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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

ミンチ大好き少女の挽き肉製造物語

作者: テト
掲載日:2018/02/06

思いついたので。

ちょっと頭おかしい女の子って可愛いと思いませんか?(狂気)

 















「こぉ〜んに〜ちはぁ〜?」


 松明で照らされた洞窟内に高い声が響く。

 洞窟の中にはそこらに何かの骨やゴミが散らばっていて、ところどころ血の跡もある。

 肉が腐ったような匂いもしていて、有り体に言ってとても汚い。


「誰かぁ〜、いないんですかぁ〜?」


 再び声が響く。不衛生極まりないここでは場違いなほど透き通った綺麗な声だ。


 声の主は、まだ年端もいかない少女だった。

 白く長い髪に、透き通るような肌。

 赤いワンピースを着ていて、頬はほんのりと桃色に染まった可愛らしい少女だ。

 肩掛けポーチを下げていて、これからピクニックに出かけると言われても不思議ではない格好をしている。


「おい誰だ?こんな時間に…」


 ようやく声に反応したのか、洞窟の奥の方から、大男がのっそりと出てきた。髭も髪も伸び放題で、フケが浮き出ている。

 大男は不機嫌そうに顔をしかめていた。それもそのはずで、今は真夜中。町の住人も草木も動物たちも眠っている頃で、この時間に起きているのは夜行性の動物か王都で夜中までぶっ続けで仕事を強いられているような政務官たちくらいのものである。


 当然のことながら、男の目の前にいるような少女が起きているはずもなく、さらに言えば、こんな盗賊のアジト・・・・・・にいるはずもない。


「おおわぁっ⁈なんだテメェは!ここがゲルバ盗賊団のアジトだと知って来たのか?」


 男は大袈裟なまでに驚き、次いで少女を威嚇する。

 その驚きは無理もない。汚らしい格好の男であったが、少なくとも今この場にいる者としては、少女のほうがありえない存在であることは間違いない。


 盗賊のアジトにいたらおかしいのは、明らかに目の前の少女である。


「あ、やっと気づいてくれたんだねぇ。誰も出てこないから、みんな寝ちゃってるのかと思ったよぉ。おじさんが言ってた通り、ここがゲルバ盗賊団のアジトでいいんだよね?」


 さらに少女は驚きの発言をする。この時間に起きていて、この場にいることすらおかしいというのに、少女はここが盗賊のアジトだと知ってやってきたのである。


 男は驚きが一周回って平静になった。そして正常になった頭で考えると、こんな少女1人でここに来たところで何もできないということに気づく。


「へへっ、おいお嬢ちゃん。こんな時間にこんなところに来るなんて、どうなっても知らねえぜぇ?」


 よく見ると少女がとても可愛い容姿をしていることが分かる。

 最近は盗賊団の規模が大きくなってきたことで近くの村や町が警戒していた。その影響で略奪にも慎重にならざるを得なくなり、つまりは女照りだった。

 男が少女を見る目が邪なものに変わる。

 男は考えた。

 今なら仲間たちも寝ている。自分だけこの少女で楽しむことも出来るのではないか?


