花咲く娘
「…………」
『…………』
明らかに何かが走り回るようなドスンドスンという音と、それに伴って揺れる森──茶器に入れられていたお茶は波打ったあげくに床を濡らす雫と化した。
「俺は、西の森の土蜥蜴を怒らせるなと言わなかったか?」
「い、言いましたけど……」
「ならば何故、この森は揺れているんだ?」
「……わかりません」
「…………」
足音の動く向きから北に向かってるな、などとずれたことを考えながら青年は背筋を伸ばして不機嫌きわまりないジークハルトの横顔を見た。
「はぁ……」
「っ!?」
ガチャリと家の扉が開き、そこからどことなく疲れたような魔人らしい魔人が入ってきた。
黒髪に赤い瞳、褐色の肌をした男は入ってくるなり不機嫌な顔をしているジークハルトの頭をグリグリと撫で始める。
「あぁ、疲れた」
「どうしたんですか? ノワールさん」
「話の通じないヒトというのは面倒臭いと再確認したところだ」
気がすむまでジークハルトの頭を撫で回した魔人は、近くにある椅子に腰かけてため息を吐いた。
「何かあったの?」
「ん? 何だ、カインか……頭にキノコの胞子か何かが詰まっていそうな娘と話して疲れただけだ」
「キノコの胞子……」
「一応、あの子も成績は上位のはずなんですけど……」
あまりの言い草に同級生である青年と、担当であるアラウダの二人が何とも言えない表情を浮かべた。
ノワールは、その言葉に初めて二人がいることに気が付いたように目を瞬き、コソッとジークハルトに『誰だ?』と訊ねる。
「……ノワールさん、アラウダは毎月ここに来てますよ?」
「アラウダ……?」
「…………」
「甘味とお茶持ってきてくれてる子だって。お前、そろそろボケ始めたんじゃね?」
「ふむ……私がボケるということは同年代のカインもボケるということだな」
「何でだよっ、この馬鹿!!」
カインとノワールの会話を聞いていたヒトである二人は『あれ?』と首を傾げた。
ジークハルトはノワールに対しては年長者への態度を取るが、カインに関しては完全に同年代扱いである。だが、二人の話を聞いていると、カインとノワールが同年代でジークハルトは別の年代のように感じられる。
「叔父様、カインさんは同級生とおっしゃってませんでしたか?」
「……カインはヒト型をとって学園に紛れ込んでいた魔人だ。だから、実際には私たちよりかなり上のはずだ」
「「…………」」
「闇の場合、魔人化してしばらくすると破壊衝動が治まるからさ。暇だったんだよ、ノワールと居てもこいつ爺臭いし」
「喧しい。のんびりとできる趣味も何も持たないから暇だったんだろうが」
「何年も何十年も木彫りしてられるお前とは違うんだよ、普通は」
「良いじゃないか、木彫り」
「「…………」」
そういってノワールがジークハルトのしている腕輪に似た腕輪からドンッと大きな音を立てて取り出したのは、大きな岩に腰かけている水妖精の木彫りであった──実寸大の。
「……どこかで見たような?」
「学園の入り口に飾ってあるものもノワールさんの作品よ」
「…………」
大きな水妖精像に加えて、机の上には細々とした木彫りが並べられていく。
──木の実をかじっているリスに、じゃれている猫、どこか崖の上のようなところに凛と立つ狼。
そっと手を伸ばしてその狼の像を手に取れば、横に座っていた光狼も興味をもったように顔をあげて覗き込んでくる。
「買うんだったら銀貨三枚だ」
「このサイズで?」
銀貨三枚ともなれば、一般家庭が一月食べていけるだけのお金である。手のひらに乗るサイズの木彫りがそんなに高いなんて──と青年は思わず聞き返してしまった。
「それは動けなくなった木人から切り出してるからあまり安くは売れない」
「……最高級の木材で、木彫り……?」
「誰も使わないからな」
若い頃に色々なところを歩き回り、成長してからは一番栄養の高いところに根を張る木人はそこらに生えている木よりも余程いい木材となる。切り出した後も成長すると言われ、元が魔物であることも手伝ってとても頑丈なのだ。
