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目に見えて分かる主人公補整

初めましての方もそうでない方もよろしくお願いいたします。


思い付きで書きます。またしても気分次第で投稿までの期間が変動します。

顔文字使って書くレベルの自由差さといい加減さですので細かいことはお気になさらずに。


「おはよう」朝の挨拶、誰もいない部屋に俺の声が消えて行く。今日は朝霧が濃ゆい、昨日の大雨の影響だろう。

「ジメジメだぜ」ジメジメ、だが、嫌いではない。キノコがよく育つから。

 バターで炒めたキノコとコカトリスのパテをスライス玉ねぎと共にパンにはさみ手早く朝飯をこしらえた。

「今日も一日頑張りますか!」


 キノコ研究家:夢見 窓炉 人間28歳の男


 俺はしがないキノコ研究家、この世界の主人公でも何でもない。魔法研究に使用されるキノコの採取から新種のキノコの研究などを飯の種にしている二十代の未婚者だ。この職業を選んだ理由はキノコと魔法が好きで食にも困らさそうだったから、まぁ、『魔法の才能が無かった』からなんていう小さな挫折もキノコ研究家の道を選んだ理由にあるけどな。


 まぁ、人生そんなものだ。


 俺の人生の主人公は俺だが、俺はこの世界の主人公ではない。

 俺の人生には俺の見解と言う名の色眼鏡がかかっているので、俺に都合よく補整と補正がかかり見えてしまってはいるのだろうが…


     俺は、『この世界の【主人公】じゃなくてよかった』と思っている。


「今日もデカいな~」小さい頃はその名に憧れ羨んだものだが、今は… 何と言うか、何と言うべきか… まぁ、アレだ。


 大地が波打ち雲が割れ大気が渦巻く。


「主人公は最後には勝つ法則… 。     じゃなきゃ困るな… 。 」


 それは素振り。大地が波打ち雲が割れ大気が渦巻く素振り。バベルの塔をも優に超える巨大な聖剣を片手で振り回すは巨体過ぎる蛮勇、この世界の【主人公】だ。

 筋肉の隆起が山脈の誕生を連想させるほどの巨体。大地に着く脚はまるで世界樹の幹だ。


 不安でしかない。


 主人公は最後には勝つ、とみんな思っている。異世界から流れ着いた書物でも最後には主人公が勝っている。

 この世界でもそうだろう。何故ならこの世界では様々なものが目に見えて表現されているから。

 だから彼が主人公だと分かった訳だし、彼がこんなにも巨体なのだ。

 主人公は基本的に滅茶苦茶に強い、とんでもなく強い。巨体はその強さを、主人公補整を体現している。


 だから不安なのだ。


 主人公は最後には勝つ、最後〔には〕な。

 主人公は挫折しそれを乗り越え最後には勝つ。それが定石であり定番というものだ。

 この世界の主人公は未だ戦っていない、敵になりえる存在が表れていないから。


 つまり、だ。


「こいつを一度負かす怪物が居るって事なんだよな」不安でしかない。

 いつも気合の入った素振りをしている彼に同情する、彼も不安なのだろう。


 主人公補整を物理的に表現したこの世界の神様はいったい何を考えているんだろうか。俺には分からない。






   *






 キノコ、きのこ、茸。

「フフフ、ハハハ、ヌハハハハッ!!!」今日の収穫はざっと5万ゴールドだ。

 食用高級キノコは金になる。

 食べられない毒キノコも魔法使いに売れば大金になる。

 これだから、キノコ狩りはやめられないぜ!!!

「しっかし、毒炎猛楼茸が30kgとかやべーぞ」朝霧を糧に成長し日の光で消えてしまう幻の毒キノコで、採取にも管理にもスゲー手間のかかる珍キノコ。

 市場価格は1㎏で銀貨一枚と銅貨二枚、今回の収穫で金貨三枚と銀貨六枚だ。その他にも毒キノコがいっぱいだ。

「今日は毒キノコ日和だな」こういう日がたまにある。キノコは条件が整えば成長する。今日は毒炎猛楼茸をはじめとする毒キノコの成長条件が整ったのだろう。


「まだまだ有るかもな」今日取らなければ明日には取れない。キノコ狩りは一期一会、今が大事なのだ。


 だが、30kgちょいは重い。


「この切り株に置いていこう」主人公のおかげで魔獣はこの辺りには出ない。そもそも毒キノコなので食べないし、盗賊も毒炎猛楼茸は扱いが難しい事を知っているから手を出さない。この辺りでは俺しか扱うことのできないキノコ、俺の独壇市場、だから、俺は、油断していた… 油断してしまっていた。


「     …えっと~ あはははは…     やべぇ」


 キノコの入っていた籠を置いていた切り株の上に十二枚の金貨が置かれていた。お代なのだろう。

 さすがはこの世界の主人公だ、気前がいい。

 巨体だからお腹の減りも相当のものだ、鯨を丸呑みにしているのを見たことがある。籠に入っているキノコ、食用キノコだと思っても仕方がないと思う。

 うん。

 体が大きいからよく見えなかったのかな?

