・12と1/2話「僕達がお守りするよ!」 ジールト青年
宇宙大元帥閣下さんは僕達がお守りするよ!
対装甲銃を構えたまま。銃把はブットイマルスの柄の加工。
龍道にあるこの高台、山の峰より崖を挟んだ向こう側。台地で事件が起きている。
狙撃眼鏡の丸くて狭い視界から見える。
龍帝は顔を横向き、大顎で標的を逃さぬよう幅広い水平開きで噛み付き。
大元帥、義手を龍帝に向けて仕込み銃で射撃。
顎右奥歯茎命中、筋反射収縮確認、右顔面を地に擦って減速。砂埃立つ。
流石大元帥。
第一射呪術誘導弾。
「命中、目を閉じた。跳弾確認、射入角浅い」
観測手、妻アーラ。おケツも脚も良ければ目も良い。この呪術誘導弾まで作ってくれる名人。
大元帥、噛み付きを顎下側へ移動して避ける。
龍帝は閉じた目で追えなかったせいか角度を変えての追撃が出来ていない。顎を閉じ、歯応え無しと確信するまで少し動きが止まる。
痛覚のようなものはあるようだ。
「徹甲弾を撃つ」
弾種変更、装填。
「引き続き無風。弾道落ちるの分かってるね」
「うにゃん」
アーラの忠告。言われないと忘れることもある、かも。
第二射用意、徹甲弾。
駆け寄った人龍、茶色鱗のシゲヒロが大元帥を担いで柱が林立するところへ退避した。
龍帝、鎌首を上げて柱の上から俯瞰で大元帥を捉えようとする。単純突進しか出来ないような獣の追撃をしない知能がある。
「角膜固いかも、内眼角狙って。凹んでるから着弾しても安定する」
「なるほ」
第二射徹甲弾。引き金は、落ち葉が水面に落ちるが如し。
「命中、眼球裏に入った。出血認めず」
龍帝、上から潰すように頭から下降。
第三射用意、徹甲弾。
大元帥が杖投げ、投槍軌道、龍帝の鼻孔内へ。シゲヒロ、その鼻から逆噴射される爆風から大元帥を背中で庇う。
埃が舞い上がって視認困難だが、頭突きというか鼻突きは二人に直撃していないように見える。人間感覚だと前後不覚になるくらい痛そうだが。
「龍人王接近、最優先」
第二観測手兼戦術助言者、同志ピエターの警告。
「目標龍人王へ……」
アーラの指示に従って照準を別目標へ。
「……人龍シゲヒロ、能力喪失と推定」
遊底を操作して徹甲弾排出、呪術誘導弾装填。
「陽動班出撃」
「了解」
同志ピエターが指示する。この高台からイスパルタス、槍頭、鋸頭の三名が滑空機で突入。サメさん達が空を飛ぶ。
第三射呪術誘導弾。
「命中、頭部破損、倒れる」
龍帝は林立する柱の中に全身を埋もれるようにし、大きくとぐろを巻いて暴れる。巨体を活かした単純で一番殺せる動きか。大きく埃が立って、剥がれた白い鱗が舞って台地を隠すようにする。完全に二名を見失う。
「龍帝の頭、脳みそがたぶん無い。喉奥に小さい龍の影確認」
アーラは物の陰も見通す術が使える。
第四射用意、徹甲弾。
「その小さい龍が心臓部、化けた黒龍公主の可能性が高い」
同志ピエターから助言。長年龍朝にいた言葉は信用に値する。
第四射徹甲弾。
「命中、白い鱗の剝離のみ。黒い鱗に損傷無し」
黒くなっていく龍帝、暴れる動きが緩慢になってまた鎌首上げる。視線、鼻先、イスパルタスに向く。
理由は不明。飛行物体への警戒心が強いのだろうか? ともかく早期に陽動が有効になった。
「北征巡撫確認。一番高い柱の上。目標変更」
第五射用意、呪術誘導弾。
「待て停止! 北征巡撫への射撃停止。大元帥を助けるかも」
同志ピエターの静止。引き金から指を離す。
北征巡撫は大声で龍帝に向かって何か喋っている様子。騒動を収めたいような気配がする、が?
