34 精神的な攻撃
34話目です。僕は虫と集合体が嫌いです。以上
このダンジョンの中は壁、床、天井までもが黒一色に染まっていて、どこまでも暗い。それが入り口から始まりその先の奥までずっと続いている。これはきっと挑戦者の視覚をある程度奪うための仕掛けなんだろう。俺は脳内にそう刷り込ませようとした
だが、現実は俺を事実からは目を逸らさせようとはしてくれなかった。俺たちが来たことにより開いたドアから外の空気が入り込む。ドア越しではない直接の日光が当たる。そして俺たちが入ってきたことにより気配が伝わる
その結果何が起こったかと言えば、まずダンジョンの中の"黒"のうちの一つがこれに反応して動いた。その周りの"黒"がそれに反応して動く。さらにそれに反応した"黒"が動く。そうやって次々と動きが伝播し、伝播し、伝播し、伝播し、伝播し、伝播し・・・やがてフロア全体に広がっていった
―――――――――――ガサガサガサガサガサガサギチギチギチギチギチギチガサガサガサガサガサガサギチギチギチギチガサガサガサガサガサガサ!!!!!!!!
「「ひいいいいいいいいい!!!!????」」
それは最早"大量の何かが動いている"というよりは、"一つの巨大な生物が蠢いている"という表現が当てはまりそうなほどだ。そのフロア全体を埋め尽くすまでに大量発生しているものの正体は・・・そう、『家庭の敵』、『1匹見たら100匹いると思え』で有名な奴らであった
目の前に広がる光景のあまりの怖気さにゾワリとした感覚が背筋に流れる。たぶん俺は、今までに無いくらい引き攣った顔をしているんだろうなあ。見る余裕なんてないけど、たぶんミカヅキも同じような表情してそうだ
だが、俺たちはこんなところで立ち止まるべきではなかった。油断した・・・いや見たものの衝撃についつい忘れていた。奴らには羽が付いていて飛ぶことができるということを!!
――――――――バタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタッッッッッッ!!!!!
どうやら、奴らも虫なので光るところに飛んでくる性質があるみたいだ。そして今ここで一番光の多い場所は何処かというと・・・
「「ぎゃあああああああ!!!!!こっち来たあああああああ!!!!!」」
奴らが集団で襲ってくるのはまさに悪夢と言ったところか。いや、寧ろ夢であった方がどんなに良いことか!!!飛んでくる奴らの姿はまるで黒い波が押し寄せてくるようだ
「なるほど、これが本当の"波状攻撃"・・というやつだな!!」
カゲロウがなんか阿呆みたいなことを言っているが今はそれどころではない!!あんなものとまともに当たったら、体に張り付くは、服に入ってくるは、口の中に、耳に、目に・・・・!!!うおぇぇぇぇぇ!!!!想像なんてしなければよかった!!とにかく早急にこの場から脱出しなければ!!
「おいミカヅキ!!一旦逃げ・・・」
ミカヅキに退避を促そうと隣を見たが、そこには既に誰もいなかった。もしかしてと思い、つい先程俺たちが意気揚々と通ってきた道を振り返ると、そこにはこちらに背を向けて全力ダッシュで逃走しているミカヅキの姿が見えた。あまりにも素直な逃げっぷりにほんの一瞬呆気にとられるが、瞬時に"立ち止まっている場合ではない!!"と慌てて俺も走り出す
「ミカヅキお前、マスターを置いて先に逃げやがったなああああああ!!!!!」
「こんな時だけ"マスター"を活用しないで下さいいいいいいい!!!!!」
久しぶりに全力ダッシュをした俺たちはものの数秒でダンジョン受付所へと見事に帰還したのだった
「ぜェ、ぜェ、ぜェ、ぜェ、ぜェ、ぜェ」
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
ただ今、息切れ中でございます。別に身体的に疲れがあるわけではない。というか、肉体を使ったのってここに戻ってくるまでのダッシュだけだから疲れることは無い。ではなぜ息切れをしているのか。それは勿論、精神的な疲れ・・・いや、精神的ダメージによるものだ。あれは無理・・。あんなものの中には突撃できない・・。挑戦者がなかなかいないのも仕方がないよ
「あら、お帰り」
受付のお姉さんが先程と変わらずに話しかけてくる。その顔には、"まあ・・・やっぱりね"とでも言いたそうな表情をしているように見える。確かにあれは諦めて帰ってくるしかなかった。だが、1つだけ言わせてほしい
「ちょっと!"G"が大量にいるなんて俺聞いてませんでしたよ!?」
「そりゃあそうよ。言ってなかったんだもの」
やっぱりそうですよねー。・・・じゃないよ!!ちゃんと説明してよ!!そこの説明超重要なところじゃないの!?
