表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
癖者好き女王と紳士な銃男  作者: 秋浦ユイ
《第1部 護衛編》交際証明書
27/34

第21話 ポロペ国での銃男

「母さん、行ってらっしゃい」

 憩いの酒場『ジョッキ』その裏口玄関から外に出ようとする母親を正面にワタクシは手を振り

 母親の初出勤を応援する。


「行ってくるわね、ベレッタ!」

 ドアノブに手を掛け顔を振り返り

 ニコリと母は微笑んだ。


 ティーポット殿やオーリア女王など沢山の力を借りてワタクシと家族はポロペ国に移住した。

 住まいは酒場の二階。

 

 ワタクシ達がこうして一時的に住まう事になったのもティーポット殿の伝手とジョッキさんの寛大な人柄があっての事だと身に染みて想う。


 母は肌焼けが一切していない色白を晒しつつ、麦わら帽子を被り、服装は動きやすい紅のガウン。

 その上に汚れないようエプロンを付けている。


 コツンと革製の靴を鳴らし外へ出る母の背中を見てワタクシは二階に上がりながら感慨深くなる。


 病気で碌に身体を起こす事もできなかった母がこんなにも元気に回復するとは、あの時のワタクシは想像に至らなかった。

 そのまま母は寝たきりで生涯を迎えてしまうのではないかと毎夜、思考を巡らしていた事もあった。


 怪物と恐れられ、罵られ……何度もこの銃の頭を憎んだ。この頭部で産まれてこなければ、人並みに働く事も出来たし人並みに友や仲間が出来た。

 母の病気を直ぐにでも治せた。


 

 ――ただ、それも全てポロペ国にやってきたお陰で改める事ができた。


 ワタクシは癖者に産まれて良かったとさえ、想う。殴られ貶される事もあるが、コレがワタクシなのだから仕方ない事だろう?


 借りた部屋の一角のベットに腰掛けた。

 腰掛けたその先に窓が設置されていて、そこから市場の様子が窺える。

 喧騒が妙に心地よく聞こえたのはワタクシの心に謎の余白が出来たことと起因するだろう。

 


 行き交う人々は皆、癖者。

 商売をするのも皆、癖者。

 

 母親はジョッキさんの知り合いの八百屋で働く事となった。八百屋は窓越しには見えないが、きっと母親の事だ、癖者だらけのこの街でも上手くやっている事だろう。


 兄はと言うと、その逞しい身体を活かして大工職をジョッキさんが勧めた。

 このポロペ国の何処かで忙しなく建物を建てているのだろう。


 

 家族は皆、職を得て働いている。

 最初にポロペ国に移住する事を話した時は、二人は驚愕していたし、ポロペ国の住人を気遣ってか「いいの?真人間がポロペ国に住んで……」と母親は漏らしていた。


 癖者ならば真人間に妬み恨み辛みを抱えていても不思議では無い、ポロペ国に居住する事を決めた癖者など真人間にどんな扱いをされてきたかは知れているでしょう。


 ――ここは癖者の楽園


 故に真人間が住んで汚してしまう事は、あってはならない……などと母は考えていたのだろう。

 実際にワタクシ達は癖者であるからと阻害されてきた過去と現在を持ち合わせているから尚更だ。


『お母さぁーん!お母さぁーん!』

 窓越しからも大きく子供の泣き声が聞こえた。

 ワタクシはベットから離れ、窓に張り付くようにしてその様子を確認しようとした。


 確認した所で何か、その者に何かしてあげる事は現状出来かねない。

 

『ベレッタ殿……外出は控えて下さいね。アナタは一度、国外通報された身です。王宮外からは直接的な人名や容姿などは伝えられていませんが――』


 ――王宮内に関わる全ての者には情報が通達されている。


 昨夜、ティーポット殿が去り際に放った言葉を自分に言い聞かせる様にして復唱。

 窓の外を眺め、発声源の子供を発見した。


 

 子供はヤギの癖者で、まだ未発達のツノが左右に揺れていた。子供は手を目に持っていき「お母さん!」と泣き崩れていていた。

 

 溢れ出す涙を拭き続けている最中、行く交う人々は心配そうにしながらも通り過ぎる。

 紳士たる物、ワタクシならば直ぐさまに子供の元へ行き助け出したい所なのに。


 だが今、外出し運悪く市街を巡回する兵に見つかればワタクシ達の計画は全部、台無しになってしまう。


 見ないふりは出来ない……だけれど何かする事はできない、もどかしい!

 

 窓を開けてこの場から声をかける?

