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ベルリク戦記 ー 戦争の生涯 ー  作者: さっと/sat_Buttoimars
第2部:第14章『ぼくらの宇宙大元帥』

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23話「最浸透戦術」 ヤヌシュフ

 王様は面白くて凄いことを思いついた。これはベルリク兄上でも真似できない凄いことである。ちょっと思い返すだけで口から「凄い!」と出てくるほどの名案。

 名案を実行する前に、南エグセンの地盤が固まっているかを確認。

 グランデン大公国への軍事通行権の獲得は成功。ハウラの根回しが良かったのかもしれないが、ほとんど反論もなかった。変な引き換え案も提示されていない。

 これでセレード兵を直接南エグセン連邦に進駐させることができた。

 国内には摩耗や急造で品質に疑問が出ている武器弾薬が山ほど余っている。このまま不良在庫にせず送り込んで有効活用。

 南エグセン軍の編制と訓練はエデルト軍事顧問団がちゃんと仕上げてくれている。旧ベーア兵を旧ベーア式の軍事顧問団が教育しているのだから当然のように相性が良いというのも大きい。我等セレード騎兵が浸透作戦で稼いだ時間が活きている。

 南エグセン兵とセレード兵の役割分担だが、基本は全て南エグセン兵が何とかするという前提。セレード兵は局外に待機して、好機があれば介入する形態。

 あのアピラン包囲戦の流れが最善と考えられた。侵略敵を常に挟撃状態に置ける距離感を保って共倒れを防ぐ。最悪、国家が失陥しても国外からセレード兵が逆襲をうかがえるような立ち回りとする。

 次に、ベーア破壊戦争では密かに評判の良かった救済同盟を招いた。戦中戦後が重なる今、医療奉仕活動はどこでも必要。広域で活動した知識と経験も同じく必要。グランデン大公国でも活動することになり、軍民各部で横の繋がりを再構築。

 義弟のサリシュフくんはすっかり大人で、エレヴィカとは真面目で難しい話をずっとしていた。

 姉と弟で懐かしい話でもするかと思ったら一切しない。正直、二人の話についていけなかった。運営費用確保の保険事業とか資産運用とか、債権を買ってもらう集会にどこそこの楽団を招いてだとか、さっぱり。

 さっぱりというか、そういう話を自分は嫌っているようだ。頭に入らない。

 そんな中でマルリカに久し振りに会ったのが嬉しくて「デブリカにゃんにゃん可愛いね!」って言って、お腹の肉を掴んだら「むぎぃ!」って叫びながら棍棒みたいな物で折れるまで殴られた。

 何で? 大人になって会えなくなった分を埋めようと思っただけなのに。


■■■


 万の軍は国境で止められる。

 千の騎兵では中小規模戦闘を避けられない。

 百や十ならば、部下に配慮すると半端なことしかできない。

 名案とは単騎越境! 一騎の王様で男を立てる。これぞヤヌシュフ式最浸透戦術だ!

「やあやあ我こそはセレード国王、南エグセン連邦の守護者、ヤヌシュフ・ベラスコイである! 魔剣ネヴィザを継承した。俺は今、旧聖都である都エーランを目指している! 副王アルザビスに決闘を申し込むためだ! どこぞにいるのか宿敵よ!? 臆さぬならばこの足跡を辿って来い!」

 ”西方無双”の看板を立て、剣二本を中央広場に突き刺して待つ。防具としては房飾り兜、人馬型の防弾着と小札鎧に、蹄鉄打ちの装甲靴。

 この脚力だと蹄鉄がなかなか調子が良いと分かった。革に樹脂の靴底ではすぐ壊れるが、かといって素足では痛くて全力を長く出し辛い。金属片が散らばる戦場ならなおさら。

 上ウルロン地方の主都、少し前に街道封鎖を行ったカドレノ市の大通り中央公園に今いる。このような姿でそのように、偉そうな声を作って宣言した。

 ここまでの道中、旅行者か自由行動中の魔戦軍の一人と見られてきた。そして見咎められることもなく市内へ入り、軍隊が動員されることもなかった。単騎の強み、最浸透。潜入とでも言おうか。

 道行く人々が注目する。畏怖、興奮、好奇、侮蔑、不可解、色々あるだろう。怪物、異形は目立つ。

 ここまで派手なことをやってようやくやってくる警察隊。彼等の顔と体つきを見て武装も見る。警棒、軍刀、拳銃、小銃、相手にならないな。

「そこのお方、お尋ねしますがどちらからいらっしゃいましたか?」

 小さい肩で人間の男達が震えている。魔族の権威はセレード人には想像できないほど、魔神代理領共同体では高い。征服されたばかりのフラルにもその影響が及んでいる。

「ホッファ!!」

 術を軽く乗せての一喝。窓硝子と瓦斯灯にひび。警官達に通行人の一部が姿勢を崩し、中には失神する者もいる。

 仲良くしに来たわけではない。むしろ手に負えない何か、糞面倒臭い存在になりにきた。副王アルザビスを引きずり出すために。

 虫人騎士が騎馬で一騎出てくる。武装は捻じれ弓、銃床が柄になっている鎌刃銃剣付き小銃一丁、刀を二本佩いている。甲冑無しのところを見れば、今の一喝を聞きつけ急遽やってきたと見える。

