第23話 交際証明書
《交際証明書交付当日》
『いいか当日、俺とティーポットは女王に付いて歩く事となっている。証明書を結ぶ際は王座の間で儀式的に行うことになる』
――その前にワタクシはユパロン国の王宮に侵入しゴルド王子とコンタクトをし交際証明書の破棄または号外の虚報を国民に知らせる事を説得させる。
当日はいつも以上に警備は厳重になる事は予測され正面突破も潜伏も通用しないだろう。
『そこで先日、ケプルムさんから聞き出した隠し通路を通って王宮内に侵入しゴルド王子の部屋へ』
これが失敗したらポロペ国の癖者達の待遇がどうなるか分からない。
ワタクシは重要な役割を与えられてしまったが、ワタクシ以外に居ないのだからしょうがない。
「後、二時間後には女王様達が到着するワ。準備は出来てる?ベレッタ。」
ワタクシ達が今、待機しているこの家はケプルムさんの自宅。そして部屋にはワタクシとジョッキさんにケプルムさん。
「はい……いよいよですね」
ケプルムさんは不安そうに椅子に座り黙っていた。ジョッキさんは玄関扉の近くで腕を組んでワタクシに言葉をかけてくれた。
「でも助かりました。ユパロン国で待機する場所を丁度、探していた所だったので、ありがとうございますケプルムさん。」
頭を下に向けて机をただ見ていた彼女は、ハッとしてワタクシの声に反応した。
「いえ……私も嫌だったのでゴルドさんが望まない運命に立ち向かう事が。心では分かってます、あの人はそう遠くない未来、一国を担う人になるって」
「でも私は嫌でした。あの人が私を“愛してる”と言った……私も辛いのに、もっと辛い思いするあの人を想像したくない」
溜まっていた感情を吐き出した彼女は目に涙を浮かべていた。愛する人と自身との変えれない身分差はあまりにも儚い。
――ワタクシにも少し分かる気がして尚、心が締め付けられる。
「大丈夫ヨ。コレから全部、上手く行くワ。」
ジョッキさんの屈強な肉体は常に頼もしいと思わせる。ジョッキさんはケプルムさんの背中を優しく摩って呟いた。
ワタクシ達も全て話は聞かせてもらった。
ケプルムさんが“シュルツ外交官”に買い取られた事も“地下通路”の存在も。
彼女がいなければ作戦は滞り、大失敗に終わっていたかもしれない。
そして同時に確信した事がある。
この一連の騒動は全て“シュルツ外交官”が仕向けた事であると。
長い長い年月を掛けて綿密に計画を立て進めている。正に策士であり人間の所業ではない。
『それといいかベレッタ。あの外交官には仲間が複数人いると読み取れる』
数日前にシルバー隊長と交わした会話を呼び起こした。シュルツ外交官が何を目的に動いて、どんな人間と協力関係を結んであるかは現状、分からないけれど確かなのは一つ。
――シュルツ外交官は何か悪意を持って計画を実行しているのだろうと。
「さあ、ベレッタ。そろそろ行かないト。」
ジョッキさんが時計を指してワタクシに言い寄ってきた。ケプルムさんは以前、涙を流し感情を露わにしていた。
安心して欲しい。
ワタクシが全て解決する。
解決しポロペ国の平和とユパロン国の安泰を。
その後の自身の事はどうでも良かった。
もう母の体調も良くなったしポロペ国で住んでいれば職も見つかる、王宮に戻らなくてもいい。
――オーリア女王に確かな淡い感情が芽生えていたとしてもワタクシには似合わない上に叶うはずがない。
ゴルド王子とケプルムさんの関係性が羨ましい。二人は確かに心を通わせ互いに愛し合っているのだから。二人が報われるかどうかはワタクシには測れないけれど二人を咎める人々も――
いつかはきっと彼女達の幸を願うだろうな……ワタクシと違って“真人間”なのだから。
ワタクシは玄関ドアのノブを静かに引く。
ドアも同じく何も音を立てず、ワタクシ一人入れる隙間まで開いた。
外へ半歩出た所で二人の方を覗くと依然とケプルムさんは俯き気味なのが気掛かりだか、屈強で頼もしいジョッキさんの直立不動を目にして安堵できた
その直立不動の頂はコクリと上下させ、右手でサムズアップをして下さった。
さあ、此処からは単独行動。
ゴルド王子の説得にはケプルムさんには精神的にも物理的にも必須だった。
精神的の方はゴルド王子への働きかけ、つまり説得材料になれれば良かったのだが、彼女の心を察すると、この無謀な計画で更なる傷を付けてしまうかもしれないと三人で話し合った。
――その結論が自宅で安静にさせる事。
いち早く隠し通路の入り口まで疾走する。
風でフードが靡く。ワタクシの身体を大きく包むフードであるからか、視界が狭い。
だが大丈夫、何度も隠し通路の場を覚えてきたし脳内でイメージもしてきた。
この角を曲がり、真っ直ぐ。
花屋が見えたら、その店先の角を曲がる。
