29 最初の町
29話目です。今回、いつもより投稿遅れてしまいすみませんでした。かわりに、今回の話はいつもより長めです。どうぞ、お楽しみください
俺がおっさんを戦っている時、周りのことに意識を向けていなかったので何があったかはわからない。"このおっさんをどうやってボコボコにして俺の気分を晴らそうか"くらいのことしか考えていなかったから、その時は領主とかのことなんて頭の隅に追いやられていた。その領主が現在どうなっているのかというと
「マスターお疲れ様です。ずいぶん派手にやりましたね」
執事とともに縛られてミカヅキの足元に転がっている
「あ、うん、お疲れ。えーっと、これはミカヅキがやったんだよな?」
「はい。マスターが戦っている間に逃げられでもしたら困るので、戦闘開始直後にこちらも即効で拘束に取り掛かりました」
「おお、気が利くねえ。助かったよ」
「いえいえ、そんなに大した事じゃありませんから、もっと称賛をくれてもいいんですよ?」
「・・・本音が建前にの後ろから続いてきてるぞ」
「いやぁ、それにしてもマスター。だいぶえげつないことしてましたね。両手両足壊れているじゃないですか。あの人これから生活できるんですかね?」
「あー、うーんと・・・大丈夫じゃないか?治癒系魔法とかあるだろうし、義手をつけるとか、ちぎれた腕をもう一回くっつけるとかいろいろあるんじゃない?異世界技術とか何とかで」
うん。我ながら超適当だな。まあ、このおっさんには死ななかっただけマシだったと思うようにしてもらいたい。憶えていたらの話だが・・・。さて、じゃあ次はお待ちかねの領主の番かな。俺は領主へと向き直る
「それで、アンタの用意した策というのはこうやって無残に突破されたわけだが・・・、まだ他に策はあったりするのか?」
「くっ・・・・」
「無いようだな。てことで、次は俺たちのターンだ。今のアンタたちは縛られて動けないから何だってやられ放題になってしまうな。ああ、助けを呼ぼうとしても無駄だぜ。たぶん誰も来ないから」
まあ、何てことはない。おっさんをボコる前に影のスキル"ニンギョウゲキ"で作った小人さんたちに屋敷の中を回ってもらって、使用人の人たちを眠らせてきてもらったのだ
「あ、別に殺したりはしないから大丈夫だぞ。アンタが死んだらこの領地の統治とか誰がやるんだとか、その辺めんどくさそうな話になるしな。ただ、こっちだって毒使われるわ、奴隷にされかけられるわ、おっさん仕掛けてくるわと相当やられてるんだ。これで俺たちは何もせずに『ハイ、さようなら』ってここから出て行くのはなんか納得がいかない。そこで・・・」
先ほど執事とおっさんが入ってきた扉から今度は影で作った小人さんたちが入ってくる。その小人さんたちのうち何人かは液体の入った瓶を抱えてやってきた
「仕返しとして、コイツを使おうと思う。ああ、はいはい小人さんたち配達ご苦労さま~」
「そ、その瓶はまさか・・・!!」
「そう!お察しの通りアンタたちが使った毒さ」
「っ!!しかし何処からそれを!?一応厳重に隠していたはずなんだが・・・」
ははは!!俺がこの4日間演技だけをしているとでも思ったか!!実はあれからも屋敷の中を調べていたのさ!!部屋には鍵がかかっている所もかなりあったが、そんなもの影を鍵穴の形と同じにしてしまえば簡単に突破できる。今回は無かったが、もし鍵穴の無い魔法式バージョンなんてものがあったとしても、万能手袋を使えばこれまた突破できてしまう。俺の前では鍵という存在は無意味なのだぁ!!あ、いや別に何処そこかまわず鍵開けたりしないからね?今回みたいな場合くらいだからね?通報とかしないでね?
