01話
やっとかけました。
本編突入です。
遅くなって申し訳ありませんでした。
5月中旬。
この時期になってくると少し昼が蒸し暑くなってくる。朝、夜は寒く、昼は暑いという、まるで夏と冬が混合してしまったような季節に、人々は精神的にも身体的にも参る時期だ。朝、昼、晩の激しい気温変化に体調を崩すものもしばしば。
そして、今年の5月は去年と違うところがあった。それが、雨。
雨といえば、6月の梅雨。その時期が一番、雨量が多いはずだ。しかし、今年は少し違った。
まだ、梅雨を迎えていないため何とも言えないが、少なからず言えることは、5月の雨の確立が多い。梅雨が早まったのか、はたまた5月にも雨が降るようになっただけなのか。それは分かりはしないが、確実に今年の5月の雨の率は、今までで最高だ。少し離れたところでは、竜巻も起きたそう。洪水もいくつかが起こった。全ては温暖化のせいだ、という声も聞く。
ならば、それを起こしているのは誰なのだろうか。その原因は何なのだろうか。
我々人間の他無い。
我々人間が全ての根源なのだ。
その思考をストップさせるように、足を止める。
署長室前。人が通ることなど滅多に無い、静かな廊下に彼女は立っていた。
暑さは何処に居ても変わることの無いはずなのに、彼女は清楚なスーツをきっちりと着、見ているだけで暑苦しさを感じる。汗はもちろんびっしょりだ。
しかし、その女性は婦人スーツにしては珍しいネクタイを更に首元にまで押し上げて、息を吸い込んだ。
「失礼します。」
2回ほどのノックの後に、一言声を掛けて中に入る。やはり、どんなお偉いさんの部屋でも、エアコンをつけることはないらしく、中は廊下と同じく蒸し暑くなっていた。
周りの部屋と変わりないタイル張りの床に、紙を詰め込んだような汚い引き出し。棚には何かしらのファイルがぎっしりと並べ立てられている。ドアから真正面にあるのは大きな机でそこにその人は居た。
中年の盛りを過ぎた五十前後の男性。髪も白髪交じりで、もう若くないことを証明している。紛れもなく幾度となく見てきた、署長である。
「刑事課巡査の間宮です。署長、何か御用でしょうか。」
一礼してから、淡々と必要事項だけを述べた彼女に、署長はにこりと微笑んだ。
「ああ。君には大切な用があってね。まあ、こっちの方へ来たまえ。」
「はい。」
優しい口調の署長の言葉に甘えるように、彼女はドアを閉め、蒸し暑い部屋へと足を進め机の前まで歩いていった。
すると、署長は机の上にある一枚の茶封筒を出し、にっこりとまた彼女に微笑みかける。
「用事はこれだよ。」
トントンと叩かれた場所は茶封筒が置かれている机で、彼女は眉を寄せた。
「これを私に……ですか?」
「そうだよ。百聞は一見にしかず。見てみなさい。」
「……失礼します。」
彼女は恐る恐るといった様子で茶封筒を手に取り、一枚の紙を四分の一ほど出したところで絶句した。
そこに書かれていたことは、彼女にとって信じられない文字だった。
「間宮千里君。君には課を異動してもらう。」
千里は言葉も出なかった。
間宮千里といえば、この署内では結構良い意味で有名だった。一昨年の四月に入って早二年。それまで何の文句も言わずただ仕事に忠実に働いていた間宮は、それはもう上司たちにとって良い印象しかない。同期の人間にとってはあまり喜ばしくなかったようだが、対して変な虐めも無く順調にやっていた。だからだろう。間宮は自分自身十分働いたと思っていた。そんなところに異動命令だ。
「署長。何かの間違えでは無いですか?」
「いいや。これは君に対しての異動命令だよ?」
外面は平生を装っているが、内心焦っている。
「私、今の課で何か失礼なことでもしたでしょうか?」
そういうと、やっと間宮が何を心配していたか理解したようで、署長は一瞬驚いた表情を見せたものの、すぐににこりと笑った。
「いやいや。君には何も悪いところは無かったよ。君のこれまでの働きには満足しているくらいだ。」
その言葉は信じてもいいだろう。これまで耳にしてきた署長の噂は「他人にも自分にも厳しい鬼」だ。となると、そんな署長が褒めているのだから、喜ぶべきところだろう。
「ありがとうございます。」
「まあ、今回の異動で君に過失があるとすれば、そこだけれどもね。」
