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ベルリク戦記 ー 戦争の生涯 ー  作者: さっと/sat_Buttoimars
第1部:第4章『天政南北朝』

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17話「バオン関攻略」・シラン

 冬が終わってしばらく。春もやや過ぎ、高原地帯から雪解け水が流れ出して川を増水させている。毎年恒例の氾濫も報告され、現地で対処可能な程度と見積もられている。

 北方は特に泥濘の時期中。この足場の悪さは敵を害する。東岸部への北朝軍陽動の成功により、これによりこの害は拡大する。泥を漕いで迅速に支援にでも来てみせろ。

 西勇軍によるフォル江渡河、北進が行われたと直前の報告があったが、龍人の支援を受けられていないのがやや不安。無いのが当たり前であるが、有った方が安心なのだからあった方が良い。

 もう少し龍人を手元に残せば良かったか?

 北方は南方程水上戦闘が重視されない。ヤンルーのあるオウレン盆地などは灌漑水路が発達し過ぎて大規模河川、湖沼地帯が消滅しているのだがその水路を使っての高速機動が出来る存在は何かと役には立てる……早まったか?

 南海、そして南大洋にまで出張っている彼ら龍人からの活動報告が、遠隔地相応に遅いのが胸に辛い。

 夏には彼等を送り出し、秋には南海提督との間での戦の準備が順調であると連絡があって、冬前に積極行動に出ると最後の連絡。

 今この時点で、連絡が飛ぶ前に何かあったのではないかと不安だ。海上の事であるから、その連絡が飛ぶ事すら無い状況も有り得る。海軍へ送っている支援資金物資の受け取りには奇怪な点が無い事で間接的に無事であると……予測が出来るが。さて?

 大掛かりな二つ事を一つ頭に詰めるのは身に良くないと実感する。しかしやらねばならない。やろうとする者が他に、この事態なのにいない。いないか、見つからないかは同じ事だ。

 ルオ家で霊山の仕事を一手に引き受けるのもどうかと思えてくる。信頼出来る後継者か同志か、役割分担が出来る誰かが欲しい。

 黒龍公主から増援を受けられないかと甘い事を考え、霊山への連絡手段を探ったらやっぱり無かった。やはりある種連絡手段が無いのがあの方である。期待は止める。メイツァオがいれば何とか……あいつが参謀役にでも使えれば遠征なんかさせないのだが。

 龍人がいたら攻撃前にあれがやれた、これがやれたと思いつく。しかし黒龍公主は南朝の勝利を積極的に望んでおられないのは確かである。

 あのお方は歴史的にも、状況を望むように引っ繰り返すことを望まれる。深謀遠慮か何か、癇癪? か、思い通りに事件に始末をつけたい傾向が史学研究で明らかである。

 バオン関攻撃前に龍人の更なる援軍を得られると期待するのは間違っているだろう。

 先の援軍はもしかしたら、自分への同情?


■■■


 自分はまだ実家に軟禁状態。妻の腹は一目で分かるぐらいに大きくなってきているがまだ出てこない。腹を押したら早くに今すぐ出てこないかと思う事が時々あるが、それは流石に馬鹿な考えだ。

 バオン関南側に西勇軍の先遣隊が到着、主力軍が布陣するための空間確保を開始したと伝令が来る。時差はわずか、ヒンユが各所からの報告の配達の中継ぎについている状態である。最近は奴の顔を見ていないな。あるかどうかも怪しい顔だが。

 早く前線に出たいのだが、作った組織が順調に独り立ちして動いている状況でもある。

 最近は報告を読んで、思った通りに物事が動いているという事を確認するだけになっている。各所に調整担当官を配置して滑らかに機能しているので一々自分が直接指示せずとも物資の都合をつけ、足りぬ資金は金庫番が配分し、他の軍との領分争いを妥協解決させている。

 ますます自ら前線に出る理由を消している。渡河用の船の調達、中州を使った船橋の建設も指示するまでもなく現地でやって済ませてしまっている。ルオとエンの――健全な――お家対立で多少は妥協した人事だったが、思った以上に良い配置が出来たようだ。