 まず距離を取った状態、目が合って、こちらの間合いに入ってこない。何か言葉を考える間があってから、あちらから発言。

「先程のセレード王という名乗りは真実でしょうか」

「間違いなくセレード王である。副王アルザビスと係争中のセレードのヤヌシュフ・ベラスコイ。南エグセンの守護者」

「そちらの”西方無双”の言葉、偽り無しかとお聞きしたい」

 政治的主張だけでサイール騎士が釣れるか怪しいと思っていたが、意外な程に効果があった。最強の名乗りは戦士の逆鱗を容易に撫でる。

「大聖女ヴァルキリカ亡き今、名が折れるまでは偽り無し」

「確かに名乗り勝ちでありますな。我が名はフルーウーンの……」

 虫人が構えつつある。大腕のみで捻じれ弓を構え、小腕には小銃。二段射撃で緩急をつける気か?

 名乗りを待たず、こちらは腕を広げて二つの剣に手をかける。

「烈風……」

 弾き上げの土石散弾。

 虫人は下馬と同時に馬を盾にし、四つ足の股下から銃撃。

 馬に観衆の一部が砕ける。悪名で結構。

 敵の銃弾は、置き烈風で弾く。

「石畳返し……!」

 両のしゃくり上げから、右剣斬り下げ。

「大木断……!」

 倒れる前の皮肉が剥げた馬の背を、石畳毎、虫人毎、強く押し込む烈風で爆散……虫人がいない?

 地に足付けていたはずの虫人は捻じれ弓で地を打ち、棒高の跳ね上がりで避けていた。強い弦が音を立てて切れる。

 待つ、待つ、待つ……。

「突き!」

 時間差。自由落下する虫人が地面に近づき、反射的に受け身の姿勢へ入った直後に左剣の突き降ろし。烈風突きが当たり、胸部外骨格が剥がれて内臓露出。

 一段目。意表を突く攻防一体、烈風石畳返し。

 二段目。思考も奪って対応を単純化させる大技、烈風大木断。

 三段目。時間差で必殺必中の理想に近づく小技、時間差烈風突き。

 段の数、動きに拘らず、隙無く相手を追い詰める方法を探求しよう。場数を踏む程高みが見えてきている気がする。内なるネヴィザも”良き分身”と褒めてくれている気がする。

 中央広場に面する大聖堂の壁面に烈風剣で一筆。

 ”我はセレード王ヤヌシュフ、旧聖都である都エーランを目指す。副王アルザビスに決闘を申し込む”

 次へ行こう。


■■■


 次に目指す都市はグルテッラ市。その道中。

 街道、防風林。点々と農村に風車、河川と水車、時々蒸気機関が回る何かの工房。

 女子供老人が首を赤くして外働き。負傷の完治もまだ遠い帰還兵も働いている。馬は戦争に取られて駄馬すら珍しい。家畜不足で輸入したのか、駱駝が時々見える。

 銃後に在りそうな風景の中……覚えのある感覚が撫でる。分かった。

「烈風!」

 烈風乗せの剣で矢に当て、術風が粘る手応え、打ち払い。曲射で飛んで来た飛ばしの術矢だ。

 感知したのは目標を探り続ける微弱な風当て、のようなもの。矢を加速し進路を調整する術風とは別物。アデロ=アンベルとの会合時に一度浴びていなければ気付けなかった。

 二の矢、打ち払い。

 駆け出す。照準を外せる……か?

 三の矢、打ち払い。直進した程度では照準はそのままか?

「何のこれしき……ん?」

 目で追える飛翔体。しかし早いことは早く、型は大きいとも小さいとも言える黒点形状。

 間接照準射撃の小口径砲弾複数と認める。ここで砲撃が来た! そうと認識した後に、砲弾認識直前、遠雷の重なりのような轟音が空から渡って来ていたことに気付く。加えて一斉射に違いない。

「ふわりん……」

 砲弾は榴弾か榴散弾か? 烈風の衝撃で信管を刺激してはいけない。吹き飛ばしよりも、受け流しよりも、押し飛ばしで加速。後方へ送ってやった。

 走り去る。背後、離れた場所へ砲弾着。不発に、一部は遅発。自分の身体は既に加害範囲外。

 矢と砲弾が交互。矢が命中進路で迫り、打ち払い。その後にこちらの行く先を予測するように広範囲を一度に叩く一斉弾着。偶然の射撃ではない。

 術矢と術捜索で観測射をし、その情報を受けた砲兵隊が照準調整して一斉射、面制圧。良く連携している。

 砲兵隊は何班に分かれているだろうか? 同時弾着数は八つ。間隔から……八門三組程度? ベルリク兄上のところの砲兵ならばともかく、二組ということはあるまい。

 大変に面白い。シルヴ母上にこの手法を教えたら同じく”面白い”と言いそうだ!

