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選ばれなかった英雄  作者: はむ
第1章
3/10

2.英雄の覚醒

魔狼シャドウウルフが跳躍し、牙が空気を裂く。

その軌道は真っ直ぐリアンの喉元を狙っている。

避けられない。盾もない。助けも間に合わない。

そのはずなのに、リアンの耳に響くのは、静かな声だけだった。

『“根源適性”確認。

 英雄系統スキル:封印解除条件、達成。』

胸の奥で、白い光が脈打つ。

「な、んだ……これ……!」

恐怖なのか期待なのか、わからない感情が胸を揺らす。

心臓が早鐘を打ち、視界は白く滲んだ。

『スキル《????》を解放しますか?』

選択肢は1つ。

「……やるしか、ないだろ……!」

震える声で答えた瞬間

『承認。』

世界が、裏返った。


リアンの視界を白い光が満たした。

次の瞬間、体の奥から何かが溢れ出した。

熱い。でも痛くない。

むしろ、全身が“満たされる”ような感覚。

そして、脳裏に一つの言葉が刻まれる。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

原初プライマル・追憶リメンブランス

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「……これが、俺の……スキル……?」

名前だけでは意味がわからない。

使い方も効果も、一切不明。

だが、時間はない。

魔狼シャドウウルフの牙が、リアンの喉元に迫る。

その瞬間――白光が弾けた。

リアンの体が勝手に動いた。

まるで誰かの記憶に導かれるように。

足が地面を蹴り、腰を落とし、木剣を最適な角度で構え、まっすぐ斬り上げる。

自分とは思えない“完璧な剣筋”。

「――ッ!」

木剣が黒い狼の顎をはじき返し、軌道を逸らした。

魔狼シャドウウルフが地面に転がり、砂煙を巻き上げる。

周囲の子どもたちも教官も、誰も声が出なかった。

「な、んだ今の……!?」

「木剣で魔狼シャドウウルフを押し返した……?」

リアン自身が、一番理解できていなかった。

動いたのは自分の体なのに。

でも、あれは自分じゃない。

まるで誰かの“戦い方”を再現したようだった。

胸の奥に熱が灯る。

意識の底に、確かな感覚が残っていた。

“これは誰かの記憶だ”

原初プライマル・追憶リメンブランス……誰かの記憶を再現するスキル……?)

考える間もなく、再び黒い影が跳ね起きる。

魔狼シャドウウルフの目が、今度は明確にリアンだけを捕えていた。

「なっ……こいつ、俺を狙って……!」

「リアン逃げて!!」

「リアン下がれ!」

ミリアと教官グランの声が重なる。

だがシャドウウルフは止まらない。

魔獣の本能が“リアンの中の何か”を恐れて、逆に攻撃衝動を刺激していた。

黒い狼が跳躍する。

『再現可能戦闘記憶:選択。』

白い声が再び響く。

次の瞬間、リアンの体がまた勝手に動いた。

木剣を横に薙ぎ払い、狼の鼻面を弾き、

すぐさま後ろへ跳んで距離を取る。

完全に、戦士の動きだった。

「こ、こいつ……本当にリアンか……?」

ざわめきが起きる中、

リアンは胸の奥で脈打つ光をただ見つめる。

(これは……俺のスキル……!)

(“無能”なんかじゃない……!)

リアンの瞳に、初めて強い光が宿った。

そして、魔狼シャドウウルフが再度跳ぶ。

リアンは木剣を握りしめ、大地を踏みしめた。

胸の奥から湧き上がる記憶の残滓を頼りに、前へ踏み出す。

その刹那。

教官グランが叫んだ。

「リアン、下がれッ!!

 そいつはお前の手に負える相手じゃ……!」

だが、少年はもう動き出していた。

自分の意志で。

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