5.検証の儀
村長の家に連れてこられたリアンは、囲むように立つ大人たちの視線を受けていた。
そのどれもが、探るようで、恐れるようで……温かさとは無縁だった。
「…では、始める」
村長の低い声が部屋に響く。
テーブルの上には、青白く揺らめく水晶球。
“スキルを持つ者にのみ反応する”といわれる古い魔道具だ。
「リアン。手を置きなさい」
促され、リアンは緊張で喉が鳴った。
周囲からはドクドクと心臓の音が聞こえてしまいそうだ。
(俺に……スキルなんてあるわけない。昨日も……た
だ必死だっただけで……)
震える指先を水晶に近づけようとした、その時……
「待ってください!」
ミリアが駆け込んできた。
息を切らし、頬を涙で濡らしながら。
「リアンは何も悪いことしてません!勝手に“覚醒したか確認する”なんて、おかしいです!」
「ミリア、落ち着きなさい。これは村の安全のためだ」
村長は穏やかに言ったが、その目は冷えていた。
「魔獣が現れた直後に、君が異常な動きを見せたという証言がある。噂が広がる前に、真偽を確かめねばならん」
「証言なんて、あいまいです!リアンは……ただ私を守ろうとしただけなんです!」
ミリアの叫びは誰にも届かない。
村人たちは皆、“正しさ”ではなく“恐れ”によって動いていた。
リアンはゆっくりミリアに向き直った。
「ミリア……いいよ。やらせてみる」
「だめ! リアンは……そんなの気にする必要ないよ!」
「このままだと、もっとひどい噂になる。
だったら……ここで終わらせたい」
彼の言葉にミリアは唇を噛んだ。
手は震え、涙が溢れそうになる。
(ミリアのためにも……ここで決着をつけるんだ)
リアンは決意を固め、水晶へ手を伸ばした。
―その瞬間。
胸の奥で“熱”が強く脈動した。
(……まただ。昨日と同じ……いや、それ以上に熱い)
水晶は触れる前から微かに震えている。
村長も、周囲の大人たちも気づき始めた。
「な、なんだ……!?」
「起動反応だ……! やはり覚醒していたのか!」
ざわめきが部屋を包む。
リアンの指先が水晶に触れた途端…
ぱぁんっ!!
破裂音とともに、眩い光が弾けた。
衝撃で大人たちが後退し、リアン自身もよろめく。
水晶は中央から真っ二つに割れていた。
「……ば、ばかな。水晶が……壊れただと……?」
「スキルの有無を測るだけの道具だぞ!?
壊れるなんて……聞いたことがねぇ!」
誰もが言葉を失ってリアンを見る。
ミリアだけが、震える手でリアンの腕を掴んだ。
「リアン……怖くない? 大丈夫……?」
リアンは答えられなかった。
胸の奥で燃えるような光が、今にも爆ぜそうなほど激しくなっていく。
何かが目覚めようとしている。
だがそれが祝福なのか、破滅なのか。
まだ誰にも分からなかった。
村のざわめきは、もはや“噂”ではなく“確信”へと変わりつつあった。
リアンは、村では収まりきらない“何か”を持っている。
そうして、少年の運命は静かに、確実に動き出していた。




