第28話 癖者好きオーリア女王と紳士なベレッタ
「やっと……見つけた、ベレッタ」
昨夜ジョッキさんからオーリア女王が直接、酒場にやってきたのを聞いた。
丁度その時間、ワタクシは出先だったので出逢うことは出来なかった。
その時は酷く落ち込んだ、久しぶりに女王様を一目する事が出来るのかと、あわよくば会話もする事が出来るのだと。
ワタクシはあの一件で身に染みたので尚更。
ゴルド王子やケプルムさんを見ていて、想いを伝え合う事は時に障壁が立ちはだかるけれど。
伝え合えたその時は、この上ない幸福だろうと。
決して叶わないとしても
認められられないとしても
ワタクシは矢張り、想いを伝えたい。
それでワタクシの未来が無くなっても、非難されとしても芽生えた感情には嘘はつけない。
「お、オーリア女王……お待ちしておりました」
女王が来た事を知らされたと同時にジョッキさんが話してくれた。
『明日、祝賀歳当日……ワタシがセレクトした場所で待機していると良いワ!』
ジョッキさんは機転を効かせて、ワタクシ達を逢わせようと進めてくれたらしい。
ジョッキさんには何から何まで頭が上がらない。
「まずはベレッタ……一連の騒動での活躍、感謝と共に謝罪をさせてくれ、無責任にも関係のないベレッタを関わらせて挙句の果てに国外通報――」
「――なんと口にしていいか分からぬ程の非礼じゃった……見苦しい物を見せてしまった申し訳ない」
開口一番に謝罪をされ頭を下げられた。
驚いたのは確かだが、彼女の誠心誠意を受け止め言葉を呑んだ。
ワタクシがやった事といえば、ゴルド王子を説得したのみ。確かに貢献はしたのだろうけれど……
あの時、オーリア女王達が来なければワタクシは今頃、この場にはいなかった。
深く頭を下げたまま一分程だった頃、やっとオーリア女王は頭を上げてワタクシを見つめた。
相変わらず女王は美しく祝賀歳に合わせて
初めて見る衣服を着飾っていた。
綺麗で繊細な生地の深青ドレス。
チラリと見える鎖骨の上部には
光沢を輝かせるネックレス。
足元はスラっと出でていて大人な雰囲気だ。
「ベレッタよ……妾はお主に、望んでいない事を提案してしまうけれど聞いてくれるか?」
いつも以上に誘惑な瞳に甘酸っぱい女王の声がワタクシの耳を刺激する。
桃色の薄い唇が月明かりに反射して鼓動を速くさせるのでワタクシは思わず胸を押さえてしまった。
「はい、何なりと……」
“美しい”“麗しい”との言葉は女王様の為にあるかの様に感じるほどに頭の中は女王で沢山だ。
ジョッキさんが提案してくれたこの場は
王都から少し離れた茂みの奥で湖が形成される。
人気が無く、ここでならば誰にも会話を聞かれることもないだろう。
どんな事を言われたとしてもワタクシは受け止めるし、しっかりとワタクシからも礼を言い
伝えたい事を伝えたい。
『――ベレッタ、妾の侍従になってくれぬか?』
――――ドン!
――ヒュードンドン!
――――――ドンドンドン!!
花火が上がって湖が色鮮やかに煌びやかに
映し出され空上を見れば二度、言葉を失う程の
「美しい…………」 「美しいな……」
思わず声が漏れてしまったのは
ワタクシと、そしてオーリア女王様。
ほぼ同時に呟いていた。
胸の高鳴りは妙に落ち着いてきて
花火に見惚れていた。
そう、この場にいたワタクシ達は
見惚れていたのだ。
――――――ヒュ〜
「勿論、ワタクシは引き受けますよ」
――――――――ドーン!!
思い出したかのように、女王様の問いかけに答えた。この上ない、光栄な事であるし
心から嬉しく思っている。
花火の音が全てを掻き消すので、ワタクシの声が女王に届いてるのだろうか。
ふと上空から近くにいた女王の事を覗いた。
「ん……っ!」 「あっ……」
おっと、目があってしまった
女王もワタクシの事を見ていたのか。
なぜ?
「お主が子供みたいに花火を観ている姿……しかと目に焼き付けたぞ」
不思議と声が弾んで聞こえるのは
ワタクシが勝手に補完した事なのだろうか?
どうであれ女王は感激している。
「それはそうですよ、こんなに近くで花火を観たことはありませんし……そもそも花火自体、本当に久々です」
――ドン!
