7.覚醒の夜明け
夜は深まり、村の家々の灯りがひとつ、またひとつと消えていく。
だがその静寂の中で、リアンだけは眠れずにいた。
(……胸が、ざわついてる)
あの日の光景。村の人の視線。少年たちの嘲笑。ミリアの涙。
全部が胸の奥でまだ渦巻いている。
そしてそれらの感情に呼応するように、“光”がまた胸の奥で微かに脈打っていた。
まるで、目覚める時を待っているように。
リアンは外套を羽織り、そっと家を抜け出した。
村の外れ。
昼間よりも暗く、風が冷たい。
息を吐くたび白い煙が消えていく。
胸に手を当てると、鼓動が速い。
(俺……どうしたいんだろう)
強くなりたい。認められたい。ミリアを守りたい。
でも、力が怖い。人と違うのが怖い。ミリアを巻き込むのが怖い。
その全部がリアンの足を止めさせる。
その時。
「リアン……」
驚いて振り返ると、ランタンを持ったミリアがそこにいた。
「やっぱり、ここにいた……。リアンのこと、ずっと気になってた」
ミリアの顔には、泣いた跡があった。
今日の出来事を思い返して、胸が締め付けられる。
「ミリア……俺……」
言葉を探していると、ミリアが静かに近づいてきた。
「ねぇリアン。怖いなら怖いって言って。
苦しいなら苦しいって言って。ひとりで抱えこまないでよ……」
震える声。握りしめた手。
リアンは目をそらせなかった。
「……俺、怖いんだ。この力が……何を呼んでるのか、わからなくて」
ミリアの手がリアンの胸元に触れた。
「大丈夫。リアンはリアンだよ」
その瞬間―胸の奥の“光”が強く脈打った。
ミリアの言葉が、忘れられた鍵のように、奥深くにしまわれていた何かに触れた。
リアンが息を吸った瞬間、―ズン。
地面が震えた。
まるで大地そのものが寝返りを打ったような、低い揺れ。
「な、何……?」
ミリアが驚いてリアンの腕にしがみつく。
リアンの中の光が、まるで応えるように激しく鼓動した。
(わかる……何かが、近づいてる)
言葉はないのに、確信だけが胸に満ちてくる。
闇の森の奥で、黒い靄がゆらりと揺れた。
形のない影。
音もなく漂う不吉な気配。
ミリアが小さく叫んだ。
「なに……あれ、魔物?でも……生き物の形してない…」
リアンはわかった。
“あれは魔物ではない”。
もっと古い、もっと深い…
その瞬間、胸の光が、一気に弾けた。
「っぐ……!!」
リアンの身体が眩しく輝きだす。
まるで月光が体内に流れ込んだような、白銀の輝き。
ミリアは目を見開く。
「リアン……身体が……!」
(やめろ……! ミリアが……!)
恐怖で飲み込まれそうになる。
「リアン!!戻ってきて!!」
ミリアの声が夜を切り裂いた。
リアンの荒れ狂う光に、彼女の声だけは確かに届く。
その声を頼りに、リアンは“中心”にある自分を必死でつかんだ。
ピシ……ッ。
胸の奥で、何かが割れる音。
世界が、光に開かれる。
リアンの足元に光の紋章が広がった。
ミリアは息を呑む。
「これ……魔法陣じゃない……!」
言葉にならない言葉がリアンの脳に流れ込む。
“原初スキル:黎明の因子“
その瞬間、リアンの意思が光に混ざり、“影” に向けて弾け飛んだ。
影が悲鳴を上げて後退する。
夜風が逆巻き、木々が揺れる。
ミリアは震える声で呟いた。
「……リアン……」
白銀の輝きの中、リアンは振り返った。
「怖かった…でも……ミリアが呼んでくれたから……」
ミリアの目に涙がにじむ。
「リアン……一緒にいるよ。あなたがどんな力を持っていても……」
リアンの胸の光が、少しだけ優しく揺れた。
影は跡形もなく消えた。残されたのは静寂と少しだけ白み始めた空。
夜明け前。
覚醒の夜が、終わりを告げようとしていた。