 そんな下衆な考えを巡らせて、少女に対する注意が逸れていたせいで気づくことが出来なかった。


 見張りがいたはずなのに、そこから何の音沙汰もないことを。

 そして、少女の手に自身の身長ほどもありそうな、いびつで大きなハンマーが、いつのまにか握られていたことを。


「それじゃあおじさん。」

「何だよ、嬢ちゃんは黙って俺の言うこと聞いてれば……え?」


 既に少女は大きく跳ねて、男の頭から大槌を振り降ろす寸前だった。


「待っ」

「ばいば〜い!」


 ゴシャバシャという音と共に、男は上から潰されて肉塊になった。


「……」


 少女は目の前の肉塊をじっと見つめる。

 超重量に潰されたソレは、骨が砕け、内臓が破裂し、手足があらぬ方向に折れ曲がっていて血溜まりに沈んでいる。


「んしょ。」


 少女はおもむろに大槌を持ち直す。少女の持つそれは少し、いやかなりおかしな形をしていた。

 四角形の槌なのだが、その1つの面には大量の出っ張りが付いている。

 その反対側の面には、取ってつけたかのような大きなトゲが一本付いている。

 その隣の面は若干丸みを帯びている。

 四角形の槌の割には平面が一面しかなく、どう見ても尋常のものではないことが一目で分かる。


 少女はその槌を大量の出っ張りが付いている面を下にし、そして。


「え〜い!」


 それを目の前の肉塊に向かって振り下ろした。何度も何度も繰り返す。

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。


 槌に付いている無数の出っ張りがその損傷を加速させる。


 そうして痛めつける前は人間の死体と分かったものを完全に原型が無くなるまで潰した少女は、満足そうににっこりと、本当に嬉しそうに笑って、そして言った。


「はぁ〜、ようやく綺麗なミンチになったぁ!いやぁいつ見ても、何度見ても見飽きないなぁ、ミンチって。」








 少女がミンチを1つ仕上げると、洞窟の奥のほうから複数人の声がこちらに向かってきているのが分かった。


「おい、なんだ今の音は!」

「敵襲か⁈」

「見張りは何やってんだ!!」

「夜中だぞ…いい加減にしろよ!」


 少女のいるところまでやってきた男達は、その惨状を見て顔を青ざめさせる。

 可愛らしい少女。

 しかしその前には真っ赤な血溜まりと共にぐちゃぐちゃのミンチになった肉があり、少女の真っ白であっただろう髪が返り血で真っ赤になっている。


 男達が状況を理解するのは早かった。


「て、敵だー!!!」

「全員を起こすんだ!」

「お前は早く他の奴らを叩き起こしてこい!」

「分かってるよ!」


 4人組だった男達は次々に騒ぎ始め、1人は仲間を呼びに行き、もう3人は武器を取った。


「あっ…」


 少女は洞窟の奥に走り去っていくにくを名残惜しげな表情で見送ったが、遅かれ早かれどうせ全員ミンチにすることは確定していたので、気を取り直して正面にいる3人の男達ミンチこうほに向かって話しかける。


「ねぇ、おじさん達って、ゲルバ盗賊団なんでしょぉ?わたし知ってるよ。さっきミンチにしたおじさんが言ってたもの。」

「……」


 男達は何も答えない。いや、答えられない。少女から発せられる異様なプレッシャーが、少女から一瞬でも気をそらすことを許さないのだ。


「盗賊って、みんなに迷惑かけてるからぁ、殺しても何も言われないんでしょ?それどころか、それが証明できればお金が貰える事もあるんだよね?凄いよねぇ、素敵だよねぇ、だって考えても見てよ。人をミンチにしても何も言われないどころか、感謝されてお金まで貰えるんだってぇ!みんな何でやらないのかなぁ?」