陽動班は地上に降りて銃撃開始。龍帝の頭突きを、飛び込むように地面へ潜るようにして地上へ移動、避けた。
そしてまた龍道にサメさん三名は出現、化学複合弾頭弾を銃口に装填した姿。龍帝に射撃し、王水や水銀の酸毒混じりの散弾を命中させる。対龍人を想定した兵器だが、相手が巨体過ぎて効果は不明。
ただ陽動には成功している。だから良し。
「大元帥確認、柱の、左端から七分の二あたり」
倒壊する幾本の柱の隙間、埃の中からシゲヒロを担いだ大元帥を確認。
「右から別人龍!」
そこへ駆け寄る、金色鱗の人龍を確認。照準調整。
「金蓮は様子見!」
同志ピエターの指示。さて?
金蓮郡主、力が抜けているシゲヒロを大元帥から預かって、手で幕でも開くようにして地上への出入口を作って消えた。龍道地上間の移動の便利なこと。
「北征巡撫、地上へ移動確認」
北征巡撫の移動する術は巧み過ぎるのか瞬きの間に消える。注視していないと気付かない速度。
「大元帥助ければいいのにね」
「そこまでじゃないんじゃない?」
そんなものかな? 金蓮郡主はシゲヒロが、北征巡撫は女帝さんが大事なだけだっけ。同志ピエターから色々聞いたけど。
「救出班出撃」
「了解」
同志ピエタ―が指示する。この高台から獣人メハレム、金鎚頭の二名が滑空機で突入。ワンワンも空を飛ぶ。
龍帝が陽動班の相手を止めて、再び大元帥に目を向ける。陽動班からの小銃射撃、小銃擲弾射撃にも一顧だにしない。黒い鱗への損傷は見られない。重砲が必要?
第五射呪術誘導弾。
「命中、喉には入った」
龍帝、急に首を傾げるようにしてから崖下に飛び込んだ。それから地鳴り、長く続く。地中に潜った? 一応、急所に当たったと判断して良いか。それとも驚いただけか。
「救出班合流……龍人王動いた」
第六射用意、呪術誘導弾。
メハレムが滑空機から飛び降りながら――立ち上がる龍人王の欠損した頭部目掛けて擲弾矢射撃。命中、首から上が爆散――地面に転がりながら受け身、立ち上がる。
大元帥がメハレムの耳の裏を撫でて、金鎚頭を拳で叩いてお褒めの言葉をかけている様子が見えた。
金鎚頭が順に、メハレム、大元帥を抱えて地上へ行き来しての脱出を確認。
同志ピエターが信号弾を空に撃つ。
陽動班が脱出する。
こちらも脱出用意。対装甲銃や観測器具を鞄にしまう。
「はいじゃあ、入って入って」
アーラが予め踵で地面の砂を掻いて作っておいた円がある。自分、アーラ、同志ピエターが中に入って、荷物も足元に置いて――一番大きいのは野営具――術で地上に移動。まるで穴に落ちる感覚なので踏ん張る必要がある。
「おわっと」
空気が変わってヤンルー壁外。収穫が終わった畑の真ん中。たたらを踏む同志ピエターの脇を掴んで転ばせない。
地上、龍道を移動する術には個人の”癖”が大分左様するようだ。
イスパルタスからコツを伝授されたアーラの術では、円を描いて出入口を作り、そこに落ちるという癖がある。
”飛び鮫”バイクルを継承したサメさん達は水中飛び込みの動作が必要になる。
我々の後に続いて、飛び込んできたかのように鋲頭のサメさんが隣に出現。ゴロっと地面に転がって受け身、立ち上がる。
「ちゃんと戻ったな。俺等目立つから、じゃ」
「ご苦労様でーす」
「ばいばーい」
鋲頭が龍道へ飛び込む。これも”癖”に左右されるみたいだが、サメさん達は飛び込み先の融通が結構利くらしい。水中から、どこの水面に出るか泳いで選べる程度に。アーラの場合は、複数の人と荷物を巻き込めるけどあんまり位置は選べない。事前に何処に出るかは見通せる。
あの高台、狙撃拠点を見つけるまでやや時間がかかった。サメさん達の協力があったから頃合いには間に合った。
「皆で協力、皆で特務、ブットイマルス団が大成功!」
諸手を上げる!
「大成功、ホゥファー!」
同志ピエターも上げる。
「大成功、フッラーイ!」
アーラの手を取る。
「だい、せー、こー」
「はいフライフライ」
「やった! ねえねえ同志ピエター、ご飯の美味しいところ教えてよ」
「宮殿が一番美味しいよ!」
噂に聞く天下全席!? 金を出せば食えるというものではないはず!
「そんなことより子供のところ戻るわよ。いつまでも預けてられないでしょ」
「えー」
「えーじゃないの! ピエターさん、メハレムのことはお願いします」
「うん分かった」




