24話「交易中継拠点」 金蓮
海と空を見ている。背後からは金鎚打ち、鋸挽き、鉋がけの音。大工棟梁の指示がけ。
現在、風は北から吹いて涼しく、湿気は少ない。日の光は強くてやはり暑い、いや熱いか。やはり亜熱帯の太陽は重たい。ヤンルーとは大分違う。
このアクノ島は以南のリュウトウ本諸島部から海流で隔絶していて、獲れる魚もアマナと重複するらしい。
……トマイ山では川魚すら食べられなかった。確かシゲヒロは、勝手に獲って食べていた気がする。罰当たりの馬鹿。
この辺りは海流に乗っているだけでは南北往来が難しい海域だ。今日みたいに北風の日に南へ行くのが帆船、櫂船での賢い運行方法。勿論、風向きに逆らえる蒸気船などここには無い。石炭庫すら無い。
……船を出すなら満潮時だったか。潮流の向きも見て行かないといけないんだったか。シゲヒロなら知っている。
我々の船団は満潮、潮流の状況はまだ気にしていない。涼しくなって雷雨が収まる晩秋か初冬までアクノに逗留することになっている。長期航海を控えているのに出鼻から疲労、装具の破損摩耗など不吉この上ない。まず出足は順風満帆でありたいもの。
セジン……殿下……? 様がアマナで準備を念入りにしていた理由は、ここでの長期滞在のためだった。
島ではあらゆる物が、比較すれば大量消費文明にとって不足している。
一番は鉄製品。島では採鉄が困難で、再利用や修理をするにも製鉄木材が不適。過去のリュウトウ統一戦時には鉄の自己管理を目指して禿山が出来上がり、土砂崩れで国難を迎えたという歴史もある。
大量に持ち込まれた鉄製品――主に釘や鉄骨――はアクノ島の同名市の港湾設備の拡張に使われる。桟橋、岸壁の拡張。砦と干船渠の建設。
ここはアマナと竜大陸を接続する交易中継拠点となる予定。
竜大陸は遥かに遠い。どこまで正確かは分からないが、諸国から集められた海図や運行情報をまとめると、アマナからリュウトウまでの航路を一単位とした場合、少なくとも十単位はあるという。その一単位でも神経を擦り減らした経験から正気ではないと、陸の者として思う。
温帯のアマナから亜熱帯のリュウトウを越え、熱帯海上に非暴風帯を抜けた先、再び亜熱帯に入って温帯に入るぐらい遠い。本当に正気ではない。
航路は二つ。
南西航路。ニビシュドラ、南洋諸島、水竜の巣を通る。
港も多く、人も多く、そして海賊も多い。水竜は猛威とすら言ってよい。
我々の船団は四隻で全て木造帆船。目下の強敵、海賊ファスラに奇襲を受ければ不覚を取りかねない。レン朝、帝国連邦海軍の襲撃だってあり得る。
この航路は敵制海権下にあると見做されている。
……ファスラ海賊として広く活動して、竜大陸に漂着して凶悪な野生動物相手に自活してきたシゲヒロならあの辺りのことは良く知っていた。あらゆる局面で本当に頼りになるはずだった。洋上でも海賊達に顔が利き、頭領ファスラとさえ話を直接つけにいける男だった。セジン様が代わりになるか?
もう一つは南航路。
ロシエ帝国傘下のアラック=エスナル植民地が連なる南・東大洋諸島部伝い。
ロシエとは敵対関係ではない。対帝国連邦政策を考慮するなら友好中立関係は築ける立ち位置。ただし、レン朝が我々龍朝と友好関係を結ぶなと貿易圧力をかけたならば別かもしれない。
こちらは、港自体はあるものの人口と生産能力に乏しい小島ばかり。外国船が頻繁に立ち寄るような環境ではなく、どれだけ歓迎されるか不明。真水くらいは貰えそうだが、食糧はどうだろうか? 海鳥狩猟の許可を貰えれば良いぐらいではないか?
