表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
尾鷲天羽と抗う者たち  作者: 山門芳彦
何者
13/13

緋色の一撃

「ほほう。来るか小僧」


 八相の構えで、イクスは面越しに天羽を睨む


 戦う姿勢を取る前に、天羽はイクスに問うた。


「一つ訊きたい。お前は、なぜイドの下で戦う?」


「何故だと? そんな愚問に小生が答える義理は無い」


「ならお前は、根無し草の根性で戦っているのか?」


「……何だと?」


 天羽は、イクスを挑発してみる。イクスは、構えを解いた。


「お前は、『武士(もののふ)気取りの根無し草だ』と言ってるんだ。力を持つ誇りも、行使するべき場所も弁えない、ただの愚か者だからこそ、《イド》に付き従っている。違うか」


 イクスは、面の奥で不敵な笑みを浮かべると、言葉を返した。


「小僧。やはりお前は何も知らない。もしも小僧が、小生を《イド》の隷属と捉えているのならば、それは誤りだ。小生が望んでいるのは、《イド》の側に居続けることで、いずれはAID社の頂点に立ち、語り部の知恵を得ることなのだからな」


「語り部の知恵……?」


「そうだ。語り部には、無尽蔵の知識と知恵が収められている。小生はそれを得るのだ。うつけ者には、この考え方は到底思いつくまい」


「どうして《イド》の側にいることで、語り部の知恵を得るんだ?」


 天羽の問いに、イクスは、徐々に音声(おんじょう)を強めながら言った。


「《イド》は《語り部》と同じ性能を持つAIだ。ならば、得られるものは同じといえよう。語り部の知恵は万能だ。世界を牛耳ることなど造作もない!」


「……語り部の知恵を得て、どうする。世界征服でもするのか?」


 大それた言葉に、イクスは笑いを禁じ得ない。


「プッハハハハハハ! それは滑稽だな。では逆に訊こう。もし小生が世界征服を望んでいるとしたら、お前はどうする?」


 イクスとしては、小僧の余興に付き合おうとして、訊き返したに過ぎない。殺そうと思えば、いつでも殺せる。だが、ただ殺すのでは興ざめというものだ。


「だったら、お前を全力で叩き潰す」


 天羽は、両手でブラスターを構えた。さっきは撃ち損ねたが、今度こそ射貫いて見せる。


「いいだろう」戯言に付き合ってやる。言葉を続けた。


「そうだ。小生の望みは、語り部の知恵によって世界をこの手に掴むことに他ならない」



 戯言には戯言で返しやる。それでこそ、小僧は口車に乗って逆上してくる。


「その野望のために、沙耶先輩を裏切ったのか!」


「裏切ったのは沙耶だ。余計なことをしないで、あいつがさっさと死んでいれば、こんな面倒事も起こさなかっただろうに」


「なにぃ……!」


 天羽の身体は、さっきよりも熱くなってきた。胸が沸々と燃えて、何かが溢れ出てしまいそうだ……!


「あいつは欠陥品なんだよ。哀れ哀れ」


「欠陥品だと。先輩が、欠陥品だと……! お前の妹だぞ! それが妹に言うことか! 彼女は、僕を助けた正義の味方だぞ! お前に、彼女の何がわかるんだ! 彼女の悲しみが分からないのか!」 


「お前こそ生身の人間なのに、どうして沙耶の悲しみが分かる?」


「確かに、完全に理解することは出来ないかも知れない。けれど、理解する努力はできる」


「その言葉こそ戯けている。同じく改造された小生の考えを、貴様は解せていないではないか」


「分かるものか! お前のエゴイズムを理解するつもりはない! 自分本位の物言いで先輩を侮辱したこと、僕は許さない! 必ずお前を叩き潰す!」


マグマの如き怒りが、頂点に達したとき――――。


身体の奥で、何かが爆ぜた。内側から、炎が噴き上がる。熱が全身に広がり、真っ赤なオーラがとめどなく湧き出た。


身体の外に出た炎のオーラは、天羽の身体を包むように厳かに巻き上がり、鉄塊を焼いていた炎をも取り込んで、天羽の倍はあろうかという高さまで燃え上がる。


「何だ。この炎は?」イクスは、その炎を怪しんだ。


「覚悟しろ!」


 天羽が、ブラスターのトリガーを引いた。


 ブラスターの銃口から、真っ赤な光が放射状に広がったと思うと、それはイクスに向かって右回転に巨大な旋条を描いてから、一直線に伸びた。


 その尋常ならざる光条を、イクスは、咄嗟に身を伏して躱した。


熱光線は一瞬にして、イクスの背後にあった壁付モニターを貫いて大穴を作った。穴の周りが、熱を帯びて赤熱化し、蒸気が立ち昇り、穴の外から吹いてくる風に揺れている。


イクスは恐怖した。


「なんて威力のブラスターだ……!」


 天羽のブラスターの銃口が、伏せたイクスへと下方修正された。トリガーが再び引かれた。ところが、二発目は放たれなかった。ブラスターの銃口が溶けている。本来以上の威力が出たことで溶けたに違いない。 


 ブラスターの不発によって生まれた隙を、イクスは逃さない。刀を握り直して立ち上がり、天羽へと全速で詰め寄った。


 刀を振りかぶり、炎のオーラごと小僧を斬らんと振り下ろす。


 ガキィン!