 続報を待つ。待つしかないのか。


■■■


 妻はもう何かの偶然で腹が膨れたのではなく、確実に妊娠と分かる妊娠状態。だからもう前線に出たいのだが、また「女だったらどうするのだ?」と当主に言われた。「では婿でも取られては?」と言ったが、死産流産などなどと次々と言われた。

 流石は元宦官か、あの当主の弁舌に反論はできなかった。論理の根幹から変えないと”勝つ”のは無理だ。勝ってどうすると言われたらまた反論もできないのだが。

 間も無くバオン関への攻撃開始という報告で、損失分を見越して兵士と物資、資金の補充分の都合をつけたい。過剰分の調達となれば自分の手腕、権威がいるだろう。

 戦況が落ち着いてきた南方からは、各部隊の自主性が損なわれる程度に広く浅く傭兵を募る。

 戦力を揃えたものの使う戦線が無くなって持て余している軍閥は多い。また持て余しているからと言って起こさなくて良い紛争、械闘をされてはまた混沌に逆戻り。

 タダ飯喰らいになってはいるが下手に解雇をすると盗賊化してしまうような傭兵を引き取るようにする。帰農もさせられないようなゴロツキ共も送って寄越して良いとも告げておく。

 このような爪弾き共には自主性というものが損なわれている。立ち回りの上手い傭兵団など、とっくの昔に行動を起こして”外れ”を引かない立場にいる。

 素人、無頼、どさんぴんなど、我々の訓練将校によって好きなように色づけできる。攻撃に向かった軍が使用していた演習場に奴等を放り込み、腐った根性が無くなって返事は”はい!”か”はい喜んで!”しか口から出なくなるまで訓練するよう手配をする。

 南朝の新しい総把軍監人事は未だに決まらず、死亡の発表も控えられたまま。その役割の一部を担っているという立場を利用し、その権限内から手に入る軍事費で持って西勇軍への資金補填に当てる。

 この横領めいた行為は他の将軍に軍閥指導者も行っていることで公然の秘密と化している。決裁権を一人の権力者に握られない分、逆に予算が使い易くて今の南朝軍政に合っている。判子一つ貰うのに長々と待たされないというのは、この緊急事態に限っては最善手。

 軍部の決済を経ずに編制された義勇兵とも傭兵ともつかない西勇軍はこの曖昧軍政のおかげで今は正規軍として遇され、中央国庫で運営されている。債権もほぼ無制限に発行できて、中央に買わせることもできている。不換紙幣の大増刷には繋がっているが、短期的に反発が大きくて予後が不安になる軍税徴収に頼らなくても良い。

 これでもまだ資金が心許ない。南方貴族全てから資金の借り入れを実施する。大口小口は様々だが、全てから借り入れるというのが肝だ。

 南方貴族という大きな括りであるが、その内部は血縁と金と通商網等の様々な色の糸で雁字搦めになっている。こちらが借りた金を回収出来無くなったらまるで南方の金融市場が地盤沈下して破綻する雰囲気を作り上げる。そういう噂も流す。恐怖を皆で共有することで一心同体となる。

 自分の南朝内での発言力が上がっている今だからこそ出来る芸当だ。以前までなら金を貸す貸さないは相手側の意志次第であったが、今となってはこのルオ・シランに金を貸さないとはどういう了見か? という威圧が可能である。

