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92 引きつる笑顔と怖がる少女

92話目です。なんか勢いが乗って連日投稿できました! できましたっ!! そして、やっと狐娘が出ます!

 村長さんの名前に反応し、踊ろうとした俺をミカヅキが諸々の理由で止める中、


「んなことよりも、肉、肉はどこだ」


 と、村長がワクワクしたように言う。どんだけ肉が食いたいんだこの村長


「ああ。それなら、ほれ、兄ちゃん」


 ケンノスケさんが俺を親指でくいっと指す。俺は【影の食卓部屋ブラックボックス】の中から2体の鹿を取り出そうとして、気づく


 あれ?ここで巨体の鹿を2体もだしたらリビング潰れるんじゃね?


 

 ということで庭先に出た


「なんだ?庭にも何もねぇじゃねぇか」


「あー、ちょっと待ってくださいね」


 村長さんは俺がゴソゴソと【影の食卓部屋ブラックボックス】を弄っているのを不審そうに見る


「よし、これです」


「うおっ!?」


 いきなり目の前にどーんと出現した2体の巨鹿に驚く村長さん


「おい、これどこから現れやがった!?」


「あー、これ俺の能力スキルみたいなものの中に仕舞っていたんです」


「はー、なるほどな。で、これ、血は抜いてあるんだろうな?」


「「「「あ」」」」


 俺、ミカヅキ、おじさん二人が同時に声を出す。あー、そういや完全に血抜きのこと忘れてた。仕留めてから結構時間が経っているが今から抜いても臭みとか大丈夫なんだろうか


「宿主」


「あ?なんだよカゲロウ」


「宿主、忘れたのか?【影の食卓部屋ブラックボックス】の中に入れたものの時間は止めることができるぞ?」


 あー、そういえばあったなそんな機能!


「と、いうことは・・・?」


「あの鹿、獲れたて状態!」


「ナイスカゲロウ!」


 即座に血を抜いて捌いた



 その夜は村長さんの家で鹿肉祭りパーティーとなった。


 どんなものかと思っていた鹿の肉だったが、想像していたより臭みは無く、硬すぎることもなくおいしかった。調理馴れしているイヨリさんの手腕かもしれないが。


 むしゃむしゃ鹿肉を食っていると、酒に酔った村長さんが近づいてくる


「いや~、お前すげぇな!すげぇてか便利だな!便利!そのお前さんのスキルだっけか?いろいろ収納するやつ!いいねぇ!なぁ、お前便利だしこのまま村に居着かねぇか?」


 酒の臭いがキツイし声がうるさいしあと人を便利便利と連呼しすぎだこの酔っ払い!


 ただ、まぁどこか拠点を作る、というのも悪くはない話ではあるが


「いやー、ありがたい話ですがお断りさせていただきますよ。俺たちはあてなく気ままに旅をするのが目的なんで」


 本心をぶっちゃけてしまえば、この村は辺境過ぎてちょっと不便そう。ではあるのだが、それはちょっと言えない


「あ"-?!なんだよつれねぇ奴だな。絞め殺すぞ」


 あと度々村長に絞め殺されるところに住みたくはない


 


 その後なんやかんやで宴を終わらせた俺たちは解散して細身のおじさんことミロクさんの貸してくれた家に戻った


「いやー、大変な一日だったな」


「そうですねー」


 思えばエルベールの遺跡迷宮ダンジョンでマーコと闘ったり、ダンジョンから脱出したり、変なところに転移したり、やたらでかくてしぶとい鹿を倒したりといろいろあったな


 というかこれ全部一日の出来事か。密度高すぎない?