むむむ、と悩んだ青年はそれでも木彫りを下ろすことはせずに『払え』と手を出しているジークハルトに銀貨三枚を手渡した。
「形が崩れたら持ってこい。ノワールさんが手入れしてくれる」
「わかりました」
お金を払って名実ともに自分のものとなった木彫りをしまい、揺れているのを考えなければのんびりとした空気が流れていた家の中に突如として緊張が走る。
窓際を陣取って微睡んでいた鳥がカッと目を開き、反対側へと慌てて飛び立つと同時にカインとレオの二人がその場所で魔法による防御壁を展開した。
「ジーク、フォルテ! 二人を外にっ……て?」
「ノワールさんがいるときにジークが役に立つわけないだろうが」
「……そうでした、フォルテ頼んだ」
『わかっておる』
信じられない手際の良さで木彫りを片付けたノワールはその腕にジークハルトを抱き抱えて外へと飛び出していった。アラウダは、さっとフォルテの背に飛び乗り青年はまた首根っこをくわえられて連れ出される。
家にいたモノたちがカインたちを除いて全て外に出ると同時に背後から土砂が迫ってきた。
「な、なっ……」
「また家を作り直さなきゃならないな……」
かなり離れたところで嫌そうに呟くジークハルトに言葉もなく顔を向ければ、小さくため息を吐いた後指先を先程まで家のあったところにむける。
「…………」
「だから動かすな、と言ったんだ。後始末が大変だから」
家は巨大な岩に押し潰され跡形もなくなっていた。
そしてその岩の手前には、土と岩でボロボロになったカインたち二人の姿──カインは完全に弾き飛ばされた形で離れたところにいたが、レオは岩のごく近いところでどこか困ったようにその岩を見上げながら撫でていた。
『あやつは生まれて間もなかったのだ。なのに、あの娘は……』
「あぁ、それはひどいな……」
レオが撫でているものをよくよく見れば、どうやらそれは何かイキモノであるらしかった。
全体を見渡したわけではないが、先程まではなかった山が一つ、家を潰す形で現れ──メソメソと泣き言をこぼしている様は何とも言えない奇妙さを出している。
「……あれが、蜥蜴?」
「あそこまで成長した個体は少ないだろうが、蜥蜴だ」
『あの爺様は本当に涙もろいのぅ』
「それも命を育むためには必要だからな」
大きすぎて微妙だが、どうやら泣いているらしい蜥蜴の目から溢れる涙の雫の下には水浴び気分らしい木人が何体か枝を広げて立っていた。
泣いている土蜥蜴の話を繋げると──背中の森に迷い混んだ女生徒が足元を這っていた蛇に驚いて踏み潰したのがそもそもの始まりだったそうだ──。
──獣型ではない使い魔を求めて少女が足を踏み入れたのはジークハルトたちの家から見て西側に広がる森であった。
「嫌ですわ、本当に……どうしてわたくしが土の上など歩かなくてはいけないのでしょう」
そこかしこに生えた草にスカートの裾は引っ掛かるし、お気に入りの靴は土と踏んだ草の汁で汚れるしで何も良いことがない──とブツブツ文句ばかりを言いながら歩いていた少女は、好奇心に駆られてあちらこちらから自分に向けられる視線にもうんざりしていた。
「獣型の魔族に興味はないのです。どこかへ行ってちょうだい」
『……ツマンナイノー』
ねずみ、リス、猫、狼などの獣型の魔族がその言葉に興味を削がれたように散っていく。
獣ではないトカゲや蛇と言ったモノたちはそれでもこちらを見ていたが『美しくない貴方たちにも興味はありませんわ』の言葉で散っていく。
「精霊はどこにいるのでしょうね」
少女の目的は美しい女性型を取ることの多い精霊である。精霊は場所を選ばずに存在していると赤い髪の魔人が言っていた。
少し勾配のある山道を登り、高いところから眺めれば水場が見えるだろうか──と歩いていった先で、少女は大きな岩の上に腰かけて真剣な表情で木を削っている魔人を見つけた。
「…………」
