65 一撃でなら問題は無い
65話目です。何か今話、気分が乗って書いていたらいつもより多く書いていました。いつもが短いというのもあるんですが・・・。ということで、【主人公最強】のタグの力を今こそ発揮すr—————
予告ブレイカー君 「我参じょううぅぅぅぅぅ!!!!」
ちょっ、後ろからの不意打ちはダメだっ―――グベァァ!?
俺たちが王都【メルーセス】に来てから10日ほどが経った。王都には特に何かする目的で来たわけではなかったが、気づいたら10日も経っていた。ファスタさんもユユさんもいい人だし、寝床提供してくれるしご飯は美味しいし、もうずっとここに暮らさせてもらおうかなとか非常に迷惑なことを考え始めている
ちなみにこの10日間何をしていたかといえば
王都観光、王都近郊での薬草採取の依頼、王都観光、薬草採取、王都観光、家、地域活動の区間の清掃に参加、薬草採取、薬草採取
こうして振り返ると、王都観光と薬草採取くらいしかしていないな・・・。だが、仕方がない。王都は結構広いのだ。一日で回り切れるようなそんな大きさではないし、バスや電車のような公共交通もない。タクシーみたいな役割の馬車はあったが、遠くに行ったらファスタさんの家に帰れなくなるし・・・。だから、今俺たちがいるのは【王都第3区】らしいのだが、残念なことに王城を挟んで反対側にある【王都第1区】には行っていない
薬草採取も、それくらいしか依頼が無かったのだ。そう、俺たちが来てからも、まだ魔物の討伐依頼が出されていない。どんなところにもいる魔物が"ゼロ"というのはおかしい。異常な話だ。まあ考えたところで俺にどうにかできるはずもないし、それに一般人には魔物が出ない方がありがたいことだしな。逆に冒険者にとっては魔物討伐依頼は金になる仕事なので死活問題になるんだけどな・・・
ということで、今日も今日とて特に何することもない俺、ミカヅキ、ファスタさんはギルドに来て昼飯を食べている
「あー、やっぱりラーメンは美味いなあ」
と言うファスタさんはやっぱりラーメン。またラーメンですかとの俺の呟きには、違う、今日は豚骨ラーメンだ。との返事があった。いや、知らんし。
俺は炒飯と餃子。最初にギルドで食事した時には気づかなかったが、この国には炒飯、つまり米があったのだ。これを知った時には歓喜のあまりに踊りかけた。なんでもこの国の一部地域では米が作られるらしい。そしてその米が王都にも運びこまれるんだとか。米農家さんとそれを運んできてくれる行商人さん、ありがとうございます
ミカヅキは麻婆豆腐。王都に来て初日にここで食べた麻婆豆腐が気に入ったらしく、ふふふっ、この辛さがいいんですよこの辛さが。と言っていた。そうか良かったね
ハルマキには春巻きを与えておいた
「いやファスタさん。毎日ユユさんの美味しいご飯食べてるじゃないですか」
「・・・まあそうなんだけどよ。ユユのやつ、おれはラーメン食べすぎだからダメって言って、家でラーメン出してくれないんだよなあ・・・」
健康にも気を使ってくれるなんて、いい奥さんじゃないですか。俺の隣にいる、いつの間にか【影の食卓部屋】に大量の食料を入れているミカヅキさんも見習ってほしいものだ
「あ゛あ゛ぁぁ!?今日も魔物討伐の依頼はないだぁぁ!?どぉいうことだぁおいぃ!!」
突如ギルド内に響き渡る怒声。昼時の喧騒にも負けない声量だ。迷惑過ぎる。このやたら粘着質な気持ち悪い声、いい加減俺も覚えた
「またハゲですか・・・」
「いやミカヅキ、ハゲじゃなくてエビだって」
「どっちも違うしどっちでもいいけどな」
ファスタさんが呟いた突っ込みはギルドの騒がしさの中に消えていくのだった・・・
「そう言われましても王都にあるギルドには魔物討伐の依頼は入っていなくてですね、別の依頼を受けてもらうしか――――」
「ん゛だとぉぉ!?」
かわいそうに受付嬢さん。悪くもないのにエビに食い気味にどやされて委縮してしまっている。周りの受付嬢仲間に助けを求めるように視線を送るが、他の受付嬢は真顔で真正面を向いて目を合わそうとしない
「迷惑なやつだなぁ。なんで誰も助けに行かないんですかね?」
「あいつはあれでも現状この王都第3区の冒険者ギルドの実力上位者だからな・・・。うかつに関わると返り討ちになるから冒険者も突っかからないんだよ・・・」
「え、あんなのが実力上位なんですか!?」
