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癖者好き女王と紳士な銃男  作者: 秋浦ユイ
《第1部 護衛編》独裁国家の茶会
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第17話 偏見と差別

 ドッ!ボンッ!


「グハッ……」

 頬を二度、殴られた。

 それも思い切り。


「おいおい、へばるなよ?銃野郎!」


 いつぞやの粉雪が舞降る日を思い出した。

 こんな状況になったのは、数刻前だ。

 自宅に帰ろうとしていた時に奴に絡まれた。


 運悪く奴に正体がバレてしまった。


「こんな事をして許されるとでも?」

 威圧感をワタクシは見せた。

 抵抗しようにも手縄を鉄の柱に掛けられていて抜け出す事は出来ない。

 

 ――そして誰も人はこないだろう


「わざわざ、誰も寄り付かない倉庫に無理に連れてきて……アナタは許されると思っているのか!」


 そう辺りを見渡すと、シャッターが閉まっていて

 鉄と石の冷たさを肌で感じる密室空間だ。


 奴がワタクシを此処まで連れて来たのは、察する通り邪魔者や通行人に見られないよう


 ――ワタクシを潰す為。


「威勢だけはあるんだなぁ〜癖者のクセになぁ!その威勢を別の物にぶつけれれば俺みたいな輩に捕まらないで済んだのにな?」


 鉄の柱に繋がれているワタクシを静かに見下す

 正面には椅子が一つ置かれていて、時折り奴が座って休憩を兼ねて語りかけてくる。


 殴られて、罵倒されて……その繰り返しの時間が延々と続いていた。

 ワタクシの体力も抵抗する力も次第に無くなっていて意識が朦朧してくる事も多々ある。


 その度に目を瞑ろうとするが奴はそれを許さない


「まあお前は化け物だ……普通に働く事も普通に生きることも許されねぇ。人と接すれば恐れられるんだからなぁ可哀想に」


 椅子に座ってワタクシを逸らさず話す。

 狂気的で暴力的な男だ。

 あの日と比べて更に凶暴になった奴は、まるで獲物を見つけ捕らえた獣だ。


 だが獣と違うのは、じっくり痛ぶり自身と自分を重ねて情に寄りかかろうとする悪質さがある事。


 何の為にこんな事をするのかワタクシには理解が出来ない。説明された所でこの行いは容認する事は決してない。

 

「お前……一ヶ月、何をしていた?」

 不意に問われた質問にワタクシは頭を働かす事もできなかった。質問の意味は分かるが、口が動かない。散々、頭や頬を殴られているから当然。


「おい……答えろよ?答えないと分かるだろ?」


 質問に答えれなかったら、また殴られる。

 

 本当に愚かな奴だ。

 苦しみ悶える姿を見ながら笑みを浮かべる。

 挙げ句の果てには片手にパンを持って

 口に運ばせ咀嚼させているじゃないか。


「仕事をしていたんです……国を出て」


 口に入ったパンの咀嚼を一旦やめて、無心な顔を浮かべるなり、また咀嚼を続けた。

 その時の咀嚼の早さは凄まじく直ぐに喉を通した


「笑わすんじゃねぇよ。お前が働ける所なんてねぇんだよ……!出鱈目、言ってんと!」


「本当です。ポロペ国に出向いたのです……ある従者に招待されて……」


 ワタクシもワタクシだ。

 この期に及んで冷静に物事を見て、淡々と問われた事に律儀に答えるんだ。

 正気の沙汰じゃないと客観的に見てそう思える。


 まあ幼子から経験しているからか、慣れている。

 慣れていると言っても痛いのは痛いし辛いのは辛い。何度もこの不条理を睨んでは絶望する。


「ポロペ国……?あぁ〜あぁ〜!」

 奴は“ポロペ国”と言うワードを耳にしてから様子が可笑しい。何か因縁があるのだろうか?

 悶絶するように椅子を倒して憤りを表した。


「あの癖者好きな国王がいるとかで国中に癖者が溢れている気色悪い国家だな……納得したよ」


 何に納得したのかは分からない。

 ただ奴がどうしようもなく癖者を嫌悪していると言うことだけ強く印象に残る。


 嫌悪するのは致し方ない。

 少なからず人間には何かしらの事柄に偏見や差別は芽生える物。

 少し前までのワタクシにはそんな考え方はできなかったが、一ヶ月ポロペ国で働いて分かった。


 癖者であろうとも差別や偏見はあるし、癖者にも真人間を偏見差別する気持ちはある。

 人それぞれに事情がある。


 癖者好きになった理由。

 誰かを好きになった理由。

 祖国を思う理由。


 その理由を守る為に偏見や差別は存在するのかもしれない。自分の心と身を守る為に……


「アナタはどうしてそこまで癖者を嫌悪する?」

 不意に出た言葉にはワタクシも驚いた。

 荒れに荒れている奴の姿を数メートル先で見ながらもなぜ、このタイミングで口にしたのやら……


「あん?」


 倒れた椅子を荒々しい呼吸と共にジロジロと眺めていた奴は今度は声に反応するように脊髄反射であろうか直ぐ様に声を唸らせた。


 ――本当に獣のようだ。


 ワタクシは癖者だからと癖者や真人間を偏見差別する気持ちは幸いないものの。もしワタクシが真人間として産まれていたとしたら、癖者に対してどんな感情を向けていたかは分からない。


