08話「晴れ姿」 金蓮
やっとはっきりとした足跡が見つかった。
「指は六本。五本の場合、このもう一本は蹴爪か滑り止めか。まともな生物ならそうだ。そのまま指六本なら、奇形じゃないなら何か違うんだろうな。
体重の掛け方は二足歩行じゃない。大きさの割に歩幅は細かいようにも見えるが、六本足で腹を地面に向けて這う姿勢だ。
で、六本足のようだが、岩に付いた傷からその内二本は物を掴める腕の可能性がある。斜面程顕著なのが痕跡の散らばり具合で分かる。重い体重をそうやって制御している。
尾の痕跡を見ろ、あるがわずかだ。基本的に引き擦っていない。勾配に差し掛かった時に跡を地面につけて長い一筆描き。角度の問題というところ。岩の側面にはほとんど擦り付けていない。水泳能力のためにも見えるが正直分からん。
身体の操作に長けていて、海獣のような肥満型ではなく、ムカデのような機敏性が想像される。で、この踏み込み、見ろ、まるで飛び込みの入水だ。この鯨みたいな巨体で宙に跳ねるぞ。とすれば四つ足の獣のような跳躍性もありそうだ。狩るとしたら相当な獲物になるな」
シゲヒロが痕跡からどのような生物かを断片的に導き出した。
龍道各所にある、結晶化していない埃のように細かい塩の溜まり、水無しの塩海を前にその足跡は消失している。
塩海へ石を投げ込めば底無しの底へ落ち、出来る空洞はすぐに塩の自重で潰れて消えてなくなる。落着音も聞こえない。地上には存在し得ない難地である。尚、この地形の命名はアマナ龍道教に拠る。中々、蛮族の割りには出来る。
目の前にあるのが塩海か、ただの塩砂漠か判断するために石を次々と投げ込む。全て白い一面へ飲み込まれては消えた。
きっと秘密が覆い隠されている。
「どうやって潜るの?」
「は? 馬鹿お前、こんなわけ分からんところに飛び込む馬鹿いるかよ。馬鹿しか行かねぇよ。第一この塩っぽいなんか、これ何だよ? やべぇ毒かもしれねぇだろ。表層が塩でもなぁ、中層にいったら変な、工業廃棄物みたいな? 変なのかもしんねぇし」
「馬鹿ならいいんでしょ馬鹿なら!」
飛び込みの踏ん張り!
「やめろアホ!」
身体が跳ばない!? シゲに背中から抱かれた。
「放せー!」
「そもそもこんな装備でどうにもなるか!」
自分とシゲと龍馬騎兵四騎の小規模編制。刀弓、小銃の程度。
龍道における唯一文明拠点、中核、霊山を警備して周辺を哨戒する龍人龍馬の騎兵がいる。彼等が活動開始以来初めて我々以外の”動体”を確認した。高所から遠く、地平線という表現も怪しい”果て”ということで岩石の崩落も疑われた。静かなる龍道も時に風化現象が見られる。
アマナ龍道教における唯一の龍道生還者の言によれば”白面龍王”との異名が相応しい龍が確認されている。それかその類縁の存在も疑われた。
現存する本物の龍は龍帝のみで、外部刺激に反応せず生死等不明。残るは死因不明の亡骸が墓場と呼べるようなところに固まっているのみ。
龍道から大陸外まで行ける母、黒龍公主でも記憶と勘が働かない事態である。日を経るごとに外部や過去への関心を失って聞いても分からない。頼りに、悔しいが、ならない。
”動体”を調査するために六騎で確認しに来たところ、この顛末。タダで帰れるものか!