 うんうん。


 …う、うん。


「     」言葉が出てこない。


 キノコの可能性はえげつない。

 キノコ研究家の俺がそれを保証しよう。


 そして、この死体がそれを証明している。


 小指の爪の先ほどで致死量となってしまう毒キノコなんていっぱいある。

 どこかの誰かが『最も進化をする者は世代交代の激しい者だ』と言っていた。本当にその通りだと思う。




     この世界の主人公が死んでしまった。






   *






「死因は毒炎猛楼茸の摂取による中毒死、この近辺でこの茸を扱っているのは三名」目星は付いている、怒りに満ちた目付きで男が号を飛ばす。

 彼はこの世界の主人公が身を置いていた国の警察機関の最高責任者【ルッピオ】。主人公に献上されていた金銭や物資の一部を着服し私腹を肥やしていた者の一人だ。甘い蜜を垂らす樹が死んだ事で彼らは殺気立っている。

「必ずこの三名を確保し裏に居る敵を引きずり出すのだ!!!」

 <ドン>、言葉無き姿勢による返事で精鋭達が志を示す。


「散れ」大理石の床に影を残し風を纏った精鋭が飛ぶ。






    「どうしてくれんのよ」頭が痛い、とでも言いたげに雲が歪み流れていった。






「よし、逃げよう」それしかない、彼の意志は固い。

 この国の政治は腐敗している。彼の毒キノコが飛ぶように売れるくらいには腐敗している。

 捕まったら最後だ。


「俺の知っている限りでは、容疑者として捜査線上に挙げられるのは5人くらいかな」この国に蔓延るカビの根は深い。


「彼らにも会わないようにしないとな」真っ先に疑われるのは現場ほど近くの彼だ。言い訳や連絡をしている時間も余裕も無い。


 560金貨と7銀貨と6銅貨。多種多様なキノコとその胞子。キノコ狩りの為に買い使い込んでいる中級冒険者装備。今は亡き親友から預かったままの短刀。作り置きをしていた保存食と簡易テント。その他少々。


 彼は家を焼いて出た。


 焼かれた瓦礫を風を纏った影が怒りに任せて蹴ったことは言うまでもない。そして『現場を荒らすな馬鹿ちんが!』と怒号が飛んだ事も言うまでもないだろう。

 森の中の火災。消火活動と燃えカスからの証拠集め、逃亡の為の時間稼ぎには十分であった。






   *






 主人公の死は大々的に報道されている。デカいから目に付くので仕方がない。

『キノコ研究家の夢見 窓炉氏、魔法道具発明家の坂田 凛≪りん≫氏、黒魔術専攻の大魔導士であるキュルル氏、以上の三名が今回の主人公毒殺事件についての重要情報を持っている可能性が―――』


「どこも同じ報道ばかりだな」

「大飯喰らいが死んで良かったじゃねーかよ」

「良くはねーだろ、誰がいつ出てくるかわかんねー敵と戦うんだよ」


 (本当にそれだよな)まるで他人事だ。


「いやいや、その敵が主人公を倒したんだろ」


 (それは無い)彼は心の中で断言する。


 なんせ彼は、夢見 窓炉は当事者だから誰が主人公を殺したのか知っている。

 主人公は誤爆した。誤って自ら毒キノコを口にしてしまったのだ。

 異世界の書物にも毒キノコを食して死んでしまった者が出て来る、この世界でも似たようなことが起こってしまっただけなのだ。


 そうだと思い込もう。




「お客さん顔色が悪いようだけど大丈夫かい?」飲食店のマスターは客の顔をよく見ている。フードをかぶっていても客の顔色を窺える程に。

「ホットミルクでもお出ししましょうか?」

「いえ、大丈夫です。 ソレの熱燗でお願いします」季節は夏だがここはフロストドラゴンの夏眠する渓谷だから少し冷える。カウンターに並べられた酒から一つ選び指差した。

「お目がお高い」少し嬉しそうだ。

 加熱石で出来たおちょこに酒が注がれる。

「これはこれは」有名な銘柄の大吟醸酒、初めて呑んだが旨い。

「『竜の雫[雅]』 フロストドラゴンの霊氷で作った水を使い醸造されたこの大吟醸酒は切れのある甘みと舌を包み込むようなまろやかな口当たりが特徴的な品となっております。     山椒の実の佃煮と柚皮をシャリに混ぜたマス寿司などがお勧めでございます。」


