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ベルリク戦記 ー 戦争の生涯 ー  作者: さっと/sat_Buttoimars
第1部:第2章『アッジャールの大侵攻』

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28話「戦渦拡大中」・ベルリク

 魔神代理領において、先の大戦と今回のアッジャールの大侵攻で軍事費負担が凄まじいことになっているそうだ。

 資金問題が解決されなければ様々な官僚機構が資金難で麻痺しだし、給料未払いなどで公務員が働かなくなり、公共事業が停止し、軍と警察機構まで止まったら社会は混乱する。

 反乱の芽が生える。お上が頼りにならないのなら自力でやっていくことになる。隣接地域から異民族が襲撃でもしてきたら尚更、財政復活など待っていられない。

 非魔族の権力者から、戦ったのだから――金を出したのだから――魔族になる権利を寄越せと魔族化要求が声高になっているという。

 ルサレヤ総督を見る限り、強大な力の獲得、失った寿命を取り戻す若い姿、数百年を生きる長寿。恩賞とするならばこれ程――変異後の姿は好みが分かれそうだが――のものは無いだろう。

 だが魔導評議会の見解では、魔族化とは責任を負うことであって恩賞ではないとされる。そうとくればアソリウス島騎士団のような、連中に手を貸した何者かのような魔族の種泥棒が出てくるだろう。

 そうなればぶちキレた魔族達が制裁を加えにいき、抵抗されて戦う流れになる可能性がある。その盗人が魔神代理領共同体で国家の長を務めていて軍権を有していた、となれば内戦もあり得る。

 またそんな魔族という存在を巡り、新たな魔神代理領の在り方を問う政治閥がいるとかなんとか。内輪揉め、国益を無視したような政治取引、政府機能の麻痺、そんなものが重なると亡国の道へ突き進む。古今東西良くある話。

 二つの大戦を受けて――未だ大巨人ながら――魔神代理領は満身創痍で、血だらけの芳しいにおいを振りまいている。餓えた隣国が鮫のように引き寄せられてくる可能性は俄然高くなっている。

 魔神代理領、その共同体という巨大な括りの中で東方に位置する大国、ジャーヴァル帝国には未だ撤退せずに現地に残留しているアッジャールの軍閥が存在する。ただアッジャール人が支配しているのではなく、現地勢力と結びついて根を張っているとも聞く。

 この混乱に乗じて帝国からの分離独立を狙う反乱勢力がいる。帝国というぐらいに多民族多種族国家であるジャーヴァルは、元から一つに固まっていない。そもそもの帝国創始者は帝国域外から侵入してきた侵略者らしい。

 帝国平定を目指す中央政府とそれに従う友好勢力もいるが、その中には火事場泥棒を企んでいる不貞な輩もいて、肝心の中央政府は現皇帝を魔族であるから故に”臨時皇帝”であるとして誰を戴冠させるかとも、政治的というか神学的にも抗争中だと言う。

 他所から見れば何をやっているんだと言いたくなる要素に溢れているが、当人達は大真面目なものだ。

 そんなジャーヴァル帝国には手っ取り早く親衛軍でも投入すればいいと思うところだが、一つところに兵力を注力し過ぎると他の地域の抑えが疎かになるという懸念が表明されている。特に先の大戦のやり直しが始まったらどうしよう? というもの。

 損害が大きい親衛軍の再編が急がれるが、ジャーヴァル帝国の混乱が収まるまでに間に合うのかも分からない。

 戦渦の延焼は止まることを知らないようだ。

 そんな中、定期御前会議の時期が迫っている。大宰相の五年任期満了を境に、任期継続審議をすることを主題として、魔神代理の名で各州総督、各国代表、公認主要組織代表が召集されて行われる会議だ。

 勿論我等がルサレヤ総督も御前会議に出席される。何が起こるか分からない今の時期にだからこそ延期の中止もされないということだろう。

 会議はどんな様子で行われるか想像がつかない。ルサレヤ総督指揮下で、中央へ地方から殴り込んで政権奪取、なんてことは面白そうだけど。


■■■


 イスタメル州には新たにスラーギィ県が設置された。県知事はレスリャジン氏族から出る。県庁所在地は防衛上の観点から、中洲要塞ではなく旧南関門に設置された。

 新たにレスリャジン騎兵旅団を増強。人員は勿論、新たに魔神代理領に帰属した他のレスリャジン氏族の者から大量に募集。

 スラーギィ地方には、オルフ王領から内輪揉めで追い出されてきたアッジャール人やオルフ人に、その他少数民族がやってきている。

 家族連れの亡命というのは珍しくないが、一個部隊丸ごと男達だけ、という集団も現れている。追い出したり殺したりするには規模が大きくなり、政治的にも難しくなってきている。

