3.5話 《幕間》 誘い
あぁ何とも退屈じゃ……
目の映る物と言えば、丸眼鏡の真人間。
かと言って目の端に映るのは護衛隊長のシルバーとティーポットの生身の手腕のみ。
二人の全身が妾の目に映る辺りに配置してもコレまた丸眼鏡のシュルツに突かれるだろう。
「っということで、協定の決議はいいですね?」
パチっと手を叩き何やら上機嫌なシュルツだ。
まあ、互いの国で貿易の拡大が進めば利益も見込めるだろうしな。
我国での輸出物は海と河川が近いので塩や魚、野菜も輸出物としておる。
食生活も豊かになるだろう。
逆にコチラは岩塩や鉄、石炭の流通が増えて国民の生活の彩りがより鮮明になるだろう。
「さあ少し雑談なのですがぁ昔、ユパロンでは鉱山の開拓時に祈りとして、ある事を行ってきたのです。」
嬉々として饒舌に話を進めるシュルツ。
(急になんだ……昔話などに興味はないぞ)
「なんだと思いますか?オーリア女王様」
「さあな……宴か何かか?」
多少ぶっきら棒に対応しても、この不毛な対話で国の命運が掛かる訳ではあるまい。
「あぁ〜惜しいです……」
なんだ此奴、声を乱高下し丸で妾を挑発する様に
「なんだ?もう今日の外交は済んだろう……帰らせてもらうぞ……」
妾が先を立つも、シュルツの調子は変わらない
「あぁ、お待ちくださいませ……せめてこの話を聞いてからでも」
あぁ本当に退屈じゃ……早う帰らせておくれ
コレならベレッタを長時間、何もせず観察してる方が幾分、楽しめる。
いやベレッタに限らず目新しい癖者の観察は何よりも至高だ。
比べるまでもなかろう。
ドサっと妾がソファに座るとシュルツはニヤリと笑うなり口を開けた
「正解は舞です……舞を捧げ開拓の成功を願ったんです……まあユパロンの元々の自然崇拝が転じての事でしょう。」
神妙な顔付きでシュルツは話す。
だが、未だ話が見えてこない
(興じぬ……)
「現在はその舞の文化は……年に数回、王宮や王都で大舞踏会を催すまでに発展しました。」
饒舌に話すにも何か目的があるのだろう。
「なんだ大舞踏会のことか、それなら小耳に挟んでおる随分と大規模だと存じておる……」
話の内容から言って、大体は察することは出来る
「つまり……何が言いたい?申してみろ。」
シュルツはその言葉を待っていたかの様に
手を大きく横に広げた。
「二週間後ユパロンでその大舞踏会を開くんですよ……どうです?宜しければポロペ国もご参加してはいかがですか?」
その広げた手を妾に差し出した
「大舞踏会か……」
「はい!勿論、オーリア女王そして二人の姫様などの一族様もご一緒に大舞踏会を楽しまれては如何でしょうか!」
粗方、大舞踏会の誘いだとは予感していた。
だが、まあ友好国としての交流も、それに伴う処世術も存分に活かすのが当然、吉だろう。
「あぁそうです!ユパロンの王子ゴルド様は――」
話す調子がもう一段階、上がる。
鬱陶しいのも甚だしい
『おいおいおいおい〜……』
シュルツが言い掛けた直後
微かに若い男の焦せる声が聞こえた。
「あぁ、噂をすれば本人が!」
シュルツは満面の笑みで立ち上がり扉を開けた。
だが、どうやら声の主が見当たらなかった様だな
(この際、大舞踏会でも何でも出向いてやろう……貿易の件は済んだこれ以上、不毛な会話は終わりにしてくれない物か)
「きっと、聞き間違いじゃ、さあ話の続きをしておくれ……」
混迷な表情でシュルツは扉を閉めた。
バタッ‼︎
「んで……詳細を聞こう大舞踏会とやらの。」
シュルツは扉の前で、その言葉を聞くと目を輝かせながら、ソファに座る。
「はいっ!勿論でございます!」