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癖者好き女王と紳士な銃男  作者: 秋浦ユイ
《第1部 護衛編》交際証明書
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第20話  憩いの酒場『ジョッキ』

「はぁい、お待ちどぉサマ〜」


 酒場の店主『ジョッキ』さんはエプロンを掛けていて落ち着いていた。

 白のシャツとカジュアルな黒のベストで身を包まさせ鍛え上げられた、その屈強な肉付きで今にもシャツのボタンが弾け飛びそうである。


 その透き通るガラスジョッキの頭部を持つ漢は、シックな酒場の雰囲気を強固にさせる。


 ワタクシは酒場のカウンター席に座り、ジョッキの頭部を持つその漢は酒瓶を用意している。


「悪いね、場を借りてしまって……」

 ワタクシの右隣に座るティーポット殿が、いつもとは違う落ち着きで、そして声色で店主の『ジョッキ』さんに話しかけていた。


「イイのヨォ〜ポットさんには沢山の借りがあるんだかラ〜少しぐらいは返さないト〜」


 ジョッキさんは語尾を弾ませ用意していた酒瓶をコトンとティーポット殿に差し出した。


 彼は見た目とは真反対に、ねっとりとした口調で漢と言った性格ではなく淑女と置き換える事ができた。


 酒場の店主だから誰でも話しやすい雰囲気作りをしているのかと一瞬、思ったが実際どうだろうか。

 

 ――まあ、どちらにせよ、親しみやすい人だ。


「そうだベレッタさんはぁ何を呑む?強めでもいけそうねェ〜」


「あぁワタクシは結構ですよ……未成年ですし」


 ジョッキさんは口元を抑えて、驚いた!と言わんばかりにリアクションを取った。


「まあ!未成年さんだったのね!ゴメンナサイねぇ〜取り敢えずお冷出しちゃいましョ!」


 ティーポット殿は静かにグラスに酒を注ぎ

 口にしていた。

 それは場に大人な雰囲気を震わせた

 

 ――光景は渋さがあり、憧れてしまう。


「本音では……私はキュウラン殿を許していませんでした」


 耽った声で静かに怒りの鼓動を感じる。

 結局あの時、キュウランとアルベドさん達はポロペ国の誘いを拒否した。


 正確にはキュウラン殿は眠っていて、拒否をする決断をしたのはアルベドさんだ。


「あの様な癖者を嫌う人間がポロペ国に来ては大惨事だ。あの時、アルベド殿が真摯に拒否していなかったら、私は後悔していたのかもしれない」


 王宮内や事務時のティーポット殿とは様変わりで考え方も性格も全て違っていた。

 ただブレない芯はあり、それはワタクシが知っている彼と変わらなかった。


 これがティーポット殿の真の心音と言う事なのだろう。


「……だけどアナタは二人を勧誘した。」


 カウンターに、カランカランと氷が数個。そして水が並々と入ったガラスコップをワタクシの前に置かれていたのを見つけた。


 ――ジョッキさんが会話の邪魔にならない様に静かに置いたのだろう。


「同情はするさ、人間だから。あそこの場面で父親のアルベド殿のみ勧誘したとしても彼は拒否していた。息子の事を誰よりも考えている人だ……」

 


 実際にアルベドさんは過去の過ちを酷く悔いていて罪意識が常に頭に浮かんでいたのだと思う。

 そして息子を思う気持ちも。


 誘いに乗っていたとしても彼らは、生活に耐えれなくなっていたのだろうと思う。


 ――これが最善だったのかもしれない。


「確かにキュウランは危険な人物だ、許す事はできない。だが二度とその様な想いをさせない環境作りは可能なのではないでしょうか」


 カウンターからジョッキさんがグラスを拭く

 キュッキュッというリズムカルな音が聞こえる。


「……今、私達がすべき事はそれではない、順序がある。全てが終わってから考えるのが賢明な判断ではないか?ベレッタ」


 ワタクシはぐうの音も出なかった。

 確かに今、ワタクシが置かれている状況下を鑑みれは酷い物だ。

 国外通報された挙句、故郷に平和などない。


 ――癖者が平和に暮らせる環境をポロペ国以外にも確率する事が出来ればどれほどの癖者達が安心する事が出来るだろうか。


 その一歩目がワタクシの現状を解決する事で何かの糸口になるかもしれない。

 