 賞金首になるほどの盗賊というのは強力なリーダーがいたり、規模が大きかったりといった理由がある。

 そして何より、危険で早く討伐して欲しいから賞金首になるのだ。

 誰もがやらないのにはそういった理由があるのだが、少女にそれを言っても無駄だろう。


 少女からすれば盗賊など、お金が貰えてミンチも作れる、一石二鳥の獲物でしかないのだから。


「ところでさぁ、おじさん達。わたし、ミンチが大好きなんだけどぉ、一番好きなミンチが何か分かる?」


 少女は大槌を肩に背負い、ジリジリとにじり寄る。

 逆に男達はプレッシャーから離れるように少しずつ下がっていく。

 しばらくすると、男達の後ろからは増援だろうか、大勢の声が聞こえてきた。


「残念、時間切れだねぇ。正解は、人間でしたぁ!だからさ、おじさん達…」


 少女は次の瞬間、物凄い勢いで男達に飛びかかる。

 あまりに一瞬の接近に全く反応できず、真ん中にいた男が瞬きした後にはもう肉塊に変わり果てていた。

 そして男が立っていた場所には、代わりに槌を振り下ろした少女がいる。


 男達に向かって顔を上げた少女は変わらずにっこりと笑っていた。


「わたしのために、ミンチになってよ!!!」


 少女は目の前の2人と、洞窟の奥から次々と出てくる男達に聞こえるように大きな声で叫んだ。
















 その日、近隣の村や町を苦しめていた1つの大きな盗賊団が消滅した。



















 ここは王国の首都、王都セントラリア。


 この国の首都なだけあり、王国で一番大きな街だ。

 そして大きな街であるからこそ、市場もそれ相応に大きなものになっている。


 その市場の肉屋が建ち並ぶ一角。赤い屋根の、レンガで作られた一軒家。

 ミンチ少女、フィネリー・グラインドの店である、”挽き肉専門店・ミンチ”があった。



「いらっしゃあい!あ、リアお姉さん、今日は何になさるのぉ?」

「こんにちは、フィネリーちゃん。今日はブラックオックスとストレンジボアの合挽きを500gにしようと思ってるの。」

「あれ、いつものじゃないんだねぇ?ちょっと高めの組み合わせだけど、何かあったの?」

「実は、弟の誕生日なのよ。だから、今日は弟の好きなハンバーグにしようと思ってね?」

「なぁるほど、おめでたいね!それなら、オマケしちゃおうかなぁ?」

「ほんと?いつもありがとうね、フィネリーちゃん。」

「いやいや、こちらこそお世話になってますからぁ。」


 それじゃあまたね、と言って店を出る客を手を振って見送るミンチ少女こと、フィネリー。

 ここはフィネリーが3年前に建てた店であり、今来たリアお姉さん、リリアナはその頃からの常連客である。

 当時まだ10歳だったフィネリーの店を贔屓してくれた恩人であり、フィネリーの挽き肉専門店が結構繁盛しているのは彼女が周囲に宣伝してくれたことも大きい。

 “挽き肉専門店・ミンチ”は、フィネリーが店主であり、従業員もフィネリーしかいない。

 そのため開店も不定期で、肉が仕入れられ次第となっている。

 ただ、結構人目に付きやすい立地なので、開いてると客が入ってくる。

 それも、フィネリーの店には他の店では売っていない肉が売っていることが多いからだ。


 フィネリーの店には強力な魔物の肉が安く売っている。

 安くといっても相応の値段はするが、それでも相場で買うよりはだいぶ安い。

 先程リリアナに売ったブラックオックスもストレンジボアも中堅の冒険者が倒すような魔物であり、美味しい代わりに普通に買おうとするととても高い。

 それがフィネリーの店では、ミンチしかない代わりに一般町人でも少し高いが買えるくらいの値段で売っているので、店が開いているときはそれを狙った客が入ってくる。


 フィネリーが肉を安く売れるのは、自分で調達しているからである。


 そもそもこの店自体が趣味と実益を兼ね備えるためのものであり、ミンチを作成するという趣味を、利益に繋げただけの話である。


 フィネリー的にはミンチを作るついでにミンチを売っているというだけの話なので、自分が生活できるだけの資金さえあればあとは利益度外視だ。

 それにプラスして自分で狩りに行くというのもあり、値段が安くなっているのだ。

 ちなみにこれでも高くなったほうで、最初の頃は相場も何も気にせずにやっていて、高級な魔物肉がその辺の肉屋で売っているただの豚肉よりも安いということもあった。

 それを中心となって改善してくれたのもリリアナであり、フィネリーはとても感謝している。




 午前中で店の品物がほとんど売り切れてしまったので、フィネリーは店を閉めて外出する。

 向かった先は冒険者ギルドという場所だ。


 冒険者ギルドは、冒険者と呼ばれる職業の人々に仕事を紹介する、依頼の中継地のような所だ。

 冒険者は主に魔物を討伐したり、古代の遺跡を探索したり、はたまた薬師が使う薬草を取ってきたりと、様々なことをやる謂わば何でも屋だ。

 街の騎士団や自衛団の代わりに盗賊退治を請け負うこともあり、フィネリーはその手の依頼に常日頃お世話になっている。


「こんにちはぁ〜」


 日中は開けっ放しになっている大きな扉をくぐり、フィネリーは大きな声で挨拶する。

 子供特有の高い声はよく通り、それに気づいた何人かの冒険者が手を振ったり挨拶を返してきたりする。

 フィネリーの姿はどう見てもただの少女であり、周囲にいる筋骨隆々な冒険者と見比べると貧相極まりない。

 しかしそのことでフィネリーを侮るような冒険者はここにはいない。いるとしてもそれは新人か、王都に来たばかりか、モグリかのどれかである。

 皆んな、フィネリーが一流の戦闘能力を持つ冒険者だと知っている、いや、この3年間で嫌という程知らされたからだ。


「よう、フィネリー。またどっかの盗賊でもすり潰して来たのかい?」

「あ、ネメアさんお久しぶり!うん、昨日まで東の山にいてぇ、ゲルバ?盗賊団って人達をミンチにして来たんだぁ。素敵でしょう?」