「いただきましょう」今の彼は少し金に余裕がある。


「 …旨い」此処に永住したい気分になるが、そういうわけにはいかない。

 なので彼は酒を数瓶とマス寿司を二つ買って荷物に詰めた。

「随分と長い旅をされるご準備をなされているようですが、どこに向かわれるのですか?」と、酒瓶を渡すときにマスターが聞いてきたのは当然の行動であろう。

 店の前には彼がこの街で買ったワイルドアウトでマッドマックスな魔動車とそれに繋がれた牽引台が停めてあるのだから。

 聞かない方が変なくらいにゴツゴツしく仰々しい。


「ちょっと世界の果てまで」






   *






 主人公が修行の場として選んだのは世界の果てにある小国であった。そこが最も人的被害の少ない最適な修行の地だと思ったから。主人公は巨体だから倒れたら誰も介抱ができない、なので修行にはなるが死なないギリギリを探すのは大変だ。

 ようやく見つけた修行に適した場は最果ての地。最果ての地だから強烈な猛毒を持つ茸も生えていた。

 その地に住んでいた者の言う最果ての地、そこはもはや人の身で地を踏める場所ではない。


「ちょっとあんた遅いわよ」


 真の最果ての地に佇む古城。そこの城主がシャンパンゴールドに彩られた口を開く。

(この人には頭が上がらない。逃げている道中に突然連絡が来て焦った。)

 面会するはキノコ研究家の変な男だ。


「人の話聞いてんのか?」

「あんた人間じゃないだろキュルルさん」茸男はオレンジ頭の少女の拳を右脇腹にくらった。

「『さん』じゃなくて『ちゃん』な、殺すぞ」正直言って拳はまるで痛くない。だが…


「呪いかけてないよな???」


「掛けたに決まってんでしょ、あんたすぐに逃げるから逃げられないようにしたまでよ」

「嘘だろ… 」今話題の主人公毒殺事件の第一容疑者は彼だ。

(俺を国に突き出す気なのだろうか???)


「安心しなさい。あなたのする事は単純よ、私を連れて逃げなさい。それだけよ」

「???」(え???意外だ。)

「意外だ、って顔ね。 私の衛星魔法が誰かに無効化されたのよ」

「!?」(なら!俺あのまま逃げてよかったじゃん!!!)

「今のあんたはもう逃げられないわよ。 と、言うかあんた、顔に感情が出過ぎよ。私に会いたくないのも顔色悪くてバレバレよ、酒臭いし。」うげー、と鼻を摘まみ手を振る仕草はどこか愛らしさを覚える。外見のせいだろう、見た目だけは愛らしいからそのためだ。

「運転する時は呑んでないぞ!ここに入る前に少し口にしただけだ!」娘にからかわれる父親のような構図だが実際の年齢などからすると逆どころの騒ぎではない。


 黒魔術が大好きな大魔導士:キュルル 種族不明285歳の女の子


 彼女に人間の常識は通用しない。

「取り敢えず面倒事はごめんなのよ。 こっちのセリフだ、って顔ね。」

「俺がいくらめんどくさがっても無視して行動するのでしょう。なら、諦めてキュルルちゃんに従いますよ」


「それが正解よ」


(げ、最悪だ)

