18 用心することは大切
18話目です。前話までの話で一部大きく修正しました。詳しくは活動報告で
俺たちは案内された部屋で見るからに高級そうな置物を壊しかけ、その後"もう何にもふれるまい!"とソファに座ってじっとしていた
――――――コンコン
「失礼いたします。お食事の準備ができましたので、ご案内させていただいてもよろしいでしょうか」
さっきの執事さんが呼びに来たようだ
「あ、はい。お願いします」
やっとかー。あのままソファの上にいたら、俺が置物になるところだったよ。さて、じゃあ行きますか。そうして部屋のドアに手をかけたときにふと気が付いた。・・・あれ?ミカヅキは?見回すと、先程までいたソファにミカヅキはいまだに座っていた。・・・何してんだよこいつは
「おーい、ミカヅキさーん。あっさでっすよー!」
・・・・反応がない
「まったく、何してるんだよ。楽しみにしていた飯ができたってよ。起きろー、お前の分まで俺が食べるぞー?」
話しかけたり、揺すったり、"お前の分まで俺が食う!"と脅しまでしたが、それでも反応がない。あれ?これは本格的にヤバイやつ・・・?
「お、おいミカヅキ!?大丈夫か!?えっと、どうすればいいんだ!?人工呼吸!?心臓マッサージ!?119番通報!?はっ!この世界電話繋がんねーじゃん!?」
待て!落ち着くんだ俺!いったん深呼吸をしよう。スー、ハー。よし、オッケー。まずはAEDを探さなきゃだったな。・・ん?なんか違う
深呼吸をして落ち着いたせいか、別にミカヅキは死んでいないことに気づいた。普通に呼吸していたし
うーん、どうやってミカヅキを復活させようか・・・。あ、そうだ。あれをやってみるか。"必殺・脇腹刺し"!脇腹刺しとはその名の通り相手の脇腹を刺し、"ビクッ!"っとさせる技である!たまに効かない人もいるので注意が必要だぞ!では、やってみよう。えいっ
「ぴゃっ!?」
おお!ミカヅキの意識が元に戻った!さすが必殺技!あと、"ぴゃっ!?"ってなんかかわいいな
「はっ!マスター!私はいったい・・」
「おい、大丈夫か?さっきまで死んだように動かなくなっていたが・・・」
「そうだったんですか・・・。実は先程まで私がどんどん人形になっていくような夢を見ていて・・」
はいそれ絶対危険なやつ!あぶないあぶない。本当にミカヅキが生きた屍みたいになるところだったぜ!
―――――――コンコン
「アライ様。いかがなさいましたでしょうか?」
そういえば執事さん待たせたままだった。あ、もしかしてさっきまでドタバタしていたの全部聞こえちゃったりしたかな。なんてお恥ずかしいところを
「いえ、なんでもないですよ。今行きます」
再び部屋のドアに手をかける。ミカヅキは・・うん、今回はちゃんといる
「よし、じゃあ行くか」
「はい。待っててください、おいしいご飯!」
執事さんに案内されて屋敷の中を進んでいく。にしても、広いなこの家。俺の実家だったら自分の部屋からダイニングまで1分もかからないっていうのに。こんなに部屋があって何に使うんだろう?そんなことを考えていると、執事さんが立ち止まった
「こちらでございます]
執事さんの先にある部屋には、大きなテーブルがあり椅子が何席も設けられていた
「やあアライ君。少し時間がかかったようだね」
あ、この人も待たせてしまったみたいだな
「すいません。ちょっといろいろとあったもので」
「ああ、別に責めているわけじゃないよ。まあ座ってくれ。食事にしようじゃないか」
そういわれて俺たちは席に座る。なんだろう、この雰囲気はなんか落ち着かないな。高級レストランみたいな感じだ。いや、高級レストランとか行ったことないんだけどさ。普通のファミレスとかしか行ったことないんだけどさ。イメージだよイメージ。隣のミカヅキを見てみればすごくソワソワしてる。うんうん、やっぱりお前も落ち着かないよな
「あの、マスター。トイレ行ってもいいですかね?さっき、もらった飲み物を飲みすぎたみたいで・・」
「・・・・・早く行ってこい」
ソワソワの原因は飲み過ぎそれか
「あの、マスター」
「なんだ?」
「私のご飯食べないでくださいね?」
「食わねぇよ!お前が来るまで待ってるから早く行ってこい!」
はあ、まったくこいつは・・・
「ははは、君たちは面白いねぇ」
「ほんと、すみません」
ミカヅキがトイレへ行って帰ってくるまでに数分かかった。もちろん俺はその間に何も食べていない
「ま、迷いかけました・・」
まあ、広いもんなこの家。案内板があるわけじゃなさそうだし
「では、今度こそ食事にしよう!」
そうしてテーブルには給仕さんたちがいろいろと運んでくる。料理からはとてもいい香りが漂ってきて、部屋の中を満たしていく。ああ、これだよこれ。料理にはやっぱり香りも大切だよねぇ。大した香りもしないあの島での料理とは違うね