 自信を持って、善を持って差別しないとは、ワタクシの口からは言えない。

 その答えを示す事は不可領域に侵入する事。

 今のワタクシには、それが名一杯の結論である。


「俺より劣ってる奴がいると……安心すんだよ。俺はまだ泥水を啜るほど底辺にいないってな……」


 思いの外、質問に答えてくれた。

 荒い呼吸はそのままに。


「優越感に似た感情だな……到底、共感する事は出来ない。アナタが癖者を見下そうと、アナタが思っているより癖者として産まれた者は真人間を羨ましく思っていないぞ?」


 少なからずワタクシは真人間に生まれれば良かったなどと羨む気持ちを強く持つ事はなかった。


 ――家族がワタクシをそれでも愛してくれていたから。


「だからなんだよ……正論みたいに口を開きやがって俺を改心させようとしてんならお門違いだぜ?」


「おおっと、そんな生温い伝わり方になってしまったようですね。ワタクシが言いたいのは」



「アナタは“間違っている“それだけです。改心させようとも共感しようとも、これっぽっちも思っていませんよ……アナタの様な人間は永遠に分かり合えない領域にいると本能で感じているので」


 考えを変えて、今すぐに取り消して欲しい。

 そんな風に声を大にしても伝わらない相手には伝わらない。


 暴力行為を止めろ人を貶すな、差別も偏見も絶対にするなと言われて人は一生賭けて、その約束を遂行する事は出来ないだろう。


 だって人は根本的に“下方比較”をしないと生きていけない生物だから。


「んだと……」

 茫然自失といった表情でワタクシを見る。

 口を開けて、何も動かない。

 瞬き一つしなかった。


 それほどワタクシの言葉が響いたのか、逆に耐えうる器に憤りと名の雫が溢れ出てしまったのか。

 溢れ出たばかりに対象方法が分からず、赤子の様に目に映る景色を喚かずに見つめるしかなかったのかもしれない。



 あぁワタクシの頬から血が滲むのが分かる。

 ジンジンと痛みが突く。

 此処に来て体感的に数時間は経っている。


 そろそろ帰らなければ家族が心配してしまうな。

 しかしこの様なボロボロな状態で帰っても逆効果かもしれないが。


 

「もういいよ……お前」


 奴の行動を常に見ていて思うことがある。

 奴も奴でワタクシの様に虐げられた者だと……

 環境が違えば心の具合も変わってくるのだと、母は言っていたが。


 ワタクシが癖者だからと真人間に対して反逆的な意思を持つことがなかったのは母の存在が大きい。


 奴も奴で真人間として生まれた中で苦痛を受けて来たとしたら、この世の救いは一握りだど言うことになるな。


「前から気になっていたんだよ……お前さ、その頭、面白れぇよなぁ〜銃の頭だぜ?銃……」


 千鳥足で倉庫の中を徘徊している。

 何かを探している様にも思えた。


 ガララ ガラララ


 そう音が聞こえたと思えば手にはバットを持っていた。しかも金属バットだ。


 床を引き摺る様に、ソロソロとやってくる。


「それ……発砲出来んの?なあ、教えろよ」


 これは不味い、そんな物で殴られれば……

 恐らく死ぬだろうな。

 いや元々、奴はワタクシを殺す為に連れて来たに違いないな。


 自分自身が虐げられていた存在だった中、奴の救いは自分よりも遥かに劣っているとされている癖者だったのだろう。


 そんな中であの日、初めて自分より下の存在だと思っていた癖者に反抗反発されて心が保てなくなった……


 ――非常に嘆かわしい。


「……このワタクシの頭部は人間で例えるならば髪の毛に近い存在だ。発砲する事はあり得ない。」


「そう…………」


 長いため息をついた。

 そして尚も金属バットを鳴らしながらワタクシに近づく。


「かっ……」


 奴が目の前にやってきて、またワタクシを見下ろす。首にバットを添えて呼吸を整えていた。

 

「じゃあ、俺が髪切ってやるよ……」


 奴は大きくバットを振りかぶった。

 ワタクシの頭部に向けて……


 最早、此処までか



 ――ピィーピィー!


 薄暗い倉庫から遠く甲高い笛のような音が聞こえると同時に眩しい光が差してきた。

 シャッターが開き

 そこに一人の男が仁王立ちして叫んでいた。


「そこのジェントルマン様!私がお守り致します!今いざ参らん!!」

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