「お、おう、そうか。元気そうで何よりだ。」


 フィネリーに声を掛けてきたのは、フィネリーがギルドに登録してすぐの頃に仲良くなった女冒険者のネメアだ。

 ネメアとフィネリーは何回も一緒に依頼を受けているので、フィネリーの作るミンチを目にすることも多かった。


「人数が多かったからねぇ?たくさんたくさんミンチを作れてぇ、わたし嬉しくなっちゃって!今日の朝は品物をいつもより安くしちゃったの!」

「なんだ、あたしも行けばよかったかな。あんたのとこの肉は質が良いからね。まぁ、ミンチしか売ってないのが難点だが。」

「ミンチ以外の肉なんて、綺麗でもないし興味ないもん!わたしはミンチ一筋なのぉ!」

「あー、はいはい。っと、話してる場合じゃなかった。」

「何か用事でもあるの?」

「なんか呼び出されたんだよね。指名依頼だよ。」


 ネメアは魔物討伐などの戦闘を専門とした一流の冒険者であり、その力を借りに色々なところから声がかかるので基本的に忙しい。指名依頼を受けることも珍しくなかった。


「へぇー、今回はどこから?」

「それが、なんか王城に呼び出しがあったんだよね…」

「え、それってぇ、大丈夫なの?」


 王城からの呼び出しということはすなわち王の勅令ということである。何かやらかしたのではと思ってしまうのは何もおかしいことではない。


「まぁやらかした記憶はないし、大丈夫だと思うけどね。」

「もし捕まったらぁ、助けに行ってあげるからねぇ。」

「ははっ、そんときは任せたよ。じゃあまたね。」

「ばいば〜い。」


 ネメアと別れたフィネリーはそのまま受付に直行する。そしてポーチから1枚の紙と、大きな剣・・・・を取り出すと、受付の机にゴトリと置いた。


「はい、今回の依頼の紙と、証拠品!この剣が盗難品なんだよね?1番偉そうな人が持ってたけど、これで倒してきた証拠になるかなぁ?」

「し、少々お待ちください…」


 受付の男性は引きつった笑顔で応対し、確認のために剣を受け取って引き下がる。


 フィネリーの持つ肩掛けポーチには魔術がかかっていて、中はとても広い空間になっている。以前フィネリーが遺跡を探索した際に入手したものだ。

 遺跡に行ったのは見たことない魔物達をミンチにして観察するためであり、このポーチのようなお宝は全く見つけるつもりはなかった。

 たまたま拾ってきた可愛らしいデザインのポーチがたまたま魔道具だったというだけの話だった。

 ほかにも、フィネリーがいつも依頼に行くときに着ている赤いワンピースも遺跡で拾ったもので、かなり耐久性が高い代物だ。


 受付の男性が戻ってくる。


「はい、確認できました。鑑定の結果、盗難した剣で間違い無いようです。念のため確認の職員を現地に派遣しますが、ほかに持ってきているものはありますか?」

「いつもどーり、ないでぇす。」

「はい、ありがとうございます。ではこちら、今回の依頼の報酬金です。それとは別途で、盗難品の回収による報酬が出ましたので、それも付け加えてあります。」

「分かりましたー、それじゃ、また来まぁす。」


 フィネリーは賞金を受け取ってギルドを出ていく。


 フィネリーはこうしてギルドで討伐依頼を受けたり、ときには全く関係なく魔物をミンチにしたりして生計を立てている。

 肉屋も不定期の開店ながら採算は取れており、経営は順調だ。

 フィネリーは自分の生活に今のところなんの不満も持っておらず、至って順風満帆である。


 そんなフィネリーには、人生における目標というべきものが、2つほどあった。


 1つは、この世界に生息するあらゆる種類の生き物をミンチにして、その図鑑を作ること。

 ギルドにある図鑑に載っている魔物のうち、フィネリーはおよそその半分の魔物をミンチにしてきた。

 もちろん魔物はギルドの図鑑に載っているものだけというわけではないし、フィネリーもそれは分かっているので、目標にしてはいるが絶対に達成できるとは思っていない。


 もう1つの目標は、フィネリーの起源に関わることである。














 フィネリーがまだ7歳だった6年前のある日のこと。

 フィネリーは当時両親と3人で暮らしている、ごく普通の村娘だった。

 今のフィネリーしか知らない人からしたら有り得ないことだが、その時のフィネリーはまだミンチなんて少しも興味はなく、むしろその存在すら知らなかったほどだ。

 朝早く起きて井戸から水を汲み、昼は両親の仕事の手伝いをして、夜は家族でテーブルを囲んで食事をして眠りにつく。

 悪く言えば代わり映えのない平凡な、良く言えば慎ましく平穏な生活を送っていた。

 しかし、ずっと続くと思っていた日々は、フィネリーが思っていたよりもずっと早く終わりを迎えることとなってしまった。




 フィネリーの運命の日となったある日。




 その日の夜は曇っていて、星の明かりも何もなく真っ暗だった。

 フィネリーは7歳の誕生日から両親のいる部屋とは別の部屋で寝ていて、その日もいつも通り両親よりも早く自分の部屋に行って、いつも通り布団を敷いてぐっすりと眠りについていた。


 そして夜も更けた頃。


 フィネリーは物音で目を覚ました。

 少し離れたところが音の発生源なのか、フィネリーの部屋までは大きな音は聞こえない。

 少し待ってみても、ガタゴトという音は消えなかった。

 いや、音の種類が少し変わった。

 初めはガタゴトという音だったのが、今は少し湿ったような音が混ざっている。


「なんだろ、怖いなぁ…」


 フィネリーは少し怖くなり、その音の発生源を確かめてみることにした。

 暗がりを手探りで進んでいき、扉を開けて居間に進む。しかし、音は居間から聞こえていたわけでは無いらしく、近づいていることは分かったが、その発生源は未だ分からなかった。

 どうやら音は両親の部屋から聞こえているらしい。

 フィネリーの部屋からあまり聞こえなかったのは、居間を挟んだ反対側にある両親の部屋から音が出ていたかららしい。


(お父さん、お母さん、何やってんだろ…?)


