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73 おや?———のようすが・・・

73話目です。今回はずっと主人公たちの近くにいるのに出番が無くてほとんど書かれないアイツを書きました。書こうとしました

 女神様への定期報告という名の雑談のようなものが終了した翌日、俺たちは泊まっていた宿を発ち魔人族と人間の領土を隔てる大きな山脈へと再び出発した


 宿を出てさらに数日、俺たちはその山の麓の辺りにまで到着した。現在は昼休憩として休んでいるところだ。昼飯はユユさんの手作り弁当。・・・そう、あの弁当まだ残っている。いやもう本当に、持たせてくれたのはとてもありがたいけど、ちょっと量が多すぎやしませんかね?


 【影の食卓部屋ブラックボックス】なんて無駄に食料保存に向いている能力を持っていたからよかったものの、下手をしたら腐る前に道行く人々におすそ分けしていかなきゃいけなかったかもしれないからね。通りかかる人通りかかる人に弁当を配り歩くとか、ただの変人でしかないよ・・・。【無差別弁当配布男】。だめだこれ、近づかないほうがいい人感が増した


 まあそんな変人にはならずにこうしておいしく弁当を食べられているからいいんだけどね


 作り過ぎで思い出したけど、そういえばファスタさんもめちゃくちゃサンドイッチ作っていたような・・・。ファスタさんといい、ユユさんといい、いったいその食材はどうやって確保しているのだろうか。持っていた食材全部使ったのか・・・?少し気になるところだ



 それはいいとして、この山、遠くからでもデカいなと思っていたけれど、こうして麓から見上げるとさらにデカいと感じる。だって頂上が雲を突き抜けていて見えないんだもんな。これを山越えするのか・・・。今更ながらに無理なんじゃないのという感情が浮かんできたんだけど。迂回・・・は無理だな。まず山脈を迂回するとかどれだけの月日がかかるというのだ


「山越え、面倒な気分になってきたな・・・。行くの止めようかな・・・」


「ちょっとマスター!?ここまで来てそんなことを言うんですか!?」


「いやだって、この山を越えるとかちょっと厳しすぎない?」


「今更そんなことを言いますか・・・」


 はい。今更そんなことを言っちゃいました。全く誰だよ魔人族の国に行こうぜって散歩感覚で言ったやつ。はい、俺ですねすみません


「でもマスター、せっかくなんですし行きましょうよ。どこに目的地がある旅をしているわけではないんですし」


 お、何だ?今回はいつもよりミカヅキが積極的に提案してくるな。こんなに進んで提案してくるのは飯関連くらいだと思っていたが。いや、飯関連においては積極的どころか、自己判断単独行動なアクティビティと言えるな。いつの間にかブラックボックスに食料が増えていたりするし


「そんなに魔人族の国に興味があるのか。何か面白そうなものでもあるのか?」


「面白そうというか、少し気になるんですよ。魔人族、獣人族もそうですが、この二つの種族って私の兄弟姉妹・・・は近すぎますね、親戚みたいなものだと思っているので」


 ん?魔人族と獣人族がミカヅキの兄弟姉妹?親戚?どういうことだ?実はミカヅキは魔人とか獣人でしたっていうことじゃないよな・・・?ミカヅキは【ホムンクルス】のはずだし・・・


「あ、島のあの施設ってことか!」


「はい、そういうことです」


 【原初の島】と呼ばれる魔物が誕生しちゃった原因のあの島にある研究施設でミカヅキは造られ、失敗したプロジェクトとして放置。その後、同施設で獣人や魔人が造られた・・・というより改造人間が誕生したんだったな


「やっぱり、同じところで造られた人たちがどうなったのかというのは少し興味がありまして。魔人は【メルーセス】で見ましたが、会話をする前に死んじゃいましたからね・・・」


「なるほどな。じゃあなるだけ早く魔人族の国に向かうか」


「え、いいんですか?」


「いいんですかって、もともと魔人族の国には行くつもりだっただろう」


「いやでもさっき、山超えるの面倒だとか言っていたから・・・」


「あんなの4分の3くらい冗談に決まっている」


「4分の1本気の発言だったんじゃないですか」


 小さいことは気にしない



「そういえばマスター。さっきから弄っているそれって魔石ですよね?」


 ミカヅキは俺が手に持っている魔石をを指した


「ああ、これは【メルーセス】での魔物の大進行の時に獲得したやつだよ」


「あの時の魔物の魔石ですか。そういえばあの時の魔物、どこかおかしかったですよね。そこらにいるものよりも力は上みたいでしたし」


 俺たちが闘ったときは、一方的に攻撃をして反撃をされれる前に倒してしまっていたので一般的な奴よりも強くなっていたのかはよくわからなかった


 だが色々なアニメ、マンガ、ラノベなどの作品に触れてきた俺にはわかる。魔物の大進行、血走ったような眼、どこか通常と違うような雰囲気を纏った魔物。これらの特徴からして、大抵の場合通常個体よりも強い力を持っていたと思われる!さらにそれは自然的なものじゃなくて人為的に強化されていた可能性が高い!!もっと言ってしまえばそれを施した人物は中ボスとか黒幕的な立ち位置だったりしちゃったりする!!!


 バトル物のテンプレ通りに行けばこんな感じだろうな。【封印されし暗黒神】とか【世界征服を目論む者】とか、あ、そういえば【魔王】とかがいるんだっけこの世界?


