86 大きくなりました
86話目です。前回投稿した後、一瞬すごくやる気が出たんです。で、同じく一瞬でやる気が無くなったんです。そして気が付いたら2週間経っていたと・・・。いやでも、前回やらかした投稿間隔より今回は前話との投稿感覚が短いk(殴
真っ黒な人型のそれは2メートル以上はあるひょろりとした細身で脚も長いが腕も異様に長い。顔に目鼻などのパーツは見られずのっぺらぼうのようである。開かれた口は大きく裂けていてギザギザと鋭そうだ。
そして、その大きく開かれた口で咥えているのはさっき飛んできたロケット弾だろうか?
おっと、そのロケット弾を、今度は呑み込み・・・呑み込み始めた!?スルスルとロケット弾をどんどん呑み込んでいき、ついにその全部を腹の中に収めやがった
数秒後、ドォウンという低音が響き、謎の真っ黒人間の腹部が一瞬だけ大きく膨張した。ガフゥと開けた
大口から硝煙が漏れ出る。体内での爆破に余裕で耐えうるとは・・・なかなかやるな
コイツ、飛んできたミカヅキを守るような立ち位置といい、ロケット弾を周囲に影響がないように処理するあたり、敵ではなく俺たちの味方と考えるべきか
いやまあ、味方と考えるべきかというか、身内と考えるべきかというか。この正体不明の真っ黒人間から漂う気配が随分と馴染みのあるものなんだよなあ・・・
「なあ、カゲロウ。一応確認しておくぞ。あの真っ黒の人型はお前が【影】で作り出したやつだよな?」
「ああ、あれは【影】だ。だがまあ、ワタシが作り出した・・・というか、宿主が【ニンギョウゲキ】でつくった【小人】をパワーアップさせただけなんだけどな」
「小人さああああああああん!!!!!!」
薄々そうなんじゃないかなとは思っていたけど小人さんだったかあああ・・・・。ああ、あんなにこじんまりとして可愛かった小人さんが、あんなにヒョロ長の異質な姿になってしまって・・・!!
「・・・しかしまあ、それで小人さんはどれくらいパワーアップしてるんだ?」
小人さんがもはや"小人"と言えるサイズではなくなってしまっているが、まあ今のところこのままでいいか。子犬に"チビ"という名前をつけたら、成長して大型犬になったけど名前は"チビ"のまま、みたいなやつだ
小人さんの呼び方とかこの際どうでもいいのだが、なにが気になると言えばやはり小人さんがどれだけパワーアップしたのかということだろう。やっぱり気になるよね、味方のパワーアップって
「そうだな、前にワタシが宿主の体を借りて暴れた時の半分かそれ以上程度の力が備わっているといったところか」
おお、それはなかなかじゃないですか?
「ワタシのように超広範囲攻撃とか飛行などはできないが、先のようにミサイル程度なら余裕で耐えれるし攻撃力もある。さらに【影】だから疲れない」
敵にいたら物凄く厄介でめんどくさいタイプの奴だな。いくら動いても疲れないというのは大きなアドバンテージたりえるからな
「口頭でどうたらと説明するよりは実際に見てもらった方がいいか」
「どうするんだ?」
「そうだな・・・とりあえず弾丸の発射元を叩くか。よし、行け」
カゲロウが軽い口調で小人さんに指示をだした。いや、"よし、行け"って適当すぎないか?確かに小人さんは半自立型だからある程度指示を与えれば自分で行動してくれるんだけど、もうちょっと何か無いのか?