光を反射して輝く黒髪にこちらに気づくこともなく木切れに注がれる赤い瞳の視線──褐色の肌も、外を出歩いて斑に焼けたものでないとここまで綺麗に見えるのかと思うほどに美しかった。さらに横顔しか見えないが、この魔人の容貌は少女の琴線に触れるほどに整っていた。
「魔人……ということは魔族、なのよね」
ヒトと魔族の間で交わされる使い魔契約──あの美しい魔人を自分の使い魔として連れて帰ったらどうだろうか? 使い魔契約出来なかったことを嘲笑った彼女たちは自分のことを羨むのではないだろうか──ふらり、と誘われるように少女はその誘惑に抗わず、目の前にいる魔人へと近づいていった。
「ん?」
自分を囲んでいる獣たちの一匹が袖を引く感覚に気付いた魔人は、こちらへと近づいてくる少女に視線を向けた。
「……誰だ?」
『チチッ』
「ジークから連絡? ……あったか?」
『チィッ!』
ぺチッと小さな獣の手に叩かれたノワールはそれでも『はて?』と首を傾げていた。近づいてくる少女に気付いたものの、特に興味のないノワールは手の中にある木切れへと視線を戻し彫りを進める。
近づいていく少女は少女で、ノワールの姿にばかり視線が行っていて周りなど全く見ていなかった──ノワールが自分に興味の欠片さえ向けてもいないことにも──。
「貴方をわたくしの使い魔にしてさしあげますわ」
「…………」
「聞いているんですの!?」
「ん? 何だ、私に話しかけているのか?」
「貴方以外に誰がっ……」
「いや、色々といるし……使い魔の契約だろう? 私に話しかけているとはさっぱり思っていなかった」
「だから貴方をわたくしの使い魔に……」
「何故だ?」
「?」
「何故、全く知りもしない子どもと使い魔の契約をしなくてはならないんだ? それにお前では私を従えることなどできはしない」
「馬鹿にしているんですの!?」
「馬鹿にするほどお前を知らない。従える云々は、私に従う気がないという意味だ」
『契約するのならばジークの方がいい』と呟いて少女から視線を外したノワールは、気分が削がれたようにため息を吐いてから木彫りを片付け、近くにいた小動物たちを抱き上げた。
「……使い魔を探すのならばここではないところに行った方がいい。ここにいるのはただの動物たちだからな」
「……っ……」
自分に全く興味を示さないノワールの態度にワナワナと身体を震わせた少女は何を思ったか知らないが、呪文を詠唱して突然火球をノワールに向けて放った。
「…………打ち返したらジークに怒られるか」
それほど距離が離れているわけでもないので、すぐに着弾するかと思われた火球は軽く上に向けて手を振ったノワールによって弾き飛ばされ──空の彼方へと消えていった。
「え……?」
「この程度では風狼すら傷つけられないな」
何事もなかったかのようにパンパンと手を叩き、小さく吐息を漏らしたノワールは何かを呼ぶように指笛を鳴らした。
「まっ、待ちなさい!!」
「この程度の力で私たちを従えるなど無理だ。身の丈に合った使い魔を探すがいい……この地では、猫辺りが相応だろうな」
「なっ……」
猫──狼と同様、属性すら持たない魔獣の中でも下位に位置するものである。
自分にある程度の自信を持っている少女にしてみれば、その猫が相応だと言われることは侮辱されているに等しい。あまりの暴言に言葉を失っていると、ノワールが呼んだらしいモノの影が上空に現れた。
「…………赤龍……?」
簡単に言ってしまえば、蛇に足が生えたようなイキモノということになるが、リュウ種の中でも個体数の少ない龍種──その内の一種が目の前にいるのである。呆然としている少女になど目もくれず、ノワールをその背に乗せた赤龍は優雅に空へと舞い戻っていった。
「…………」
しばらく放心した後──ハッと我に返った少女はキョロキョロと辺りを見回して堪えきれないように一度足を踏み鳴らした。
「……わたくしに相応しいのが猫、ですって? あり得ないですわ」
ボソッと呟いた言葉に応えるものはもちろんいない。
ノワールが立ち去り、静けさを取り戻した場所で少女は元々の目的であった水場を探すということを優先することにした。