「さあ、君たちも食べてくれ」
では、念願のおいしい料理
「「いただきます」」
最初はサラダだ。ではさっそく。ムシャムシャ。うん、そうだと思っていたけど、やっぱりまずくない!野菜は瑞々しいし、あの島の植物みたいにものすごい苦みもない!サラダだけでも結構いけるな
次にスープ。ゴクン・・。熱いっ!?口の中が火傷する!ちゃ、ちゃんと冷ましてからにしないと。ふー、ふー。ズズッ・・。あ~、温かくておいしい。ちょうどいい塩加減と、野菜や肉が食べやすい柔らかさでスープの中に入っている。温かいスープがのどを通り、胃に到達し体中が暖かくなるような感覚になる
次に出てきたのは・・。なんだこれ?パイかな?とりあえず一口。パク。これは・・中に魚が入っているのかな?それと、ホワイトソースっぽいのも入っているみたいだ。パイのサクサク感とソースの濃厚さが、魚に合うねぇ
その次は・・。来ました肉です。見るからにうまそうな焼かれた肉がやってきた。いい香りがする。香辛料でも使われているのだろうか?まあ、そこらへんは全然詳しくないから置いておこう。なぜ香辛料の話に触れたかって?なんか格好よさそうだからだよ!よし、ではいただこう。モグモグ。うまいっ!香りもそうだけど、味もしっかりとついている。香辛料のおかげかな。知らないけど。硬すぎて嚙みちぎれないこともなく、歯ごたえもいい
「ミカヅキ。どうだ、おいしいご飯は」
と、ここまで喋らずに飯を食べていたことに気が付き、隣にいるミカヅキに声をかけてみる
「おいしい・・です・・」
うん?なんか少し様子が変だぞ?
「ど、どうした?なんかダメなものがあったのか?」
「いえ・・。そうじゃないんです。初めて、こんなにおいしいものを食べたから・・。なぜか・・涙が・・。マスター、約束を守ってくれて、ありがとうございます・・」
「そういうことか。でも、この一回だけで満足するなよ?これから旅をして、もっといろんなところのおいしいものを食べるんだからな」
「はい!もっといろんなところに行って一緒においしいものを食べましょう!」
ちょっとした目標ができたようだ。まあ、ただ旅をするよりも、なにか目的があったほうが楽しみがあるってものだしな
「宿主、宿主!」
そんな声が聞こえて俺の膝のほうを見てみれば、黒いモヤモヤしたものがあった
「カゲロウか?どうしたんだそんなにモヤモヤとして」
「宿主が前より支配力を強めに設定しているから、こんな微妙な形にしかでなれないのだ!いやそんなことよりも。宿主、ワタシにもその肉なんかをくれないかな?ワタシもそれを食べてみたいんだ」
「ああ、いいぞ。だが、どうやって食べるんだ?」
「心配するな。今宿主の膝の上にあるモヤモヤはワタシの【食卓部屋】へと繫がっているから、そこに入れてくれれば問題ない」
なるほど、やっぱり便利だなブラックボックスそれ。じゃあ、まずは要望通り肉を
「おおお!うまいな!やはり今まで食べていた魔物の肉とは比べ物にならないな!」
喜んでいるようなので、次は魚のパイを
「ううん!これもうまいな!特にこのパイ生地のサクサクと中に入っているソースのとろっとした感じがなんとも・・・」
魚のほうも喜んでいる食べているようだな。なんだろうこの餌付けみたいな感覚・・。そうやってカゲロウに餌付けをしていると、テーブルに果物が運ばれてきた。すごいな、デザートまで出るのか!
果物は、リンゴ、ブドウ、洋梨などなど、元の世界で見たようなものばかりであった。味が違かったりするのかな?まずはリンゴっぽいのを食べてみよう。シャク。お、あんまり味は変わらないな。でもこっちのほうが酸味が強めかな。ブドウは・・。こっちはすごく甘いな!砂糖入れているんじゃないかってくらい甘いな。ではこの洋梨は・・。うん?これは洋梨というより、和梨に近いな。シャクシャクしていておいしい
「宿主!それをワタシにも!」
はいはいわかったから、俺の膝の上でそうモヤモヤを増やすなって。じゃあ、一つずつあげるか
「ムシャムシャ。モグモグ。おお!これが本当の果物というものか!今までのものとは比べ物にならないほど甘くておいしいな!」
そりゃそうだろう。あの島の果物は見た目はおいしそうなのにものすごく苦かったり辛かったりするものしかないからな。比べる対象がそもそも間違っているということだ
デザートを食べ終えた俺たちすっかり満腹になっていた。あ~、満足満足。こんなに食べたのは久しぶりだよ。食欲が十分に満たされるというのは素晴らしいことだね
「あ、そういえばアライ君。君たちは、どこか泊まるところはあるのかい?」
か、考えてなかったああ!!そうだよ、泊まるところとか何も決めていないじゃん!どうしよう、今からでもどこか宿とか空いているかな!?
