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選ばれなかった英雄  作者: はむ
第1章
7/10

6.夜の兆し

水晶が砕けた後、村長の家は混乱の渦中にあった。

村人たちは口々に叫び、怯え、疑いの視線をリアンへ向ける。

「水晶を壊したってことは……強力なスキルを隠してたのか?」

「いや、あれは“普通のスキル”じゃねぇ……」

「魔力が暴走したんじゃ……?」

誰も真実を知らない。

だからこそ、恐怖に支配される。

リアンはその視線のすべてを背中で受けながら、

まるで夢の中にいるかのような感覚だった。

(何が……起きてるんだ。俺は……ただ触っただけなのに)

爆ぜた光と共に胸に湧き上がった“熱”はまだ収まらず、脈打つたびに、頭の奥に知らない景色がちらつく。

燃える大地。折れた剣を掲げる巨影。涙を流しながら誰かの名を呼ぶ声。

どれも自分の記憶ではない。

なのに、なぜか懐かしいような、胸を締め付けるほど苦しい光景。

(これ……誰の記憶なんだ)

考えるほどに混乱し、心臓が痛むほど苦しくなる。

そんなリアンの手を、優しく包む者がいた。

「……行こう、リアン」

ミリアだった。彼女の声は震えていたが、その手だけは離れなかった。

二人は混乱する村長の家を後にし、夜の帳が降りつつある道を歩いた。

村の灯りはどれも揺れ、まるで彼らを避けるように視線が逸らされていく。

「ミリア……ごめん」

リアンが呟くと、ミリアは立ち止まった。

「どうしてリアンが謝るの?悪いのは……私。

 守ってあげられなかった」

「ミリアのせいじゃないよ」

「ううん……違うの。私、怖かったの。

水晶が光った時……リアンが、遠くへ行ってしまいそうで……」

ミリアは目を伏せた。

その震え方は、村人たちの恐れとは違う。

“失いたくない”という必死の想いが滲んでいた。

リアンの胸が、きゅっと締め付けられる。

「俺、そんな大した人間じゃないよ。スキルなんて……」

「あるんだよ」

ミリアは顔を上げた。

その瞳は涙を湛えながらも、どこか決意めいていた。

「リアンには……何かがある。昨日も、今日も……ずっと。本当に危ない時、いつもあなたは光ってるみたいに見えるの」

リアンは言葉を失った。

“光っている”なんて、そんな抽象的な表現。

だがミリアは、本気でそう思っている顔をしていた。

二人は家に向かって歩き始めた。

夕闇はいつの間にか深夜のようになり、風も冷たく鋭い。

村の端にあるリアンの家は、いつも通り暗く、静かだ。

「今日は……帰らない方がいいかもしれない」

ミリアが言った。

「父さんも母さんも、帰ってこないし…俺、別に家に居ても……」

「……じゃあ、うちに来て」

リアンは驚いて振り向いた。

ミリアの顔は赤くなっていたが、真剣そのものだった。

「夜の村は危ない。誰かがリアンにあたろうとするかもしれない。……だから、一緒に居たいの」

リアンは言葉が出なかった。

ミリアは優しい。強い。

でも、その強さは今日、少しだけ限界を超えているように見えた。

(……ミリアをこれ以上、不安にさせたくない)

リアンが頷くと、ミリアはほっと息をついた。

二人は並んで歩き、村の中心から少し離れたミリアの家へ向かった。

途中、風が一陣吹き抜ける。

その瞬間、胸の奥で、再び“熱”が脈打った。

痛みが走り、視界が歪む。

「うっ……」

「リアン!? 大丈夫!?」

ミリアが支えるが、リアンの膝は震えたままだ。

――声が聞こえた。

低く、重く、遠いはずなのに、耳元で響くような声。

『……目覚めよ。我らの記憶を継ぐ者よ……』

(誰だ……?)

『封ぜられた力は、いずれ世界を裂く。それでも進むか―選べ…リアン』

耳鳴りが激しくなり、身体が熱に包まれる。

ミリアが必死に呼び続ける。

「リアン!! リアン!!」

リアンはようやく意識を引き戻した。

「……だ、大丈夫。ただ、少し……疲れてるだけ」

ミリアは唇を噛みしめ、抱きしめるようにリアンの手を握った。

「ねぇ……約束して。何があっても……一人でいなくならないって」

リアンは、弱く笑った。

「うん。俺は……ミリアを置いていかないよ」

その言葉を聞いて、ミリアは胸に顔を埋め、震える声で返した。

「……よかった……」

―夜風がまた吹いた。

村の灯りが遠くで揺れる。

まるで、この静寂の下で何かが目を覚まそうとしているように。

リアンの中の“光”は、確実に強さを増していた。

そして、その光がいつ爆ぜるのか、少年自身も、まだ知らない。


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