玲の興味は
丹波玲は、興味本位で事務所へと向かうとき、頭の中で考え事をしていた。
どちらが勝つのか。
純粋な戦力でいえば、AID社が保有する戦力は、リィベルズとは比べ物にならない。
AID社が表立って武力攻勢に転じた瞬間に決着がつく。
純粋に、反抗組織の数が戦力と等号で結べたのならば、互いの戦力は拮抗している。
だが、リィベルズを除く反抗組織は、AIDの不買運動を起こす程度のもので、戦力のうちには入らない。
ましてやそんな連中に、玲の興味が傾くことはない。
玲が欲しいのは、開発が求められる場所。
AID社は恰好の相手といえた。
逆に言えば、他に良い相手が無かった。
妹の義足から始まった玲の開発は、二年前に誕生したばかりのベンチャー企業、AID社に受け入れられた。
AID社からの要望に合わせながら、アンドロイドの警備員、ブラスター、二足歩行型重機などを開発した。
どれも、世間では試験的開発や実験段階で足踏みをしていたものばかりであった。
そして、その開発を手助けしたのが、イドというAIだった。
イドは、改良や修正のアドバイスを、ケントを通して伝えてきた。
ケントは、玲がはじめて自分で作ったアンドロイドだった。
「呑気にコーヒーを淹れるだけの父よりも、屈強で頼れる父が欲しかった」そんな気持ちで作ったものだった。
イドは性能面だけでなく、生産性や実用性といった側面からも意見を言ってきた。
確かに、そのアドバイスが功を奏し、AID社は玲の開発によって、私設武装組織としての力を強めていった。
この勢いならば、AID社は、そう遠くない未来に、世界的企業として国内で強大な力を確立するに違いない。
だが、それを面白いとは思わなかった。
AID社が影で力を強めていっても、玲の功績を知る者は、余りにも少ない。
AID社は玲の存在を隠している。
退屈だった。
張り合いがない。
ライバルもいない。
イドの助言のせいで、自分の開発が、本当に自分のものなのかと疑う時さえあった。
そんな時、妃沙耶に出会った。
彼女が玲を訪ねて来た時、彼女がAID社と戦うという話を聞いた。
改造人間妃沙耶と、大企業との武力闘争。
この戦いが、玲の興味を惹いた。
沙耶の主義主張だとか、AIDが及ぼす影響への興味はなかった。
ただ、沙耶という存在に、興味を持った。
彼女の改造に、玲は関わっていない。
AID社が独自に作ったそれが、どれだけの力を持っているのか。
「できるなら、彼女と自分の開発品を競わせたい」いつしか、そう思うようになった。
競う場を作るには、互いの戦力が均衡でなければならない。玲は、自分の開発によって勢力をコントロールすることにした。
あるときはAID社に手を入れ、あるときはリィベルズに開発品を渡した。
AID社向けの開発の時は、ケントがイドの助言に従ったが、リィベルズ向けの開発のときは、イドからの言葉を断っていた。
イドと共にとは言え、自分の開発品に対して、沙耶がどのように戦うのか。妄想を膨らませながら、開発に勤しんだ。この生活が二年前続いた。
そうして最近作ったのが、ゼータだ。
だがどうしても、AID社の機械の開発には、イドが口を挟む。完成の瞬間を、玲は見届けられなかった。パワードスーツとイクスの新装備を設計している間に、AID社の連中が仕上げていたのだ。
ゼータは、沙耶を苦しめることに成功したらしい。だが、このままでは勢力が崩れる。
イクスとパワードスーツを着た人間。
どうしてXの新装備が戦国時代の甲冑のデザインで依頼されたのかは知らないが、何としてもパワードスーツは、甲冑を上回る能力でなければならない。
そうでなければ困る。
だからこそ、パワードスーツには、これまでにない機能を備えた。あとは、使う人次第だ。
玲は、半ば興奮状態で事務所に入り、警備室の様子を窺った。
さあ、どちらが勝つのか。




