代打の切り札
代打の切り札。
決してスタメン落ちの能力の低い選手ではない。
彼もまた選ばれし選手である。
そして試合の終盤、時が満ちたとき、監督に呼ばれる。
監督に耳打ちされる。そしてバッターボックスとベンチの中間地点で素振りを二、三度。
九回のツーアウト。試合を終わらせるその戦士は静かに闘志を燃やす。
勝って試合を終えるために。
もちろん負ける可能性だってある。
それでもこの一打席に懸ける。結果をだすしかない。
ベンチにいる監督、選手、マネージャーの期待を一身に背負って。
「カキーン!」
高々と上がったその打球は深々と左中間を抜けていった。
打ったその戦士は走りながら右手を突き上げていた。
ランナーが一人、二人かえって同点だ。
そしてサヨナラのランナーはすでに三塁をまわっている。
センターからショートへポールが返ってきた。意外と微妙なタイミングだ。
ホームにボールが返ってきてクロスプレーになった。
主審は手を高々と上げ、
「アウト!」
落胆する選手たち。
千載一遇のチャンスを逃したその試合の結果は目に見えていた。
しかし選手たちは逆転勝ちをつかむことさえできなかったが夢見ることができた。
勝利という大きな夢を。
一人の頼もしい戦士によって。
打つだけが仕事ではない。エラーでも、フォアボールでも、デッドボールでも。
どんなに泥臭くても。
次の選手につなぐために。
次の選手に勝利という夢をつなぐために。
だからまたその一人の戦士は立ち上がる。
監督の一声によって。
「代打!」
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