「ないんだったら、この家に泊まっていかないかい?」
それはこちらとしてはうれしい限りの話なんだけど・・。こんなにご馳走してもらって、さらには泊まらせてくれるっていうのは、なんか申し訳ない気持ちになるのだが・・・
「あの、それはうれしい話なんですけれど、こんなに良くしてもらって大丈夫なんですか?いろいろと・・」
「ああ、気にしないでくれ。なんなら1日と言わず、何日でも泊まってくれてもかまわないよ。なんせ君たちは命の恩人なのだから」
「い、いえっ。それはさすがに!」
「大丈夫大丈夫。それに私にとっても、話し相手が増えるというのは嬉しいことだからね」
「・・・。それなら、お言葉に甘えさせていただきます」
ここで断って路上で毎日を迎えるとかにはなりたくないからいいか
「それじゃあ決まりだね。君たち部屋はどうする?やっぱり一緒にしておくかい?」
「あ、いえ。別の部屋で――――」
「一緒の部屋で大丈夫です」
「・・・・。え?ミカヅキ、何で?」
「いいじゃないですか。あの島でも一緒だったんですし。ほら、別に減るものではないでしょう?」
「確かに減るものじゃないけど、わざわざここでも一緒にしなくても・・」
「・・・・・」
「ああもう!わかったから、そんなにじーっと見るな!なんか恐いぞ!」
「それで部屋はどうするんだい?」
「・・はぁ。一緒の部屋でお願いします」
「それじゃあ、あとで部屋に案内させるよ」
そう微笑みながら言われたよ。ぜったい楽しんでるよこの人
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
食事のあと俺たちは風呂へ入り、その後案内された部屋でのんびりしていた
「いや~、今日はいい日でしたねぇ。人にも会えましたし、おいしいご飯を食べることもできました。泊まるところもありますし。路上で寝起きなんてせずに済みましたよ」
確かにいい日だった。食事も睡眠も問題なく確保ができたのだから。もしかして俺って結構運がいいんじゃないだろうか。あ、運がよかったらこんなところにいないや。まあそこは気にしないことにしておこう。今日はミカヅキが"泣く"なんて滅多にないシーンも見られたんだ。それでいいじゃないか
「どうしましたマスター?そんなに私の顔をじっと見て。惚れちゃったんですか?照れますねぇ」
「・・・。いやそういうことじゃなくて、今日はお前が涙を流すなんてレアなところが見られたなと思ってな。あれ?そういえばお前、最近いろいろと表情とか感情が出るようかになってきたけど、俺、お前が"笑った"ところは一度も見たことがないな」
「そうですねぇ。ドヤ顔とかニヤニヤ顔とかはできるようになってきたんですけど、"おもいっきりの笑顔"というのはまだできないですね。"嬉しい"とか"楽しい"という感情はあるんですけどね」
「そうか。・・ちょっと無理やりに笑ってみてくれない?」
「別にいいですけど、無理やりにやっても笑顔にはなっていないと思いますよ?一応やってみますが。それじゃあいきますよ」
―――――――ニコッ
「うわああああああ!!??ごめんなさい!!まじですいませんでしたっ!!」
「そんなにですか・・。ちょっと傷つきましたよ。まあ、そういうわけで笑顔はもうちょっと待っていてください」
「ああ、わかった。ちゃんと表情が作れるまで待っておくよ」
もう無理強いはしない。あれは下手したら夢に出てくる
「そういえばマスター。さっきから何をしているんですか?」
「これはだな、スキル【影】の【ニンギョウゲキ】で小人とか作ってこの屋敷を調べてもらおうと思ってな」
「なぜそんなことを?」
「えーとだな。転ばぬ先の杖ってところだな。いくらこの家の人が優しいからって俺たちに何か危険が起こらないとは限らないだろ?だから、なにか起こる前にいろいろ調べておくのさ」
俺は事件に巻き込まれて手だてがなくなるようなことにはなりたくないのだ。できれば何の問題もなく過ごしていきたい。まあ異世界に転移した時点で問題が起こっているのだがな
「まったく、宿主は心配性だな」
「うっさい。これくらいでいいんだよ。なにも起こらなければそれでいいんだし。さて、この小人さんたちも送り出したことだし、もう寝るとしよう。それじゃあ、お休み」
「はい、おやすみなさいマスター」
「お休み宿主」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
うう~ん。もう朝か。ここ数日草原で野宿だったからよく寝むれたぜ。あ、小人さんたちが帰ってきている。起きたばかりだけど・・。こういうのは早めがいいよな
「カゲロウ起きろ~。調査の結果が見たいからよろしく頼む」
「う~ん。宿主よ、起きてすぐか?まあいいや、それではいくぞ【感覚共有】」
この【感覚共有】によって、俺の中にいる"影"であるカゲロウとその影から作られた小人をつなぐことができ、映像や音声なんかが見れたり聞こえたりできるのだ。さすがチート、まじで便利!さてさて、どんな情報が集まっているのかな・・。え?これは盗撮だろって?あははは、異世界にそんな法律はないでしょ。映像がはじまって数分。おっとこれは領主さんと執事さんかな?何の話をしているんだろう
『それで、あの二人を奴隷として売り飛ばす準備は進んでいるのか?』
はい、ご飯がたくさん出てくる話でした。いやぁ、食レポって難しいですね
次回、冒険者ギルドに行く予定です