 戦いとは一対一の勝負である必要も、決闘開始の宣言の必要もない。暗殺部隊を差し向けて来るとは、まあそうだろうなという感じ。

 駆け抜けて、敵の射撃方向へ飛び込む。

 直接照準射撃圏へ入る。距離はあるが互いに肉眼で確認し合う地形、角度に入る。

 敵騎馬砲兵隊――八門三組、当たった!――は砲仰角を下げながら砲車転回、交差射撃準備中。判断、調整が手早い!

「烈風跳び!」

 烈風を地面に叩き付けるように反動を受け、ふわりん巻き上げを緩衝にしつつも己も持ち上げ、姿隠しの土埃粉塵と同時に跳躍。

 弓手はあの時の、やはりアデロ=アンベルと会合した時の長距離狙撃の虫人騎士と認める。弓射だけがこの跳躍に合わせてきた。

「二段!」

 が、更に宙を烈風で打って再跳躍、再加速と方向転換。矢が空振る位置取りをした。

 空中……。

「二刀烈風剣!」

 地面にいる時と違って敵全体が見えている。役割分担している三百名弱、騎兵砲二十四門、弾薬集積所、下ろした弾薬分は荷台が空の車両複数、馬に騾馬に駱駝複数、そして虫人騎士が一騎。誰から殺せばいいか分かる。

 線で切るのではなく、面で潰すではなく、重傷を負わせる程度の丁度良く弱い烈風を飛ばし、広く砲兵達の衣服に肌を薄ら剥く。目と耳を潰す。即死せずとも働けなくなる。

 烈風剣には勿論距離減衰があるが、上から落とすと緩い。

 あの虫人は全速力で逃げていたので最初から標的にしなかった。距離感、あの名馬と思しき快速、追撃捕捉は困難だと割り切った。

 これは望んだ形の戦いではない。もっと衆目を集め、力の試し合いが感じられ、アルザビスの面子を貶めて引きずり出すような戦いにしなければ意味がない。

 勝利のらくがきを街道脇の岩に刻み、騎馬砲兵隊の面々の首を切って晒して並べた。一部は馬、騾馬、駱駝に括り付けて野に放った。

 やはり都市で目立ちたいので今回のことは教訓とする。街道を進むのは夜間か人通りが多い時を選ぶと良さそうだ。暗闘のような形は好ましくない。


■■■


 次の都市はオペロモントレ市。中規模で城が目立ち、港としては発展している。朝の早い業者が車両に荷を乗せて移動中。または門で検問中。

 夜明け前に城下町の門前に到着すると、決闘志願者が待ち構えていた。

「噂に聞く魔剣ネヴィザを継ぐセレード王ヤヌシュフであられますか!?」

 彼は虫人騎士であったが尻尾がある。声質で魔族の老若は判断し難いが、しかし勢いが若かった。魔王イバイヤース台頭後の、いわゆる量産魔族の一人であろうか?

「その通り、我こそはセレード国王、南エグセン連邦の守護者、ヤヌシュフ・ベラスコイである! 確かに魔剣ネヴィザを継承した。今は、副王アルザビスが臆さぬならば決闘せんと行動中である」

「ご事情は、相分かりました! しかし全てをセレード王の思惑通りにするわけには我らがエーラン、バラーキの御為にも応じることはできません。ここでお隠れになって頂く!」

 門前にいた人々が避難しつつも観衆と化す。まだ暗いがこれはこれで良いだろう。

 若い虫人が四本腕で構えるのは――各手には矢を二本ずつ握り、速射姿勢――捻じれ弓であるが、両端に斬撃刺突可能な穂先が付いている弭槍状。

 無声で烈風弾を連射。相当に威力は低いが、虫人が未経験の牽制打に困惑しているうちに踏み込む。

 虫人が弓射、狙いは一直線にこちらの胸。

「れっ!」

 烈風が乗り切る直前、剣に貫きの大矢が当たって、身を翻す形で弾きつつ避けた。剣の腹を胸甲部で支えなければ防御が弾かれていたかもしれない。

「風!」

 単純威力では騎馬砲兵と連携したあの虫人騎士を上回る威力ではないか?

