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マリンカの茂みを揺らしていた初夏の風が、むしむしした熱気を運んで来る日が多くなって来ていた。
日に一度は母のご機嫌伺いに会いに行かねばならぬアルフは、その日、母の機嫌がひどく悪いのに気づいた。
「妾の選んでやった小馬が気に入らぬようだの」
(ばれた!)
アルフは冷や汗をかいた。
(なぜこんなに早くばれるんだよ!誰が告げ口するんだ!)
だが、今度は負けるわけにはいかない。
あの小馬は、僕のものだ。
怒りを抑えて、アルフはにっこり笑った。
母が天使のようだと褒めそやす、極上の笑み。
「はい、母上」
仏頂面を予想していたらしい母は、おや?と思ったらしい。
笑顔で追撃。
甘い声で言った。
「ええ、母上、あの小馬はとても綺麗です(馬鹿だけど)
でもあれは、兄上の小馬より、足が遅いんですよ(事実だ)
私は兄上の小馬より速いのが欲しくて、リーフに選んでもらったんです。
綺麗な小馬ではないけれど、この間、兄上の小馬を追い抜きましたよ(無茶な走りをさせるなって、先生に怒られてしまったけれど)」
母の機嫌は、一度に直った。
「おお、そうであったか。
あの北家の息子は、さぞ悔しがっておったであろうな」
・・・しらない。
走るのに夢中で兄など見てもいなかった。
答えに窮したアルフは、もう一度にっこりとほほ笑むだけにした。
「ねぇ、母上、二頭とも私のものにしていいでしょう?
兄上は一頭しか持っていないけど、私は兄上より綺麗な小馬と、速い小馬と、二頭欲しい」
母はアルフを横に座らせ、甘いシロップを勧める。
蒸し暑い日にべたべたしたシロップを飲まされて、アルフは閉口した。
「ようやっと、大人になってきたのじゃなぁ。
そなたがあまりに競争心が薄いので、母は心配しておったのじゃ。
他はどうじゃ?
何かあの女の息子に勝ったものが、勝ちたいものがあるか?
お前のほうが何増倍も優れているのだから、お前が本気を出せば、後れを取るはすがないのじゃ。
母はいかほどにでも援助しようぞ」
ほっとはしたが、ちょっとうしろめたい気分で、アルフは母の居間を辞したのだった。