 フィネリーは物音を立てないようにそっと両親の部屋の扉を開く。そして、壁からチラリと顔をのぞかせる形で部屋の中を見た。









 赤、赤、赤。


 蝋燭の弱々しい明かりは、逆にその禍々しい色を強調する。


 目に入ったのは、真っ赤に染まった壁、床、両親のベッド。


 そして、両親がいるはずの場所にいた1人の人間。

 そこから、フィネリーの探していた音がする。

 グチャ、ゴリ、バキャ。

 人間が真下に向かって何かを振り下ろす。すると、そこから音が鳴る。

 それが全てだった。








 おそらく男、だった。確定できなかったのは暗かったのもあるが、フィネリーの頭がこの状況についていけず、完全に停止してしまっていたというのが大きかった。


 男はフィネリーが部屋に入ってきたことには気づいていないようだった。

 両手にメイスを1つずつ持ち、交互に振り下ろしている。

 振り下ろされた先にあったのは、2つの肉塊。

 遠くだったのと、もはやぐちゃぐちゃになっていたのでおそらくではあるが、本来そこにいるべき両親だったものだろう。

 見える限りでも既に原型を保っておらず、死んでいるのは明白だった。


 それでも男はメイスを振り下ろすのをやめない。

 一振りするごとにグチャッ、グチャッと湿った音が鳴り響き、血肉を周囲に飛び散らせる。

 窓の開いていない部屋に、強烈な血の臭いが充満している。

 男は汗だくになり、全身をフィネリーの両親の血で汚し、息を荒げている。

 疲れてきていることは明らかだったが、振り下ろす手を緩める様子はない。

 飽きることなく、何度も何度も、メイスを肉に叩きつける。


 結局男は、空が白く染まり始めるまでその作業を続けた。

 男は空を確認すると急に立ち上がり、ベッドからそっと降りる。同時にメイスを振り払い、血糊を飛ばす。

 まだ綺麗な部分が残っていた壁にも、べっとりと血がこびりつく。

 男はメイスを肩のホルダーにかけ、最後に目の前の肉塊を見つめるとにっこりと笑い、窓を開けて部屋を出て行った。

 出て行くとき、男の首に大きな火傷の跡が見え、それが鳥の翼に見えたことだけがフィネリーの記憶に刻まれている。




 フィネリーは自分の両親がミンチにされるところの一部始終を見ていた。

 もはやフィネリーの頭の中は真っ白で、何も考えられなかった。

 男が出て行った後、フィネリーはフラフラと両親のベッドに近づいて行く。

 足元に広がる血の海で足が赤く染まる。ピチャリと音を立ててベッドの横に辿り着いた。






 ぐちゃぐちゃだった。



 肉の赤と白い脂肪とがごちゃ混ぜになり、それでいて桃色にはなっていなかった。



 内臓だろうか、別の色も見えた。



 しかし、その全てが混ざりあって、最終的に赤を作り出していた。






 それが一気に目に入った瞬間、フィネリーは自分が崩れていくように感じた。

 今までの短い人生で、フィネリーの世界を構成していたもの。

 両親と、自分。

 その片方が目の前のミンチになった。


 そして、崩れたものは、間違った組み合わせで再構成される。

 フィネリーの元には、自分しか残っていない。その1つだけでは、足りない、形作れない。

 継ぎ接ぎだらけで急造の、元の形とは似ても似つかない。

 それでも再構成する必要があった。フィネリーが壊れないためにも。


 そんなとき、フィネリーの目に入ったものは。


 目の前の、自分の両親だったものは。











「………きれい、だなぁ…」












 その日から、フィネリーを構成する世界は。


 “両親と自分”から


 “ミンチと自分”