 強い衝撃と回避動作でこちらの脚が止まっているうちに、虫人は手に備えた二の矢をもう番えている。

「烈風盾!」

 強引に突進。剛弓には強引な技で立ち向かおう。この才が光って見えている若者とは比べたくなった。

 二の矢、烈風盾を貫通する勢いで抜けてくる。

 ここは小難しくなく、両手の剣二本を重ねてただの実体で防いで、手応えの瞬間にわずかに横反らしで鋭鋒を傾け、残って余りある衝撃は胸甲と腹筋で受けて止めた。

 そのまま両手に持った剣で切りつけ、弓で防がれる。そして剣刃が食い込んだところで虫人は手回し、蹴り回しと入れて回転受け流し。咄嗟に手首を捻られそうになったので剣二本を捨てる判断をした。

 得物組み手はしない。虫人の肩を掴み全体重を掛けて逃さぬようにし、やや跳躍、勢いを乗せて頭突き。兜、頭の外骨格を共に粉砕。力を受け止め切れなかった虫人が膝から音を鳴らし、曲がった立ち膝で倒れた。

 虫人は手に持った矢を短槍として突き刺す心算だったようだが、こちらが最速で頭突きを打ち込むことまでは想定できていなかったようだ。

 ハザーサイール騎士道の本を思い返せば、武術稽古に頭突きのような野卑な手は含まれていなかったと思う。もっぱら棒をどう振ってしごくか、であった。

 とどめを刺す。頭を踏み付けようとしたら、尻尾が動く、そちらを踏み付け止める。足裏の蠢きは筋肉の束そのもので力強く、飛び出す針からは液が射出されている。毒か?

 そして当人の潰れた顔、矢を握る手は動いておらず、意識の喪失が感じられる。

 虫や蛇は殺したと思っても噛み、刺すもの。この若い虫人も同様だったか! 死に際の射精にも通じると思えば若者そのもの!

 城門脇の城壁に勝利を筆入れ、次へ行く。

 一命を取り留めたのならまた会いたいな。


■■■


 次の都市はイチェツァ市。島嶼都市国家ゼカ市の半島側玄関口として、この辺りでは有名。

 自分がカドレノ、オペロモントレ市で行った決闘話が広まっている。新聞記事にもなっているが、グルテッラ市近郊での戦いは知られていない。事件になるようにはしたが埋もれたか、後始末がされたか。

 やはり衆目の有無は大事、頑張った意味がなくなる。死人の武勇も……何か惜しいものになってしまう。

 これは自分の脚より早く情報が南下している。鉄道と電信の普及があってこそ。

 先回りしてきたのは警察でも軍隊でも決闘志願者でもなく新聞記者だった。

「ずばり目的は!?」

「副王アルザビスを討ち、南エグセン連邦への侵略の野望を断つ!」

「民間人を巻き添えにしたことについては」

「俺はセレード人だ! 戦時に敵地で何事も無いなどありえない」

 写真撮影も行われる。良く広報されれば目的に近づく。

 あれ? この記者の一団、利敵行為をしていないか。こちらに都合は良いが、世論圧力を作ってアルザビスに決闘を強いることになるんだぞ。征服されたフラル人だからいいのかな?

「ねえ、ロシエ軍って今どうなの?」

「カトロレオ峠を一時的に突破したらしいですよ。ただ進捗は流動的で、押したり引いたりらしいです」

「魔王軍はさ、まだ南エグセンに戦力投入できる余裕があるの?」

「流石にそんな情報はありませんね。あっても言えないですよ。軍自体もどこまで把握していますかね? あ、新聞買って下さいよ。戦場の記事は毎号載ってますよ。特集の雑誌も結構出てますし」

 敵地で発行された新聞雑誌を持ち帰ると情報部が助かる? いや、流石に王様の仕事ではないが。でも気になることは気になる。

「後で買うかな……あ、読んだのでいいから頂戴。何選んでいいか分かんないや」

「独占取材!」

「いいよ」

「ぃよっしゃ!」

「抜け駆けすんなよ!」

 他の記者が言い出す。

「うっせー早いもん勝ちだこら!」

 新聞記者達からの取材、雑談で目立ったせいか、人垣の中から決闘志願者が現れた。

 虫人ではない魔族で、姿は肌の色が黒人どころではない黒い硝子みたいな肌の人型。右手に刀一本を持って、左手に術力を込めて刀身に添える。術剣使いの構えで来た。魔神代理領親衛軍士官は、多少はこけ脅しが入った炎の剣を使うが、さて?

「セレード王ヤヌシュフとは貴方のことか!?」

「である! 一手御指南頂こうか?」

 その黒硝子の人、唐突に刀を鞘に納めて一礼をしてきた。

「お見逸れしました。話を聞いて参ったのですが、私の力では興業にもなりません。貴重なお時間を、ご無礼」

 見ただけで実力差というのは分かることもある。雑兵、一般人を殺戮してきた経験から弱者に手控えるという感覚は今まで無かったのだが、相手の態度を見て、こういうものかと実感する。

「あい分かった! 時にそちらの方、副王アルザビスの居所はご存じか?」

「寡聞にして。私は魔戦軍、サルファム州軍から籍を一時抜いてきた者です。エーラン軍については仔細、存じません」

 詰めてもしょうがないな。新聞記者達はこのやり取りで更に鼻息を荒くしている。話題作りは十分だろう。

「それではさらばだ! 復古の新都エーランを目指させて貰う」

「取材は!?」

「あっ……ご飯奢って!」

「喜んで!」

「だからお前だけ……! ヤヌシュフ陛下、私はワインつけますよ!」

「じゃあ一緒に来てよ」

 勝利の一筆という状況ではないが、壁外町の石屋が露天に置いていた成形大理石の見本があったのでそれを一本、フラル会社経由で売掛買いをして、門前の空き地に突き立てて文字を刻んだ。

