2.英雄の覚醒
魔狼が跳躍し、牙が空気を裂く。
その軌道は真っ直ぐリアンの喉元を狙っている。
避けられない。盾もない。助けも間に合わない。
そのはずなのに、リアンの耳に響くのは、静かな声だけだった。
『“根源適性”確認。
英雄系統スキル:封印解除条件、達成。』
胸の奥で、白い光が脈打つ。
「な、んだ……これ……!」
恐怖なのか期待なのか、わからない感情が胸を揺らす。
心臓が早鐘を打ち、視界は白く滲んだ。
『スキル《????》を解放しますか?』
選択肢は1つ。
「……やるしか、ないだろ……!」
震える声で答えた瞬間
『承認。』
世界が、裏返った。
リアンの視界を白い光が満たした。
次の瞬間、体の奥から何かが溢れ出した。
熱い。でも痛くない。
むしろ、全身が“満たされる”ような感覚。
そして、脳裏に一つの言葉が刻まれる。
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原初の追憶
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「……これが、俺の……スキル……?」
名前だけでは意味がわからない。
使い方も効果も、一切不明。
だが、時間はない。
魔狼の牙が、リアンの喉元に迫る。
その瞬間――白光が弾けた。
リアンの体が勝手に動いた。
まるで誰かの記憶に導かれるように。
足が地面を蹴り、腰を落とし、木剣を最適な角度で構え、まっすぐ斬り上げる。
自分とは思えない“完璧な剣筋”。
「――ッ!」
木剣が黒い狼の顎をはじき返し、軌道を逸らした。
魔狼が地面に転がり、砂煙を巻き上げる。
周囲の子どもたちも教官も、誰も声が出なかった。
「な、んだ今の……!?」
「木剣で魔狼を押し返した……?」
リアン自身が、一番理解できていなかった。
動いたのは自分の体なのに。
でも、あれは自分じゃない。
まるで誰かの“戦い方”を再現したようだった。
胸の奥に熱が灯る。
意識の底に、確かな感覚が残っていた。
“これは誰かの記憶だ”
(原初の追憶……誰かの記憶を再現するスキル……?)
考える間もなく、再び黒い影が跳ね起きる。
魔狼の目が、今度は明確にリアンだけを捕えていた。
「なっ……こいつ、俺を狙って……!」
「リアン逃げて!!」
「リアン下がれ!」
ミリアと教官グランの声が重なる。
だがシャドウウルフは止まらない。
魔獣の本能が“リアンの中の何か”を恐れて、逆に攻撃衝動を刺激していた。
黒い狼が跳躍する。
『再現可能戦闘記憶:選択。』
白い声が再び響く。
次の瞬間、リアンの体がまた勝手に動いた。
木剣を横に薙ぎ払い、狼の鼻面を弾き、
すぐさま後ろへ跳んで距離を取る。
完全に、戦士の動きだった。
「こ、こいつ……本当にリアンか……?」
ざわめきが起きる中、
リアンは胸の奥で脈打つ光をただ見つめる。
(これは……俺のスキル……!)
(“無能”なんかじゃない……!)
リアンの瞳に、初めて強い光が宿った。
そして、魔狼が再度跳ぶ。
リアンは木剣を握りしめ、大地を踏みしめた。
胸の奥から湧き上がる記憶の残滓を頼りに、前へ踏み出す。
その刹那。
教官グランが叫んだ。
「リアン、下がれッ!!
そいつはお前の手に負える相手じゃ……!」
だが、少年はもう動き出していた。
自分の意志で。