 いや、そうすれば逆に目立ってしまうな。


 辺りを見渡し、何かないかと探し回る。

 すると目に入ってピンと来た物を見つけた。

 

 ――紙切れだ

 これにメッセージを書き、その子へと優しく投げ飛ばし八百屋にいる母の元に誘導する事が出来れば……助ける事が出来るかもしれない。


 そう思考しながらペンを握って丸く丸めた。

 我ながら、こう言った時には頭が回る。

 紳士として人間として、大切な事はどんな時も忘れたくない物だ。


 ワタクシは窓を開けて子供が泣き尽くしていた方を見る。だが、そこにいたのは泣き止むのを辞めたヤギの子供ともう一人、大人がいた。


 麦わら帽子を被っていて紅のガウンに身を包んでいた見慣れた姿をした女性、母だ。

 まさか母が駆けつけてくれたとは……

 

 きっと泣き声を聞いて来たのだろう。

 

 子供は母を神妙そうに覗かせて話を聞いていた。此処からは会話は聞き取れなかった。

 だが忽ち手を繋いで市場の奥へと進んで行った。

 

 窓に身を乗り出して、その二人の後ろの背中を凝視した。なにも不安で覗いた訳じゃないが、かつて偉大に思えた過去の母の背中と重なり合わせた。


 『いい?ベレッタ、この国では“紳士”が一番、素敵な存在なのよ。どんなに虐められて蔑まれても紳士にしていればアナタを助けてくれる人が現れる……きっと。』


 ふと脳内で流れた音声は過去、ワタクシが未だ子供で未熟だった頃に母から聞かされた言葉。

 その日は、あの二人の様に手を繋いでボロボロになったワタクシを家まで運んで行ってくれた。


 今思えば母があの言葉を吐いたのは、ワタクシを歪な性格にさせない為の言葉だったのかもしれない。あの言葉を吐いたからと言って、ワタクシが真人間にされて来た事を許し耐える事は無かったが


 ――ワタクシの人生単位の“理念”が形成するキッカケになったのは確実だ。


 現にワタクシを助けてくれる人に沢山会ってきた

 ティーポット殿、シルバー隊長、ジョッキさんにオーリア女王……。

 きっとこの先だって自分自身を貫き通せばお互いに助け合い認め合える関係性を広げれるさ。


 ワタクシは静かに窓を閉めて、再びベットに腰掛けた。心は自然とスッキリとしていて温かい心で満たされている。


 完全に安堵するのは早計にも程がある。

 まだ問題は山積みある。


 今、シルバー隊長とジョッキさんがユパロンに赴きゴルド王子の意中“ケプルムさん”を探し回っている途中だ。

 

 計画はこうだ。交際契約を結ぶ二週間後までに

 ①ケプルムさんを見つけ出す。

 ②彼女から情報を聞き出す。その情報とはゴルド王子が利用する隠し通路の在り方だ。

 ③その通路を通じてゴルド王子と直接対話をし国民に弁明する事を頼み込む。


 

『隠し通路は確実に存在するだろう、それ無くして何度も何度も城を抜け出せる事は不可能だ』


 昨夜、シルバー隊長が述べていた事は確かに理にかなっている。そしてあの日ワタクシは目撃した。自身が初めて女王の護衛として付いたあの日に、ゴルド王子が何やらコソコソと移動をしていた事……


 この計画が上手くいけば二週間後に迫った、交際契約を結んだとしてもユパロン国からの反発が少なくなりポロペ国の民達が通報される可能性は少なくなるだろう。


 全て二人に懸かっている計画なのだが、コチラにも握っている物がある。

 “二人が交際”していると言う強烈な武器だ。

 二人には申し訳ないが、それを振り翳すほか方法はないんだ。

 

 ――ザァーザァー


 突然、ワタクシのポケットから砂嵐の音が聞こえポケットを漁ってある物を取り出した。

 その“ある物”とは昨夜、ティーポット殿に預かった“トランシーバー”という物だ。

 

 何か進捗があった時、これを使って連絡を取り合うことが出来る最先端の機会だと言う。

 

 これが起動したという事は何か進捗があったのだろうか……


「聞こえるか……ベレッタ」

 低音の効いた籠った声が聞こえた。


「シルバー隊長、聞こえますよ何か進捗があったのですね?」


 ザァーザァーと砂嵐が入り乱れる中、ユパロンに出向いているシルバー隊長と会話を続けようとする。


「あぁ朗報だ。見つけたぞゴルド王子の意中“クプルム”をな……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