そうしたらゴミ置き場が見えてくるはず……
――よし、ゴミ置き場に着いた。
ゴミ置き場の地面をよく見て、地下室へ続く扉を探す。扉は上手くカモフラージュされているから気づく人は少ないがワタクシ達は既に知っている。
よし無事に地下室へ続く扉を発見。
木製で出来ているのだが、色は土色で注意深くしなければ見つける事は困難だ
ワタクシは取手に手を掛けて、扉を引いた。
『地下通路は一直線に王宮まで続いています。ただ暗闇なので気をつけた方がいいです。それと地下通路の扉は必ず……閉めてください。』
前日にケプルムさんと打ち合わせをしていた時の事を思い出した。
思い出しながらも扉を閉め真っ暗闇が広がった。扉を閉じた事で何処からの光源を失った。
尽かさずポケットに入っていたマッチに火をつけ光源を産み出した。マッチが燃える香りが鼻を刺激するのだが、その火は揺らめき、光をもたらした。
『気になっていたのですが、何故。地下通路なんて物が存在するのでしょうか。王宮までの一直線通路なんて見つかれば大惨事に繋がり兼ねませんが?』
『えぇ……確かにベレッタさんの言う通り。まあ、単純な事ですよ。非常時の通路それも封鎖され、もう誰も存在を忘れてしまった場所です』
――非常時の通路それも封鎖され、もう誰も存在を忘れてしまった。
ならば何故、二人が此処の存在を知っているのだろうか。ワタクシは直ぐにその疑問に辿り着いたのだが、彼女に質問する事は出来なかった。
どうも隠し通路の話をする時、彼女はトーンを落とし話す。触れられたくない域にまで訪れてしまったのかもしれないと感じる程だ。
考えられるとするならば、この地下通路は二人が作り出した場所、或いは二人が作り直した場所なのかもしれない。
――真相は如何なものかは、きっとワタクシ達はこの先、知る事は出来ないだろうが……
マッチの火を頼りにワタクシはひたすらに真っ直ぐ歩く。疾走音が辺りに響き渡るが、響音が地上の人々達に気づかれない事を祈るばかり。
暫く走り、息も絶え絶えになる頃。
土壁が見え足を鈍らす。
土壁には木で作られた梯子がかけられ地上へと突いていた。
『梯子を登った先は王宮内です。位置としては王宮の裏庭です。裏庭の向かえには、そのまま上階へと続く螺旋階段があります――』
ケプルムさんの言う通り、裏庭に出た。
そして直ぐ、向かえには螺旋階段が存在していた。兵は見当たらないが、確実に警備は厳重にしているだろう。
なるべく音を立てず、気配も消して螺旋階段へと辿り着いた。螺旋階段は鉄製であり登るとなると、毎回のように煩く音が鳴る事が予想できる。
――だが、仕方ない。多少の音が出てしまうが最小限に。ここを登らなければ、ゴルド王子の間には辿り着けない。
ゆっくりと登る
確実にコッカッ!と鉄を鳴らす音が響く。
ただ、その音も控えめであり最小限の鳴り音だ。
一段、一段、丁寧に階段を登って行く。
「おい!」
ビクッと身体が響めいた。
瞬時に下を見ると
「聞いたか?警備兵はいつもの倍、設置する。いつも以上に厳重に!この裏庭と外廊下もだ!」
裏庭で複数名の兵士に長官らしき男が支持していた場面だった。
「了!!」
兵らの返事声が何重にも重なり合って、ワタクシの心拍を異常に上げた。
数分遅く裏庭に出ていたら即、計画は終了する所だった。幸いであり危機感を覚えた。
その危機感がワタクシに焦りを与えたが、焦りに支配されず螺旋階段を登り終えた。
『螺旋階段を登ったら扉があるので、その扉を開けて下さい――開けたら』
ま、まさか……ケプルムさんが話していた道なり通りで進んだ物のこれは予想外。計画外だ。
『ゴルド王子様が、よく好んで訪れる。王都を見渡される展望部屋があります。』
本来なら展望部屋に行き着いたら、次に屋根に飛びのりゴルド王子の部屋まで行くつもりだったが。
「……何者だ!手を挙げ、膝をつけ!」
――ゴルド王子が既に滞在していたとは。
王子は非情にも侵入してきワタクシに語を強くして命令する。ワタクシは素直に指示に従う。
致し方ない、もう少し計画を練るべきだった。
屋根に飛び乗るなんて大胆な手段を取らずとも王子の部屋に辿り着けれたかもしれないのに……
いや違うな、むしろ王子がこの場に訪れていた事が幸いだったのではないのか。
「おい、手を動かすな。動かしたら剣を抜く。」
ワタクシは手を挙げて膝を突きながらも、頭に被さっていたフードを振り払おうと行動した。
どんなに彼が語尾を強くしていても
対話をしなければ始まらない。
「お、お……お前は……あの時の癖者か。」
フードからこの、銃の頭を露わにした。
当然、自慢するでも脅そうとも考えていない
ただ今は
ゴルド王子と対話をしなければならないから




