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Episode 出会い①



 マヌスタキス共和国。


 それは大陸一の巨大国家としてあまりにも有名であり、この歴史上で最も多くの衛星国を持ち、最も栄えている国とされていた。

 更に共和国を治めるのは選挙で選ばれた代表達であり、公平な民主主義をとっていた。市民達は為政者に憚ることなく自分たちの意見を訴え、そして叶えるだけの力を持っていた。故にこのような巨大国家が維持出来たに違いない。


 そして、今日、そのマヌスタキス共和国にまた新たな衛星国ができた。

 そこは数百年鎖国状態であり、今日初めて日の目に出た国家であった。少ない情報を聞くと、彼らは獣の肉と、野生の芋を主食としている騎馬民族のようだ。共和国民からすると、彼らの暮らしは劣っており、文化はまったく比べものにならなかった。

 そしてかの国から友情の証として列をなして何百反もの絹と王女がやってきた。普段ならば属国の姫なんて自分たちにとって見れば下位の存在であり、噂にものぼらないはずであった。


 しかしその姫が非常に美しいというならば話は別だ。フィリシアという花のように可憐な名前を持つ彼女はベールの下から面差しを覗かせた途端、広場にいた男達を魅了し、何人かはその後光に目が潰れてしまったそうだ。貴族の男は皆彼女の知り合いになろうと血まなこになっているというのが城下町のもっぱらの噂だった。


 噂は長いこと城下町に触れ回った。民の誰一人もその顔を見たことがないと言うのに、民は異国の姫君に熱中し、娘にフィリシアと名付ける親が増え、しまいには演劇が上映されるまでになった。



――半年後



 共和国の首都、テーベルは夏真っ盛りであった。南国らしい真っ青の空の下、乾いた道路では木陰を作るようにオリーブの木が植林されている。その下は湿気の少ないテーベルでの憩いの場として市民に愛されていた。

 そして、潮風は活気のある町を常に包んでいる。共和国の富は海からやってくる。


 港には次から次へと船が到着し、船ごとに異なる品物を次から次へと卸していく。ある船は香辛料を、果物を、穀物を、取れたての魚を。それらが近くの市場へ運ばれ、瞬く間に捌かれていく。


 それは一日中見られる光景であったが、昼は特に圧巻であった。

 金の髪、赤い髪、黒い髪。そして黒い肌や白い肌、オリーブ色の肌と、地の果てからも集まった人々は、ただ今並べられた商品を物色していく。そんな彼らの空腹をそそるようにと更に飲食店もしのぎを削る。

 テーベルは大変な喧騒に包まれていた。


 そんな昼の人混みを二人の学生が歩いていた。

 正装であるトーガをまとい、喋りながら市場へ向かっている所から見ると共和国で教育の名門として名高い学院の授業の帰りのようだ。

 そのうちの一人はこの共和国で一番多い、小麦色の肌と黒い髪を持った人の良さそうな青年である。

対して彼と対等に意見を交わしている青年はというと、ここではあまり見ない顔立ちだ。黒い直毛を後ろでまとめ、あっさりとした容貌をしている。そして肌の色はあくまで白い。並ぶところを比べれば細い骨格であり、きっと彼は留学生といったところであろう。最も学問が優れているところとして、共和国は多くの国から留学生を受け入れていた。


 様々な言語が飛び交い、陽炎が立つほど暑い人の熱気が漂う中、ついさっき買ったミートパイを喉に詰まらせて小麦色の青年が言う。


「なあ、ジェラード、いい加減教えろよ。おまえはあのフィリシア王女の顔を知っているんだろう? ウラドゥール国から一緒にやってきたんじゃないのかよ」

「この国の基準にすれば普通の顔だったよ」

「そんなわけないだろう。まだこんなに噂になっているんだぞ!」


 小麦色の青年は親友のつれない返答にもだえた。


 かの国の王女の噂は半年経っても衰えることがなかった。巡り巡った噂では、王女は共和国に来ても人前に出ることはなく、部屋で故郷の土地を思い出して部屋で泣き暮らしているらしい。

何でも彼女の父親は今の王である叔父に殺され、彼女はここに人質のようにつれてこられたそうだ。

 小麦色の青年は道に咲いた花をうっとり眺めた。


「会った人の話を聞けばどんな花よりも可憐で、それでいて儚いって聞くぞ。きっと、こうそよ風にも耐えられないような美女なんだろうな」

「ん、とそんな感じではなかったぞ」


 大口を開けてミートパイを頬張りながら、言った言葉を無視して、小麦色の青年は夢見る顔つきである。


「ああ、一度お会いしたいよな。いや、見るだけでいい!」


 異国の青年は一瞬口を閉じ、強い日差しに眉をひそめながらぽつりと呟いた。


「…一応、私なんだけどな」


 そう、何を隠そうこの異国の青年こそが実際はウラドゥール国第一王女、フィリシアの実際の姿であった。


 半年前、共和国に友好の徴として留学にやってきたのだが、共和国では女はあまり勉強しないものだという。仕方なくジェラードと男名を名乗りこうして男装しているのだが、なぜか絶大の美女説が流れている、というわけだ。


「何か言ったか?」


 パチンと夢から覚めた青年は聞き返したが、ジェラードは首を振った。苦い真実は知らない方がいい。ジェラードは改めて友の方を向いた。


「それより、ジュリアス。明日、また図書館に付き合ってくれないか? 教えて欲しいものがあるんだ」

「えー、勉強ばっかりしていたら馬鹿になるぞ。決闘でも見に行こう」

「なんでだよ、血が苦手なくせに」

「そ、それでも、今回は頑張る!」


 いい年をした男が歯を食いしばる。他の面では頼りになる親友だがなぜか血だけは駄目らしい。


 ではなぜ、彼は出血大サービスである闘技場にジェラードを誘ってくるのか。


 理由は簡単だ。ナンパ目的である。


 噂の美女として有名になっていているが、女として見破られたことのないジェラード。けれども男としては格好いい部類にはいるらしい。その顔を利用して、血が嫌いでもてないジュリアスは娘達を探そうというのだ。

 男装はしているが女であるジェラードには迷惑な話である。


「誘う前に血を克服した方がいいんじゃないか?」

「いや、絶対無理!」


 決闘であるが故、流血は必須である。時にはちぎれた指や頭が観客席まで飛んでくる。

 紳士たるものそれらを華麗に受け止めて、顔一つ変えずにジョークでも言って淑女に告白する勇気がなければならない、とジェラードは思っている。

 どさくさに紛れて抱きつかれたら、女らしい体つきを隠したとしてもばれてしまうだろう。また、ジェラードだって一応、嫁入り前の花も恥じらう乙女だ。


 ジェラードはため息を付いて宣言した。


「おまえとだけはコロシアムには行かないよ、ジュリアス」

「じゃ、じゃあ、一緒に風呂でも入らないか? 頼む、少しでも王女様のことを聞かせてくれ!」


 最近、潤いが足りない、となおも言い張ろうとする、親友を遮ってジェラードは手を叩きパンくずを落とした。


「それじゃあ、私は手紙を書かないといけないんだ。また、今度学院で」


 ジェラードは手を鷹揚に振って、惚けた顔の友と別れた。


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