「嫌ぁやー!」
「お前等このお嬢ちゃまを抑えてろ。もう一旦帰るぞ、良い予感がしねぇ」
「お前達、誰の命令を聞くのよ!?」
龍人兵四名、多少考える素振りをしてから自分を羽交い絞めにした。
「なんでよぉ!?」
「えーさてさて、地上への間口を切り裂く。裂く……これだ」
シゲ、抜刀、空間斬り。間口を開き、その先を覗く。
「これどこだ?」
霊山勤務が長い龍人兵が、違う空気を吐き出す、繋がった先を覗き込む。
「どこかの藪ですが。湿度、温度、太陽……碧右道より南まで出たかもしれません。あの蝶、北で見ません」
「やっぱ仙術はわかんねぇな。来た道戻るか」
■■■
庭園では三名と一匹が円を組んで革球を宙へ蹴り合って落とさないようにしている。
シャンル皇太子はお上手。貴人も庶民もする遊戯だが、皇族となると天候にまつわる祭祀で行う。古くは蹴鞠下手で皇位継承順位から下げられた者がいたという逸話もある。
小人のお豆。素早いが手足が短いので下手に見える。頭突き動作で補うこともあるが、衝撃の瞬間目を閉じるので調子をここで崩す。
大山犬の公安号。痛がる様子も無く鼻先で当て上げる。これは見ているだけで面白い。「ハッハ」と舌を見せ、尾が振れる。
シゲヒロ。手加減仕草で右手で左足を後背で掴んだまま片足跳び。尾は股に挟んで使わないように。蹴り上げは達人。
「広肚餡かけ!」
「黒糖揚げパン!」
「ワフ」
「鮑の刺身!」
「あ、シゲ、また鮑って言った!」
「若芽酒!」
「何それ?」
「桃饅頭!」
「シゲだけで蹴ってないで回してよ!」
「牛酪ワンコ!」
「ワフン」
「あっあ!?」
「おわ、はい! ほらシゲ! 調子崩すからお豆がぁ」
「へーん、下手の言い訳かよシャンルくん」
「違います!」
良い騒がしさ。時間が遠くまで続いている気がする。
ツェンリー殿はこちらが提出した報告書と付属図面を見ながら、脇に置いた小卓上の白紙に目も配らず文面を作成。升目でも事前に引いたかのように、お手本の比率で文字、縦横列、余白を構成してから何と北征巡撫印を、筆を持ち替え朱で瞬く間に描く。ベタっと筆先を押しただけに見える手早さ。
出来た文書は控えた助手が手に持ち、季節に拘わらず待機している火鉢番と扇持ちが熱風を使って墨を手早く乾かし、室外で長椅子の列にて座って控える伝令の一人へ、配送先に合わせた通信筒に封入、渡されて発信者に一礼、緩く駆け足。
”お仕事しながらで結構ですので”と言ってみたらこのように。
「判の手書き、凄いですね」
次の紙へ。
「押すより早いだけです」
そんなものだったろうか? 判子は見た目じゃなくて実物を使うことに意味があったはず。いいのかな? 彫刻特有の癖も再現しているが。
「絵もお上手ですか?」
「いえ。確認しました。我々が独占していると思われた龍道、秩序の認識を改めなければいけませんね。対策を検討させて頂きます」
「はい……警戒線構築の案は如何でしょう。初期案ですので工費にはあまり、糸目をつけていないのですが」
龍帝陛下を守り、ヤンルー宮中に直結する常設間口を防衛するのが目的。仮に敵対存在が空から飛んできても奇襲を受ける形にならぬような防御施設建築計画を立てた。
陛下、宮中間口に主戦力を集中配置。全周直上、対空目標にまで火力発揮可能な砲台、機関銃座を設置。厚い城壁が基本で、大型生物の突進力をやや過剰に見越して馬防杭ならぬ龍防杭を設置する。
防御施設の建設計画の描き方はプラブリーにて実地で学んだ。樹上から攻勢を仕掛けて来る猿頭獣人を念頭に入れると対空目標を狙うような高角射撃が求められた。
白面龍王なる存在、明らかなところが少な過ぎて不安ばかり。シゲの分析から空を飛ぶと仮定。
この二点を中核にして周辺の峰、各所に死角が無いよう監視塔兼駅を設置。破壊されることを前提に多重。龍人、龍馬、虹雀の三種を一個小隊規模程度で最低でも置ける規模の宿泊施設も併設。
通信施設は電信から旗柱、狼煙台まで新旧合わせる。
峻厳な地形から無数の橋、坂道を作らなければならない。優先順位はつけてあるが完成までは数年、数十年か。要塞というのは出来上がった頃には手遅れということも歴史的に多いようだが。
