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癖者好き女王と紳士な銃男  作者: 秋浦ユイ
《第1部 護衛編》独裁国家の茶会
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第19話 苦渋の決断


「そ、そこにいるのは?ベレッタか……」


 頬がコケていて、髭も髪も伸び切った男が夕陽の光に照らされてた。

 ワタクシの姿を発見するなり、ゆっくりゆっくりコチラに近づいてくる。


「あの方はお知り合いですか?」

 ティーポット殿は困惑しながらも状況を理解しようと努めていた印象だ。


「はい、ワタクシの母と知り合いでございます」


 男が近寄ってくると鉄の柱に縛り付けている奴を見ると目を点にした。

「あぁ……そうか。」

 ワタクシの肩に手を置いて、曇った表情を見せた。全てを悟った様に嗄れた声を響かせた。


 きっと奴と何らかの関わりがあるのだろうか。恐れていた事が起こったかの様に静かに、ワタクシの肩に置いた手を払い柱に縛られた奴の近くに寄っていく。


「キュウラン……お前って奴は……」

 黙々と“キュウラン”と呼ぶ。

 奴は目を瞑り眠っている。衣服もボロボロでどうしようもないほどに柱にもたれかかっている。


 魂が抜けた様に、グデっとしている姿は腹を満たした猛獣のようだ。


「彼は俺の息子だ……キュウランだ。」

 静かにワタクシ達に話しかける


「息子が迷惑を掛けたみたいだ……本当に申し訳ない、本当に……」

 腰を低くしたまま振り返りワタクシ達の方を向いて申し訳なさそうに謝罪をした。


 ――彼はキュウランと言うワタクシを襲った輩の息子だったらしい


 母の友人のその息子がワタクシを襲う。

 世間は案外、狭いようだ……

 ガッカリはしていない父親には非など無いから。

 『環境が違えば心の具合は違ってくる』その環境において“理念”が形成される。


 奴の歪んだ環境下で、歪んだ理念が形成されてしまったのだろう。


 ――奴の理念が自身の悦を得る為に行動したまで

 ワタクシは、その理念に共感も賛同も出来なかったそれだけ。

 

「本当に…………」


 謝罪を続けて地面に強く手をついて、頭を押しつけている。――今度は土下座をした。

 ティーポット殿とワタクシは酷く狼狽えていた。

 

 土下座など求めていなかったから

 それにワタクシは慣れていたのもあって、過ぎた事として気持ちを切り替えていた所だった。


「俺の名前はアルベド……民兵やら自警団に俺を突き出して構わないアルベドと伝えれば、何振り構わず来るだろう……」


 息子の代わりに自分自身が罪を償おうとしているのだろうか、自身の名前を名乗り頭を一層、地面に押しつけた。

 

 ――アルベドさん。

 頭の中で、何度も彼の名前を呼び続けた。

 それが何の意味があるのかも分からないけれど、彼の名前を呼び続けた。


「息子がやった事は到底許されることでは無い……俺がこんなんだから!息子はっ!キュウランは!全て俺が悪いんだ、俺から始まった事なんだ!」


 強い叫びが倉庫にこだまする。

 ワタクシの耳の中で叫びが飛び跳ねて渡る。

 ――ガンガンと激しく


「自警団らに俺の名前を伝えろ!俺は昔からの名の知れた国の犯罪者だ!本来は今この場にいてはいけない存在なんだ……伝えるんだベレッタ!」


「アルベドさん……」


 アルベドさんが、ふと顔を見上げてワタクシを見る。涙が雨のようにホロホロと流れ落ちる。

 必死の叫びで、胸が締め付けられる


「頼む……」


 水を濡らした顔で、絞り切った声を奏でる。

 懇願している事を叶えたとて、果たしてそれが正解と言えるのだろうか。


 国の犯罪者と自称していても、それが事実かどうかは調べてみないと分からない。

 例え凶悪な犯罪者だとして母の親友だ。


 母に何と話せばいいんだろうか。

 母は彼が犯罪者だと知っていたのだろうか。

 ワタクシが彼を通報したら母はどんな表情をワタクシに向けるのでしょうか。


「まずは……落ち着きましょうか」

 ティーポット殿が熱した場を和らげようとした。

 手をアルベドさんの前に宥めるように浮遊させる


「まずは、彼に関してです。」


「彼は貴方、アルベドさんの息子さんで間違いはないですね?」

 柱に縛られている奴を指して淡々と進める。

 流石はポロペ国の侍従長と言った所でしょうかティーポット殿は冷静に場の整理を行っていた。


「……あぁ、間違いない」


 アルベドさんは一周回って、この状況に慣れたのか、先程までの迫真の叫びを落ち着かせた様子。


 

「なるほど。彼はベレッタ殿に暴力行為を幾度とも図り実行しました。それは彼の状態を見れば一目瞭然であります。私が来なければ今更、ベレッタ殿がどうなっていたか……」


「あぁ、全て理解している……キュウランが以前から癖者を嫌っていて、一ヶ月前ほどにベレッタに危害を加えた事も……」


 アルベドさんは膝をついて、ティーポット殿は倒れた椅子を立たせて、それに礼儀よく座っていた。

 

 淡々と二人の事情聴取の会話が行われている中で場の雰囲気は、まるで加害者(キュウラン)弁護人(アルベドさん)裁判官(ティーポット殿)そして被害者(ワタクシ)を交えた法廷のようだった。