「本当に失礼な顔ね」空色の髪が特徴的な八頭身の美女、坂田だ。

「この子はあなたより役に立つから安心して眠っときなさい移動手段君」


 美しき魔法道具発明家:坂田 凛 よく分からない26歳の女性


 彼女には常識ってものが無い。

「不眠なの?睡眠ガスあるわよ」

「いらないです」

「ここにいる私達報道されちゃった組の三人は逃げなきゃいけないのよね」

「逃げるなら一緒に連れて行け、と」頷く二人の女性をみてうなだれる男、哀れな下男だ。


「まったく、誰よ。主人公を毒炎猛楼茸で毒殺するなんて馬鹿な真似したのは

「そいつのせいで研究が止まってしまったわ」

「     ・・・・・ほ、本当だよなぁ~」


 分かりやすい顔だ。


「あんたが人を殺せるような性格じゃないのは知ってるからさぁ、何があったのか言ってみなさいよぉ」

「自白ガスも有るわよ」


「     え、えっとですね―――」











   「「 あんた何やってんの!? 」」




 平謝り、土下座、五体放置。

「すみませんでした!!!!!!!」

「毒炎猛楼茸を放置する馬鹿が居るとは… 呆れてものも言えないなぁ」冷たい瞳が男を刺す。

「毒炎猛楼茸を食べるとは、小さすぎて気が付かなかったのでしょうか?そもそもそれでお腹が満たされるのでしょうか?」空気が悪くなったので話を逸らすあたり大人だ。しかし彼女本人にそんな気遣いは無い。

「主人公は大飯喰らいだけどエネルギー的にはかなり燃費が良かったはずよ。小腹を満たすために目についたものを拾い食いしたのでしょうね」質問には答える。情報に価値など無い、そんな考えの持ち主だからという訳ではない。彼女の持つ二人へ対する仲間意識から答えたのだ。

「金貨十二枚を置いていくあたり良心的なのでしょうか?礼儀的には残念ですけど」

「いやー、本当に残念な主人公でしたね」馬鹿な男、相手の怒りが静まるまで大人しくしておくべきだ。


   「「     」」


「 …すみませんでした!!!!!!!」


「予定を変更しなければならなぁ」

「真犯人が見つかるまで隠れ逃げるとの計画でしたが、その真犯人などそもそも居ないとなれば… 」

「主人公の死の責任を取る必要もあるな。はぁ… この馬鹿のせいよね」

「ですね」


「すみませんでした。」


「しかも、連絡も言い訳も無く一人で逃げようとするとは、なんなのよ」

「そのおかげで私達まで報道される始末、第一容疑者のあなたが家を焼いたせいで私達にも火の粉が飛んできましたよ」

「今更言い訳は許さないわよ。そもそもあなたの言い訳なんて聞かないけれどね。どうせ、私達に会わないようにしなくちゃ、とか考えて逃げていたのでしょう?あの車やお酒ってもしかして格好つけているつもり?逃亡者気取っているの? だっさーい」

「だっさーい」


 (´;ω;`)しょぼーん

               オッ(^ω^♯)

                 オッ(^ω^♯)


「はぁ… まぁ、現実逃避はこれくらいにして問題の解決に励みましょうかね」

「そうですね」

「はい」

 喧嘩するほど仲が良い。彼らにはそれが当てはまる… 気がする。

「まず、殺意が無かったと訴えかけても信用はされないでしょうね。国民からの信頼を得たところで居もしない犯人を挙げなければならない連中から犯人にされてしまうでしょうね」

「主人公が死ぬきっかけを作ってしまった責任を取り、私達が善人であることを示しつつ信頼を得て、腐った連中が手出しをできないような状況を生み出す。というわけですね」


「え、無理じゃね???」


「いや、無理ではないぞ」

「ええ、唯一にして単純な方法があります」

「おお」


「「 主人公が倒すはずだった敵を倒す。 」」


「いやいやいや!!!それこそ無理だろ!?」


 主人公補整が物理的に肉体的に、まさしく、主人公補整が体現されたあの存在と自分達との肉体の差を力量の差を彼は熱弁した。

 普段近くで見てきた事を、体感した、実感した力量の差を分かり易く伝えた。


「はぁ… あんたはアレよね。はっきり言ってあげるわ」

「その方が良いですね」と、坂田 凛が頷く。




「私達が自由な生活を取り戻す方法はこれ以外に無いわよ」




「 …やるしかないのか」


 だらしのないキノコ研究家と、


「因みに敵は推定だが、魔王だ」


 黒魔術が大好きな大魔導士と、


「こんな状況であれですが、魔王退治とは面白そうですね」


 美しき魔法道具発明家による、


「まるで書物の勇者だな」


 奇妙で自己中心的な世界救済の冒険が始まりを告げた。




「次は逃げるなよ、あんたに掛けたのはそういう呪いだからね」

「解呪ガスも有るわよ」

「あ、それは欲しいかも」


 坂田 凛のその発明品がキュルルにより取り上げられてしまったのは言うまでもない。


「両手に毒華だなこりゃ」

お読みいただきありがとうございます。

次話もよろしくお願いいたします。

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