 皇太后の覚えめでたくなったのが効いている。我が子は産まれる前に、その点で”でかした”。妻もだ、そうだ。

 以前から小銭漁りのように罪状をでっち上げては掘り出し、私兵で襲撃して弱小貴族の資産を毟り取っていたのも良き、遠回しな脅迫になった。

 手土産用に、各所に配置した”手の者”から美術品を”発掘”させ、美男美女を”保護”させたのも一助であろう。

 もっと確実に、軍用市場への介入権限を配って回ってこの大消費時代に乗り遅れないようにと誘ったのが一番大きいかもしれない。

 南方産業、様々な障害はあるにせよ空前の大加熱状態。以前まではまとまりのなかった彼等が、一心不乱に総力戦体制を築き上げつつある。

 溶解して一枚岩になるまでにしてやる。


■■■


 軍閥からではないが、何やら”名低い”貴族からの抗議文が最近目立つ。

 こちらの強引な資金調達方法に対して不満があるらしい。その後ろに控える”名高い”貴族からの消極的な警告である。

 これから軌道に乗せてやろうというのになんという軟弱姿勢。貴族階級など全て滅ぼして、泣いて小便を漏らしても上からの命令を聞かざるを得ない官僚に挿げ替えてやりたい。

 南朝の余力が――絞り尽したほどではないが――徐々に底を見せているということだろう。貴族の私財を完全に絞り出して宝飾品の数々を全て金銀貨幣に鋳直せばどれ程経済が改善しようか、証明してやりたい。

 抗議文への返書を書いていると、伝令からバオン関南の西勇軍の状況報告が届く。

 第一次攻撃は失敗。

 ……失敗!

 頭が縦に回転したような、舌の根が辛い。抑え切れず壁を蹴った。蹴った壁の裏に使用人がいたようで悲鳴をあげる。

 うーん……壁に足型がついてしまった。

 見たくないが、目を開いて手を動かして状況報告を見直す。

 攻撃失敗の要因は、大鏡が大勢の兵の目を焼いてしまって、視力を酷く弱くした者の数が”半端”では無いそうだ。それで兵士達が音を上げてしまったという。伝説にあるその灼熱攻撃を考慮し、雲の多い適切な空模様で挑んだが、目を傷める程度なら問題なかったようだ。太陽代わりに発光の方術も用いられたという。

 敵の工夫はともかく、攻撃と同時に大鏡を破壊するという段取りであったはずだが、どこかで入れ違いになったか? 従来通りにタウ家だけに任せれば良かっただろうか?

 段取りが違う? 敵が上手? ここからでは何も分からない。


■■■


 後日、夜間に第二次攻撃を行うという旨が報告の末尾にあった事を何度も確認しつつ、使用人に壁の修理を手配させる。

 いつもより自分を遠巻きにしている使用人を横目に、味がある気のしない食事を取る。顔や舌から血の気が引いている気がする。使用人には事前に、今日は妻を自分に近づかせないようにと手配してある。

 食後に蜂の子交じりで蜂蜜塗れの蜂の巣を食べる。ここまで香りと甘さが強いと流石にちゃんと味を感じる。歯応えも蜂の子が居たり居なかったり、巣が箇所によって固さが一様ではなく、差があって良い。

 蜂蜜の残った皿を舐めようかどうしようか迷っていると、隠密からのバオン関防御施設破壊の報告が来た。

 報告によれば、設置されていた大鏡は予定通りに破壊したが、大鏡の予備が美術品扱いで近くのマーシュン市に置かれていたそうで、それが使われたとのこと。当のマーシュン市でも大鏡と同じ物とは思っておらず、土壇場で機転を利かせた閃きの良い者がいたとのことだ。

 第二次攻撃までに再度破壊する旨が報告の末尾にあったが……夜間攻撃となるなら問題は無いか?

 その閃きの良い者の調査もした方が良いだろう。頭の出来は不明だが、”運の良い奴”というのは最悪の敵だ。少なくとも、そう思ってしまう敵こそ論理は鼻で嗤う天運を招く、招くとそう思ってしまう。指示せずとも続報はあろうが、隠密達には念のために改めて指示しておこう。

 皿は舐めた。全くはしたないな。どうしてしまったのか? ……使用人が代わりの蜂の巣を持ってきた。

 新しい皿に手をつける。


■■■


 自分の一時的な奇行が気になったらしく、当主が久し振りに兵棋盤遊びへ誘ってくれた。政治的な話はせず、季節の話とか親戚の話とか、そんな何でもない話をした。

 以前のように当主が頭脳の疲労で投了するような持久戦に持ち込めるように工夫していると、バオン関からの報告が来た。手紙の封蝋には担当連絡官の物に並び、バオン関守備隊長の物が使われているという、少し洒落た演出がされている。