――――――ドンドンドン!
「ならば毎年の様にこうして見れば良いじゃろう」
思えば、ワタクシが国に来て
女王の目に留まった時からこんな運命が待ち受けているのだとは想像していなかった。
摩訶不思議にも女王に想いを抱いなかったとしても、こうして花火を見る事が出来たのかも想像できないのです。
ワタクシの人生は虐げられて貶されるばかり。
もう、うんざりだった。
だからこそ感謝しなければならない
一生分いや一生涯賭けても
――この恩は返す事ができないのではと。
時間なんて少ない、残される時間なんて
本当に僅かならば……
「オーリア女王、ワタクシは貴女様や国に感謝しても――」
ん、女王様は人差し指を口に当てた。
「十分じゃ、十分過ぎる程に想いは感じておる」
もう一方の女王の手はワタクシの手を握っていた
コレはワタクシが自発的にやった事なのか女王が自らやった事なのかは記憶が曖昧だ。
――分からなかった。
「ありがとうございます……」
握られている手は震えてはないのだけれど
ワタクシの心は常に震えて止まないのです。
「この先も話をしよう……他愛の無い話、お主の事もそうじゃ、妾の事も話そう」
女王の横顔は美しい。
美しいと一言に表す事さえも烏滸がましい程、まるで月の様だ。
「そうした先に眩しい明後日があるならば、そこを目指して走り駆けるのも悪くはないじゃろ?妾は妾で夢がある――」
女王の夢ならばワタクシも聞いた。
亡くなった先代の女王様の遺言
『癖者の正体を突き止める事』
「ベレッタが悪く思わないのであれば――一緒にその夢を叶えるために走ってはくれぬか?」
元々は母の病気と生活費を稼ぐ為だった。
今や、その目的もお陰様で叶った。
ワタクシが新しく目的を持つ理由が
オーリア女王ならばワタクシは構わない。
あの日からワタクシは、女王に忠誠を誓ったのだから此処で怖気つく事はない。
「勿論です……是非にオーリア女王の夢の為ならばワタクシを使ってくれて構いませぬ」
風が吹いている。
心地良い風だ今、ワタクシと女王を優しく
撫でるかの様なよそ風だ。
花火も打ち終わり、徐々に王都の喧騒も聞こえてくる様になった。
この国は癖者の楽園“ポロぺ国”
当たり前に吹く風も全てワタクシ達を祝福しているに違いない……
ワタクシは上空を覗いたままに、直立している。
その横には女王様がいる……
運命も希望も捨てた物じゃない。
ワタクシを信じてくれる人や認めてくれる人
愛してくれる人……
「そうです、オーリア女王……あの日、大舞踏会の時に“話す機会があれば”と言っていた話を……話してくれませんか」
切り返す話題が場にあっていたかと言われれば、合っていないとは思うけれど、一秒でも女王の近くで寄り添っていたいと気持ちが先行してしまった。
「あぁ、彼の話か……」
ワタクシは女王の横顔を見て、話を聞く
「確か、狼の癖者……クリミナルさんでしたよね」
彼女は月が反射した湖を見ていて瞳にその風景が浮かんでいた。
「あぁ、いや彼に新しく名前を付提案したよ……犯罪者なんて可哀想な名前は妾には耐えられなかった……」
それはそうですよね。
犯罪者なんて言われて良い気にはならない。
彼は幼い頃からそう言われてきて、そう名乗りざる負えなかったのだろう。
「新しく彼に……なんて名前を?」
ワタクシがもし彼に出逢っていたら……
どうしていたのだろうか。
「“キュウラン”……キュウランじゃ――」
え?キュウラン……キュウランって言ったら
ワタクシの故郷で散々、ワタクシを痛ぶった真人間の名前と同じじゃないか……
「元気しておるかな……」
奇妙な一致にも程がある……
―――――――――――――――――――――――
「銃の癖者“ベレッタ”彼を女王オーリアの侍従として女王を助力する事を誓い此処に表彰する」
式典は神聖に行われて
ワタクシは晴れて正式に女王の侍従として王宮に舞い戻ってきた。
侍従はティーポットを侍従長として女王や他の王族達のサポートが主たる役目である。
尽力出来る機会が舞い降り嬉々として鼓動が弾む
今日からワタクシの新たな生活が始まった。
第一部 護衛編 完
無事に第1部 完結できました!
皆さん、応援ありがとうございます!
少し期間は空きますが第2部の方も執筆させて頂きますので末長く宜しくお願い致します!




