐れ、震える体で大剣を振り上げ俺の頭上から振りをろしてきた。


 俺はそれを右手で受け止め、邪煙で大剣を消し去った。

 牛は悟ったのだろう、真の強者たるこの俺を前に全ては無意味だと。


 俺は牛の下腹部に右手を翳し、せめてもの情けで苦しまぬように殺してやる事にした。


「死神の手招き」


 死神の手招きは戦意喪失した者や、気力、活力を失った者の命を瞬間で奪ってしまう能力だ。

 戦意を失った者を甚振り殺すのは趣味じゃねぇから丁度いい。


 牛は悶える事なく力尽き、ゆっくりと地面に倒れた。

 その光景を見ていた者たちは顔が引きつり、若干引いた目で俺を見ていやがった。


 戦いが終わった俺は観測者に近づき久しぶりに話した。


「久しぶりだな観測者!」


 観測者は俺をまじまじと見つめていやがる。

 一体どうしたんだコイツ。


「りゅ、竜崎? お前昔の口調に戻ってるぞ。それとずっと気になってたけど体から黒い湯気が出てるぞ」

「ああ、かつてこの目に封じた魔王が疼いてるんじゃねぇか」

「はぁ?」


 相変わらずスットンキョンな顔をしやがるな。

 観測者の事は放って置いて、辺を見渡すと金色の髪の尖り耳の女が居やがる。

 この女、妙な目で俺を見やがるな。

 そうか部屋で見ていた時から感じていたが、俺に気があるなこの女。


 それに俺好みのエルフだ。胸は大き過ぎず小さ過ぎず、丁度良い。

 よし決めた。俺の女にしてやる。


「おいそこの女!」


 ヒュー、俺に呼ばれた事が余程嬉しかったのか、体をビクッと震わせるほど感動したようだ、思わず心で口笛吹いちまった。

 でもやっぱり実際に生で見るのとじゃ全然違うな。


 それにこの俺のかっこよさに驚きを隠せないみたいだな。


「シン?」

「喜べ女。今からお前は俺の女だ!」

「っえ?」


 へへ、この女頬を赤らめ感激してやがる。

 余程嬉しいと見える。素直じゃねか。


 しかし近づいてきたこのみっともない顔の片腕のオヤジはなんだ。

 確か部屋で見た、酔っぱらいだ。


「おめぇ竜崎なのか?」


 みっともない顔のオヤジが話しかけてきたがなんだこのオヤジは、俺様に対しおめぇだと!


「おい、お前言葉遣いを知らねぇのか? 俺様の女に傷を癒してもらっておいて、彼氏の俺様に対しておめぇとはなんだ?」


 何を大口開けて固まってんだこのオヤジ?

 大口開けてアホ面しいてたかと思えば、彼氏と言った俺の言葉を聞いて再び感激に頬を赤らめる俺の女に気安く話しかけてやがる。


「おいリリー、竜崎の奴落ちた時に頭でも打ったのか?」


 リリー、そうか確かこの女の名だ。

 それにしてもリリーは俺をチラチラと見て完全に意識してやがる。

 そんなに俺の女になれた事が嬉しのか、可愛い女じゃねぇか。


「さっきまで普通……だったんだけど」


 しかしこのオヤジいつまで腕を治さないんだ?

 片腕では何かと不便だろ。

 ひょっとして直せないのか?


「おいオヤジ、こっちに来い」

「お、おやじ! 本当にどうしちまったんだお前?」


 目の前まで来たみっともない顔のオヤジの腕に手を翳し、人体錬成で新たな腕を再構築し、瞬時に繋ぎ留める。

 オヤジの失ったはずの二の腕より下から新たな腕を創り出し、オヤジの腕は元通り、五体満足に戻った。


 「やっぱ俺様天才!」


 驚愕に固まり、すぐさま腕の感触を確かめてやがる。

 全員、俺の力を見て声も出ずに固まり感服してやがる。

 

 顔に傷のある奴なんて感激のあまり泣いてやがる。

 気の強そうな女も俺に熱視線を送っていやがるが、年増はタイプじゃねぇ。

 よって無視。


「りゅ、竜崎これは一体どういう事だぁ! 俺の腕が……」


 みっともない顔のオヤジが俺様の肩を掴み混乱してやがる、鬱陶し。


「人体錬成で肉体の一部を錬成し元に戻しただけだ、大した事じゃねぇよ」


 何だこいつら、一斉に群がってきやがった。

 それに何だよこの泣き出したオッサンは。


「ありがとう。俺の所為でザックが一生片腕かと……ありがとう」

「あんた凄すぎるよ」

「いやマジで感謝だ」

「シン凄い」

「お前本当に……竜崎か?」


 観測者はひとり意味不明なことを言っているが、俺の凄さが理解できたようだな。


「へへへ――」


『おいテメェいいかげんにしろよ!』

『ん? ああ、忘れてた。もうひとりの俺か。』

『忘れてたじゃねーよ! お前リリーになんてこと言ってくれたんだ!お前の所為でリリーに嫌われたらどうしてくれるんだ!』

『気にすんな。リリーは俺の女になれて感激してやがった。』

『ここから見ていたけどそんな感じじゃなかったぞ! ポジティブ過ぎるぞお前。いいからもう戻ってこい、俺と代われ!』


 せっかく久しぶりだったのにつまんねぇな。


 俺は暗い部屋で椅子に座り、カタカタと貧乏揺すりしてしまう。

 あのイカれた俺がリリーにアホな事を言うからだ。


 椅子に座り腕を組み待っていると、唐突にそいつは俺の前に現れた。

 何故か魔眼を発動させたままで、黒いオーラを身に纏ったそいつが黒い部屋に帰ってきた。


 俺を見るなり片手を上げて笑ってやがる。

 何なんだこの自信に満ち溢れた態度は、見ていて腹が立つ。


『わかった? 魔眼の使い方。』

『あんなのでわかるわけないだろ。』


 俺は一発だけ中二病()にゲンコツをお見舞いし、俺のゲンコツを食らって驚いた顔をした中二病()を無視して、意識を取り戻した。

 

もう一作品連載を開始しました。よければご覧下さい。評価もして下さると嬉しいです。

『女大好き、前代未聞のクズ王子~実は輪廻転生した元七大魔王の一人~」』https://ncode.syosetu.com/n6963fa/

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