意味が理解できなくて首を傾げる。良いところが過失?どういうことだろうか。
「つまり、君のその誠実な努力を見越して、もっと上のところに移ってもらおうとそういうわけだ。」
一瞬耳を疑うが、嘘を言っているようにも見えない。認められたと言われたようなものだ。これはもう喜ぶしかない。
「ありがとうございます。」
また茶封筒に入っている紙に目を移し、引き上げていく。すると、そこには間宮を褒め称える文字と、異動先が記されていた。異動先は『怪奇事件解明部』と書かれている。初めて聞く名前だ。
「あの、この怪奇事件解明部とは......」
「ああ。聞いたことないかもしれないね。」
そう言って署長が机に取り付けられた引き出しから出したものは、右肩をクリップで留めた紙の束だった。それを机の上に置き、間宮の方に向けてくれる。
それを上から覗けば、どうやらここ最近話題になっている事件の調査資料のようだった。
ここ最近話題になっているといっても、全世界でというわけではない。この都市でということだ。
「これは例の……?」
「ああ。そうだ。怪奇事件だよ。」
なんとなく怪奇事件解明部の意味を理解した気がする。つまり、ここ最近話題になっている怪奇事件を専門に取り扱う部ということだろう。
怪奇事件とは事件そのものを意味するのではない。事件自体は何の捻りも無い単純明快な非道な行為だ。例を挙げれば殺人、強行、暴力、窃盗、万引き等、ところによれば自殺なんてのもある。全てが誰しもが極悪非道と謳う事件ばかりだ。ならば何が怪奇なのか。そのどれもにあてはまる共通点。それは『加害者が全く何も覚えていないこと』。普通、事件とは加害者の意志や感情によって引き起こされるものだ。偶然もあるかもしれないが、しかしそれは加害者が覚えていないことに関する答えには成りえない。最初にそう主張した加害者は、警察には取り合ってもらえなかったという。それも当たり前だ。誰が信じるだろうかそんな事を。しかし、そういう事件が引き続き起こればそうも言っていられなかった。しかし、何故その当時の記憶が加害者には全くないのか、それがまだ解明されてないために、『怪奇』と言われており、そしてそういった事件を『怪奇事件』と明記したのだ。
間宮もこの事件の話は聞いていた。どんな新人でも必ず耳にすることだろう。しかし、かなり重く考えている人も少々居るが、ほとんどの人があまり重要な事件として捉えていなかった。というと、そんな加害者が覚えていないなんてありえない、どうせ嘘を吐いているだけだ、と軽視しているためである。そしてそれは、間宮も例外ではなかった。
「えっと……そんなにも重要なことなんですか?こんな専門的な部を作るほどに……」
「そうだね……。今のところ、加害者が嘘を吐いている可能性も否めないが……それにしては連続に、それも年齢の幅が大きすぎる。」
そう。そこが、大きな疑問点となる。この怪奇事件を引き起こした加害者の年齢は、高齢で五十台、最年少は九歳なのだ。とても偶然とは言い難い。
「何より、市民が混乱し助けを求めている。それ以上に必要な理由は無い。我々警察は市民のために動くのが仕事だ。だから、間宮君その事件の解決に全力で努めてくれたまえ。」
目を鋭くさせて、先程までの柔らかな雰囲気は何処へやら、厳しい表情になってそう豪語する警視総監に、彼女は短い応答と敬礼を返した。
「他に何か質問はあるかね?」
「いえ。」
「じゃあ、下がってくれて構わないよ。」
「はい。」
一礼し踵を返してドアの傍まで歩いていく。後ろからの視線を受け止めながら、挨拶をして廊下に足をつけた。
後ろのドアが完全に閉まったところで、間宮はやっと息を吐き出して緊張を解す。
その時にネクタイも緩めた。
汗を袖で拭う。
「…怪奇事件解明部なんてダサい名前、誰が付けたんだろう?」
そんな疑問を残し、間宮は廊下を歩いて行った。
警察内での関係というものは私自身わかってないので、できる範囲で調べながらやっていくつもりですが、もし変な点がございましたらご指摘お願いします。
また、これは今の世界の発展と考えてくれても構いませんが、認識的には別の世界ということで考えてもらった方がしっくりくると思います。
誤字、脱字、この言葉の使い方おかしいんじゃない?という点がございましたら、上記同様ご指摘お願いします。




