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選ばれなかった英雄  作者: はむ
第1章
9/10

7.5,覚醒の夜明け“ミリア視点“

夜の空気は冷たかった。

家の中にいても、胸がざわついて落ち着かなかった。

(リアン……大丈夫かな)

昼間のことが胸に刺さったままだった。

村のみんなの視線。嘲笑。疑い。

そして、リアンのあの痛そうな顔。

思い出すたび胸が苦しい。

「ひとりで抱えないでよ……」

気づけば私は、家を飛び出していた。

外は暗く、ランタンの火が頼りないほど揺れる。

リアンがどこにいるのかはわからなかった。

けれど、不思議と“感じた”のだ。

(村の外れ……そこにいる気がする)

足が自然とそちらへ向かっていた。

丘の上。月の光の中に、リアンの影があった。

肩を落とし、ひとりでうずくまる少年の背中。

何度見ても、あんな背中を“放っておく”なんてできない。

「リアン……」

声をかけた途端、胸が熱くなった。

振り返ったリアンは、いつもの優しい顔じゃなかった。

迷っていて、怯えていて、助けを求めている、そんな顔。

私は、気づいたら近づいていた。

「怖いなら怖いって言ってよ。私……リアンが抱えこんでるの、わかるよ……」

震える声しか出せなかったけれど、それでも言わずにはいられなかった。

リアンの胸の奥で光が脈打つのを、私はすぐに感じ取った。

(あぁ、ほんとに……苦しんでたんだ)

触れた手の中で、リアンの鼓動が速く脈打つ。

怖がっている少年の鼓動だ。

握った手を離したくなかった。

そう思っていた、その時…

ドン……

地面が揺れた。

息が止まるような低い震動。

風がざわざわと逆巻き始め、

夜の空気そのものが黒く濁ったような感覚。

「……え?」

遠く、森の奥。黒い霧の塊が蠢いていた。

(なに、あれ……?)

魔物なんて形じゃない。

体の奥が凍るような、恐怖だけが伝わってくる。

私は、思わずリアンにしがみついていた。

「リアン……怖い……!」

そして気づいた。

リアンがもっと苦しそうな顔をしている。

「やめて、リアン!」

胸の奥の光が暴れ出したように、リアンの身体が白銀に輝き始める。

月光を吸い込むような、神々しいのに怖い光。

リアンは自分を見失いかけていた。

だから、私は叫んだ。

「リアン!!戻ってきて!!あなたはあなたのままだよ!!」

怖かった、本当は膝だって震えていた。

けれど、リアンを失う方が怖かった。

その時、リアンの瞳が私を捉えた。

怯えて、苦しんで、それでも“私を見ていた”。

その瞬間、リアンの中の何かが音を立てて開いた。

光の紋章が足元に浮かび、夜の闇を切り裂くほどの輝きが広がった。

「リアン……そんな……」

美しい、とさえ思った。

けれど同時に、胸が締め付けられる。

(リアンは――特別なんだ)

でも、彼が手を伸ばしたのは私だった。

「ミリア……ありがとう。君が呼んでくれたから……」

光に包まれた少年が、私だけを見て言ってくれた言葉。

涙がこぼれた。

「リアン……私、あなたと一緒にいたいよ。

力がどんなに怖くても……私だけは離れない」

影は光に飲まれて消え去り、夜風だけがそっと吹いた。

リアンの手を握ると、彼の手も震えていた。

(怖かったのは、私だけじゃなかったんだ……)

東の空がわずかに白んでいた。

夜が明けようとしていた。

リアンは光を宿したまま、私の隣に立っていた。

その肩の温もりが、夜明けよりも温かかった。

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