 報告の内容は勿論、第二次攻撃の成功によりバオン関陥落である。ただし、一次攻撃と合わせての死傷者が六万を越えたというのだから驚きだ。

 確かに死を恐れず、効率的に攻撃部隊を送り出すために軍は組織こそされていたが、短期間でそこまでとは遺族、負傷者への処置が大変だ。

 正規軍に傭兵なら死傷者処理など簡単に済む仕事だが、募集を掛けた志願兵の場合はそうもいかない。現場で作戦指揮を執った将軍、英雄的な行動に出た兵士を褒めちぎって派手に派手に称え、光を強くして闇の部分をぼかすしかない。

 あの戦いで我々は英雄だったと、そう思えるように褒めてやろう。勲章も出して、死人には特に名誉称号を出してやろう。金と物の代わりに名誉だけは大放出する。どうせ非難されるのならそうするしかない。そうでもしないと今後の天政の統一、外敵の排除に差し支える。

 我々は今や全軍の先導役であるので足を止める訳にはいかない。ヤンルーへ向けて突き進み、北朝を下す意志を見せ続けねばこの馬鹿げた内戦が更に馬鹿な状況になりかねない。

 西勇軍の再編制と陥落後の措置について考えながら兵棋盤の駒を動かしていたら、当主が突出させていた駒を包囲して取ってしまった。これを取ると当主は攻め手を無くして投了した。

「何手か戻しますか」

「ふぅ、お前とやると頭が悲鳴を上げる」

 そう言いながらも当主が駒を戻し始める。本気でやればこちらが圧勝してしまうので、とにかく守りに徹するこちらをどうにかして当主が切り崩すというのが昔からの指し方になっている。わざと勝たず負けずというのも中々難しいものだ。

 それから当主が濡れ手拭いで頭を冷やして休憩していると隠密からの報告が届く。報告経路が違うので戦勝報告とは時差がある。

 バオン関防御施設への破壊工作により、密偵に対する警戒が厳重になった後、ユェイ家の一人が決死の自爆攻撃でその予備の破壊に成功したそうだ。正しく報いたい。

 それから運の良い者の調査報告が続く。サウ・ハレンという名の若者だ。片脚が無くて特定の職にはついていないが、父親がカン州伯とあって遊んで暮らすに不自由していない身分らしい。兵棋盤遊びの世界ではかなり有名らしく、頭の回転は速いだろう。

 そしてサウとはあのサウ・ツェンリーのサウで、彼女の弟であるそうだ。これは天運がついていると見て良い。いくら目を閉じてもそう見えてしまうのだからそれは実体が伴う。嘘を真にするほどの虚勢を張れる段階にある。

 サウ・ハレンは殺害するのが望ましい。だが、黒龍公主の提案にある従来の天政を引っ繰り返すというのにも魅力を薄々と感じてしまっている自分がやれるのかと言えば、少し苦しい。天運ある者を自陣営に引き込めたならば、間接的に自分もその恩恵に預かれる……甘い話だ。

 知恵者一人のために勝敗が決するのならば、元より趨勢は決まっていたも同然だ。サウ・ハレン殺害の指示を出そう。

 どうも”公”よりも”我”を感じる。そして己を殺し尽くす程の天政かと考えてしまっては……迷いは禁物である。まずはやるべき事、ヤンルーを陥落させて北朝の基盤を破壊するのが先決である。

 南朝内で、このバオン関突破によって膠着状態を脱して北進しようという気運が非常に強く出てきている、という噂を流す手配の、その段取りを頭の中で組み立てる。皇太后のババアにも協力させよう。

 当主との兵棋盤遊びを再開。戦略性に制限を加えているとはいえ、長期戦故に駒の損耗が激しい。

 今回のバオン関攻略は成功し、六万人の死傷者も相応の対価であると思う。そこに龍人がいたらもっと死傷者が少なかったのではないかと思うし、それは事実だろう。

 龍人抜きだと自分は凡将に留まるのだろうかと気が重くなってくる。軍才とは何であろうかと自問したくなる。

 北朝征伐の勢いは作ったと確信するが、損失が莫大だ。バオン関の死傷者達はその辺で掻き集めてきた雑兵ではない。正規兵より訓練を受けてきた、士気が高くて体力もある者達だったのだ。その辺の農民に武器を持たせただけの民兵が十万百万と死んだのとは違うのだ。