「ああ。本当はここの区にもAクラスの冒険者が3人いるんだがな、その3人はパーティーを組んでるもんで、だいぶ前に遠出の依頼を受けたようでまだ帰ってきていないんだ。そういうことで、現状ここでの最高クラスはBってことになる」
なるほどな。力もあって誰も逆らおうとするやつがいないから増長してあんなことになったのか。そんなことを考えていると、ファスタさんはいつもは飲み干すラーメンのスープを残し席を立ちあがった
「だから、同等クラスのおれがちょっと行ってくるさ。いい加減これ以上騒がれるとラーメンも不味くなるしな」
お、おおお。ファスタさんがなんかかっこよく見える。まるで無謀にも死地に特攻する直前の別れみたいだ。これで次に
『ユユのこと・・・頼んだぞ』
なんて言おうものなら
『はは、何を馬鹿な事言っているんですか。一人よりも二人の方が、帰ってこられる確率は上がるでしょう?』
と俺も立ち上がって共に逝く。うん、間違いない
俺がそんな空想劇場を広げているうちにファスタさんはもうすでにエビのいる受付まで行っていた。くそう、出遅れた
「おいウィリチリ、いい加減にしろ。無いもんはねぇんだからおとなしく下がれ」
「あ゛あ゛ぁぁ!?んだとファスタぁ、おれに指図するってぇのかぁぁ!?」
「ここはお前だけの場所じゃねえっつってんだ。周りの人間に迷惑か掛かってんだよ」
「うるせぇなぁぁ!!てめぇはご自慢の気味の悪りぃ幽霊屋敷にでも帰って寝てろってんだよぉぉ!!」
ファスタさんに注意されたエビが逆切れして叫ぶ。というかファスタさんに向かって"気味の悪りぃ幽霊屋敷"はダメでしょ。絶対ぶん殴られるって
「てめぇ・・・言いやがったなぁ!!!!!」
ほらやっぱり。そりゃあ怒るだろうよ。ファスタさんは拳に力を込めている。まだ振りかぶっては無いけれど、あれだといつぶん殴ってもおかしくないな
「おぉおぉ怖い怖いぃ。そう熱くならずにぃちょぉっと冷静になれよなぁ、あ゛あ゛!?」
キレたファスタさんに物怖じせずに"冷静になれよ"とかブーメランを飛ばすアイツの煽りスキル高いなぁ。とか思っていたら、エビは近くのテーブルの人が頼んだであろうスープの皿を持ち上げ、それをファスタさんの頭にぶちまけた
これで"皿の中身は既に空でした"なんてことだったら"エビざまあぁ"とか言って笑ってやったのだが、残念なことに中身はしっかりと入っていた。いまだ湯気の立つ熱々のスープがファスタさんに頭から降りかかる。あれ火傷したんじゃない?それとあのスープ頼んだ人も、せっかく頼んだスープを勝手にうるさいハゲにぶちまけられるとか迷惑だろうな
「どうだファスタぁ。これでぇちょっとは冷静にぃなれたかぁ?ああすまんなぁ。間違えてぇあっついスープをかけちまったぁみてぇだなぁ。これじゃぁその筋肉脳もぉ沸騰しちまうなぁぁ!!」
やぱり煽りスキル高いなアイツ。声質も相乗効果でどんどん人をイラつかせる。ヘイトを集めるスキルでも使っているんじゃないだろうか
ファスタさんは顔こそ先程までの怒りに染まった様子とは違って冷静になったように真顔だが、その拳は腕に血管が浮き上がるほど強く力が込められている。あれで顔面殴ったら顔取れるんじゃないの?と思わせるほどだ。人間怒りが溜まるほど真顔になるというが、今のファスタさんがそれだな
というかそろそろ俺も行ってファスタさん止めないとだよね。そう思い席を立とうとしたその時
「なんじゃなんじゃ騒がしいのぅ」
とギルドの奥から声が響く。そこまで大きい声ではなかったが、エビとファスタさんのやり取りで今ギルド内は驚くほどシンと静かな状態だ
「ギ、ギルドマスター!!」
受付嬢の誰かが言った。おお!ついに満を持してギルドマスターが登場か!!見た目は普通に白髪の爺さんだが、とんでもない魔力の持ち主だったり、"ワシ、脱いだらすごいんじゃよ?"とかそういうやつだろ!!勝手に俺の期待が高まっていく
「せっかく淹れてもらったおいしい茶を飲みながら書類作業をやっておったというのに・・・。さて、これはどういう状況かな?」
目を細め周りを見渡すギルドマスター。近くにいた受付嬢の一人がかくかくしかじかと事の大まかな流れを話す
「なるほどのぅ。大体の成り行きはわかった。・・・それで」
ギルドマスターの声の雰囲気が重くなり、ギルド内の空間が一気に張りつめる。すごい、さすがギルドマスター。威圧感が半端ないぜ!!