 に、なった。






 フィネリーの人生の目的の2つ目は、両親を殺した犯人を見つけ出すこと。

 ただ、フィネリーは別に両親が殺されたことを今更恨んではいなかった。

 むしろ、ミンチと自分を出会わせてくれたことを感謝しているほどだ。

 感謝しているからこそ、純粋に、両親を殺した犯人には聞いてみたいことがあったのだ。




「わたしのお父さんとお母さんをミンチにしてみて、どう思った?」




 フィネリーがミンチ好きだからこそ、自分の両親をミンチにしてどう思ったのか。


 それを犯人に直接聞くのが、フィネリーの目標だった。


 そしてあわよくばーーーーーーーーーー















 フィネリーがいつも通り魔物を討伐し、その死体をミンチにして店の冷蔵保管室に放り込んだある日のこと。

 その日も午前中に品物が売り切れ、暇になって魔物を狩りに行った。狩った魔物は明日の商品となった。

 夕食に狩ったばかりの魔物でミートパイを作り、食べ終わってお腹が一杯になったところで眠くなり、二階にある自室で眠った。


 そして夜も更けた頃。

 偶然にもあの運命の日と同じ、曇り空の真っ暗な夜だった。


 フィネリーの部屋に突然2人の人間が現れた。1人は男、1人は老婆だった。

 フィネリーの店に侵入者が入るのは初めてではない。3年前にここに越してきたときは、店主であるフィネリーが子供であったこともあり、強盗が入ることも少なくなかった。

 しかし、その全ては失敗に終わっている。


 なぜなら、その頃から既に、フィネリーの実力は今とあまり変わらず、つまり強かったからだ。


 男は2本のメイスを持ってフィネリーに飛びかかる。

 そして、ゴシャ、という音が1回だけ・・・・部屋に響いた。


 音が鳴った後には、倒れ臥す男と、上体だけ起こして大槌を真横に振り抜いた姿勢のフィネリーがいた。

 殺気に気づいたフィネリーが、反射的に横にあった大槌をブンと振ったのだ。

 男に当たったのはトゲのついた面だった。トゲは見事に男の頭を貫通し、絶命させていた。


「んん…?あれ、強盗?久しぶりに見たなぁ…最後に見たのは、2年は前かなぁ?」


 フィネリーは大槌を振って、くっついていた男を振り払うと、そのまま槌を前にいる老婆に向けた。


「それで、おばあさんはどうしたのぉ?何もしないならぁ、苦しまずにミンチにしてあげるけど?」


 殺さないという選択肢はないらしい。

 フィネリーは相手が老人だからといって、それがミンチにしない理由には繋がらない。

 しかしそのフィネリーを前にしても、老婆はただニヤニヤと笑っている。

 まるで、フィネリーに殺されないという自信があるかのようだ。


「ヒヒヒ、儂を殺してしまってもいいのかえ?せっかく良い情報を持ってきたというのに。」

「?なら、さっさと話して?」

「勿論じゃて。じゃが、この話を聞いた後でも、儂に同じ態度がとれるかな?」


 フィネリーが槌を下ろしたのを確認すると、老婆は懐から水晶玉を取り出した。

 そしてそれを掲げると、水晶玉は輝きだし、部屋の壁に何かを映した。

 その光景にフィネリーは少し驚き、おお、と感嘆の声を上げた。

 水晶玉が映しているのは、どこかの薄暗い部屋の中だった。


「最初は10年も前のことじゃった。当時から王宮で占星術師として勤めていた儂は、いつものように、年初めの占いとして王国の未来を占っておった。」


 映像には今より皺が少ない老婆が水晶玉を使って、何やらやっている様子が映し出されている。

 そのとき、映像の中の老婆が飛び跳ねて驚いた。


「もの凄く驚いたわい。なんせ、10年後、あの伝説の魔王が復活する、なんて占い結果が出てしまったからのう。儂は大急ぎでどうすれば止められるのかを占ったが、どうやっても止めることはできないときた。」


 映像では老婆は顔を青ざめさせ、ガタガタと震えている。

 そして部屋を飛び出すと、大きな扉の前に行き、その中にいたゴテゴテした服装の男に何か伝えていた。


「儂は王にこのことを伝えた。王も大層驚きになってな。直ぐに対策を練るように各所に伝えた。王は伝説に倣い、勇者を召喚することにしたのじゃ。」


 老婆が再び何かを占っている様子が映し出される。


「儂は魔王復活を止めることから、復活した魔王を討伐することに占いの方針を変えた。」


 初めは淡々と語っていた老婆の説明には段々と力が入り始め、今では息を荒げるほどになっている。


「王の方針は間違っていなかった。勇者を召喚し、魔王を討伐する。それ自体は占いにもあり、必要なことじゃった。ただ、それだけではあと一歩足りない。」


 老婆はそこで一旦話をやめ、落ち窪んだ不気味な目でフィネリーの方をジロリと見る。


「それが、キミじゃよ。」

「わたし?」

「そう。キミこそが、魔王討伐に足りなかった一手なんじゃよ。初めから勇者と共に戦うかとか、途中から参加するかとかまでは分からんかった。じゃが、魔王討伐にはキミが必要なんじゃ。それは間違いない!」


 老婆は謳うように語る。

 その様子は熱く夢を語る若者のようでもあったし、妄執に取り憑かれた亡者のようでもあった。


「キミをその一手足り得させるために、必要なことは山ほどあった。キミの両親を凄惨な方法で殺したのもそのためじゃ。」


 フィネリーは驚いた。そして同時に喜んだ。

 人生の目標の1つが目の前にいたからだ。望外の幸運に、フィネリーの表情が緩む。


「今日ここに来たのも、占いにそうあったからじゃ。ここに来て、儂が今までやってきたことを全て包み隠さず説明すれば、キミは魔王討伐へと向かうと占いにあったのじゃ。」


 普通ならば、両親を殺した仇とも言うべき存在が目の前にいたのなら、怒り狂うだろう。

 しかし、フィネリーは勿論普通ではない。両親を殺されたことを恨んでいないし、それを成した犯人に感謝すらしている。


「ほら、その表情!占いにあったとおりじゃな!キミは親を殺した仇に怒るどころか、感謝している!」

「わたしの両親を殺した人はぁ、首に火傷の痕があったはずだけど?」

「それならば、そこに転がってるのが実行犯じゃよ。ほら、首を見てみな?」


 フィネリーは頭に穴の開いた男の死体を見る。すると、老婆の言うように首に火傷の痕がある。7年前見たように、鳥の翼のような形をしていた。


「そこの男を魔術で操って、キミの家に仕向けたんじゃよ。そして殺させた。」

「あなたが操っていたのぉ?」

「そうじゃ。そいつの中身は廃人でな。儂の操り人形じゃて。」


 フィネリーはホッとした。もしこの男が操り人形でなく両親を殺したのなら、その時の気持ちを聞くことができなくなってしまうからだ。

 しかしその心配は杞憂だった。目の前の老婆が自分で操っていたと白状したからだ。


「おばあさんがわたしのお父さんとお母さんを殺したんだねぇ?」

「その認識で間違いないよ。」

「そっかぁ。わたしとミンチを出会わせてくれてありがとうねぇ!」


 老婆は少し恐ろしくなった。フィネリーは狂人になってしまった。それは、両親を殺した犯人に向かって感謝の言葉をかけることからして明らかである。

 そんなことは分かっていた。分かってはいたが、こうして目の当たりにすると、老婆は自分の罪を具現化されたような気になって、フィネリーが急に得体の知れないものに見えてしまう。