大艦隊で遠征出来るなら征服さえしても良いかもしれないが、そんな戦力は無い。
この航路なら最低限の補給しかできない。厳しい給水食事制限で行く貧乏旅程になるだろう。
セジン様は二つの航路、どちらを選ぶか答えを出していない。情報の収集中である。
南西航路で敵対勢力活動が停滞している向きがあるならそちら。そうでなければ南航路。
何時出発してどちらに向かうかはこちら側が能動的に決められるので、情報漏洩も危惧するのであれば指揮官一人の頭の中だけで完結しているのが望ましい。
その脳内を覗けないこちら側としては腹が決まらず、懊悩としてしまう。しかしこれに堪えるのが部下の務めだろう。
心理戦、先読み争いに勝つためには知りたい欲求を抑えることだ。敵が百戦錬磨の海の猛者、海賊ファスラと考えればこれぐらいは出来て当然のこと。
奴等がどこから情報を得ているか知れたものではないが、リュウトウにその触手が伸びていない保証などない。大海賊ギーリス以来の情報網があると考えて差し支えなく、それは我々が想像も出来ない程に広大で深い。
セジン様は、部下は己に従って耐えるのは当然と思っていてそういうことを口にも出さないので、自分が代わりに船団の皆に説明した。今のところは納得して貰えている。
こういう情報整理の仕事には本来、自分も関わるのだが”金蓮は地元住民と交流して友好関係を築かれよ”とのこと。まるで女の仕事はそれだと言わんばかり、いや、言っている。
地元住民との交流は主に、アクノ市の市長の接待を受け、宴席に顔を出したり祭事に隣席すること。これで知り合いを作る。
トマイ山でのアマナ人達のような宗教的熱狂こそないが、住民達から自分は人気が出ているようだ。手を振ればわっと沸き上がる。化物と気味悪がられるかと思ったが、リュウトウの国章には龍が使われていた。古くから天政との朝貢関係もあった。
市庁舎では具体的に今後の海上交易の展望を話す。大陸を失った我々には産品など存在しないが、将来的には竜大陸から今までこの世に出回らなかった珍品を送り出せるという展望だ。
リュウトウ人にとっては珍品を送り出す中継拠点になるというのは、ほぼ唯一にして最大の事業。新経路と新商品の登場は見逃せないもの。彼等には未知なる珍品への理解がある。
リュウトウにおいては海上ならぬ海中貿易が存在する。アクノ島では海流の関係で行われていないらしいが、以南の本諸島では行われている。
方法は、様々なご馳走を浜辺や磯に夜間晴天時に並べることから始まり、人魚と呼ばれる腕のついた魚が上陸して食べに来るのを待つ。すると人魚は対価として珊瑚、真珠、貝殻、琥珀、化石、黒曜石、珪灰石、沈没船の積み荷を持って来るそうだ。毎回持ってくるとは限らないが、その時はその上陸地点にしばらくご馳走を並べないことで相手に学習をさせるらしい。
重要な何かが抜けている感じの話だ。これは余人に話せる範囲では、ということだろう。
そんな珍奇な光景はアクノ島では見られないが、成果物は見られる。
外交対価としては安上がりの、赤珊瑚の指輪、真珠の耳飾り、虫が閉じ込められた琥珀の首飾りを貰った。大変貴重な品々で、個人としてなら喜んでいいだろうが、公人としてはこんな玩具みたいな光り物で篭絡などされるものではない。女にはこういった物を渡しておけばいいと思っているのだろう。
……シゲヒロはカピリ羽でかつらを作ってくれた。こんな小娘、馬鹿女騙しの飾り物じゃなくて。
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生まれてから今日まで、自分がしてきたことは何だったのか。
