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ネネは、楽しそうに笑った。
「もちろん、叔父にはわかりますわ。
牧へ行かれたら、元気なあの子をお目にかけられます」
「・・・でも、もう、乗れないんだな」
「はい、母上様から、危ない馬には乗せるなと、きついお達しでしたので」
「もう、いい」
アルフは後も見ずに馬場へ向かった。
嵐のようなめちゃくちゃな怒りを抱えて。
不甲斐ない、自分自身への怒り。
母を説得することも出来ず、小馬を救う手立てを考える事もしなかった、愚かな自分。
また、兄に負けた。
これほど腹立たしい、手ひどい負け方をした事はなかった。
愚かな、無力な、無知な子供なのだと、思い知らされてしまったのだ。
乗った小馬の手入れをしてやったことなど、ない。
馬番が世話をするのが当たり前だと思っていたからだ。
あの小馬が、好きだった。
すっかり自分のものにして、思いどおりに動かしてみせたかった。
失くしてから手を尽くさなかった事に気づく、馬鹿な、馬鹿な、自分。
馬場ですでに馬に乗ってアルフを待っていた兄は、遅れた弟にこぼれるような笑顔を向けた。
アルフはぷいと顔をそむけ、新しい自分の馬のほうに行く。
この兄に、勝たなくてはいけないのだ。
後ろを向いてしまったアルフは、兄がさっと青ざめ、叱られた仔犬のように、銀の耳を伏せて唇を噛んだのを見逃してしまった。
重苦しい気持ちを抱えたまま乗馬の練習が始まった。
並足で馬場を一回りもしないうちに、アルフは舌打ちした。
この小馬は、ぜったい跳ねない。
跳ねるだけの、気力が無い。
見てくれがいいだけで、伝説の獣「河馬」のように鈍重で、反応が悪いのだ。
いくら踵に力を入れて蹴っても足は速くならず、立ち止まろうとする馬を動かし続けるだけで、アルフは疲れ果ててしまった。
それでなくても、馬への合図が優しい兄は、敏感な動きの良い小馬に乗せてもらっているというのに。
(これでまた、兄上に差をつけられてしまう)
アルフはため息をついた。