「……わたくしには美しい使い魔が相応しいのです。猫など、認めませんわ」
高いところから探してみれば、少し見にくいところになるが目的の水場──というより、美しい池があることが確認できた。方向を確認し、その距離にうんざりしながらも歩き出せば開けていたところが嘘のように鬱蒼とした森が続く。
「…………」
『……クスクス』
下り坂も中程になったところで周りから笑い声が聞こえる。獣型の魔獣がいることは確認できないので、悪戯好きな風妖精かもしれない──と辺りを見てみるが、残念なことに姿を見せてくれる風妖精はいなかった。
足元にも草が生い茂り、歩くことにうんざりしながらも足を進めていれば近くの草むらがガサリと揺れた。
「っ!?」
反射的にその音に振り返り、ナイフを手にするが少女の目には何も止まらない。また風妖精の仕業かと、ナイフを仕舞って歩き出そうとしたとき──目の前を横切る小さな蛇を見つけて悲鳴をあげた。
足先を掠めるように這っていく蛇を思わず踏みつけてその動きを止めさせた少女は、何も考えずにナイフを取りだしその蛇の頭を刺した。
踏まれた挙げ句に刺された蛇はじたばたと少し暴れた後、その動きを止める。刺した頭から血が流れ、ただの蛇であることを確認した少女はナイフを抜いてその血のついた箇所を近くの草で拭き取った。
「もう……ただの蛇がこのようなところにいないで欲しいですわ。汚ならしいし、邪魔ですもの」
『…………』
「……どうしましたの?」
フワリと風が吹き、血に濡れた蛇の遺体が風に浚われる。キョトンとした表情を浮かべて首を傾げた少女の前に、少女と変わらない大きさの風妖精が姿を現し、小さく頭を下げた。
『……この森は土蜥蜴の領域。さらなる怒りを買う前にお戻りなさい』
「何をおっしゃっているの? わたくし怒りを買うようなことなどしていませんわ」
『…………』
軽く頭を振って、目を伏せた風妖精の姿が消える。
契約を持ちかける暇すらないままに去られてしまった少女は『もうっ』と文句を言いながら、最初の目的である水場を目指そうとする。
「あんな蛇一匹が何だと言うんですの。森なのだから他にいっぱいいるでしょうに」
そう呟きながらイライラし始めた少女は、長閑な森の在り方にまでイラつき始める。
足元を覆う草は自分の歩みを邪魔しているようだし、完全に沈黙した風は自分を馬鹿にしているように感じた。
「そうですわ、邪魔なものは燃やしてしまえばいいのです」
それは名案、と手を打った少女は自分が進もうとする先に向けて火球を打ち出した。枯れ草ではないので、延焼することなくその近くの草だけを燃やして消えていく──うまくいったことに笑みを浮かべ、次々と草を燃やしながら少女は歩く。
『ヤメテ……』
『小サナ子が燃エチャウ』
ザワザワと騒ぎ始める風妖精の言葉にも耳を貸さず、少女は草を燃やしていく──草の葉にとまっていた虫を燃やし、草の影に隠れているねずみに火傷を負わせた。
「フフッ、最初からこうして歩けばよかったのよ」
ご満悦な様子で歩いていく少女がもう一度火球を放とうとしたとき──ざわついていた森が悲鳴をあげた。
ドスンッと地響きを伴って揺れた森に、バランスを崩した少女は座り込み目を丸くしていたが、その次の瞬間には強風に吹き飛ばされるようにして森の中から弾き飛ばされた。
何の配慮もなく弾き飛ばされた先は山を下り終えたら辿り着くであろう場所──投げ出されて汚れた服を払いながら立ち上がれば、顔をあげた先に知性を持っているとわかる巨大な瞳があった。
『……何故森を燃やす』
「あ……歩くのに邪魔だったから、ですわ」
『そのためにはそこに生きるモノたちを殺しても構わない、と?』
「見えもしないような小さなモノなどどうなっても構わないじゃない!」
『…………』
『やめて、やめて』と風妖精の声が聞こえる。
叫ぶようにして放たれた言葉に、ゆっくりと目を閉じた大きなモノは何かを考えるようにしばらく静かにしていたが、突如カッと目を開くとその体躯に似合わぬ動きでその身を起こした。