「ベレッタ殿とアルベド殿は知り合いの様ですが、具体的にどう言った関係でしょうか」


「関係性か……直接会ったのは今日が初めてだ。昔からベレッタの母親とは交流があって……癖者の次男が産まれたと聞いた時はよく、フォローし合っていた」


「初めて会った今日は偶々、家の外で会って他愛のない話をしました。ワタクシは母親の友人である事を知ると快くアルベドさんを家に迎え入れました」

 


 次々に開示されてゆく情報の中にはワタクシが初めて知った事もあった。

 ラフなワタクシの呼び方は前々からワタクシを知っていてくれたからだった様です。


「なるほど。ベレッタ殿の母親の親友様でおられたのですね……二人の直接な関係性はベレッタ殿は深く憶えてはいないものの、アルベドさんを強く想いがあると。」


 冷静に証言の整理と考察を進めるティーポット殿


「あぁ……俺も息子が居たからな。俺が出来ることなら何でもフォローしていたよ。その息子も息子で色々と抱え込んちまった様だがな……」


 後悔と無念を口にすると、眠っているキュウランを覗いていた。


「国の犯罪者と言うのは詳しく聞いても?」


 ティーポットが針を刺す様に鋭く、次の話題に差し替えた。

 確かにワタクシも引っ掛かていた部分ではあるから内心、ソワソワしている。


 倉庫のほんのり埃が舞う中、息を深く深くアルベドさんは吸い込んだ。


「俺は人殺しだ……」


 ――場に緊張の痺れが走った。


「もう何十年も前の頃……まだこの国が“オルキス”によって統治される前。俺は兵士だった……」


 嗄れた声は自然と聞き入ってしまう声。

 優しさの中に無気力で脱力感のある、語り口の中は哀しげな情状が述べられてゆく。


「……当時のオルキスも知っているし、何なら同期だった。奴の側には、いつも牛の癖者がくっ付いていたのをよく覚えている」


「当時は癖者に対して懐疑であったが、国で癖者が誕生し尚且つその癖者が兵士になる事は珍しかった。兵士に成り立ての彼を重宝する事もあった。」


 オルキスの声が半トーン下がると表情も険しくなっていった。アルベドさんは膝を立ち辞めて立ち上がる。


「だがそれも一年目で終わり今度は奴を見下し陥れようとする者が現れ、また化け物だと音を上げる者も後を立たなくなった」


「国民からも非難される様になり……遂には奴は首を括って死んでしまった。」


 悲劇的で胸が苦しくなる。

 この国の癖者に対する偏見や差別はその時から始まってしまったのか。

 

 ワタクシは強く拳を握った。


「奴と仲の良かったオルキスは陰で革命軍を発足し本人は王族と交わり自身に実権を握らせる様にコネを作り出す。平民から成り上がったオルキスは国民から見れば英雄。彼の指示は集まるばかり……」


「革命軍?それは初耳です……」


 オルキス統治者が王族と結び付きを得て、実権を握った事は知っている。国民からの支持はあの頃は多かったと母から聞かされていた。


 だが――革命軍を発足していたとは知らなかった


「あぁ、癖者の死を悼んで結成した組織だ。俺もその組織に所属していたよ……オルキスを国のトップに立たせる為には非行な事も何でもした」


 過去の自分の行いを恥じる様に、または押さえ込む様な苦しむように言い放った。


「そこでアルベドさんは手を血で染めてしまったのですね……一人の癖者を悼んで……」


 ティーポットが冷静にも情に響いたかのように、後の事を憐れんだ。


「オルキスの考えに俺は当時、賛同しちまったんだよ。だって酷いじゃねぇか、成りたくて癖者に産まれた訳じゃねぇのに癖者ってだけで虐げられてよ」


「だけどオルキスが実権を握ったとしても現状は何も変わってはくれなかった。それどころが国は衰退を辿って行ってるなんて、あんまりだよな……」

 


 ワタクシはアルベドさんの細々とした肩に手を置いた。もう何一つ、悔いて欲しくはない。

 理想に囚われて幾度も人々を殺してしまった事は確かに償うべき事。許されざる事。


「でも……貴方は優しい人だ」


 癖者と言う存在に対してこんなのにも人生を賭けて思想を賭けてくれる人は中々いない。

 許される事では決してなくとも、この一瞬だけは

 この一秒だけでもワタクシは許したいと思ってしまった。


 紳士としてではなく人間として判断を思考を誤ってしまったと思われても良い。

 それがワタクシの新たな“理念”であれば


 ――自身が正しいと思った人間には幸あれと。


「一つ、此処で質問です」

 

 ティーポットが手を顎に添えて伝える


「この場合、個人に対して権力や地位を有利に働かせる為に殺害を図ったのですから、罪を問われるのは当然。ですが今、このモ•ムエニラ国において、キチンとした法はあるのでしょうか」


 アルベドさんは一瞬、コクリとも動かなかった。


「……法など関係無い。殺人は重い罪だ。俺はこのまま何もせずして生を真っ当出来ない。また他に息子が暴力沙汰を起こしてしまった落とし前だ」


 尽かさずワタクシは

「あぁ今日あった事は別に大丈夫ですよ……よくある事ですし。」

 と呟くと、アルベドさんは頭を抱えた。


「そ、そう言う問題じゃあないんだ……ベレッタ」


 ティーポットが一瞬、アルベドさんと同じポーズを取って息を吐いた。

 

「なら提案です……」


「これは癖者嫌いのキュウランさんや罪をどうしても償ないたいと言うお二人方に取って苦痛であり。この決断は第三者から見て非道または邪道、看過できない事でございますが――」


 ティーポットが念を何度も何度も押してワタクシ達を何度も何度も顔を向けて言い放つ

 それほど苦渋の決断なのだと身構えた。


「一旦、皆さんポロペ国に来ませんか――」

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