タルメシャでは土地と戦争の泥沼にはまった。何か一歩でも進展させた気がしない。ただ死体を熱帯で腐らせただけ。
シャンルくんは非業の死を遂げた。もっと何か、小さいことでも大きい事でも成し遂げられたはずだったのに。将来が楽しみだったのに。可愛かった、息子がいたらこんな子かもと思っていたのに。
我が子と思っていた卵は偽りだった。この件はもう何も考えたくない。
反乱を画策して、因果応報だったとしてもシゲヒロは消えてしまった。あんな馬鹿でも夫だった。
あちらもこちらも仇か、仇みたいな何かばかり。
お母様も一体何なのか? 自分はこの世に一人だけになってしまったみたい。
セジン様は死んでも戻ってくる。別の身体があるから。
シゲヒロはきっと戻ってこない。別の身体が無いから。
今夜は月が眩しい。
宿泊している高級宿に豚便所がある。二階が便所、一階が豚小屋。尻拭きの飼料藁と人糞、残飯生ごみで豚を飼育している。今晩の食卓に上がっていた肉料理だと思う。
草食反芻動物と雑食動物、家畜の扱いは異なる。そこに一つの学びがある。
二階の便所部屋、貴人用なのでしっかりしている。母屋から屋根付きの渡り廊下で接続され、雨にも濡れない。建屋自体も隙間から虫や鳥も入って来ない、余人が使うこともない個室。
矛槍を肩に担いで、振る。便所部屋の採光窓を破り、枠も砕いて板を床まで割る。
「うぉ何だぁ!?」
中を覗く。人龍がいて、顔は良く知っている。
「シゲヒロは便所でおしっこしない」
何度言ってもその辺で立ち小便。虫がいたら追いかけて引っかける。最低の馬鹿。
「狂ったか?」
矛槍を肩に担いで、振る。人龍が避けて、便所穴の枠が砕ける。一階の豚が喚く。
「はやまるな!」
人龍は扉を破って渡り廊下を走る。
「夫を返してよ!」
肩に担いで、屋根柱に引っかかったけど振り抜いて折る。
「誰がっ!?」
投擲一線。人龍が避けて、母屋の扉を打ち抜いた。
「シゲを戻してよ!」
「戻るかっ!」
人龍が外に飛び降りて逃げる、走る。追う。
道すがら、歩哨に立っていたアマナ水兵から小銃を奪い取る。
「心が死ねば出てくるんでしょ!」
背中、心臓のあたりを見越して撃つ。当たったか分からない。
「知るかっ!」
人龍はまだ口が利ける。
「また一緒になりましょ」
「いやいやいやいやいや!」
小銃の銃身を掴んで肩に担いで、追う。
別棟で休んでいた龍人達が表に出て来た。
「お前ら見ていないで金蓮を抑えろ!」
「え、でも郡主様ですし」
「やさしいし」
「かわいそう」
「ええい、おのれ!」
人龍が立ち止まり、物干し竿を右手と脇に抱え、左手に干しっぱなしの薄い布団を盾にして構える。
「筆ばかり取っていると思うなよ! 私にはやるべきことがあるのだ!」
「お母様の言いなりでしょ!」
「ぬぅ。狂ったり正気に戻ったりと!」
方術。
「塵」
砂塵、灰埃、おが屑、糸屑、散り藁、残飯、要らない細かい物何でも。
「縄」
練り上げて縄にする。
「補」
捕らえにいく姿は真向からかかる蛇。
一本目、棒で払われる。
二本目、棒で払われる時に巻いて登り、棒が手放される。
三本目、布団に巻かれて蹴り飛ばされる。
……シゲヒロなら爪先だけで全部あしらった上に、逆にこちらを捕まえに来た。
小銃を横回し投げ。
「ちょこざいっ!」
当たったが人龍には通用せず。灯りの無い住宅地の隙間、屋根、野外の置物の中へ紛れ込んで行った。
「返してよー!」
「女は嫌いだー!」
塵蛇に追わせる。いつまで? どこまで?