「なあミカヅキ、あのギルドマスターの威圧すごいな。今まで見てきた人間で一番かもな・・・あれ?」
小声で喋りながらミカヅキの方を向く。が、さっきまで隣に座っていたはずのミカヅキはそこにはいなかった
「全く関係のない人たちにまで迷惑をかけおって。このギルドは誰もが快く利用できる場所じゃ。それを乱すものにはちょいと仕置きが必要なよう――――――」
ミカヅキがいなくなったことに困惑し周りを見渡しながら、ギルドマスターの喋りを聞き、"そろそろギルドマスターの力が発揮されるな"と思ったその時、ドガン!!という大きな音と
「ぐぼぉぇぁぁ!?!?」
というエビの声が聞えてきた
何事かと思って振り返ると、事の中心となっていたその場所には、ファスタさん、ギルドマスター、何故かミカヅキが増えていて、その足元にはエビが地面に転がっている
あー、オーケー。大体何があったのかは予想ができた。・・・ちょっ!?ミカヅキさんアンタ何してんの!?
俺は急いでミカヅキの所に駆け寄る。そして流れるように問い詰める
「ミカヅキ、お前、何してんの!?」
「何って、足元のこれをぶん殴りました」
地面に転がるエビを視線で示しながら淡々と告げる。エビは相当ダメージが入ったのか、立ち上がる様子もない。なんか唸っているだけだ
「いい加減私もこのハゲにはイラつきました。ユユさん馬鹿にしたこともですし、スープを粗末にするとかさすがにこれはもう殴るべきだなと」
それに、とミカヅキは付け加え
「騒がしくして迷惑がかかるのがいけないのなら、騒ぐ間もなく一撃で沈めてしまえば問題はない。ですよね?」
と、ギルドマスターの方を見る。突然誰だかわからない女の子が乱入してくるわ、その女の子がBクラスの男冒険者を一撃で殴り倒すわ、自分の見せ場取られるわで混乱しているのであろうギルドマスターは
「ああ、うん。そうじゃの」
と、先程までの雰囲気は打って変わってなんとも気の抜けた返事が返ってきた
「はあ、ありがとなミカヅキちゃん。おかげで冷静になれたし、ちょっとスカッとしたぜ」
ファスタさんがミカヅキに声をかける。もう怒りは引いたようで、いつものような気の良さそうなおっさんの顔に戻っていた
「ああいえ、何かファスタさんの横取りしてすみませんでした」
「いや、いいさ。それにミカヅキちゃんはユユのこともちゃんと想っていてくれたんだ。おれはそのことだけでも十分満足さ。さて、よくない雰囲気にしちまったな。騒ぎを起こしちまったからあんまりここにいるのも気前が悪い。家にもどってのんびりしようぜ」
そうですねと俺たちも頷き、何事も無かったようにさっさとギルドを出ようとしたその時、受付嬢の一人が慌てながらギルドのホールに入ってきて焦ったように大声で告げた
「ギ、ギルドマスター、緊急連絡が入りました!!王都郊外にて大多数の魔物と思われる影を発見!最寄りの王都第3区の冒険者ギルドは直ちに現存戦力を集め、王国騎士と共にこれを迎え撃て!です!!」
うわー、なんか大事になりそうな予感。いやもう予感じゃなくて大事になっているのか
受付嬢の報告を聞き、ギルド内の冒険者がザワつく中、この場の最高権威者であるギルドマスターはというと・・・
「ああ、うん。そうじゃの」
未だに魂が抜けきったような状態で空返事を返していた
はい、ということで ✖【主人公最強】→ 〇【ヒロイン最強】でした。・・・あれ?いや待ってください。きちんと主人公最強やりますから!え?今年中にその話終わるのか?お、終わりますよ(震え声) たぶん(小声)
次回、次こそは主人公メインですよ(たぶん...きっと...)