「金蓮様の構想通りで良いと考えます。かねてより常人も龍道に送って建設を進める計画が有りましたが名分もあまり無く、先送りしておりました。此度は大規模で有意義。これは予算と人手の使いどころです。当面は現場の監督と警備を務め、適宜必要があれば計画修正案を上げて頂きたい。頂きたいのですが」
「問題が?」
「重大別件です」
「重大で別件? はい」
「イェンベン政権、ソルヒン様が蒼天王との結婚披露宴を行うとのことで、シャンル様に指名で招待状が来ております。つきましては金蓮様とお連れ様で護衛に付いて頂きたい。人龍仙術の、即座に龍脈龍道へ開切する能力を見込んでのことです。計画初動から外れて頂きます」
「賊軍と蛮王の式典に掛け替えのないシャンル皇太子を派遣とは、首を差し出したから取れ、と言っているようなものではありませんか。ご本人は何と?」
蹴る音、楽し気な声、焦る声、鳴き声。あれから一つ欠ける? 馬鹿な。
「代役を立ててはと申しましたがご本人の希望です。戦わず、将来的に文明人同士が融和することこそが肝要とのお考え。北方人の思惑に乗って我等天下の人民同士で殺し合うなどあってはならぬとのお考えです。先の会議での方針通りのことです」
こちらにとって僭称帝は憎き賊軍頭領。しかしシャンル皇太子にとっては最後の一人とも呼べる肉親。晴れ姿を見ないという選択肢は限りなく少ない。
思いついた。もしあちらが暗殺に出た場合、それを利用してレン家に仇なすものこそソルヒンと宣伝すれば、シャンル皇太子を旗頭に賊軍の一部を取り込めるのでは……。
ガシャンと外で鳴る。
『あ』
公安号が割れた、内が土汚れた鉢の一片を咥えて持って来た。耳を垂らし、尻尾は股向き。
「キュウン」
「キュウンじゃありません。誰を庇っているんですか」
「ワフ」
「お前の動きで下手はしないでしょう」
この本物の霊獣は演技をする。
シゲがもう一欠片、鉢の残りを持って来た。龍顔で笑っていやがる。
「きゅうん❤」
「シゲこら何その態度! 謝罪、いえ、膝を突きなさい!」
「いやあ、手加減してたつもりがよぉ、足滑っちまった。わりぃ」
「ましてや達人のあなたではないでしょう」
ツェンリー殿どころか子供も騙せない嘘。恥ずかしい!
そして緊張の面持ちのシャンル皇太子が苗木袋に盆栽を入れて――枯らせない措置に見える――持って来た。その背中に引っ付くのはお豆。
さて、どっちだ?
■■■
ソルヒン僭称帝の結婚披露宴の噂は瞬時に天下へ広まった。調査によれば我々が知るよりも早く地方へ情報が発信されていた。中核外殻が埋まる。
素早い周知徹底が帝国連邦、賊軍の考えである。何も無かったかのようにこちらが黙殺することを防ぐ心算であったということ。この行動があちらを利してこちらを害するという証明であろう。
人心に影響が出ている。あまり市井を歩き回ってはいないので直接ではないが、人伝えに聞くところによると”真の天子は誰か?”という議論が巷で交わされているらしい。軍内でもだろう。
官は、命に立場が惜しければ口を閉じているもの。しかし身の振り方も腹の内で考えているもの。筆ばかり握っている割りには鞍に注意を払う奴等よ。
しかし真の天子などと、そんなもの疑うべくもなく龍帝……龍人王セジン……人間のシャンル皇太子? いや、既に不動で不死不滅の龍帝でこそ天下は治まるのだ。柱は腐らず折れずが良いに決まっている。
……卑劣な敵め。認知戦から始めたな。
宮中ではエデルト軍事顧問団のザリュッケンバーク中将が頻繁に要人等と交流を重ねていて、その姿も板についたもの。情報を集め、これから何かをする時に話を通しやすくしていた。
特にベーア帝国から化学肥料を持ち込み、試験農場で成功してからは文官相手にも話が進んでいる。天下の人口増大問題に目途が立ったと一時は騒ぎになったと記憶している。
今日は自分に声を掛け、お茶の席に招待してきた。今までは人ではないからと遠慮がちだったが、自信がついたらしい。覚悟が決まったか? とにかく龍帝の孫、人ならざる人龍相手にも臆さぬとは傲慢である。