 酒場に取り付けられている木製の扉が開く音が聞こえた、と同時にティーポット殿とジョッキさんの伏目気味だった目が開いた。


「……久しぶりだな、ベレッタ――」


 低音の効いた逞しい声。

 その声に何度、ワタクシは奮い立たせてもらったのだろうか。

 だが声の主はいつも通りに篭っていなかった。

 それもそうか、鎧も兜も何も被っていない

 “シルバー護衛隊長”なのだから。


「シルバー隊長……」

 思わず声を漏らしてしまった。

 漆黒の毛並みで覆われ

 右目は痛々しい傷跡があり閉じていた。


 ――隊長はどうやら“銀狐”の癖者だったらしい


 やっと隊長の姿を見る事が出来たと歓喜していた反面、その痛々しい傷跡に胸が切なくなった。


「お疲れ様ァ〜さあ好きに座って頂戴!ビールはいつも通りのやつでいいネ?」


「あぁ構わない……」


 ジョッキさんは隊長が来る事を知っていた様だった、慣れた手つきで隊長にビールを用意しようと動いていた。


 隊長は席を一つ空けティーポット殿の右隣に、ゆっくりと腰を下ろして寛いでいた。


「やっと揃いましたね」

 ティーポットが酒瓶を片手に持ちグラスに注いで脱力しながら言い放った。


「おい、ティーポット……お前の見立ては本当に合ってんだろうな、ゴルド王子に意中の相手がいるってよ。」


「はい、何度も言っている確かです……」


 隊長は愚痴を吐きながら身体をティーポット殿に向けた、琥珀色の瞳を尖らせた。

 ティーポット殿は溜息を最後に吐き捨てグラスの酒を口に頬張った。


「そんな事あり得るのかよ、何も手掛かり無い中で人手を増やした所でどうしようもないだろうが、怪しまれて終いだぞ」


 矢張り、隊長も同様にワタクシが知っている隊長とは少しだけ離れていた。

 こうして感情的に人に当たっている場面はあまり見たこともなかった。


「だから今から、話し合いをしようとしているじゃないですか。」


「話し合い?それで何が分かるのか?意中の相手の有無だとか名前だとか!」


 口論が熾烈になっている事を肌で察した。

 この二人は仲が悪いのだろうか?

 ただジョッキさんはニマニマと笑顔で口論を目にしビールを隊長に差し出した。

 

 ジョッキさん含めたこの三人は古くからの友人なのだろうか?ヤケに三人組が型に嵌っているので、そう思わずにはいられない。


「あの――分かりますワタクシ」


 これじゃ埒が明かないので、本当の事を話さなければならなくなった。墓まで持っていけるとは思わなかったが正直に話して、事態を収めよう。


「ゴルド王子とその意中の相手を知っています」


 三人が目を点にしてワタクシに目を向けていた。

 確かに早く話していればよかった。


 ただゴルド王子とケプルムさんの顔が頭にチラついていて曝け出そうと、この時まで強く思う事は出来なかった。


「な……ベレッタ殿、誠ですか?」


「なんだと?それを……早く言ってくれよ」


 二人は素っ頓狂に驚き吐露した。

 それも無理もないでしょう……紳士として恥ずべき事だ、嘘も誤魔化しもするべきではないですね。


「まあ、それが分かれば早いんじゃなイ?」


 ジョッキさんがワタクシをフォローした。


 アレ?ジョッキさんも、もしや計画に加わるのだろうか?この酒場を選んだのはティーポット殿。

 この場なら人気も情報漏洩も避けれるとセレクトしていたと思っていたのだが……


「まずは、話を聞きましょうか」

 ティーポット殿が瞬時に切り替えて、冷静に情報を得ようと精進している。


 隊長とは言うとビールジョッキを勢いよく口に運び、ゴキュゴキュ音を鳴らし飲み干した。

 口元を漆黒の毛並みを揃えた腕で拭いて


「馬鹿言え、いつお前がそれを知る事ができた?お前がユパロンに行ったのは四度……その内、三度は女王の護衛任務だったろうが!」


 声を荒げて、理非を問うた。

 

 隊長が此処まで感情的になっているのは、確証もない存在するかも分からない情報ゼロの人間を長い間、探していた当て付けなのだろうか?


 はたまた自身の祖国と忠義を誓う女王の国が決別してしまう焦りからだろうか?


「隊長の記憶にも残っている事でしょう。女王様の大舞踏会の下見に付き添った日でございます。あの日、怪しげな黒フードが彷徨いていたでしょう」


「……あぁ、俺が女王に付いている代わりにベレッタ、お前に任せた件だ」


「はい……その男こそがゴルド王子だったのです」


 解決しなければならない。

 シュルツ外交官がこの国の癖者達を全員、追い払ってしまう。それを阻止する為にもゴルド王子そしてケプルムさんの力が必要だ。


「なぜ王宮から出たんだ?」


 隊長が口にした。


「王宮内の何処かに隠し通路か何かがあったのでしょう……それに察する通り意中の相手に会いたいが為に。」


 ティーポットが補足する様に的確な考察を交えて付け加えた。


「はい正にワタクシはゴルド王子とその相手が邂逅している一部始終を目撃したのです」


「……マーベルス、まさか本当ニ!ロマンスじゃなイ、素敵じゃないノ!」


 ジョッキさんが頬を赤くして一人で騒いでいた。

 それを尻目にティーポットは顎に手を添え、隊長はティーポット殿のビール瓶を取り注いだ。


「その意中の相手はクプルムと言う名で平民でした。年齢はゴルド王子と同じ歳だと思われます。長い黒い髪、そして一般的な平民が着る衣服を着ていました。」


 ワタクシが覚えていて知っている事を連ら連らと述べてしまった。二人に対する罪悪感も去ることながら、もう解決するには話さなければならないと言う責任感が奔る。


「ありがとうございます……ベレッタ殿」

 顎に手を添えて何か考えていたティーポット殿が口を開いた。


「――計画をお浚いしつつ練り直しましょう」

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