「お、おう。そうかい。どういたしまして。」

「それでねぇ、わたし昔から、お父さんとお母さんを殺した犯人に聞きたいことがあったんだぁ!」

「な、なんじゃ?」


 占いにあったのは、自分のやってきたことを包み隠さず話すこと。老婆に拒否する選択はなかった。


「えっとねぇ。殺して、メイスを何度も何度も叩きつけて、死体をぐちゃぐちゃのミンチにして、どう思った?」

「……は?」

「だから、お父さん達のミンチを作って、どうだった?って聞いたの!」


 老婆は聞き間違いかと思った。質問の内容が、あまりに狂気じみている。

 皮肉かと思ってフィネリーを見返すが、当のフィネリーに悪気は全くないようで、ニコニコと笑いながら老婆の返答を待っている。

 何かを期待しているかのような視線に耐えきれず、老婆はついに口を開く。


「…別に、なんとも思わんかったよ。」

「ええ、本当に?なんかさぁ、無かったの?血肉が混ざり合って綺麗だったーとか、上手にミンチにできたなーとか、逆に、今回はあんまり細かくできなかったーとかぁ。」

「やるべきだからやった、ただ、それだけのことじゃよ…」

「えー……そっかぁ、やりたくてやったわけじゃないのかぁ。なんか、残念だなぁ…」


 フィネリーはガックシと残念がる。老婆はそれがとても気味悪く見えて、早く帰りたい気持ちで一杯になった。


「んー…そう…。なら、もう聞きたいことはないかなぁ。」


 フィネリーは正直老婆の答えが残念で仕方なかった。

 人生の目標だったものは、箱を開けてみれば中身がつまらないものだった。ただそれだけのことだが、目標だっただけに拍子抜けしてしまったのだ。


「そ、そうか。なら、儂と一緒にーーー「だから、ミンチになって?」ーーーは?」


 老婆は今度こそ聞き間違いかと思った。目的は達成し、あとはフィネリーを連れて王宮に帰るだけ。

 その筈だったのに、今フィネリーが発した言葉は、それをぶち壊した。

 いつのまにか、フィネリーは再び老婆にあの歪な大槌を突きつけている。


「い、今なんと?」

「だから、ミンチになって?って言ったのぉ。」

「な、何故じゃ⁈キミは儂に感謝しておるんじゃろう⁈」

「うん。あの日、お父さんとお母さんをミンチにして、わたしとミンチを出会わせてくれたことはとっても感謝してるよぉ?」

「なら、何故儂を殺す⁈言うなれば、恩人の筈じゃろう!!」

「わたしね、目標があったの。」

「も、目標?」

「うん。」


 フィネリーは大槌を下ろしてそれを基点にし、体をくるくると回しながら言う。


「おばあさんにさっき聞いたことだよぉ。どんな気持ちだったのかなって。お父さん達をミンチにしたときにさぁ。」

「それはもう答えたじゃろう?なら」

「それともう一つ。」


 老婆の言葉を遮ってフィネリーが言う。


「お父さん達をミンチにした人を、更にミンチにしてみたいなぁって!」


 老婆は今度こそ固まった。初めの余裕は今はもう無い。

 分かっていたつもりで、老婆はまるで分かっていなかったのだ。フィネリーがどれだけ狂気に塗れているかを。

 老人であることも、恩人であることも関係ない。人をミンチにすることに何か罪悪感を感じるということもない。

 いや、恩人であったことは関係しているかもしれない。

 7年前のあの日から、フィネリーはずっと思ってきたのだ。

 ミンチの美しさを教えてくれた人をミンチにしたら、どれだけ美しいか。

 きっとミンチを教えてくれた人も喜んでくれるに違いない。


「だからぁ。これは、恩返しなんだよぉ?この楽しみを教えてくれたおばあさんに対する、精一杯の恩返し!」

「ま、待て。儂はそんなことちっとも望んでいない!!」

「またまた、照れちゃってぇ!それじゃ、暴れないでね?」

「待っーーーー!!!」


 老婆は占いをもう少し吟味すべきだっただろう。そうすれば、分かった筈だ。

 フィネリーを魔王討伐のための駒としたとき、その未来に自分の姿が無かったことが。

 少なくとも10年前、老婆がこうすると決めたときに、老婆がミンチになる運命は決まってしまったということだ。





「それじゃ、ばいば〜い。」


















 翌日。


 フィネリーが店を開けていると、常連客の1人が入ってきた。


「いらっしゃあい!ジョンさん、今日は何になさるのぉ?」

「こんちは、フィネリーちゃん!今日も元気で良いことだ。まったく、家に引きこもってる息子も見習って欲しいくらいだ。」

「学者さんなんでしょ?別に普通なんじゃないのぉ?」

「そうなんだが、陰気ったらありゃしねえよ。あ、今日はブラッドチキンのミンチ200gと、バーサクディアのを100だな。鳥はつくね、鹿はミートボールにしようと思ってよ。」