 食事と取材はそれから受けた。フラル料理は手が込んでいて、味がしつこい。


■■■


 次の都市はペンロトナ。旧聖都、現エーランまで一日で行けるという貨客蒸気船が売りらしく、看板がややうるさい。

 街の何処で騒ぎを起こすべきかと人混みを歩いて思案。かなり良い匂いがして腹が減ったなと思ったら、恐怖もされるこの姿の、小指を誰かが握って来た。

 見下ろす。縁だけの眼鏡、地味な顔、服で隠せないおっぱい、腰、ケツの比率。

 次に良い匂いの元、惣菜パンが見た目八枚は入っている袋を掴まされる。

「エマリエ・ダストーリ。聖王親衛隊の一派と言えばお分かり頂けるでしょうか。ロシエのところのハウラの実姉です。雇い主はクロストナ様、内務長官閣下です」

 内務省の情報工作員が? 脚を止めかけると「そのまま歩いて、目線は前」と言われたので合わせる。小指から手が離れた。

「じゃあ……アルザビスはどこ?」

「要人の居所は機密なので基本的にご期待には沿えません。ただ、旧聖都エーランを目指すのは正解に近いでしょう」

「どういうこと?」

「魔王イバイヤースが首都機能をアルヘスタ、ペラセンタに続いてエーランに移しつつあります。遷都の繰り返しで中央官僚の人事が上手くいっていないようです。

 領地権益切り取り次第、攻め込んだ者の早い者勝ち。開戦当初からのこの方針は士気高揚に役立ちましたが事後統治に役立つとは限りません。各人文武の適正はそれぞれです。

 各地方に優れた官僚を設置できれば欠点は補えますが、各領主が納得する人材が誰かとなれば偏りが出ます。血を流した、我の強い者達がただ能力と潔癖さだけで認めてくれれば良いですが、そこは縁故を捻じ込みたくなるでしょう。利益誘導をしてくれるような都合の良い人物が理想になって、能力が優れているとは限りません。つまり地方官僚の人事も上手くいっていないようです。

 そこで州総督を始めに、改めて官僚を選定し直す会議を開くという話があるのです。実務的にも領土を再整理したいでしょう。戦線は膠着、ベーア破壊戦争も終結して大戦の重心も中大洋西部に移ってきています。資源利用効率を改善しなければロシエに押し負ける懸念があると思われます。

 エーラン奪還の儀式にかこつけ、一種の祭典状態を演出して強引な人事を行いたいはずです。統率に欠ける寄せ集めの状態も改善したいはず。新たな中央集権体制に従うか逆らうかをそれで試し、結果次第では功臣の粛清へと繋げたいでしょうか。

 と、かなり推測が入っていますが、長期戦を見越せば必要な行動です」

「話が分かんない。つまり?」

「エーランで、副王アルザビス不在で進めては都合が悪い会議が行われる見込みです。つまり、当人がやってくる可能性が高い。女の勘で論じていいなら、極めて高い」

「分かった! これまで通りにすればいいんだね」

「そういうことです。新聞もその話題で賑わっていまして、副王アルザビスは余計な戦争を仕掛けて魔王イバイヤースの足を引っ張っている、という噂も立つようになりました。国の二番目に対して不敬発言はまずいので噂程度の弱い言説ですが。ヤヌシュフ王におかれましてはご慧眼であられますね」

「あんまり難しいことは考えてないよ」

「かつての古代エーランは全て首都に通じるよう街道を整備しましたね」

「うん。ん?」

「……私は陛下のこと好きですよ」

「そうなの? ハウラは違うみたいだったよ。顔だけ笑ってて」

「あれは自分の思い通りにいかないと機嫌損ねるんですよ。ガキなんです」

「うん? んー」

 分からないことを考えている内に情報工作員エマリエは人混みに紛れて消えていた。

 パン入り袋を持って、前例通りに中央公園へ。

 適当なところに座ってパンを食べる。具が乗って味が濃くて塩と油っけが強くて、こう、美味いには美味いがしつこい。単純な塩茹での方が好みだ。これじゃ何か飲みながらじゃないと喉を通り辛いな。