「え……?」
目の前に広がる光景に少女は一瞬呆けたような声を漏らすが、その光景を理解するよりも身体が本能に従って目の前のモノから逃げるように走り出す。
「何、何、何なのよ、アレ!」
足を重点的に強化し、脇目も振らずに森を駆けながら少女は叫んだ。
視界に一瞬だけ映り込んだのは、それだけで自分の背丈を越えるような爪──あんな爪をもったイキモノに捕まえられたら最後、自分に生き延びる術などない。爪でなくとも、あれだけの大きさがあれば自分たちのようなヒトなど丸飲みできることだろう。
後ろから聞こえるゆっくりとした足音に心の余裕を奪われながら少女は駆ける。頭の中に浮かぶのは中央の家でジークハルトに言われた言葉──。
『西の森の土蜥蜴は生きた年数が桁違いだ。失礼のないようにしろ』
今更思い出しても土蜥蜴は止まらない。
何が逆鱗だったのかは今だにわからないが、無我夢中だった少女はどこに向かっているのかもわからないままに走り続ける。
「あっ……」
あるところまでたどり着いたとき、一気に足場が悪くなり出っ張っていた木の根に足を取られて転んだ少女が慌てて身体を起こそうとしたところで、自分に向かって飛んで来る黒みがかった火球に気がついた。
「……う、そ」
──少女の思考はそこで途切れることとなる。
起こした上半身を巻き込むようにして通過していった火球は何の慈悲もなく少女の身体を焼いた。チリチリと残された下半身のスカートを燃やし、鎮火した炎と前後するようにしてその場に東の水蜥蜴よりは大きく、西の土蜥蜴よりはかなり小さい黒みがかった赤の体色をした火蜥蜴が姿を現した。
『うげっ、何コレ』
「どうしたんだい、フリード?」
『何かヒトの下半身っぽいの落ちてんだけど』
「……さっきの流れ弾に当たったのかな?」
『こっち来ないって言ってなかった?』
「紛れ込んだんじゃないかな。ほら」
そう言って火蜥蜴のあとに姿を現した青年が指差す先には、鼻先からプスプスと煙を上げながらおいおい泣いている土蜥蜴の姿──ドスンドスンと足音を響かせてこちらではなく、中央に向かって歩いていった。
「……しばらく雨が降らないといいな」
『……そうだね』
土蜥蜴が向かった先の結末を思い、一人と一匹はため息を吐いた。
「『…………』」
目の前に残された下半身を見下ろし、青年はおもむろにその足を掴むと森の中へと放り投げる。
ワッと小さなモノたちが群がり、数分も待たずにその身体はこの地から姿を消した。
青年は、木にとまっている伝達用の鳥を捕まえて話しかける、
「ジーク、聞こえるかい?」
『どうしたんですか?』
「一人、フリードの吐いた火球で死んじゃったみたいでね。服装から判断すると女の子かな?」
『……土蜥蜴に追われてそっちに行ったんですね。了解しました、ありがとうございますアルタートさん』
「いえいえ、今回はどうだったんだい?」
『一人……契約成立です』
「まぁ、良い方なんじゃない? 三分の一なら」
『そうですね』
──この森に暮らす魔人は、優しくもあり厳しくもある。一度は与えられた選択のときに、正しいものを掴むことが出来るかどうかはその人物次第である。
リュウを求めた青年は、心配してくれる蜥蜴を受け入れていれば今もこの地に立っていただろう。
光狼を手に入れた青年は、本音を隠してしまっていたら森の中で魔族の脅威にさらされていたことだろう。
美しいモノを求めた少女は、森を美しいものとして捉えることが出来ていればきっと妖精に受け入れられたことだろう。
『選べ、命を懸けて他者を尊重する道か。それとも、命を奪ったことを命で購う道かを……』
言葉を司る白の魔人は、腹に白竜を乗せて土蜥蜴の鼻先で鼻歌を歌いながら、小さな角が生えたことを誇る光狼を連れた壮年の男性が持ってきてくれた甘味を口に放り込んだ──。
三人の行方が決まり、一息。
まだまだ続く予定なのです、イメージは短編集!