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癖者好き女王と紳士な銃男  作者: 秋浦ユイ
《第1部 護衛編》祝賀歳
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第27話 祝賀歳


「さてさて……今年もこの季節になってきたな」


 日中でも涼しい風が度々、吹く様になり

 王宮や王都、ポロペ国に茂る木々が段々と色づいてくる季節じゃ。


 その季節になるとポロペ国では国全体で祭り騒ぎとなる。今季までの疲れや邪気を払い来年や来季以降の国の行く末を“祝賀歳”として願い、祝う。


 今は国全体で忙しなく明日に迫った祝賀歳の準備に追われている。

 

「どうされましたか?オーリア姉様、先程から書類確認の手が止まってますよ」


「ん、あぁ……少し耽っていたな」


 三女のフェルムが妾の仕事場、執務室に滞在しているのは訳がある。

 妾がこうして、仕事に手が付かないのも彼女にあるのだが、どうしたものか。


「……ねぇ、どうかなオーリア姉様」


 どうしたもこうしたもない。

 こんなに頭を悩むことは妾は稀じゃぞ?


「――ベレッタさん、連れて戻したいんでしょ?私はあの人、いた方がいいと思うよ?」


 こうして何故、フェルムがベレッタを支持する様になったか分からないな。

 まあフェルムの事だ、何かしらの利点が彼にはあると判断しての事だろうな。


「さあ、どうじゃがな……」


 確かにベレッタには感謝しておるし申し訳ないとも思っているのも事実じゃ。


「んでもさ国外通報にしたのは姉様のせいでも、ベレッタさんのせいでも無かった訳でしょ?」


 フェルムが妾の顔をしげしげと窺っている。

 そんな妾といったら曇った顔をしている事だろう


「あぁ彼は被害者じゃ、例の件のな……」


 ベレッタとその一家ぎポロペ国で密かに暮らしている事は王宮内では三人のみ。

 王族では妾、以外知らない。


 まあ、もう隠す必要もない訳だから

 明かしても良い。


「あっ……姉様、笑った」


「ん、そうか?」

 

 指摘されて初めて気付いたが

 ニヤついてたらしい。


 フェルムは妾の笑み顔を見て、スンとした顔をしたと思えばニコリと笑って執務室から出ていこうとしていた。


「今ので分かったよ、姉様は(はな)から考えていたんだね……」


「――謝れるといいね」


 フェルムはそう言い捨てて部屋を後にした。

 彼女は若いながら頭が冴える。

 ベレッタを国外通報するかの投票でも常に中立を取っていて物事をしっかりと俯瞰して見れている。


 そんな彼女だからこそ、妾の機微に気付いて

 何を考えているのかさえ予測していたのだろう。

 不覚にもその予測は的中しているのも末恐ろしい


 “謝れるといいね”か……。

 そうじゃな最後に直接、会話を交わしたのはいつ振りじゃろうな。


 心では猛省して彼に謝っていても

 彼には一言も伝わっていない。

 ましてや彼の現状の境遇すら、妾は変える事は出来ていない。


 一連の騒動において彼は一番の功労者だろうに

 誠にあり得ない、不甲斐ない。


 何かしら妾から動かなければ彼の性格からして何も申してくれないだろう。

 ならば、こちらから……


 まずは大法官のピートに意見を求めよう。


――――

 

「なるほど、なるほど……今は酒場の店主のご厚意で場所を借りて暮らしていると」


 ピート、此奴は王宮内で一番と言っていいほどに頭が切れる男じゃ――

 

「あぁ、そうじゃ何か彼に報いを示したい何か案が有れば申して欲しい」

 

 ――彼ならば何かしら良案が期待できる。


「無理です、ご自身で考えては如何でしょうか?」


「は、はあ?何を言う」


 ピートは無機質にも即答した。

 思わず妾も疑問を呈した。

 何か不利や不可能な事でもあるというか?


「あの時、いいましたよね?」


 ピートは真面目な顔している

 凛とした表情が、その鼻筋がいつもより尖って見えるのは気のせいか。


「“ベレッタに惚れたと”」


 ん!

 そうだ、多数決を取った時じゃ。

 我を通す為にも理由を作ったのが

 ベレッタに惚れた(それじゃった)


 ただ、まあニュアンス的には多少の差異があるけれどベレッタに興味があるのは変わらないし。

 何がともあれ、彼に報いる事が出来れば……


「オーリア女王が考えるべきですよ、貴女様が本当に彼を気に入っているならば、いつもの貴女様なら誰彼構わずに猪突猛進していたでしょうに」


「別に彼との交際やらその先を認めた訳ではないですが――貴女様は“癖者好き女王”ですから一応、一言いっておこうかなと……」


 背中で語り去るピートを前に何も言葉出てこなくなった。確かに言われてみれば、いつもの妾ならば

 形振り構わずに駆けている。


 なのに何故、妾は


 ――慎重になっている?


