7.5,覚醒の夜明け“ミリア視点“
夜の空気は冷たかった。
家の中にいても、胸がざわついて落ち着かなかった。
(リアン……大丈夫かな)
昼間のことが胸に刺さったままだった。
村のみんなの視線。嘲笑。疑い。
そして、リアンのあの痛そうな顔。
思い出すたび胸が苦しい。
「ひとりで抱えないでよ……」
気づけば私は、家を飛び出していた。
外は暗く、ランタンの火が頼りないほど揺れる。
リアンがどこにいるのかはわからなかった。
けれど、不思議と“感じた”のだ。
(村の外れ……そこにいる気がする)
足が自然とそちらへ向かっていた。
丘の上。月の光の中に、リアンの影があった。
肩を落とし、ひとりでうずくまる少年の背中。
何度見ても、あんな背中を“放っておく”なんてできない。
「リアン……」
声をかけた途端、胸が熱くなった。
振り返ったリアンは、いつもの優しい顔じゃなかった。
迷っていて、怯えていて、助けを求めている、そんな顔。
私は、気づいたら近づいていた。
「怖いなら怖いって言ってよ。私……リアンが抱えこんでるの、わかるよ……」
震える声しか出せなかったけれど、それでも言わずにはいられなかった。
リアンの胸の奥で光が脈打つのを、私はすぐに感じ取った。
(あぁ、ほんとに……苦しんでたんだ)
触れた手の中で、リアンの鼓動が速く脈打つ。
怖がっている少年の鼓動だ。
握った手を離したくなかった。
そう思っていた、その時…
ドン……
地面が揺れた。
息が止まるような低い震動。
風がざわざわと逆巻き始め、
夜の空気そのものが黒く濁ったような感覚。
「……え?」
遠く、森の奥。黒い霧の塊が蠢いていた。
(なに、あれ……?)
魔物なんて形じゃない。
体の奥が凍るような、恐怖だけが伝わってくる。
私は、思わずリアンにしがみついていた。
「リアン……怖い……!」
そして気づいた。
リアンがもっと苦しそうな顔をしている。
「やめて、リアン!」
胸の奥の光が暴れ出したように、リアンの身体が白銀に輝き始める。
月光を吸い込むような、神々しいのに怖い光。
リアンは自分を見失いかけていた。
だから、私は叫んだ。
「リアン!!戻ってきて!!あなたはあなたのままだよ!!」
怖かった、本当は膝だって震えていた。
けれど、リアンを失う方が怖かった。
その時、リアンの瞳が私を捉えた。
怯えて、苦しんで、それでも“私を見ていた”。
その瞬間、リアンの中の何かが音を立てて開いた。
光の紋章が足元に浮かび、夜の闇を切り裂くほどの輝きが広がった。
「リアン……そんな……」
美しい、とさえ思った。
けれど同時に、胸が締め付けられる。
(リアンは――特別なんだ)
でも、彼が手を伸ばしたのは私だった。
「ミリア……ありがとう。君が呼んでくれたから……」
光に包まれた少年が、私だけを見て言ってくれた言葉。
涙がこぼれた。
「リアン……私、あなたと一緒にいたいよ。
力がどんなに怖くても……私だけは離れない」
影は光に飲まれて消え去り、夜風だけがそっと吹いた。
リアンの手を握ると、彼の手も震えていた。
(怖かったのは、私だけじゃなかったんだ……)
東の空がわずかに白んでいた。
夜が明けようとしていた。
リアンは光を宿したまま、私の隣に立っていた。
その肩の温もりが、夜明けよりも温かかった。