しかし極西の変な色合い、顔付きの老人と相対すると何か不安。シゲのアホは遊んで歩いてて傍にいない。
役立たず! 自分は十歳だぞ。
「歴代の名品、倉庫から出していますね」
「お聞きと思いますが、賊軍僭称帝の結婚披露宴を飾るのに相応しい物を貸し出す運びとなりました」
皇帝の結婚式に使われる七大宝が貸し出される。八大上帝に所縁あり、故に初めの降臨上帝の物は年代が古過ぎて除かれる。こればかりは口伝しか残っていない時代のこと。遺構は発見されているが。
古い順、一品目から。
開地の鼎。生贄を煮る青銅器。非常に大きく、子牛一頭を丸ごと煮ることが出来る。使用時には形だけ置かれ、別の新作で血抜きをした牛肉が塩茹でされる。生きたまま煮ると悪臭が酷いので割と古くから行われない。直火で汚れるのも忌避。
公武の剣。隕鉄製で”公武融了”との刻字が何とか読み取れる。対になったもう四字は劣化で解読不能。これを手に皇帝は、新皇后に皇太子の出産を命ずる。
立法の石経。原初統一法が統一字体により全文が彫られた石板。何度も修復されており、割れ目は金継ぎで直されている。現行法ではないが天政法治の基礎を成す。この精神を受け継ぐということを天に、読み上げて宣言する。
立法の玉璽。現代まで継承される象牙の印章で”天授大命・政理万方”と刻字されている。太平上帝が、夢枕に現れた立法上帝から指示された古井戸を掘って見つけたという代物。虚偽塗れの酷い謂れの一品だが、今日まで伝わり続ければ相応の霊性を備える。皇室結婚関連の書類への押印に使う。皇室費案件が多数。
豊都の玉座。金線すら用いず、各種玉石のみで組んだ細工物。座り心地は良くないので敷物は分厚い物を使う。夫婦物で一対になっており、披露宴ではそれぞれ座って挨拶などを受ける。長時間座ることも多い政務で使うには辛いので現代では儀式限定。
文化の礼器。今では特別な存在ではないが、当時は皇室のみが使えた特別に青が強い青磁器一式。天への捧げ物を乗せるために使う。偽物、代替品が交じっても分からない程度なので何とも言い難い。燭台九つ、線香一つ、小皿八枚、椀九つで一組。
制覇の冕冠。制覇上帝が実際に被っていた正帽で頭髪が布地に食い込んで残る生々しさ。上部に板があってそこから紐飾りが垂れる。レン朝以前、有史から貴人も官僚も着用した型。これは被らず傍らに飾ることによって歴代王朝の上に君臨している、との意になっている。
自分も滅多に見れない名品だったので蔵出しされた後の整備点検の様子を見てきた。それぞれ霊性が確かに宿っていた。
「七品を出すということは、その結婚、龍朝として歓迎していると?」
「蒼天王は天子の臣下です。僭称帝は、立場はともかくセジン殿下、シャンル皇太子の身内、レン氏要人。格は相応に在るのです」
「皇帝、女帝と認めるということになりますが」
「式に合わぬ物を貸し出しても意味が無く、使われず、運んだ甲斐も無く、機嫌を損ね、物事も弁えぬと言われるだけでしょう。それに龍朝にとり、レン朝が霊性を認めてきた物品など至宝ではなくただの財宝です。霊的な価値があるとすれば彼等にあって我々には、歴史的な価値程度はありましょうか。それに晴れの日を金銀玉石で飾りたいという臣下に貸し出し祝うことに一体何の問題がありますか? 万博の中原が小物数点に一喜一憂するとでも?」
「そういうことであれば……」
あえて貸し出すことによって上位の面子を維持する。大人が小人の我がままを聞いてやるという構図にしたのだ。広報もそのようにしている。あちらが認知戦を仕掛けるならばこう返す。
同情はする。今正に、数千万人民が害されているベーア帝国としては面白い話ではない。ただ自分を責めるような口調をされても面白くない。
悪い言葉で揺さぶって龍朝としての真意を引き出して本国に現状を報告するのが任務だろう。戦争協力体制を深化させたいのは当たり前。
口先だけなら、口の回る海軍爺やのラーズレク大将にでも任せればいいのに。新しい船を見せるとかで不在だったか?
