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狐の皇子  作者: 葉月秋子


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2-4

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 マリンカの茂みを揺らしていた初夏の風が、むしむしした熱気を運んで来る日が多くなって来ていた。


 日に一度は母のご機嫌伺いに会いに行かねばならぬアルフは、その日、母の機嫌がひどく悪いのに気づいた。


「妾の選んでやった小馬(ポニー)が気に入らぬようだの」


(ばれた!)


 アルフは冷や汗をかいた。


(なぜこんなに早くばれるんだよ!誰が告げ口するんだ!)


 だが、今度は負けるわけにはいかない。

 あの小馬は、僕のものだ。


 怒りを抑えて、アルフはにっこり笑った。


 母が天使のようだと褒めそやす、極上の笑み。


「はい、母上」


 仏頂面を予想していたらしい母は、おや?と思ったらしい。


 笑顔で追撃。

 甘い声で言った。


「ええ、母上、あの小馬はとても綺麗です(馬鹿だけど)

 でもあれは、兄上の小馬より、足が遅いんですよ(事実だ)

 私は兄上の小馬より速いのが欲しくて、リーフに選んでもらったんです。

 綺麗な小馬ではないけれど、この間、兄上の小馬を追い抜きましたよ(無茶な走りをさせるなって、先生に怒られてしまったけれど)」


 母の機嫌は、一度に直った。


「おお、そうであったか。

 あの北家の息子は、さぞ悔しがっておったであろうな」


 ・・・しらない。


 走るのに夢中で兄など見てもいなかった。

 答えに窮したアルフは、もう一度にっこりとほほ笑むだけにした。


「ねぇ、母上、二頭とも私のものにしていいでしょう?

 兄上は一頭しか持っていないけど、私は兄上より綺麗な小馬と、速い小馬と、二頭欲しい」



 母はアルフを横に座らせ、甘いシロップを勧める。

 蒸し暑い日にべたべたしたシロップを飲まされて、アルフは閉口した。


「ようやっと、大人になってきたのじゃなぁ。

 そなたがあまりに競争心が薄いので、母は心配しておったのじゃ。

 他はどうじゃ?

 何かあの女の息子に勝ったものが、勝ちたいものがあるか?

 お前のほうが何増倍も優れているのだから、お前が本気を出せば、後れを取るはすがないのじゃ。

 母はいかほどにでも援助しようぞ」



 ほっとはしたが、ちょっとうしろめたい気分で、アルフは母の居間を辞したのだった。


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