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癖者好き女王と紳士な銃男  作者: 秋浦ユイ
《第1部 護衛編》交際証明書
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第24話 吐露


「お、お……お前は……あの時の癖者か。」


「はい、ベレッタでございます。ワタクシが此処に来たのは貴方様もご存知でしょうか、あの号外の件についてです。」


 フードから露出した銃火器は見る人によっては恐怖や混乱を招かねない。

 だがゴルド王子は初めてワタクシを見た時も一才そのような反応は示さなかった。


 それはユパロン国の国民が癖者に対しての偏見や差別の意識が低いと言うのを印象づける。


 ――だが現状においては王子の心情を強く刺激しかねないのが、このワタクシの頭である。

 何故なら“銃”というのは人間の潜在的恐怖心を煽ってしまう可能性があるからだ。


「……ワタクシはその号外が虚報であると王子から直接、国民に伝えて欲しいのです。」


 出来る限り穏やかに刺激しないようにと、言葉をいつも以上に気を遣って放つ。

 繊細に慎重に……


 しかし王子の表情は依然と強張っており、懐の剣に手を置いている。

 当然と言えば当然な反応、交際証明書を結ぶ重要な日に友好国の顔見知りであれど侵入者だ。


「あぁ号外の件も、あの日アナタが虚偽の内容で濡れ衣を着せられた事も知っている!だが俺はアナタを見捨てたんだ……見ないフリをしていたんだ!」


 その怒号と呼べるか判断がつきづらい、悲しみと後悔そして少しの憤りを不乱に浴びさせた。

 

 彼の立場を鑑みて考えれば

 ワタクシは何も言葉にできなかった。


 全てケプルムさん本人から聞いている。

 彼女はシュルツ殿に買い取られ王宮に働く事となりゴルド王子と仲を深めた所、三年前に解雇された

 

 その話を聞いてワタクシが想像したのは

 

 ――全ての元凶はシュルツ殿であるという事。

 

 ケプルムさんの突然の解雇通達も今回の号外も、そして二人の恋路すらも奴の計画の一部だとしたら……考えるだけでも不愉快だ。


 全ての点と点が繋がった先にシュルツ殿の計画が見えてくる筈なのだが……


「全てシュルツ外交官が企てている事は貴方様も勘づいてる事でしょう。ユパロンにもポロペにもそれは悪影響を及ぼす事かもしれないんです!」


「いい、どうだっていい……これはケプルムを幸せにする為だ!彼女が幸せに生きていけるならば俺は操り人形にだってなれる!」


 激化する対話の投げ合いは両者共の正義がぶつかっている。ゴルド王子はゴルド王子でケプルムを守る為の手立てであると述べているが。


 それもシュルツ外交官の掌の上ではなかろうか?


「まずは……まずは!ワタクシを信じて下さい!今、ケプルムさんは安全な所でワタクシ達の仲間と一緒にいます!」


「シュルツ外交官に何を言われたかは分かりませんが!彼は悪巧みをしているに違いありませんよ!」


 これでは埒が明かないと思い、安全な場所に兎に角、今はどうにか移動したい。


 一向に手強く懐に手を添える彼に悶々とすると同時に同情もしてしまう。


「この状況でお前を信じろと言われて誰か信じる物か……お前の目的は理解した。理解した上で俺は拒否し――」


 遂にゴルド王子は剣を抜いて戦闘体勢を取ってしまった。ワタクシは手を挙げて膝をついたままで依然、分かり合えれなかった。


「お前は此処で斬る……コレは全部、ケプルムの為だ。安心してくれベレッタ、お前には感謝しているし尊敬の念もある」


 “感謝?”“尊敬の念?”

 あの時、王子が王宮を出ようとしたこと?