■■■
あれから……記憶がやや曖昧。
桟橋の端から、足をふらふらさせながら日の出を眺めていた。漁師のお爺さんが「一人でいると人魚に持ってかれるぞ!」と声をかけてくれた。
アクノでは出ないらしいが、天候不順の時期にはたまに出るとか。あとは子供に夜更かしするとお化けが出る、というような躾話にも登場するらしい。
人間は感情が高ぶると涙が出るという。そんな姿は確かに見たことがある。例えば、仕事で詰められている官僚とか、仕事で失敗した官僚とか、仕事が渡されなくなった官僚とか。
桟橋の付け根の方でリュウトウ兵達が塞ぐように立つ。アクノ市長もいる。
「何かお話でもしますか?」
「そうですな……」
市長が手を振って兵達に散開を指示。この一角が緩く封鎖される。
市長が隣に遠慮無く座ってきた。中々、肝が据わっている方である。
「外の方にとって違いは無いようなものですが、このリュウトウは四山、北山、南山の三郡、三国とも古くは言われてきました。
このアクノ市は三国統一時に、いずれかが利益を独占しないよう、内戦にならないよう設置されたものです。ここの収益はほとんど三郡に渡ります」
「その代わり、商品が独占でやってきますね」
「はい。それは皆殺しにするわけではないのでどうにでもなります」
「仕掛けたいのですか。我々の力を利用して」
「率直に申しまして」
「私が決断することではありませんね」
「ご支持は必須でしょう」
「でしょうか?」
立ち上がって宿の方へ戻る。
歩哨に立っているアマナ兵達が反射的に担いでいる小銃を固く握るのが見えた。手の平を見せて軽く挨拶。緊張が解けた。
豚便所を修理するために大工が見積もりをしているのも見えた。
セジン様の部屋の扉を開ける。少々力が入って蝶番が外れる。
「市長を当てて、何ですか?」
「暇だから余計なことを考えるのだ。金蓮にはリュウトウを取ってもらう。正確に言うと”お姫様”になってもらう」
「は?」
「アマナを中立地帯としよう。ならばリュウトウは友好中立地帯とする。
その友好の態度を確保するには、現地政権に恩を売ること。目下売れるものは現政権打倒の武力。
そして友好を維持するためには影響力を与え続けること。地場の正統君主でもなく実権はないが、ないがしろに出来ない人気者として君に居座ってもらう。つまり”お姫様”だ。郡主号は使わないほうがいい。リュウトウでの郡号には別の意味が出てくるからな。単純に姫が妥当だ。受けも良い。
レン朝が海上拡張政策に打って出てここまで艦隊を率いてきたら普通に歓迎してやるといい。竜大陸の我々との玄関口は、裏玄関でも開けておければそれでいい。それまでの間に、人々にその身を惜しまれるような人気取りをして”お姫様”になっておくのだ」
気に入らない。否定する要素が自分の気分だけなのが尚更気に入らない。
「嫌いな女に大層な大仕事ですね」
「あれは訂正する。度が過ぎる奴は誰でも嫌いだ」
真顔、語調が強い。シゲヒロはこんな顔をしない。
「守るべき人民もいないのにそんな徒労を背負う必要がありますか、そもそも……」
「龍人と霊獣がいる。黒龍の……今はなんだ、まあいい、あれが次世代をどうにかするだろう。人的資源の補充も無い今をどうこうしなくてはならないというのは分かっているはずだ。あの年寄りはとんでもないことをやらかすが何も出来ないわけではないからな。厄介極まることに。
それに大陸から弾き出されるまつろわぬ者達がいなくなることもないだろう。それを拾うこともある。多少でも拾えばそいつらが増える。世代を重ねてな。
そして何百年後か知らないがレン朝も永遠に続かない。ベルリク=カラバザルだって長寿でも五十年が限界だろう。先も長いのに目先のことばかりに囚われるな。我々は人間ではないんだぞ。直近数十年程度の政治情勢は過ぎ行く季節の一つだ。歴史書でも一度目を通せ。何のことはない、と思うしかない」