「はぁい、毎度ありぃ!」


 フィネリーが肉を包んでいると、ジョンがそういえば、と話しかけてきた。


「フィネリー知ってるか?」

「何を?」

「王宮が発表したんだが、魔王が復活するらしいんだ。なんか、現実感ねえよなぁ。」

「そうだねえ、魔王なんて、物語にしか出てこないしねぇ。」

「本当のことらしいんだよ、これが。それで、王宮は伝説に倣って、勇者を召喚するらしい!今から1週間後だってさ、楽しみだよな!」

「勇者、なんかカッコ良さそうだねぇ。」

「ロマンって言うのか?まぁなんにせよ、これで国も安泰だな!あ、あとこれは噂だが、宮廷占星術師長が行方不明になったらしい。」

「物騒だねぇ。はい、これ品物ね。代金はこのくらいかな。」

「お、ありがとう。フィネリーちゃんも、大丈夫だとは思うが、気をつけてな。んじゃ、また来るな!」

「ありがとうございましたぁ。」


 フィネリーはジョンの背を見送って、そのままカウンターにぐでん、と潰れる。


「あ〜、これから、どうしよっかなぁ…」


 昨日、両親をミンチにした犯人をミンチにし、無事人生の目標の1つを達成したフィネリー。

 宮廷占星術師長のミンチはとても綺麗で、フィネリーをして会心の出来と呼べるほどのものだった。

 しばらくその余韻に浸ってうっとりとしていたフィネリーだったが、ふと我に帰ると、自分が人生の目標を1つを失ったことに気づいた。

 もっと先のことだろうと思っていたので、次なる目標なんて考えてもいなかった。


「はぁぁぁぁぁぁぁ…」


 フィネリーは大きくため息をつく。気力が丸ごと削がれてしまった状態だった。

 これから自分は何を目標にしていけばいいのか。


 そのとき、ちりんちりんと音がして、店の扉が開く。

 入ってきたのは、昨日王宮に呼ばれたと言っていたネメアだった。


「いらっしゃぁい。ネメアさん、生きてたんだねぇ。」

「いきなり物騒だな…だから、何もやらかしてないって言ったじゃないか。って、そんなことより!」

「何、注文?今日のオススメは、ビルダーブルのミンチだよぉ。」

「違う!勇者召喚の話は聞いたか?」

「ああ、さっきのお客さんから聞いたよ。」

「なんと、あたし勇者と一緒に魔王討伐をするパーティーに選ばれたんだよ!」

「そのことだったんだねえ、呼ばれたの。」

「そうそう!凄くないか⁈」

「自慢しにきたの?」

「分からなかったのか?」


 フィネリーは無言でミンチを押し付けて店から追い出した。あまりに不毛だったからだ。

 それでもお祝いとしてミンチ肉を渡すあたり、フィネリーもネメアの勇者パーティー入りを喜んでいるのには違いない。


「勇者に魔王、かぁ…」


 フィネリーは、そういえば昨日ミンチにしたおばあさんもそんなことを言っていた気がする、と思い出していた。ミンチ以外のことに興味がなさすぎて、話の途中から内容をロクに覚えていない。

 あのときフィネリーの頭の中にあったのは、目の前の老婆おんじんをどうミンチにするかということだけだった。


「魔王……ミンチにしたら、どんな風になるんだろう…」


 自分でも何気なく呟いた一言だったが、フィネリーはその言葉が、体に衝撃を走らせたかのようだった。


「魔王のミンチ…見たい!絶対見たい!!あわよくば自分で作りたい!!!」


 魔王なんてその辺の魔物より何百倍も貴重である。この機を逃したらもう一生出会えないことは間違いないだろう。


 燃え尽きている場合ではない。今すぐ準備して、魔王をミンチにしに行かなくては!


 フィネリーは思い立ったが吉日と言わんばかりに、その日の営業が終わり次第準備をして、勇者召喚を待たずに魔王をミンチにするために旅に出た。


「魔王、今行くからねぇ。だから、わたしにミンチにされるまで殺されないで、お願い!あなたをわたしのミンチ図鑑にどうしても加えたいのぉ!!!」










 それからしばらくして勇者パーティーが旅に出た。

 そして、行く先々でミンチが大好きな少女に出会い、最終的に協力して魔王討伐することになったのは、言うまでもない。


 本人は既にミンチだが、あの宮廷占星術師長の老婆が望んだとおりになっていて、フィネリーは図らずも本当の恩返しをしたことになったのだった。

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