「あんなもの、口に出すのも恐ろしいわ!!あとちなみに、奴らは魔物よ」
確かに恐ろしいけど、ちゃんと仕事はしてほしいな~。というかアイツら魔物だったんだ。・・・ということは奴らを倒せば魔石がゴロゴロと・・・!!そう考えれば、あの中にも喜んで突っ込んで・・・ごめん、やっぱりそれは無理だ
「それでマスター。このダンジョンどうします?無理やり突破しますか?それとも、いっそ諦めてしましますか?」
そうなんだよな~。あれを何とかしなければ先に進めそうもないんだよなあ・・・。どうやったらあのゾーンを突破して2階に上れるだろうか?・・・・ん?ちょっと待てよ。今とんでもなく恐ろしいことが脳内を過ったんだが・・。まさか、まさかだとは思うが・・・
「あの~、"G"がいる階って1階だけですか・・・?」
「・・・・いいえ。残念ながら6階まで奴らがいることが確認されているわ。7階到達者がそう言っていたと記録されているわ。でも、それも昔のことだから今は7階までのみ込まれている可能性も・・・あるわね」
やっぱりそうだよなあ・・。『1匹見たら100匹いる』んだからあの階だけで収まるはずが無いんだよなあ。しかし6階・・いや、下手したら7階まであの光景が広がっているっていうのは予想外というか、考えたくないというか・・・
「宿主、何をそんなに悩んでいるのだ?あんな奴ら"影"で殲滅するなり炎で燃やし尽くすなりすればいいだろう」
「いや、確かにそうなんだけどさ・・・。あんなのに、"影"の一部でも触れさせたくはないんだよね」
"影"っていうのはスキルではあるが、その大元はカゲロウで、そのカゲロウは俺と一体化しているのに近い状態にある。つまり勝手な考えではあるが、俺は"影"は自分の一部に近いものとして認識している。それが、あの大量の黒いやつらを潰したり貫いたり揉みくちゃにされているというのは、どうにも自分が大量の奴らに揉みくちゃにされている気がして嫌なんだよね
「・・・・・宿主、つまりそれは"お前を誰にも触れさせたくないんだ!"という宿主の独占欲とともに送られたワタシへの愛の告白と受け取っても?」
「そんなわけあるか!!俺の精神衛生上からくる提案拒否と受け取ってくれ!!」
全く、コイツはいったい何をわけのわからないことを言っているんだ・・・。あと隣からの視線は、今は無視することにしよう。そっちにまでかまっていたら日が暮れてしまいそうな気がする
「それと、燃やすのも遠慮したいな」
「それは何故だ?」
「あいつら燃やしたら毒ガスとか発生しそうじゃない?ダイオキシンみたいなものとか」
「いや、ダイオキシンは出ないだろう・・・」
それはどうかな。奴らは魔物らしいからな、何が起きるかはわからないぞ。・・・ん?そういえば俺たち"状態異常無効"スキル持っていたな。ということはあの中に突っ込んで行っても全然平気・・・・ごめん、やっぱり無理だ。精神が持たない
「それじゃあ、いったいどうしようと言うのだ?」
「いっそのこと"G"がいるところだけスパーンッて抜き取れてしまえばいいんですけどね」
確かにスパーンッとそこだけ抜けたらいいんだけどな。スパーンッと・・スパーンッと・・・
「あ!」
「どうしましたマスター?」
「それ、いけるかも!!」
はい、ということで"ダンジョンは優しくなかった!!"という回でした。最近我が家にも奴が出ました。スプレーしたけど見事に逃げられましたよ。ええ。
次回、主人公がスパーンッてやります