 あの時、二人を見逃した事だろうか。


 なんでワタクシはあの時、見逃したのだろうか。

 きっとあの時、同情も何もかも捨てて申告していたらシュルツ外交官の計画は今頃、狂っていたのだろうか。


 そしたら同時に二人の恋は終焉してしまうが

 別にワタクシには関係ない事……


「然らばだ……紳士な銃男よ」


 彼が剣を構えて近づき静かに呟く。


 ――そうかワタクシは紳士だからか。

 いやそれはまた違うな……


「似ていたから……でしょうかね。」


 彼が振りかぶろうとした、その時。

 朧気ながら頭に浮かび、口から出たのは細い声。


 糸のように細くて両端を勢いよく引っ張ったら、直ぐにはち切れそうな状態。


「王子とケプルムさんと……ワタクシとオーリア女王との関係性……」


「……似ている……?」

 剣をワタクシに向けて、今にもその刃が首筋を切り落とそうとしていた一瞬、王子は固まり呟いた。

 何に興味を惹かれたのか……


 ワタクシには解らなかった。

 だが、静かに語る……感じたままに


「烏滸がましい事かもしれないけれど……王族と平民、ましてはワタクシは癖者です。叶う恋と叶わない恋って似ているじゃないですか……」


 膝を床につきながらも頭部を動かして、彼の表情を窺った。表情というのは何とも表現し難い程に蒼白していた。


「オマエ……もしかして――」


 口を開き驚嘆した声を上げる彼。

 剣は震えていて一旦、振りかぶった所作を戻し剣は胸の前で構え直していた。


『――はい、ワタクシはオーリア女王に慕情を寄せています……』


 あの日、国を訪れて初めて女王を目にした時、そして彼女に“美しい”と呟いた瞬間から既に

 ワタクシの心は暴れていたのだろう。


 感情はその時こそ確証な物ではなかったが彼女がいる国、女王の王宮で過ごしている内に確かな物と心の何処かで感じていた。


 それは誰にも明かせず、誰にも明かしてはいけない秘密な感情だ。平民がましてや癖者が女王に慕情を抱き、心苦しくも報われる未来を描く事は


 ――好ましくないですよね。

 決して交わる事のない平行線であるからこそ、純粋な感情だからこそ他人に明かす事などあり得ない


「お、オマエ……」


 空いた口が閉じまらないとはこの事。

 ワタクシは吐露したのだから。


 女王とワタクシそして

 ゴルド王子とケプルムさん。


 何処か境遇が似ているからこそ二人に協力したいと想えた。実際に上手くいくか、後々に大変な事になる可能性も気にしないほどに


 紳士的にした行いではない

 ただ純粋に純粋に。


「殺したければ殺して構いませんよ……」


 渇いた声を無神経に発してしまった。

 なんだか高揚しているのは、随分と自分自身にも隠し通していた感情を空気に晒すことが出来たからかもしれない。

 


 「憐れだな、ベレッタ。」


 王子は言葉の通り、憐れむような惜しむかのように呟くと剣の音が聞こえた。


 ――キィーン


 ワタクシは既に覚悟は出来ている。

 目線は石で出来た冷たい床。

 思い残す事がない訳ではないが心から晴れ晴れとしている。


「俺は癖者だからと軽蔑も差別もしない……そんな姿形の違いで癇癪を起こしていては国のトップにはなれやしない……」


「父が幼少期の俺の粗相に寛容だったのも……孤児のケプルムを王宮に雇わせたのも。父が国王に相応しい器だったからだ」


 なぜ、ゴルド王子はワタクシを断頭しない?

 もう十分だろうに……


「此処は父の器に免じて――来い、ベレッタ」


 心地よい風がワタクシの身体を包む。

 いつまで経っても刃が通らないので

 ふと顔を上げた……


「先程の俺の無礼を詫びる……悪かったな。」


 窓は開いていて、ワタクシに手を差し出すゴルド王子が立っていた。

 剣は鞘に閉まっていて敵意も殺意も何も感じさせない少し涙を浮かべていた。


 爽やかな風は彼の赤髪を揺れ動かす。


「ありがとう……ゴルド王子。」


 それ以上は何も言わなかった。

 静かに敬意に重んじて彼の手を借りて立ち上がる

 

 彼の感情を突き動かしたのは何だったのかと考えるのだが、そうこうしている内に王子は

「此処の窓から二階の屋根に飛び乗る。大丈夫そうかベレッタ?」


 ワタクシを王子の部屋に移動させようとしているらしい。その後はどうなるか分からないが少なくとも協力はしてくれそうだ。


 もう深く考えるのはやめよう。

 ゴルド王子の行動が全てを物語っているだろう

 それだけだ。


「はい……なにせワタクシは元護衛兵ですよ。」


 彼はニコっと笑んだ顔を見せて

「そうだったな!安心しろ俺が……全部、元通りにしてやるからさ」


 自身やワタクシを含めた周囲、全てに宣言するかのように放って窓から屋根に飛び乗っていった。

 ワタクシも後に続いて窓から飛び出す。

 

 「こっちだ、ベレッタ!」


 屋根の上を軽やかに渡り歩き、ワタクシを誘導する声を静かに出していく。


 二階の屋根上は青く塗装されていて、とても歩き難いのだが彼についていく。

 そして飛び降りた先から百メートル程だろうか、その距離で彼は立ち止まり屋根下を覗いた。


「ここだ、俺の部屋は……いいか落ちるなよ」


 そう言ってゴルド王子は慣れた雰囲気で身軽に屋根下に消えていった。


 高いのは苦手ではないが、嫌いではある。

 だが此処を乗り越えれば彼の部屋に着く。

 そこでなら落ち着いて話が出来る、全ては両国の未来の為だ、致し方ない。


 意を決してワタクシは屋根下を覗くと窓が見えた。窓は屋根の出っ張りから少し位置がズレていて一歩間違えれば、直行して王宮の中庭に落ちる。


「……やるしかないですね」


 ――フンッ!

 手を屋根に掴み、足を屋根下の宙に浮かばす。

 すると宙に浮いた足が誰かにガシッと掴まれた、きっとゴルド王子なのだろうけど焦ってしまう。


 ここはもう勢いに任せるしかない。


 ――トオッ!

 勢い付けて、窓に飛び入った。


 「おお、危ねぇ危ねぇ……よく、あの体勢で此処まで来れたなぁ。」


 感心したように、白目を大きくして部屋の床に横たわったワタクシに言い放った。


「ま、まあ慣れない事をしたので……」

 

 ゴルド王子は笑みを見せてアハハハと笑い声を挙げので、緊張が解けた気がして安堵できた。

 

『おやおや、お二人揃って楽しいそうな事ですな』


 突如、部屋の扉が開き聞こえてきた


 ――シュルツ外交官だ

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