 その一振りは、天羽の左腕によって防がれた。制服の袖は切れても、刃は小僧の腕に切り込めない。力を強めていくが、石像のように動じない。


「オーラが、小生の一撃を防いだというのか……!」


 それはすぐに誤りだと分かった。


小僧の手は何を握っている? ブラスターではない。これは、トンファー。


「腹ががら空きだぞ。イクス」


 そう呟く天羽の右手には、長い柄を袖から露わにしたトンファーが握られていた。


「しまった……!」


 咄嗟の回避が出来ないイクスに、天羽は渾身で叫んだ。


「緋色の一撃(スカーレットストライク)!」


 正拳突きの要領で繰り出された天羽の一撃は、炎のオーラを右腕のトンファーに集約させて放たれた。そして、一撃がイクスの胴を突き抜けた。


 油断していた。まさか生身の小僧の、オーラを纏った馬鹿力にやられるとは。


「馬、鹿……な……!」


 慢心が引き起こした敗北だというのか。だとしたら、これは屈辱だ。


「これが僕の怒りだ」


 小僧のそんな言葉を耳にした。身体を貫いたトンファーが引き抜かれると、イクスはその場で膝をついてうずくまった。


 諸手から無造作に刀が(こぼ)れて、地面に落ちた。


 流れ出る液体を抑えるように、両手を腹にあてた。

 

 天羽の鼻腔は、酸化鉄のような臭いを吸い込んだ。


(血の臭い……何故?)


 天羽が青ざめると同時に、彼のオーラが消え、再びの闇が警備室を覆った。


「どうして、お前の身体から血が流れるんだ……?」


 イクスは、喘ぎながらも不敵に笑んだ。


「クッフフフ……。当たり前のことを……。小生は……改造、されている……とは言え、臓器はまだ、人間……だからな……。お前は……はあっ……! 人殺しを、したんだ……」


「人殺し? ……僕が?」


 人殺し。

 

 正義の味方とは相反する言葉。

 おかしい。

 天羽は正義の味方になろうとしていただけなのに。

 悪に正義の怒りをぶつけたと思ったら、その結果は人殺し。



(嘘だ。こいつは改造人間で、血の代わりに別の液体を通わせる奴なんだ。別に殺したって罪になる訳じゃない。僕は人殺しじゃない。でも、そうだとしたら、沙耶はどうなる? 彼女だって生身の人間じゃない。血だって流れていない。そんな人外の為に人殺しをするのは、道理に反しているのではないか。僕は一体、本当は何をしたんだ。僕は人殺しなのか?)


「天羽君‼ 避けるんだ!」


 ――えっ。


「させない!」


 天羽の背後から、ブラスターの一撃が飛び、イクスの右手を撃ち抜いた。

刀が再び地面に落ちた。イクスが、下から天羽の腹を刺そうとしていたのだ。


「ぐっ……!」

 

イクスが喘いで右手を握った。

流れ出る液体は、やはり血の臭いがした。イクスは、そのまま地面に伏した。


「天羽君!」


 それは、玲の声だった。


 天羽が、声のした方へ振り向くと、警備室の入口付近で、玲が沙耶たちと一緒にいた。


「先輩! みんな大丈夫ですか!」天羽は彼らの元へと走った。


「死んじゃいないわ。体液が抜けた分、力が入らないけどね」


「ケントは?」という天羽の問には、玲が答えた。


「大丈夫。ケントは純正アンドロイドだから、CPUとメモリが無事なら問題ないのさ」

 

 玲は、両腕が斬られ、喉を刺されても、何事もないように立つケントの姿は、特殊メイクをした役者の様で、いささかシュールだった。


 ホッと安堵したその時。

 

 イクスの後ろの壁が、外から打ち破られた。


「イクス!」

 

 そう叫んだのは、ゼータだった。後ろに何者か一人が付いている。

 

 ゼータは腕を伸ばすと、イクスの身体を掴んでから、やっとの思いで手元に引き寄せた。


「……ゼータ。どうして来た……?」


 呻きながら、イクスは訊いた。

 

 ゼータの動きは、どことなく鈍く、明らかに万全とはいえない。


 すると。



「私が呼んだのだ」

 


と、何者かが言った。威厳ある中年男性の声だ。

 