 現在、中央公園は一般人も当たり前に利用しているが軍人の往来も頻繁。

 パン袋の中には冊子が油紙巻きで紛れていて、様々な情報が載っている。その一つに魔王軍の情報が書かれていた。

 魔王軍と見做されている軍事共同体の構成は複雑。

 魔王直参軍。ハザーサイールの正規兵、量産魔族が主力。

 副王軍。裏アレオン及びサビ兵が主力。

 諸侯軍。ハザーサイール及び魔神代理領中央の非正規兵が主力。

 ペセトト団。マフキールの息子アリルが再編したペセトト妖精集団。アレオン水道での活動が主。水上都市の運用に長ける。

 イサ帝国義勇軍。鬣犬頭の獣人兵が主力。人間の奴隷兵が一部いる。副王軍に協力。

 フラル解放軍。フェルシッタ傭兵団中核の反教会派フラル兵。徴兵制を導入しないことで人心掌握中。

 北部同盟傭兵。蜥蜴頭、獅子頭の獣人及び黒人傭兵。フラル解放軍に協力。

 ギーレイ傭兵。黒犬頭の獣人傭兵。北部同盟とは業務提携している。

 魔戦軍。魔神代理領共同体各地から集まった兵。正規、非正規混合。指揮官エスアルフは魔神代理領中央の意向を強く受けている可能性。

 ペセトト廃帝軍。新大陸から遠征してきたペセトト妖精兵。最近になって自殺的な戦闘を停止。

 大きく分けるとこんな感じらしい。冊子の挿絵があると何とか見分けられるような。

 改めて見るとこの街、ペセトト妖精が多い。各所に駐留している部隊が違うのは当たり前であるが、冊子の通りに合従連衡体。特色が出る。

 通りすがりの反教会派フラル兵らしき男に話しかける。

「あれってペセトト団?」

「いえ、あれは本土? 軍ですよ。魚とか蜥蜴みたいな仮装してる連中は」

「廃帝の軍」

「そう、それです。ペセトト団は最近になって軍服揃えましたよ。仮装してなくて、どっちかというと話が通じる方。港で時々見ますね」

「ありがとう」

 お礼に惣菜パンを一枚上げた。

 それから改めて”西方無双”の看板を立て、剣を二本、石畳みに突き立てる。

「やあやあ我こそはセレード国王、南エグセン連邦の守護者、ヤヌシュフ・ベラスコイである! 魔剣ネヴィザを継承した。俺は今、旧聖都である都エーランを目指している! 副王アルザビスに決闘を申し込むためだ! 何処ぞにいるのか宿敵よ!? 臆さぬならばこの足跡を辿って来い!」

 ペセトトの妖精達は兄上の国で見る妖精とは、服装は当たり前だが肌の色に耳の長さも違う。けれども何だか知らないけれどわっきゃわっきゃと楽しそうなのは一緒。

 決闘者を待っている自分が面白いのか妖精達が、ぺたぺた裸足を鳴らして集まって来る。

 分からないペセトト語で騒ぐ。

「ケロヨーン、ケロッペ」

「パコーン、ノメッチョ」

「バクッポー、ヨシコー」

 触ってくる、登ってくる、ぶら下がってくる。ほぼじゃれつく犬。

 手の甲をぺしぺし叩かれる。叩いてくる妖精を見ると猫打撃の構え。

「オスルン! ぼう、ぼー!」

 とりあえずお返しに、その頭を撫でたら喜んで転がった。

 その妖精の中で亜神と呼ばれる魔族化妖精がいる。姿は様々で一定ではない。雰囲気はどちらかというと宮廷貴族、神殿神官といった雅な感じで、自分が催す決闘には全く興味がなさそうだった。一瞥すらくれず、珍しいという視線の一つもなかった。

 場違いが過ぎるかと思わされ始めた頃、髑髏型の透明な水晶甲冑を装備した亜神がやってきた。顔は白毛の獣人風、兜は脱いで左脇、得物の棍棒のような剣は右に提げている。そして普通の妖精がお付きでいる。

「高貴な戦士、卿が、馬とプルシテモゥユ」

 お付きが亜神を指差し、次にこちらを指差し。その言葉はたぶん、あれだ。

「決闘を所望だな!?」

 この言葉で亜神は兜を被った。合意と見做す。

 突き立てた二本の剣を抜き、同時に切り上げ。亜神が棍棒剣で受け止めた。直後に、

「烈風剣!」

 刃で相手を捉えた直後に烈風を放つが、気持ち良いくらいに滑る手応え。まるで冬の湖面。

「からの烈風圧ぅ!」

 瞬間斬撃ではなく、圧で亜神を包むように捉えて九ないし十穴を潰しにかかるが手応えなし。対瓦斯のような気密か?

 剣を何度も振るって亜神に切り込み、防がれ、膠着状態のようにしながら圧をかけ続ける。窒息に至らないか?

 攻め手を変える。剣で叩いて蹄鉄蹴りも入れて押し込む。生身に衝撃が入っている気がしない。

 手応えが変わる。打っても根の張った石塊に当てたような押し込みのなさ、そっくりそのまま力が跳ね返ってくるような反動の強さ。水晶甲冑の関節部、隙間が一瞬埋まったようにも見えた。

 攻め手のない防御など決闘にならない? 何度も打って、跳ね返りの手応えのみでこちらが疲れるだけ。

 戦局打開、一度距離を取って手を休めようとすると亜神から打ち込んで来て、こちらが受けに回る。

 受けに烈風剣を使って弾いて攻め手へ逆転すれば、また根を張る石の手応え。

 水晶越しの亜神の顔、胸、呼吸は正常。疲労感は分からないが追い詰められた雰囲気はない。

 探る。まずは剣二本を相手に押し付けて動き出しを封じながら、

「烈風輪転斬り!」

 烈風を一度に叩き付けず、回る車輪のように細かく放ち続けて水晶甲冑のあるか分からない弱点を探る。

 烈風越しの手応え、滑る中で震える箇所を見つけた。薄板重ね、内向きのたぶん換気口。そこへ通すように……通らない。

 これはわからない!