「まあ、いろいろと手段を使って・・ね。この毒を無事ゲットしたってとこだよ。よし、じゃあ早速使っていこうか。えっと、こっちが催眠系でこっちが幻覚系か・・・」
「ま、待て!!まさかそのまま使用するつもりか!?それは薄めてから使わないとかなり危険でっ・・・!!」
へ~、そうなんだ~。まあ、薄める気は無いんだけどね。なんでわざわざそんな面倒くさそうなことをしなければいけない
「大丈夫大丈夫!ちゃんと俺の"眼"で見て、死なない程度の配分にしてあげるからさ」
「そ、そういう問題じゃ・・!!」
「え~っと・・だいたいこのくらいかな?持続時間はだいたい2日間。運がよければそれより前に効果が解けるかもしれないし、逆に3日くらい続くかもしれない。毒の効果は・・・まあ、言わずともわかるか。それじゃあ、この催眠の毒を執事に、こっちの幻覚の毒をアンタにあげよう」
「まてっ!!やめろ、やめろ、やめろおおっ!!」
俺は影を使って、毒を飲み込まぬようにと硬く閉じた口を無理やりこじ開ける
「最後に一つ。アンタの"領地を守りたい"という思いは立派なものだと思うぜ。ただ、アンタは守るための方法を間違えてしまった。そして、運悪く俺たちと出会ってしまったということだ。それじゃあな。この4日間楽しかったぜ」
こじ開けた口に毒を流し込み、吐き出さないように口を押さえ無理やりにでも飲み込ませる。すると、やはり薄めずに使用したせいか効果がすぐに現れ始めた
「ア、アセトア様・・・。申し訳・・ございま・・・せん・・」
まず、睡眠の毒を飲んだ執事は全身の力がだんだんと抜けていき、呂律すらも回らなくなり、やがて深い眠りについていった
「あ、あああっ。来るなっ!こっちに来るなっ!!やめろ、やめろっ!!体が、わたしの体が千切れる!!いぎぁぁぁぁ!!!痛い、痛い、痛い、痛い!!」
領主の方も幻覚の毒が効いてきたみたいだ。今は毒の効果である幻覚、幻聴、幻痛を感じているはず。うんうん、大分満足だ
「さて、なんとかうまくやり返しも実行できたことだし、最後の仕上げに取り掛かろうか」
「最後の仕上げですか?」
あれ?作戦の打ち合わせの時、ミカヅキに説明してなかったっけ?まあ、たいして問題は無いからいいんだけど
「ああ、コイツらの記憶から俺たちの情報を消すんだ」
「へえ!そんなことができるんですか!!」
「まあな。じゃなきゃこんなに堂々と計画を実行できないだろ。確実に今度は俺たちがやり返される番になるぞ」
「それは、確かにそうですね。でも、どうやって記憶なんて消すんですか?」
「それはもちろん・・・。カゲロウさーーーん!!」
「あー、はいはい。そんなに叫ばなくても聞こえているよ。それで、記憶を消すんだったか。ワタシたちに関する記憶をすべて消せばいいのか?」
「いや、それが俺たちだとはっきりわかる記憶を消してくれ。何というか、"そこに誰かがいたのはわかるが、それが誰なのかはどうやっても思い出せない"みたいな感じ。できるか?」
そうしないと辻褄が合わなくなってかなりの違和感を持たれることになるからな。なるべくそういう違和感が無いようにしてここでの出来事を終わらせたいのだ
「わかった、まかせろ。・・・と言いたいところだが、さすがに今出せる力では、厳しいな。宿主、支配率を下げてくれないか?もしくは全ての支配率を解除してもらってもいいん―――――」
「オーケー、『支配率を70%から50%に低下』。これでいいだろう?じゃあ、よろしく頼む。範囲はこの屋敷全部で、対象はここに倒れている領主共を含む屋敷の使用人たちだ」
「はあ、わかったよ・・・。じゃあ、しばらく時間がかかるから待っていてくれ」
そういうと、俺の体から影の管みたいなものが伸びていき、領主の頭に張り付いた。それと同じ管が扉を過ぎ、屋敷の中に広がっていく。なるほど、あれで対象全員の記憶を消すのか
「あ、そういえば。マスター、先程はスープをこぼしてしまい、すみませんでした」
おお、そんなことがあったな。もうかなり乾いてきてるから、スープがかかったということをすっかり忘れていたぜ
「ああ、いいよ別に。すっごい熱かったし、火傷したかもと思ったけど」
「ホントにすみません・・・。そんなに熱かったなんて・・。あれ?マスターって、"熱耐性スキル"みたいなもの持ってませんでしたっけ?」
熱耐性スキル?たしか、そういうかんじのスキルはあったはずだけど・・・
「そうだよ、俺"熱耐性系"のスキルあるじゃん。え、じゃあ何で火傷しそうなほど熱いって感じたんだろう・・?」
「ふう、宿主よ、これで対象者の記憶の削除がおわったぞ」
「ああ、ありがとうな」
あ、カゲロウ・・・かぁ。ちょっと聞いてみようか
「なあ、カゲロウ。俺にあるはずの"熱耐性系"のスキルが、効果を発揮しなかったんだが、なんでかわかるか?」
「あ~、それはだな。ワタシが宿主から熱耐性系スキルを取ったから・・・かな?」
やっぱりお前かああぁぁ!!!なんとなくそんな気かしなくもなかったんだけどさ!だってカゲロウだし!?