しかし小人さん、戸惑うどころか大きな口を釣り上げてニヤリと笑った。不気味すぎる。ああ、あの小くてかわいらしかった小人さんはどこへ行ってしまったのか・・・
小人さんは・・・うん、やっぱり【小人】さんって名称変えるか。あれは小人さんじゃない。なんて呼ぼうかな・・・。小人さんが大きくなったから【大人】さん・・・?いや、なんか安直すぎてダサい気がする。どうしよう・・・。あ、【影人】さんとかどうだろうか。うん、やっぱり
安直だな。しかも文字数増えてるし。もうこれでいいや。
影人さんは腕をダラリと下げ体勢を低くし、駆けだした。一瞬で部屋の壁にまでたどり着いた影人さんは壁に向かって跳躍。今度は壁の側面を走り出した。そして影人さんは壁の上の方に設置されていた、先程俺たちに向かって発射されたロケット弾の発射装置に辿り着き、おおきく振りかぶった腕で一発、その装置をぶん殴った
次弾でも装填されていたのか、破壊された発射装置は大爆発を起こす。爆炎から飛び出してきた影人さんに損傷は見られない。再び壁を走り出して、次の装置を破壊しに行く
「いや、なかなか凄いな。壁走りとか壁に足付けて立つとかどどうやってんのあれ?」
「恐らく、足の裏に【影】のスパイクでも作り出して壁に打ち込んでいるのだろうな」
「なるほどね。あれ、俺もできるかな?」
「できるはずだぞ。まあ今のままの生身の状態だと、走るのはできても立ち止まるとそれ相応の負荷がかかるから、まあキツイだろうな」
ということは、【身体能力強化】とか【鎧影】みたいなので体を補強すれば俺も壁走りとか壁垂直立ちとかできるってことだよな。今度やってみるか
俺が壁走りどうのこうのと思案しているうちに、影人さんは次々と設置されていた銃器やミサイルなどの発射装置を見つけては壊していた
壁を駆け回り、銃器を破壊。爆発に巻き込まれても損傷を受けることなく進んでいく。マシンガン等による射撃はその速度を以て回避し、逆にその射撃元の接近。破壊。銃弾が当たっても、痛覚を感じることや負傷による保持能力の低下などは無い。それなのに銃弾を避けるのは恐らく態々当たることもないし、効かないのではあるがハチの巣にされた場合保っていた速度が落ち、装置の全破壊までの時間が長引くからだろう。不死身の突撃兵とは恐ろしいものだ。本当に敵にこういうのがいなくてよかったと思う
しかしまあ、影人さんが大活躍なおかげで、一応ラスボス戦だというのに俺たちがほとんど全く戦闘をしていないという状況に陥ってしまっている。いや、一応言っておくと、ホントにただボーっと突っ立っているわけではないんだ
射撃は影人さんだけでなく、もちろん俺たちも標的にされている。それを避けたり【影】で壁を作ったりして防いでいたのだ。それで、俺も反撃しようかなという態勢に出た瞬間に影人さんが先に破壊しちゃうという。たとえ遠くであろうが自身の【影】を伸ばして俺たちに射撃してきた装置を真っ先に壊しに行くんだよね。どうも俺たちを"第一"として考えているようだ
ありがたいよ?ありがたいんだけどね?おかげでやることがホントにやることがなくてね?これでいいのかな、ラスボス戦。とも思ったりするわけなんですけどね?
『ふむ、なかなかやりますね侵入者。』
影人さんが射撃装置をあらかた破壊しつくした時、再び室内に音声が流れた。"やりますね侵入者"とか言われてるけど、やってるのほとんど影人さんなんだけどね?
で、その影人さんは・・・音声なんてまったく気にしないで残っている装置の破壊活動に勤しんでるね。いやもうホント仕事熱心ですね
『では、こんなものはどうでしょう?』
すると、室内に白い靄のようなものが流れ込んできた。あれってガスかな?こういうのって、睡眠ガスとか毒ガスとか普通にやばいヤツなんだろうな。ガスって【鑑定】できるかな?やってみるか
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【対生物用特殊ガス兵器(試験器)】・・・毒ガス
効果・・・・・・神経麻痺。細胞破壊。呼吸器官損傷、etc……
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うわあぁぁぁ・・・。想像していたよりもやばいヤツじゃん。いろいろ効果が混ざってとんでもないことになってるし。しかも【試験器】って、何が起こるかわからなさすぎて不安要素しかないじゃん。いや毒ガスなんだし不安しかなくて当然か
って他人事のように毒ガス鑑定とかしている場合なんかじゃない!!これ、どうしよう。退避か?どこに?ここは室内だぞ?入り口は・・・閉まってるな。開くかなあそこ。開かなきゃヤバイな。さすがにガスは【影】でどうこうできないよな・・・
とりあえず俺たちがこの部屋に入ってきたときに使った扉が開くかどうか試すために駆けだそうとしたとき、上から影人さんが降りてきた。もしかして射撃装置全部破壊し終わったのかな?もう弾丸が撃ち込まれないし壁のあちこちからプスプスと煙が上がっている。本当に全部破壊しきったみたいだ
その影人さん。ガパリと大きく裂けたその口をこれまた大きく開ける。するとその口に向かって白い靄こと毒ガスがどんどんと吸い込まれていく
『毒ガスを吸い込むなど・・・規格外な存在ですね。』
そりゃあ確かに規格外な存在だろうな。まず言ってしまえば影人さんは生物じゃないし。どちらかと言えばこのマザーコンピューターと似たような類ですし
毒ガスは噴射されるそばから影人さんに吸い込まれていく。おかげで室内は毒ガスで満たされることなく済んでいる。ガスが噴射され始めて5分ほどが経った頃だろうか。ついに毒ガスの噴出が止まった。そして影人さんは結局そのすべての毒ガスを吸い込み切った
すごい。影人さんすごい。ただ、その吸い込んだ毒ガス、どこで吐き出すのだろうか。え、やめてよ?毒ガス体内に保持したまま【影】として俺のところに戻らないでよ?
