第19.5話 トランシーバー
「はぁ、まだか?ティーポットは……」
統治者とやらの楽しい茶会を切り抜けて、随分と時間が経つぞ?
そろそろ、馬車を出さないと夜になるぞ?
いつまで馬車で、暇を弄べばよい……
「お、オーリア女王!た、大変です!」
外で待機中の兵だ、何やら騒がしいな。
「オルキス統治者が門から馬車に向かって歩いてきます……!大変ですっ!」
なんだとまた奴か……
まあ、よい少し退屈していて話し相手が欲しい所じゃったからな。
馬車から降りて妾は問題の奴を見つけた。
スタスタと優雅に歩いていた。
さっきまでの威勢も大騒ぎも全て取っ払ったようで、逆に違和感が出てくる。
「やあ、まだ出国していなくて良かったよ。」
奴が和かに不自然な笑みを浮かべる。
矢張り妾は此奴を好けるとは思わない……
「何じゃ、何かまた言い足りないのか?聞いてやってもいいが……妾の答えは変わらないぞ。」
ん、奴は何やらまたゴソゴソと衣服のポケットをむさぐっていた。
だが、それも一つの黒い塊を出して落ち着いた
「コレを女王様にお渡ししたく思いまして……」
受け取れと言わんばかりに
その黒い塊を妾の胸の前に差し出した。
易々と受け取るような軽い女でないのは向こうも分かっているだろうに。
「なんじゃ……爆弾か何かか?」
「いやいや、コレは違う……我が国で開発した製品だ。これで遠くにいる人間とも会話が可能にする」
なるほど。
噂では常々、聞いていた。
モ・ムエニラで軍事的に活用出来る、物品があると。だがその製品の情報も製造もモ•ムエニラから外には一切、出てこないだとか。
まあ妾は信じていなかったが
まさか真実だとは
「これを“トランシーバー”と呼ぶ。これは特別仕様で数十キロメートル離れていても通信ができるように設計されている……」
「あぁエントランスにあった蓄音機は、このトランシーバーの応用みたいな物だから、あれをイメージしてくれればいいよ」
饒舌に説明をする、奴は矢張り変人だな。
「ふん、これを妾にか?」
「あぁ勿論だ。心変わりをしたらいつでも僕に言ってくれよ」
そう言って奴は落とすようにして妾に渡した。
まさか便利物を収穫できると考えもしなかったな
奴は渡したら満足したのか後ろを振り向き
戻ろうとしていた。
「だが、いいのか?門外不出ではなかったのか?これでは妾の国で大量に生産してしまうぞ?」
振り向きニコリと不気味な笑みを浮かべて
こう答えた。
「誰も再現など、できないよ……」
再現できないだと?
ポロペ国の技術者を舐めてもらっては困るな。
「フッそんなに言うならば、もう二つ種類違いを貰えないか?“再現”できないと言い切れるなら……自信満々に渡してくれるだろ?」
奴は立ち止まると同時に振り返り
また不気味な笑みを見せて
こちらに近づいてきた。
片手に二つの、先程とは違う大きさの物を持っていたのが見えた。
「はい、ぜひに……恐らく誰も作れない。僕や僕が信頼する技術者じゃなければ作れないさ。」
ポトンとまた、二つの黒の物体を落とすようにして妾に渡してきた。
去り際に言い放ち
一抹の苛立ちも焦りも奴の姿では感じられなかった。別に奴がどんな目論見で兵器を譲り受けさせてくれたとしても妾は信用を絶対的にはしない。
奴は静かに城に入っていき、門が閉じ始めた。
妾は門の中にいたので危うく閉じ込められそうになってしまったのが腹立たしい。
――妾が出て行ってから閉めればいいものの。
『オーリア女王!オーリア女王〜!遅くなりました、お待たせ致しました!』
馬車の方からティーポットの声が聞こえた。
やっとか、やっと帰れる。
「ご苦労じゃった……どうじゃ?ベレッタは説得できたか?」
颯爽と馬車に入り込み、ティーポットと成果を話していく。次第に馬車も動き出し始めて、長い長い茶会会場を後にできる事を嬉しく思った。
「はい、なんとか……後にまたベレッタ一家に馬車を手配して私の親友が経営する酒場で安全に面倒見てもらう事になります。」
ティーポットは淡々と話をする。
ベレッタとその家族をポロペ国に移住させる事が決まって取り敢えずは良かった。
妾のせいで彼は、あんな国に戻らなくてはいけなくなったからな……本当に申し訳がなかった。
いつか必ず面と向かって謝罪をしたいな。
「ん……女王様、その手に持っているのは?」
ティーポットが反応を示したのは、さっき奴から譲り受けた“トランシーバー”
「あぁ、譲り受けたものじゃ何せ遠くの人間と会話が出来るというものらしい――」
ん?“遠くの人間と会話”
――そうか、考え付いた
コレは使えるなトランシーバー。