 ただ単にベレッタに報いたならば考えれるのは数多とあるだろう……ポロペ国に正式に暮らせる様に手配するなり、報酬を差し上げてもよい。


 

 だけれど妾の本音はそれらじゃ無かった。

 

 ――彼にもう一度、王宮に戻ってきて欲しい


 コレは妾の自我じゃ。

 ベレッタの意思ではない。

 

 現にベレッタには王宮で働く意味はなかろう、彼の母は病から立ち上がり市場で働いていると聞いているしベレッタはベレッタで酒場の店員に……


 ――報いたいは、妾の自我じゃダメなのじゃ――


 今の彼を否定する者は、もうこの国にいない。

 ユパロン国にも少ないのではなかろうか。

 だからこそ王宮で働くに値する人物


 だめじゃ、だめじゃ……

 全て自分本位で考えてしまう、本当に悪い癖じゃ

 もう何年も何十年も自身の探究心のままに好奇心のままに生きていたのが悪い目になった。


「どうしたの、オーリア姉様」

「顔色悪いわよアタシ医者様呼んできましょうか」


 地面を凝視する妾を異常に思ったのだろうか、アウルムとケープルムがやってきた。


「……心配かけて申し訳ない、少し考え事をな」


「んえっ!珍しいですね、そんなに暗い顔をする程に考え事を抱えていたなんて……」


 アウルムが驚きながらも心配する様に妾の背中を摩ってくれた。ケープルムはオドオドしながらも不安な顔を見せながら、同様に背中を摩る。


 第三者から見れば、この光景は異常に映るだろうが、何だか妾は暖かく思えた。


「や、やめぇ……もう良い!」


 ただ、恥ずかしくなって

 誤魔化しを効かした……そしたら二人は上品に笑い合っていた。目に涙を溜めながらも笑う物だから

 妾も何だか可笑しくなって笑ってしまった。


「もう姉様は頑張り過ぎなんだよ」

「疲れたら、いつでもアタシ達を呼んで笑かしてあげるからさ……」


 “疲れてる”確かに女王に正式に就任してから二年も三年も経っているからな……

 気が強張っているのは茶飯事じゃ。


 この一瞬まで疲労なんて意識はしなかったのは“癖者好き”として母君の遺言の為にも研究を調査を進めていたからか……


 

 妾が昔から好きだったのは変わりなく

 ――癖者じゃ。


 思い立ったら完全に調査して研究して分かるまで、その者を調べ尽くしていた。

 その情熱は時に俯瞰して奇しく映っていても止める事が出来なかった


 ――衝動は全部

 


 彼らが彼女らが癖者と形の属性で産まれたからではない。真人間とは大きく違う姿をしていたからでもなかった……


 『……では女王様はワタクシ達を対等に見ていると言う事でしょうか』


 ――自我で動いていたのだ。

 だからこそ芯に好きでいたのじゃ――


 ならば妾が衝動で駆け行く先が答えだ。


 走れ駆けろ、動け、王族だからと平民だからと癖者だからと何者だろうと“好きでいたのならば”それが偽りでなく真実。


 差別や偏見だらけの、この世でも

 愛していける物一つ有れば御の字じゃ。

 産まれ落ちた身が例え醜くとも、高貴で鉛の様に重っ苦しい重圧だとしても


 “美しい”と呟けれる純粋さを妾は信じたい。


「ベレッタ!! お主に話したい事がある……」

 

 気がつけば王宮を抜け出して

 王都を全速力で駆け走っていた。

 ティーポットの話に聞いていた例の酒場まで、無我夢中で誰にも止められずに断りを得ずに。


「アラ!お、オーリア女王様!?驚いたワ、どうしましたでしょうカ!」


 酒場にいたのはビールジョッキの頭部の店主“ジョッキ”がカウンター越しに立っていた。

 辺りを見ても客や店員を目にする事はなかった。


「ん……ジョッキと言ったなあの日の事、誠に感謝する、突然で申し訳ないがすまない」


 彼は謙遜しながら、頭を下げた。

 いや本来、妾が頭を下げなければならない立場。権力で、当たり前にしないといけない事をしないのは妾の本心ではない。


「ん、あ!ちょ、ちょっと!女王様っそ、そんなに頭下げなくとモ……」


「いえ、これは妾の意思じゃ形式的でも誰かに指示されたでもない……妾の意思じゃ」


 深い礼をして頭を上げた。

「ベレッタ彼にも礼が言いたい……彼は何処に?」


 ―――――――――――――――――――――――

 人は誰しもが差別や偏見を抱える物だろう。

 一切それらを口に出さず、対象の人物に向ける事をしないと言うのは一種の優しさのような、またはマナーやモラルであろう。


 妾にだって微量ながらも差別や偏見を抱える。

 例としてモ・ムエニラの指導者や先の外交官のようなタイプは妾は軽蔑する。


 

 では、その逆はどうか。

 人は美しい物や壮大な物を見た時。

 愛しているもの、好きなものに対しては?

 声に出して良いものなのだろうか。

 それで誰かを傷つけてしまったら?

 

 ――極論、人生など自我で出来てるようなもの。

 そう言ったプラスな感情は声に出さないと勿体無い、伝えるべき事は伝えるべき。


 傷つけてしまったのならば

 全力で謝るか、治そうと努力しよう。

 妾はそうして生きてきた。


 辛い別れなどを経験した、その時も

 妾は愛好した物や人を忘れはしない、胸の奥で優しく包容するのじゃ。


 《後日 祝賀歳 当日》


「やっと……見つけた、ベレッタ」

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