「だが分かったぞ!」

 亜神を掴んで持ち上げ、水路に投げ込む。浮いてこない。

「泳げるの?」

「アクシュマッ」

 お付きによると、たぶん分からないとか、無理とか、否定的な感じ。

 中央広場に面した商店から縄を一本借りて水路に垂らす。少しすると手応えがあるので引き上げると髑髏戦士が釣れた。

「私は泳げないんだよ。このっ、馬っ、ぼけちん、チクマルチョク」

 付き人よりフラル語が流暢。何だったのか?

 勝利の一筆を中央広場、階段側面の壁に刻む。

 髑髏戦士もペセトトの言葉で刻み始めた。他の妖精達も集まってきて刻み、それは職人の上手さで集合していって新しい彫刻と化した。


■■■


 遂に到着した。激戦の末破壊され、征服された旧聖都。復古名は、その名もエーラン。

 瓦礫は撤去済み。復興は港から優先され、旧エーラン地区と呼ばれた丘に向かって手がついていない。

 街並みは復活したとは言えず、欠損した建物も直されてはいるが、同素材に同技術は使われず継ぎ接ぎ状態。招いた大工の影響か、魔神代理領諸国の乾燥地域風の意匠が強くなっている。

 天幕張りも目立つ。基礎工事なしで、杭や石に綱を巻いて屋根を押さえつけて嵐に備えているような掘っ立て小屋も目立つ。

 人種も他所から流入して来た非フラル人が多い。貧民だけが行く当てもなく残ったような景色である。

 エマリエの情報通りか、会議のためか随伴者を多く揃えた要人の一団が複数見られる。我が主人をより良い宿へとお連れしよう、という意気込みで口論して殴り合う下男の姿も見られた。老いも若きも、そんな姿は可愛らしい。

 一方、この程度の宿争いをやらかす連中でもあるとも知れる。野蛮と言われるセレードでもこんなことはなく、偉い奴が差配して場所を決める。こいつらは、それすら決められない。

 あまり統治に首を突っ込む王様ではないが、功臣の粛清をする段階というのは分からないでもない話。言っても言うことを聞かないという雰囲気はあの馬鹿騒ぎで感じ取れる。

 それからカラドス騎馬像が目印の広場へ移動。エマリエの冊子にはここが決闘場としておすすめだとか。

 戦火を逃れたその像の下で、剣二本を磨り減った石畳に突き刺し、”西方無双”の看板を掲げていると目立つ人物と一団を発見した。虫人で、正装の他は短刀一本を下げるだけの貴人である。

「そこの方! ただならぬ雰囲気の、尾のある貴方だ! 我が名はヤヌシュフ・ベラスコイ、セレード王である。今、副王アルザビスに一騎討ちを申し込むため名を売って回っている最中だ。腕に覚えがあるならば一つ仕合おうではないか!」

 貴人は、虫人の付き人を多く揃えていて見るからに相当な高位者。主人を守ろうと人垣ができるが、その主人はそんなものはいらないと、衛兵指揮官の肩を掴んで退くように促した。

「不思議なことをしているね。まるで騎士道物語。セレードにも騎士道というものはあるのか?」

「ない! セレードにあるのは戦術である」

「申し訳ないがこの身体、私一人のものではない。受けることは責任からできない」

「あい分かった! 時に副王アルザビスが何処にいるかご存じか?」

 もしくは本人?

「これだけ騒ぎになれば知るところになるだろう」

 これだけ。この人物が脚を止めただけ、で群衆が集まってきた。目線、仕草、敬礼の数々。これが噂の魔王イバイヤースか。

 その首で侵攻は止まるか? 総攻撃の合図になるか? 流石に帝国連邦議会と話し合わなければ刃を向けられない相手だな。それくらいは分かる。

 魔王イバイヤース一行が通り過ぎた後、観衆からアルザビスを狙っている件について色々と質問を受ける。一般人はとりとめなく、こちらの新聞記者はずけずけと。魔神代理領から来た記者からも聞かれた。

 とにかく「南エグセン連邦の防衛が目的である」という認識が共有されるように発言した。エマリエの冊子にもそういった世論を形成すべきとあった。

 一般人への被害には抗議の声があったが「戦時ということを忘れているのか?」と言うと、黙ったり黙らなかったり。

 個々人、好き勝手に口を動かしている中で銃声。連発の仕方から威嚇射撃と断定。

 蹄の音、砂漠の馬にしてはかなり重たい。群衆が声を上げて逃げるのが分かる。

 完全武装する多腕の重騎兵の突撃、迫る。

 その異形、一見して姿が理解できない程”盛って”見えて、乗馬の姿勢が理解できない。何をしてくるのか分からない。

 術矢の気配、人々の頭と肩の上をかすめる。

 問答無用、セレード人が何をするかは既に説いたのが慈悲。

 しゃくり上げ。

「烈風石畳返し!」

 石畳を烈風で砕き散らして、群衆と術矢を弾き飛ばす。カラドス騎馬像も削る。

 死傷者累々。しかし重騎兵の突撃には制動の気配もなく、一般人を弾き飛ばし、踏み付けながら槍が急に伸びた!?