「一応聞こう。なんで取った?」
「宿主の面白い反応を見るため、かな。いやぁ、実に面白かったぞ!熱々のスープがかかっても必死に作戦を続けるという姿は」
コイツぅぅ!!!よし、もうわかった。カゲロウにはあれをするしかない
「だから、ワタシも充分に楽しめ――――――」
「支配率を50%から75%に変更!」
『支配率を50%から75%に変更します』
「あ!ワタシが喋っている最中に支配率をあげたな!・・・ん?ちょっと待て。これ前回より支配率上がってないか!?ちょっと宿主!?やどぬ―――アギャァァァ!!!」
「ふう、これでやっと作戦は終わりか」
「そうですね。いろいろとミスはありましたが、これで作戦は終了しましたね。ところで、この後ってどうするんですか?」
「どうするって・・・寝る?もうこんな時間だし」
「この屋敷でですか?」
「うん。そのつもりだけど・・・。え、路傍で寝たいの?俺、それは嫌なんだけど・・・」
「なら、ここで寝ましょう。マスターが一緒ならまだしも、路傍で一人睡眠なんてお断りです」
「じゃあそれで決まりだな。なら、明日の朝にここを出るとするか」
「はい!」
いろいろと大変だった戦いを終えた俺たちは、今日で最後の滞在となるこの屋敷で自分たちに与えられた部屋に戻っている
「ふ~。疲れたな」
「そうですね。それにしても、マスターが私のためにあんなに怒ってくれるなんて」
「それって、あのおっさんのときの話か?」
「はい。あの時、本当は私がおじさんをぶっ倒そうかと思ったんですけど・・・。私を手で制した時のマスター、かなりイライラした雰囲気を出していたんですよねぇ」
え、そんなに?自分ではそこまでイラついていたつもりなは無かったんだけど・・・
「それで、"マスターは私のことであんな感情を出してくれているんだ"と思ったら嬉しくて、あのおじさんのことはどうでもよくなりました」
そ、そうか。そう言われてしまうと、何だかかなり恥ずかしくなってくるな
「それに、マスターが私のことを食べるだなんて言うし・・・」
「・・・・・・はい?」
「マスター言っていたじゃないですか。『食べるのは俺も得意だ』って。つまりそういうことですよね?私、マスターにいろいろとおいしく食べられてしまうんですね~」
ミカヅキが体をくねくねさせながら言う。あざとい。実にあざとい!!
「いや、そういう意味で言ったんじゃなく、あれは物理的にってことで――――――」
「なるほど。宿主のあの言葉はそういう意味だったのだな。・・なら、今夜はワタシは静かに寝ておくのが一番ということだな。案ずるな、邪魔はしない。見守るだけだ」
待て待て待て!!何が"見守るだけだ"だよ!!見守ってるんじゃねえよ!!・・・違う!!そういうことじゃない!!
「さすがカゲロウさん。わかってますね」
おいお前ら、何二人で意気投合してるんだよ!!そしてそのサムズアップをやめえええい!!
こうして、4日目の夜は更けていくのだった
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朝です。え、昨日ですか?あのままぐっすりと眠りましたが何か?いやいや、あんなよくわからない空気に流されて、そのまま行っちゃうとか嫌だし。そういうのはもうちょっといい感じの雰囲気となってからしてみたいものなのだ
「・・・マスターの甲斐性無し。一生童貞」
「うっさい。俺にだっていろいろと心の持ち方みたいなのがあるの。あと一生童貞は余計だ」
「しばらくこのネタでマスタ-をいじってやります」
「な、なんて真似をする気だお前!!」
そんな会話をしながら俺たちは屋敷から出る。ふと振り返った先にあるこの屋敷はいつもと変わらずにたたずんでいる。ここの領主が毒の効果から覚めた後、どのような行動をするのかはわからない。変わらず、旅人を狙って奴隷を作り上げるかもしれないし、今回お一件で恐怖心なんかが刻まれて、もっと違う方法で町を守るように行動するかもしれない。だが、いずれにせよもう俺たちには関わることのない問題になるだろう。民衆を救うのは正義のヒーロー。この世界に召喚された勇者たちだ。そして俺は勇者じゃない。だから俺は今回のように、自分に襲い掛かる問題を無理やりに、適当に、無茶苦茶にでも解決して去っていくだけなのだ。しかしながら、やはり去り際の挨拶というのは重要だと思う。なら、多少なりとも世話になったこの場所にも挨拶をしていこうか
「それじゃあグッバイ。異世界初めての町」
はい、ということで章の終わりの話でした。途中で主人公とヒロインのあんなことやそんなことを考えた方。残念、そうはいきませんでした~!!
主人公よ、そう簡単にヒロインといろいろできると思うなよ!!
次回、あっち側の人逹の話です。(予定)