「すごいな影人さん、助かったよ!」
ただまあ助かったのは影人さんのおかげなんだし、俺は影人さんに礼を言った。すると影人さん、こちらへ向き、嬉しそうに手を振ってピョンピョンし始めた。・・・こういうところは小人さんのままなんだなあ。とはいっても、小人さんみたいに小さいサイズではなく、2メートル越えの長身のひょろりとしたのっぺらぼうがピョンピョンしてるのはなんというか・・・うん、不気味だ
「なあ、ミカヅキ」
「なんですか?」
「これクリア条件ってやっぱりボスの撃破かな?」
「そうじゃないですかね?」
「ということは、マザーコンピューターの本体を見つけてそれを壊さなきゃいけないってことか?」
『ええ、そういうことです。』
おっと、マザーコンピューター本人・・・人、でいいのか?本人でいいか。で、本人がなにやら喋りかけてきた
『マザーコンピューターであるワタシを見つけて倒すまでがここでの戦闘となります。死ぬ前に見つけられるといいですね。』
まじか。なんと面倒なボス戦なんだ。戦闘と同時にかくれんぼまでしなきゃならないとは・・・!!ともかくまずはマザーコンピューターの本体を見つけ出さなければ
「ミカヅキ、考えられるとことりあえず全部探してマザーコンピューターを見つけ出すぞ・・・!」
「あ、マスター、ちょっと待っていてください」
「? ああ、わかった」
ミカヅキはそう言うとその場でしゃがみ込み、床に手をついた。そして
「【情報収集】」
情報収集・・・ああなるほど!その手があったか!!
ミカヅキが情報収集でマザーコンピューターの位置を調べている間、俺と影人さんは繰り出される攻撃を凌いでいた。いつの間にか復活していた射撃装置や、送り込まれた機械ケルベロスや、あのウザい熱血人型機械のジョナケル似の人型機械たち。ミカヅキは動けないので、回避はミカヅキに攻撃が当たらない場合のみに行い、それ以外はその場で防ぐ
射撃装置は影人さんが再び壁走りで壊しに行ってくれたし、機械ケルベロスとオートマタたちも俺とカゲロウの【影】による援護もあって押し込まれることなく対処できた。ラッキーだったのはオートマタたちがあのウザい上に地味に強くもあったジョナケルほどの高いスペックでではなかったということだ。ジョナケル、お前ただの量産型じゃなくて特殊個体だったんだな・・・
「・・・・・・完了」
しばらく迫りくる敵を迎撃し続けたところでミカヅキの情報収集が完了した
「お疲れ。で、場所はわかったのか?」
「はい。マスター、あの巨大モニターの真下に行きましょう」
ミカヅキに促されて巨大モニターの真下に行く
「それで?」
「えっとですね、だいたいここら辺を一発壊してください。あ、全力でやってください。マスターならできるハズです!」
なんか応援された。俺は改めて【身体能力強化】をかけ、さらにカゲロウと【影】でのサポートを行ってもらう。作り出したのは俺の身長程の、先端が緩い円錐状となった【影鎚】。それを大きく振りかぶり、床へと思いきり叩きつける
ドガンという轟音とともに、床が砕ける。下は暗く、深く、視認はできない。あ、やべえ!これ自分が立ってるところの床も抜ける!!
「うおっと」
一瞬穴の底へと落下するような浮遊感を感じ、そしてその後は空中に停滞するような浮遊感を感じる。どうやらミカヅキが翼を生やして俺を救助してくれたらしい
「確かに私はマスターならできると思いましたが、思いのほか威力が高かったみたいですね。私も落ちかけたんですが・・・!」
どうやらミカヅキも巻き込んでいたらしい。いや、だって全力でって言われたし・・・。まさかここまで一発でこんなに壊せるとは思わなかったし・・・。まあ、死ななかったんだしいいよね!
「それで、この下に?」
「はい、マザーコンピューターの本体と、アレがあるはずです」
「アレってなんだ?」
「着いてからお楽しみで」
何だろうか?でも事前警告がないから"アレ"は俺たちに危害が及ぶようなものでは無いんだろうな。ミカヅキの言う通り、下に辿り着いてからのお楽しみと行こうか
「それじゃあ、降りるか・・・!!」
はい、ということで小人さんが成長しました。もうこの長かったダンジョン回(僕のせい)も終盤です。次話で終わります(盛大なフラグ)。
次回、ダンジョンの最下層へ