 解決策が示された。スラーギィ東部へ、中支援付きで開拓民として送り出すこととなった。また兵役も科し、スラーギィ連隊も新たに創設される。

 解放された元奴隷妖精達は、いつの間にやらマトラの山森で厳しい訓練がほどこされた兵隊に仕立て上げられていた。市民権を得るには兵役をこなせ、という精神だそうだ。それに対して不満の声は、まあ当然に聞こえてこない。見た目の違う妖精達はあっという間にマトラの妖精の中に溶け込んでいった。

 マトラ旅団を中核に、レスリャジン騎兵旅団、スラーギィ連隊、外人妖精連隊を増強。これで北方守備を担当する第五師団に昇格となった。自分もこれに伴って師団長に昇進。

 あの十万超の兵力を有するマトラ人民防衛軍はあくまでも臨時編制であったため解散されている。有事と平時の切り替えの素早さがマトラの特長。

 ラシージはマトラの復興計画で忙しく、最近は顔も見ていない。植林なんてのも意外と守備範囲らしく、オルフ軍に焼かれた森を再生している。何でも出来るな。

 ラシージの代わり、ではないが最近はルドゥが傍にずっといる。身辺警護ということだろう。

 ルドゥの帽子に歯ではなく指の骨飾りが二本追加されており、そしてボソっと「大将、俺にはもうあんただけだ」の一言が不気味に耳に残っている。戦争は怖くないが、こういうのは割りと怖い。マジで。


■■■


 エデルト=セレード連合王国領アソリウス島では、魔神代理領内の通行許可が下りた貿易船団が続々と入港、出港して中継港として賑やからしい。行き先は主に、戦乱止まぬジャーヴァル帝国だそうだ。戦続きで物資不足というということを示すわけだが、どうなることやら。

 ベラスコイ家所有の商船も動き出しているようだ。

 お家再興の道筋も立ったかな? シルヴから聞いた話を分析すれば、父も寂しい懐から無理矢理に株式購入代金を出して出資したらしいが、はてさて。地主貴族のお付き合いは面倒なもんだ。

 それとまたシルヴに肩書きが増えたらしい。少将閣下とお呼びしなくては。


■■■


 お隣、かつての敵であるアッジャール朝オルフ王国からは、イスハシル暗殺の報が出された。同時期に共和革命派による暴動が頻発しているとのこと。

 簡単に死ぬとは何とも呆気ない。

 犯人までは声高にされていないが、可能性としてはあの女将軍ジェルダナだ。捕虜にしてから返還するまでの長い間、ランマルカの妖精が洗脳教育をし続けた成果が出たようだ。

 共和革命派の蜂起は農民一揆のような一過性の事件で終わるものではないだろう。ランマルカからの強力な支援もあるだろうし、何よりオルフにはオルフ人がいる。民族主義と結びつけば反乱というより単純な二国間闘争の様相を呈する。無謀な反乱とは思えない。

 ……これでは祖国セレードの隣に共和革命派政権が誕生してしまうのか?  マトラ視点から見ると、近くに革命仲間が誕生するということにもなるのか。

 ただイスハシルには息子がいるから――存命かは知らない――アッジャール朝オルフ王国の旗印は降りきっていないはずだ。それに母親はオルフ人商人の出だというし、救世神教の総主教がその息子の名付け親だともいう。共和革命派は宗教を否定するからそこも争点になる。

 複雑怪奇。内戦は長引きそうだ。


■■■


 アクファルと共に、改めて戦死報告を兼ねて、トクバザルの奥さんとユーギトの嫁さんに遺族年金を直接手渡しに向かった。

「二人は良い死にっぷりだった。幸福の最中に死ねた古きセレード、レスリャジンの魂は蒼天へ間違いなく昇ったはずだ」

 と言ったらユーギトの嫁さんは「当然よ」と満足気で、トクバザルの奥さんはというと「お役御免ですね」と、手早く荷物をまとめ始めた。

「お母様、どちらへ?」

 アクファルが尋ねれば「先祖が眠る墓へ参ります。お金はあなたが受け取りなさい」と言い、「はい、分かりました」とアクファルはあっさりと答える。

 そして名残惜しげも無くトクバザルの奥さんは、ユーギトの嫁さんに残った家財道具は全て譲ると言い、馬に乗って何処かへ去った。らしい、と言えば、らしい、のか。


■■■


 セリンは”死の風”の騎兵突撃以来めっちゃ怒ってて――海軍将校から報告書が上げ辛いと泣き言が来る程度――手紙の返事もくれなかったが、無視して送り続けていたら返事が来た。

 ”宴会、マリオル、来い”。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最近読み始めました。毎日読んでるけど、全然追いつけねえ!(褒め言葉) このクオリティでこの文量でまだ450話もあるの幸せすぎです。
[一言] イスハシルあっさり退場!? びっくらこきました
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