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五人囃子

作者: 富山晴京

 自転車で走っていると、遠くのほうから、五人囃子が聞こえた。

 しかしそこは、人家の一つとしてないところであった。あたりに見えるものといえば、田んぼや神社くらいのものだった。五人囃子など、聞こえるはずがなかった。

 ところが音だけはどうも聞こえる。

 おどろおどろしい音というわけでもないから、別段恐ろしかったりすることはなかった。ただ、奇妙だという気がした。

 そのまま構わず走っていった。

 ところが、音がいつまでたっても鳴りやまない。それどころか、どんどん明瞭に、はっきりと聞こえるようになってきている。音が近づいてきているのだというような気がした。

 しかしそれもおかしいことではないかもしれないと思った。

 というのも、先ほどから人家の立ち並ぶところに入ってきたところだったのである。大方、どこかしらの家で五人囃子でも演奏しているのだろう。それがこちらまで聞こえてきたというだけの話なのだ。

 自転車をこいでいると、音は徐々に近づいてくる。

 近づいてきてはいるのだが、何か違和感を感じる。

 しばらくずっと考えて、やがて音が後ろから聞こえるからおかしいと感じるのだと思い当たった。

 僕は今、音源に近づいて行っているのだから、前のほうから聞こえてこなければおかしい。後ろから音が近づいているのだとすれば、それは音に追いかけられているということなのである。

 後ろから得体のしれないものが追いかけているという事実に僕は恐怖した。また、もしその音に追いつかれたらどうなるのかと思うと、まるで暗闇の中で一人怯えているかのような気持ちになった。

 僕は自転車をこぐ速度を速めた。

 しかしそれでも、音はどんどんと近づいてくる。と、ふいに音がやんだ。

 逃げ切ったか、とその時は思った。

 そう思って後ろを振り向いた。やはり、何もない。

 どうやら逃げ切ったらしいと思って、前を向いた。

 すると、前方の少し遠く、赤い灯が見えた。

 なんだあれは、と思う間に例の五人囃子が聞こえた。

 自転車をひるがえして逃げようかと思ったが、そうしていたら追いつかれてしまうような距離に、もう灯はあった。それじゃあ、どうするか、自転車を捨てて逃げ出そうかと思った。しかしそのころにはもう、灯は目の前にあった。

 灯は僕の体をすり抜けていった。

 そうして後ろへと、また動き続けていったのだった。


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