「ぅう剣!」

 槍先を烈風と剣二本で叩き伏せて折る。

 見事、隠しの騎兵槍! 槍の柄をこちらの目線に合わせて見せぬよう背後に伸ばし、直前でしごき繰り出したのだ。

 次、二の槍!? 腕何本? 兜で跳ね上げ反らし……損ね、顔側面抉って兜裏を突かれ、兜を弾き飛ばされた。

 恐ろしや、隠し槍に影槍の二段騎兵突き! ネヴィザの目でなかったら顔から砕けていた。

「巻き上げ!」

 剣二本で切り上げと圧強めの烈風、装甲馬を減速させ顎下を粉砕。

 重騎士、馬上から跳躍。下の腕で構えるのは軽機関銃!?

「烈風盾!」

 連射される銃弾、烈風で弾き飛ばしながら跳躍。

 今までとわけが違う、痺れる!

 相手が落ちて地面へ、こちらは地面から宙へ。

「二刀烈風!」

 上から烈風剣を放ち下ろし。しかし手応えなし、術相殺の気配。

 虫人奴隷騎士は矢を遠くへ飛ばすために風の魔術を好んで習得する。烈風剣に合わせ、打ち消すことができても不思議ではない。

 烈風で空中二段跳び、重騎士の背面取り位置へ。

 ”盛った”姿勢が見えて来た。背面を取るこちらに捻じれ弓が向いていて鋏――大の二本指――で番える矢は三本。水平位置は不揃いで矢筋が即座に理解できない。

 重騎士の不規則束ね射ち、術矢の気配。

 避け、捌き、防ぎ、何?

 烈風足掬い。自らを横転させ、水平三矢を避けながら重騎士の踵を剣で切りにいく。すると蠍の如き尾に叩き落とされ、且つ、曲棘に巻き上げられて剣を取られた。

 達人! これがアルザビスでなかったなら何なのだ!

 蠍人がこちらを向く。その動作は尻の飾りに見えていた、畳まれていた三と四本目の脚。転回が不自然に速い。

 五本指の下段腕に軽機関銃、弾帯。

 五本指の中段腕に銃剣付き切り詰め連発小銃二丁。

 二本鋏の上段腕に不規則束ね射ちに矢を三本番えた捻じれ弓。

 股下の曲棘の蠍尾は脱力。

 二本脚ができない動作をする四本脚。

 六肩四脚一尾の異形も異形。手足の多さに比しても胴は細くない。全身甲冑、更に装甲板を追加するように武装の取り付け数多。

 蟻人でも体操が煩雑に見えたが、これを制御? 怪物中の怪物。”西方無双”の看板、取られて悔しいことがあるか?

 今、こちらの手足が使えないなら。

「ホッ……」

 烈風の無声が弱く、発声が強いなら、声にならぬ程の”烈風絶叫”。

 肺の空気では足りない。腹から烈風を作って口から響かせる。

 蠍人が放つ矢弾は全て弾いた。堪らぬか、相手は身を捩りながら後退り。

 観衆の人垣、肌が裏返るような血だるまになって崩れる。空から鳥も落ちる。

 口と喉に胸の中が裂けて、声と一緒に血が噴く。

 立ち上がって進む。

 烈風剣を剣から出すのは身体が傷付くから。

 これから蠍人を捕まえて烈風輪転斬りを腕がもげても直接入れてやろう。あちらの装備は呪術刻印仕込みの水晶甲冑より出来が悪そうだ。

 突如、目前に壁。石畳混じりの土から腕が生えて自分の肩を掴み、正面に虫人の顔が浮いた。

 人間の唇ではないがたぶん、その虫の口は”それまで”と言った。もう耳は役に立たない。

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貴人の決闘は互いの「格」がないと成立しませんけどヤヌシュフ君腕っぷしと格全振りですもんね ちゃんと申し込めるし無視されないだけのお立場がある
王様個人で喧嘩売りまくりながらの敵中浸透はありそうで無かった新ジャンルかも ヤヌシュフ君ここまで強くなってたのかと思いつつも上には上がいるって感じですな 水中戦はセリン、遠距離は重砲シルヴが明確に強い…
大将首狙いの決闘の押し売り歩き。 強い魔族じゃないと出来ないけど、強い魔族でこれやる馬鹿は殆どいなかったんじゃないだろうか。 最後の土魔術はイバイヤース?仲裁か、加勢か。 決闘に横槍入れてウヒヒする…
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