 当主が駒を損失し過ぎて投了した。加減はしたがやはり、駒に自殺のみを求めるような動きをさせる事はできないのでそうなってしまう。


■■■


 十五万から九万に萎んでしまった西勇軍の規模を復活させる為に作成した再編制表の調整を現地の高級将校との間で往復させ、その度に人員物資の補給命令書を発行する事を繰り返す。

 北朝の軍は東岸部への陽動作戦に引っかかって配置を組み替えてしまってから、未だバオン関を抜かれた後でも東海艦隊群と我が南朝の軍が協同作戦で持って北進するとの疑念に囚われているようで、我が西勇軍のヤンルーへ向けての進軍に対応する動きが鈍い。この動きに呼応し、皇太后が命じた一斉攻撃命令もその助けになっている。ただし他の軍がフォル江を渡って北進しようとする動きは鈍く、冬眠から目が覚めた亀の如くである。近頃では軍も冬眠するのか? 優雅なものだ。

「若様」

 久し振りにヒンユが――覆面こそ被っているが――顔を出してきた。大事か?

「聞こう」

「東海沖にて、南海艦隊群と東海艦隊群が魔神代理領軍に敗北。メイツァオ様以下、龍人の全てが死亡ないしは行方不明となりました」

「海軍からそのような一報、無かったぞ」

 力が抜けるような感覚を堪えて声を出す。メイツァオが死亡……行方不明も同じものだ。海上の出来事である。

「海軍に潜入している隠密が行った聴取から推測するに隠匿されていたのは、この事実が露呈したならば若様からの支援が途切れると思った模様。

 また海戦敗北に伴う後任人事で非常に揉めております。東海と南海の艦隊群双方に損害が出ており、艦長級の者の多くが戦死した事が要因ともなっております。東路艦隊においては艦隊司令の首が取られています。生き残りも面子を保つために責任の擦り付け合いをし、乱闘騒ぎに発展する事もしばしばです。一部には海軍内部で武力行使を行って問題解決を画策している者もあります。南方派、北方派、独立維持派に分けた名簿がありますのでお受け取り下さい」

 ヒンユから名簿を受け取り、こちらに取り込むのに良さそうな名前を頭に拾い上げていく。今度は海軍でも内戦か……一体この天政はどこまで砕け散れば気が済むのか。

「捕虜は?」

「マザキに潜入している隠密からの続報待ちです。海軍からの情報では、捕らえた者達からは魔神代理領軍に転向する者以外は残らず海に沈められたようです」

 生け捕り困難な龍人を捕らえる手間を取るかはかなり疑問である。皆殺しと考えて良いか。

「龍人の生存者は皆無か?」

「確認されておりません。名高い魔族アスリルリシェリから力を継承したイスタメル海域提督ギーリスの娘セリンが確認されておりますので、海中への逃走が失敗した可能性はあります」

「よりにもよって伝説の魔族アスリルリシェリとギーリスの娘の組み合わせか」

 海での戦いにこれほど特化したような名前の組み合わせは現代にて他に聞かない。メイツァオが全戦力を注いで挑んだのならば残らず殺されているだろう。特に頭の回らぬ龍人など、生き残っていてもその辺の海域を彷徨ってただの海洋生物と化していてもおかしくない。

「ご苦労」

「は」

 ヒンユが去る。

 腹の子を除いて近縁はこれで全ていなくなってしまった。次に一番近いのが当主、宦官だというのだから滑稽である。またそこから親戚が分かれて繋がってはいるが、育ちが霊山であるから縁遠くに感じる。

 空の墓しか作ってやれないのか? いや、下手にメイツァオの死など教えたら当主に喪にも服せ等と言われかねない。死を隠して墓も作ってやれないのか。

 あの気まぐれな黒龍公主も姿を見せぬ。龍人を増やすための人員を確保しろと言ったのはこの事を知ってか? 何に使うか知らないが、よくも母子などと言えたものだ。

 気が重い。

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