「ああ、そういえば宿主。例の狐娘だが、容態が落ち着いたからそろそろ【影】から出せるが?」


「おお、マジか!じゃあ、ここらへんに出してくれ」


「了解した」


 目の前にぬるりと半円状の【影】が現れ、その【影】が消えると中から狐耳の【獣人族】の少女が出てきた


 一番初めに見た今にも死にそうな状態とは違い、顔色も良くなり、すぅすぅと安定して寝息を立てているのが聞こえる。うん、よかったよかった


 しかし、可愛い寝顔だな。おっと、俺はロリコンじゃない。これは、そう、親戚の小さい子がかわいいみたいなそんなアレだ。


「・・・モフモフ」


 となりからそんな声が聞こえてきた。見れば、ミカヅキが手をワキワキさせながら狐少女に近づこうしている。俺は咄嗟にミカヅキの手を掴み、止める


「なっ!?何をするんですかマスター!」


「寝ている小さな女の子に向かって何をしようとしているんだよお前は!」


「モフモフですよ!」


「モフモフですよ!じゃねぇよ!病み上がりの女の子に何しよとしてんだよ!というかそもそも第1モフモフは俺がするっ!!」


「あ、本音が出ましたね!?させませんよ!最初のモフモフは私です!!」


 取っ組み合ってギャーギャーとくだらないことで騒ぐ俺たち。と、そんな時、寝ていた狐少女が目を覚ました


「つっ、ぅっ・・・!」


 俺とミカヅキはすぐさま取っ組み合いを止めて少女に近づく


「気が付いたかっ。君、具合は大丈夫か? どこか、痛いところは!?」


 目を開けた少女はゆっくりと、上体を起こし、辺りを見回す。そしてすぐ隣にいた俺たちに気が付くと、なぜかビクリと体を震わせ、逃げるように座ったまま後ろに下がろうとする


「待って待って!私たちはあなたの敵じゃないから。雪山で倒れていたあなたを助けただけだから!」


 しかし、それでも警戒を解こうとしない狐の少女。どうしたものか、と悩んでいると


『ぐうぅぅぅ』


 とおなかの鳴る音が聞こえてきた。これは・・・餌付けタイムだな!俺とミカヅキは顔を見合わせる


 俺が【影の食卓部屋ブラックボックス】から今日の鹿肉の宴で残ったやつや、前に買った春巻きを差し出す。じっと注視する狐少女


「これは君のだから食べていいんだよ?」


 逡巡しているのか、視線はじっと目の前の食べ物を見つめるものの手をつけようとはしない。しかし、再び


『ぎゅうぅぅぅぅ』


 とお腹が鳴る。とうとう耐えられなくなったのか、だんだんと並べられた食べ物に近づき、手に取ろうとして


「ぁっ」


 と小さな声を上げる。そこで俺たちも気が付いた。少女の左腕が無かったのだ。


 そういえば前にカゲロウが言っていた気がする。"左腕はダメだった"と


「あー、えっと、その君の腕なんだけど、雪山で君が倒れているときにケガをしちゃったみたいでね。それで、きみの腕は切り落とさなきゃならなくなったんだ。ごめんね」


 実際はケガというより凍傷を起こして壊死してしまったのだが、その意味がうまく伝わるかわからなかったしケガという表現で大丈夫だろう


 "切り落とした"という言葉に反応してしまったのか、再び警戒して後に下がってしまう狐少女。うーん、これはどうしたものかと考えていると、隣のミカヅキが前に出る


「お腹、減っているんですよね?大丈夫です。これに毒なんて入っていませんから」


 そう言って、鹿肉を一つつまみ、食べる。そのまま数秒、何も起こらなかったことを狐少女に見せると


「ほらね?何もないでしょう?」


 そう言って微笑んだ。それに少し安心感を憶えたのか、ゆっくりゆっくりとだが、狐少女が近づいてくる


 なるほど、これが母性というやつか。凄まじいな


 数分後、警戒は完全に解かないまでも、もっぐもっぐと鹿肉や春巻きやらを頬張る狐少女の姿があった


「どうです?落ち着きましたか?」


 こくりと頷く狐少女。だいぶ慣れたのか、用意した毛布にくるまりながらミカヅキの隣にちょこんと座っている。なんだこの子、可愛い


「よし、じゃあ少し質問してもいいかな?」


 と、俺が怖がらせないように笑顔を浮かべながら話しかける。が、狐少女はビクゥッと体を震わせ、隣にいたミカヅキの腕にしがみつく


 笑顔を引きつらせたまま固まる俺


「なんでぇっ!?」


「マスターがロリコンだというのを感知したんじゃないですか?」


「俺ロリコンじゃないしっ!」


 しかし俺の必死な訴えによる叫びは、かえって狐少女を怖がらせてしまった。


「マスター、この子が怖がるので喋らない方がいいと思いますよ?」


 うぅ、俺もう泣きそう 



はい、ということで狐娘の登場です! いやー、だいぶ時間が空きましたね!(どう考えても僕のせい) 一番最初に出たのっていつだったっけと見返してみたら、どうやら去年の3月・・・え? 去年の3月・・・? ほ、ほぼ1年も放置していたのか・・・!?


次回、狐少女を質問攻め


あ、あと明日も昼頃に投稿できそうです

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