言葉も出ない。
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リュウトウ諸島の総合面積はそれ程狭くはない。しかし大半は山と熱帯林で形成されて可住耕作面積は狭い。
道も狭くて基本的に沿岸道か沿川道のみで波が洗う岬で途切れる。その脇は藪や湿地または塩性湿地。熱帯蚊、毒蛇、毒虫、蛭、毒魚、毒貝、クラゲに人魚から色々出る。よって大軍の行軍、野営に向かない。
首都機能と要塞設備が備わっている都市は、周辺環境の悪さから大軍による包囲が行えない。また必ず海に面して港を有する。陸路輸送で人口を維持できないからだ。
大陸のような陸戦が出来る環境ではない。艦隊を繰り出す必要がある。
我々の船団が四山郡の首都へ艦砲射撃中。洋上から遠眼鏡で戦果確認中。
大陸産のエデルト式後装砲が、敵要塞砲を有効射程圏外から破壊する。弾薬庫に引火すると破壊し過ぎになるが、石壁に穴が空いて大砲が露出しても誘爆する様子が見られない。
おそらく砲弾の用意が全く無い。大砲も確認すれば整備された様子も無く錆びている。太平を謳歌してきたのだろう。
リュウトウの戦の基本は水軍を出し、防御側は水上か都市で迎え撃つというもの。
大型艦船を運用する地力はリュウトウには無い。基本的に軍船というものはなく武装商船のみでほとんどが櫂船である。リュウトウ統一後、争いも無くなれば海賊対策程度の大砲しか積んでおらず、撃沈させる火力も無い。古式の接舷切り込みを行ってようやく一隻を無力化出来る程度。並みの海賊相手ではそれで十分だった。
海賊というのは大体、小型船を操るケチなもので、儲かる貿易業に手を出せないから割りに合わないことをしている連中。食い詰めの漁師、信用を失ったはぐれ商人、反乱で船長を殺した犯罪者。こいつら相手に勝てれば良かった。
海賊ファスラのような正規海軍に喧嘩を売る連中が例外。半官半民の国家海賊、特許私掠船も例外。賊が賊であることには貧しいどころか出資すら受けられないという理由がある。
海賊相手に活躍出来れば御の字である四山水軍は出動してこない。そもそも緊急出港させるような組織、連絡網も無いのかもしれない。我々の攻撃は予兆の無い、宣戦布告無き奇襲攻撃である。
港の方では停泊中のまま撃沈された船の代わりを、陸の斜路から出そうか出すまいか迷う四山水兵――ただの漁師か?――が右往左往する姿が見られたが、未だに出港せず。
海から城、城から周辺集落、また城から海へと飛び石で攻めていくのがリュウトウでの戦い方である。
上陸作戦の方は、我が船団の後についてきたアクノ水軍が実行する。
龍人を上陸につけるかつけまいかだが、連れてきている者達は技術者、学者畑なのでやめさせた。
砲戦中に風が南から吹き始め、空気が急転するように強くなり、温かくなって湿度が上がる。船の向きが影響で変わり始めたので操帆作業が一時忙しくなる。
積乱雲が遠くで雷を作って鳴らしている。その一段奥の雲は黒い。雨が作る幕は見えないが、降雨強風は時間の問題か?
リュウトウの防御戦術の一つに、嵐が来るまで待つ、というものがある。
周辺集落を焼いて、住民を散らし、食糧を城に溜め込んで籠城して敵の餓えを、嵐避けの避泊を待つというもの。遠征を失敗させられれば、昔なら相手を財政破綻に追い込められた。
現代火砲の前では嵐待ちの戦術、意味があるだろうか?
ひかえられていた本城への砲撃が始まる。火災も始まり、敵兵に使用人達はやはり右往左往。榴弾の炸裂音に怯えて消火作業すらしていない。
「セジン様。もしかしたら彼等、降伏の手順が分からなくて混乱しているだけでは?」
「あ」
夏が過ぎる。