この老人は嫌な役目をやっている。最終的には、儀式などぶち壊して戦争を始めて我等を助けよ、と言う台本があるのかもしれない。
「セジン殿下も、早くも晴れ姿の肖像画を、本人達を見ずに描いてらしたが」
「殿下がそうなさるなら、正しい認識、記号で描かれているのでしょう。何はともあれ慶事」
「布華融蛮ですか」
「かの賊は身から出た膿。元から異なる蛮ではありませんが」
覚えたての言葉を使い損ねたか。
所詮、夷狄に当てる戎蛮などこの程度のものよ。血に値するとは思えない。
■■■
賊軍、ここでは堪えて北朝……僭称帝の結婚披露宴へ赴く訪問団の代表はシャンル皇太子。自分とシゲが直衛する。
卵はお母様に預けた。用事が有る時は孫を祖母にとは当たり前のことであるが、こう、そわそわする。遠隔地への旅は月跨ぎ。理知が薄まった分は愛情が深くなったような気がする母は日々違ってきている。
儀仗兵と下女を連れるが合計で百人丁度とした。大勢、例えば千人の兵で赴くのは不徳なのでこの程度である。
その百名、龍人のみで構成という案もあったが、それを”悪蛇”などと蔑む僭称帝の慶事には不適とした。自分とシゲの二人は正にその姿の極みでもあるが、そこは龍帝名代でもある。そのものの姿を見せることとした。賓客と言えど遠慮するにも程がある。
儀仗装備は、刃引きの銃剣と刀と槍兼旗、空砲のみの小銃を持つので戦闘能力は低い。下女まで皆、武術を嗜んでいる者に限った。基準は素手で殺人が出来る程度。
影武者の用意は慶事に対してやはり不徳。ただ儀仗兵、下女に至るまで可能な限り背格好、顔つきが似ている者を選抜。予備衣装ということで有事に至れば直ぐに着替えられるようにした。
シャンル皇太子の服装。白い羽毛の髭と髪、大樹の枝のような無数の角、白鱗の龍、龍帝陛下のお姿の刺繍――今の正統天政の在り処を示す――が入ったユロン人の騎馬服、その正装仕様。重々しさを活かして鉄板、荒絹防弾衣を陰に重ねる。あちらが企図せずとも、跳ねっ返りの狙撃は有り得る。
シゲヒロは、生地は良いが飾らぬ無地の服。男はこういうものだと言われればそういう程度。佩刀する。
自分は中原貴婦人服を着て、カピリ羽毛のかつらを被った。後ろ髪が腰下まで下がる。後は金の花弁と玉の葉、真鍮の蔓飾り。鱗に化粧は良く乗らないので艶出しの香油程度……合わせると凄い、ここまでの盛装は初めてで自分じゃないみたいだった。
「似合うじゃねぇか。重たい晴れ姿なんてあんまり、機会無かっただろ。南洋じゃ暑くてな、褌もお断りしたかった」
この羽毛かつら、何とあの無粋の極みみたいなシゲが用意したのだ。カピリ人が独立して以来、輸出市場にはほとんど出なくなったがあちらに伝手があるらしい。元海賊なだけはある。
「ふうん……」
悪くない、が。
「こんなに飾りつけなきゃ見てられないっていうの?」
こいつ、困らせたい。
シゲ、服を脱いだ。
「裸がいいならそれでいいぜ! 一緒に全裸で行ってやらぁ。チンポもおっ勃てるか?」
「この馬鹿シゲ!」
「刀自慢に鞘自慢!」
「恥知らずの病気頭ぁ!」