 その声に、沙耶と玲は即座に反応した。


「なぜ、お前がここに?」沙耶はそう漏らした。


  奴は、黒部(くろべ)範行(のりゆき)

 白髪混じりの髪は整えられ、両手を後ろで軽く組み、サングラスが、瞳を隠す。


 黒部は、目を光らせて辺りを見回した。

小娘と小僧が、殺気を込めた眼でこちらを見てくる。

そして、イクスの胴を見た。


「この鎧は、最新のものではなかったかね」


 イクスの胴から垂れて落ちた血痕を追うと、制服姿の小僧の前まで続いていた。

 彼の右腕には、血の付いたトンファーが握られている。


 黒部は小娘の側にいる玲を睨んだ。


「丹波玲。どうして君がそちら側にいる? 説明してもらおうか」


 玲は何も答えない。一同の視線が玲へと集まる。


「確か君は、最新の装備をイクスに渡したと。そう言わなかったかね」


「……」


 玲は、天羽たちの顔を見た。

 天羽は、「どういうことだ」と言いたげな顔をしてる。


「社長。確かに僕は、彼に最新の鎧を渡したよ」

 

「しかし、このやられ方は人数差でやられたものというより圧倒的な一撃を受けたものだろう」


 黒部の眼光が、天羽へと向いた。


「お前は、何者だ?」黒部が問うた。


「それはこっちの台詞だ」


 天羽のその返しに、黒部は眉を上げて失笑した。訝しげに黒部を見つめる天羽。


「何が可笑しい」


「いやぁ、名乗りを忘れていたな。私は黒部範行。AID社の社長だ」


 黒部は、見せつけるように左耳に付けた端末に触れた。黒部は続けて問うた。


「君は新型のサイボーグかい?」


「違う。僕は人間だ」


「人間? 君もイプシロンに毒されたかのかい」


「またそれだ……」


 天羽は、本当に普通の人間だ。


「玲。彼も君の開発なのか?」


 玲が答える。


「彼は違う。普通の人間だよ」


「冗談はよせ。真人間が鎧を付けた者に勝てるものか。死の商人が」


「言うだけ言ってなよ。僕は自分の信条でAID社に手を貸したまでだ」


「そうかい。なら、我が社の為に言え。その小僧のからくりを。玲。君は商人として、フェアトレードをするべきだ」


「悪いけど、願い下げだね。……それに僕は商人じゃない。開発者だ」


 黒部は笑った。


「社長」ゼータが口を挟む。


「何だ」


「以前私が見たとき、彼は真人間でした」


「本当か。だとしたら……玲!」


 黒部が怒鳴り、玲の肩がビクついた。


「玲!」


 黒部の一喝を掻き消すように叫んだのは沙耶。

 諭すように続く。


「戻ってこい」


 玲は俯いて肩を震わせた。それを見た黒部が激しく怒鳴る。


「玲……! 貴様、敵を贔屓にしているな!」


 玲は唇を強く噛んだ。


「誰のおかげで、今日まで開発が出来たと思っている? 我々の資金がなければ、君の大切な人も救えなかったろう。……その恩を仇で返すのか!」


 黒部の叫びを遮って、沙耶は天羽に言った。


「天羽! 黒部を討って!」


「了解!」


 天羽の身体から、再び炎のオーラが燃え上がり、黒部に向かって一直線に走った。


 それを遮るように、ゼータが立ちはだかる。


「邪魔だぁ! 緋色の一撃(スカーレットストライク)……ぐあっ!」


 天羽の一撃はゼータに届かなかった。


 足下にいたイクスが、左手で刀を持って、天羽の右脚を刺したのだ。


 天羽は、その場で倒れ込んだ。

イクスが刀を抜くと、スーツの応急処置機能が作動して、空いた傷口を即座に塞いだ。


 地面にうずくまって痛みに喘ぐ天羽を見て、イクスは笑った。


「君たちは、イドによって正しい道へと導かれる。我々が出す世間の言葉を信じていればいいのだ。近いうちに、凄いことを君たちに見せることになるだろう。その時を楽しみにしたまえ」


 黒部がそう言い残すと、万全でないゼータは、巨漢に変身し、イクスと黒部を抱えて颯爽と去っていった。


「凄い……こと……?」


 何のことか、さっぱり分からない。


 天羽の足の痛みは、スーツによって程なくして治まった。


「天羽君!」


 玲が天羽の元へ駆け寄ってきた。天羽は、難無く立ち上がってみせた。


「大丈夫。玲のパワードスーツのお陰だ」


「玲。一緒に帰ろう」


 沙耶は、斬られた左腕を右手で持っている。

 

 午前三時五分。


 作戦は、リィナ一体の犠牲と多数の負傷を得ながらも当初の目的を達成した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