 まあ何にせよそれは【勇者】の皆さんにポイっと投げてしまおう。どうせその為に呼ばれたんだろうし。俺?だから俺は勇者として召喚されていないんだって


「それでどうしてその魔石を?」


「いや、魔物の様子もおかしかったから魔石も通常のやつとちょと違ってたりするのかなって思ってさ。あと手持ち無沙汰だったから転がして弄ってただけだな」


「それで、何かわかったんですか?」


「【鑑定】を使って調べたんだが、やっぱり何か強化が施されていいたみたいだな。人為的っぽいけど、誰がやったかまではわからなかった」


「そうでしたか」


 【鑑定】では術者の名前を表示するまでは辿り着けないのか、それとも相手が【鑑定】を凌ぐ情報捜査をブロックする術を持っているのか・・・。何にせよ警戒するべきか



 考え込んでいると、先程昼飯を貰って食べ尽くした後に昼寝をしていたハルマキがこちらにのそのそと歩いてきた


「ん?なんだ?」


 ハルマキがじっと俺を見る。いや、俺が持っている魔石を見ているのか?


「なんだ?遊びたいのか?ほれっ」


 俺はハルマキの目の前に持っていた魔石を投げ転がす。ハルマキは目の前に転がってきた魔石をじっと見つめる。やがて鼻を近づけ匂いを嗅ぐ。そして食べた


「「 あっ 」」


 さらに飲み込んだ


「「 あっ!? 」」


 そして何事も無かったかのような顔で居座り続ける


「ちょっ、マスター!ハルマキが魔石飲み込んじゃったじゃないですか!?」


「だってまさか飲み込むとは思わなかったから!!転がしたりして遊ぶと思ったから」


 イメージとしてはボールを転がして追いかける猫みたいなかんじでした


「ハルマキはトカゲなんですからそんなボール遊び何てしないですって!!」


「あ、そっか。いや!ここは異世界だしもしかしたらトカゲもボールで遊ぶかも———————」


「おい宿主、お嬢ちゃん!いまは阿呆みたいなことで言い争っている場合ではない!!ハルマキの様子がおかしいぞ!」


 突如俺とミカヅキの会話に割り込んできたカゲロウに言われてハルマキを見ると、何やら苦しそうに体を動かしてもたついていた


「お、おいハルマキ!?大丈夫か!?」


 慌てて春巻きに駆け寄るが、ハルマキはさらに苦しそうに暴れ出す。もがくようにばたつかせる手足が、バンバンと地面を叩き、叩かれるたびに地面がだんだんとへこんで・・・へこんで!?


「うわっ、危ねえ!!コイツこんなに力強かったのか!?地面が陥没しかけてるぞ!?」


 このままだと俺まで被害に巻き込まれかねないので一旦退避する


「マスター!ハルマキの体が!!」


 慌てるミカヅキが示す先のハルマキを見ると、ハルマキの背中、前足の上の方、人間でいう肩甲骨の辺りだろうか、そこの部分が何か不自然に盛り上がっていた。今までにはなかったものだ。一体どうなっているのか・・・?


 すると、その盛り上がりがさらに大きくなり、皮膚を上に上に押し上げていく。そして、ブチッと皮膚を破り、中から骨が突き出た。見ているこっちも痛いが、当の本人は遥かに痛いだろう。ハルマキは叫ぶが、俺らにはどうしていいかわからない。そもそも何が起こっているのかすらわからないのだ


 何をしていいのか分からずろたえていると、肩甲骨から突き出た骨の、その下の方から肉が盛り上がり、骨に張り付いていく。肉が骨を覆いつくすと、それはまるで翼のようであった


 翼のようなものができるのと同時に、ハルマキの痛みも治まってきたようで大人しくなってきた


「マスター・・・何か、ハルマキ、見た目がドラゴンっぽくなっていませんか・・・?」


「なに!?・・・うわ、ホントだ」


 物語に出てくるような巨大なドラゴンでは無いが、確かにもともとのトカゲの容姿にプラスして翼が生えたことによってドラゴンぽさが出ている。・・・というかハルマキちょっと筋肉質になった?あと何か前より体長縮んだ?


「いったいどうなってんだ・・・?」


「ふむ、おそらくだが、宿主が与えた魔石が原因ではないか?あれは異常強化された魔物の核であったものであるし、変な作用でも働いて身体情報が書き換えられた・・・ということが あり得るのではないか?」


 な、なるほど。ありえるな。身体情報を書き換えるほどの危険な魔石だったとは・・・何て危ないものだ。気を付けなければ、と思ったが時既に遅し状態だった


「で、カゲロウ。ハルマキは大丈夫なのか?」


「どうだろうな、現在見た限りでは特に危険な状態では・・・お、『あっぶねー、死ぬかと思ったぞ』」


「え、何いきなりどうしたのカゲロウ?」


「ああ、ハルマキの通訳だ」


 ええ、そんな唐突に通訳する?


「シュアアアアアア!!!」


「『ぬし、あんな危険なものを唐突に投げてくるな!!死ぬかと思ったぞ!!』」


「シュアアアア。シュアアアアアア」


「『はあまったくとんでもない目にあった。あれ?なんかジブンの背中になんかついてる』」


「シュアアシュアアアア。シュアアアアアアアア」


「『うわっこれって翼じゃない!?これでジブンで空飛べるじゃない!?』」


「シュアアアアアアアアアア。シュアアアアシュアアア」


「『なんだろう、空飛べるかもと思うと興奮してきた。あ、ぬし、ちょっと空腹なんだけど春巻頂戴』」



 ・・・・・・マイペースかっ



はい、ということでハルマキをメインに書いたつもりなのに結局描写が少ないという事件。ハルマキをドラゴンモドキにした理由としては、『従魔の強化は定番だよね』と『たぶんどっかで使えるはず』という適当な考えによるものです。今のところたいして意味は無いということです


次回、登山開始

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