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癖者好き女王と紳士な銃男  作者: 秋浦ユイ
《第1部 護衛編》独裁国家の茶会
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第15話 茶会②

「おや、興味は矢張りある様ですね」

 奴が放った一言は妾の心を捉えた


 ――癖者の正体


 妾は背いていた身体を奴の方へと向ける。

 カップを上品に持ち口に注いでいた。

 その姿は一国を統治する者とはかけ離れていて貴族や高貴な存在であるかと錯覚する。


 実際は平民生まれであった彼は

 凡ゆる手段を尽くし王族へと成り上がる。

 その後は――


「どうして僕が声高らかに証言したかを説明しても……いいかな」


 奴は椅子を引き、離れていた妾に近づく

 まるで仲間だと、安心してくれと言わんばかりに

 

 ふっ先程の発言、妾は忘れることはないぞ?

 ()()()()で強く印象に残った、奴の人格もそれで何となく察す。


「あぁ、話せ……虚言だと察すれば妾は即刻、帰らせてもらうがな」


 軽くあしらって帰るとしよう。


 深く考えれば、奴が癖者を調べる義理はないはず

 大法官が言うには()()()()()だと。

 そんな物が異形の姿をした癖者を調べる労力を割くに値するのだろうか。


「僕はね昔まで高貴な存在が酷く嫌いだったんだ……女王の前で話す事ではないかもしれないが、どうも癪に障る。」


「ならば、こっちから願い下げじゃ」

 妾は反抗を示し後ろに足を一歩進めた。

 またデリカシーの無い一言を……

 見る見る妾の奴への印象は悪化するばかりじゃ


「そうだね、自然な反応だ……まあ今は違う、考えが変わったんだ」


 淡々と、だが饒舌に言葉を並べる。

 時折り俯いたり植物の方を見ながら身振り手振りを使い話のクオリティを高めている。


「平民も王族も癖者も全て皆……平等なのだと、こうして国を統べる様になって僕は気付いたんだ」


「平等?」

 疑問符を投げかけた。

 奴の話す事はどうも、妾の心を変に揺さぶる。

 決して虜になった訳じゃないし共感した訳でもないがな。


「そうさ皆、平等に……醜い。平民だからと健気に労働をするものの割合は?王族だからと平民の声を真摯に聞く者の割合は?」


 奴が何個も問い掛ける。

 それらの問いの羅列の最後に妾は思わず、歯を強く噛み締め、拳を握ってしまった

 

「癖者だからと真人間を恨まない者の割合は?」


 歯を強く噛み締めた理由も拳を握った理由も全て

 

 ()()としての本懐であるかの様に妾に問い掛けた


 奴の屈託のない笑顔に――腹が立ったからだ



「ほら皆、平等に腐ってて醜いでしょ?それが人間と言う存在なんだよ?黒の反対が白である様に、人間の反対は汚物だ……」


 奴はポケットから何かを取り出した

 動物のツノに見えた、とても鋭利だ。


「……コレはね牛のツノだ。このツノの持ち主と僕はとても仲良かったんだ、兵士時代よくお酒を交わし合っていたんだ」


 身体全身を刺す様にヒリリと寒気が走った。


「もしやお主それは……」


「でも彼は癖者であるから、人々に忌み嫌われていてね人間としてはよく出来ていて……良い奴だったんけれど彼を認める奴は僕以外いなかった」


 やめろやめろ……聞きとうない。

 帰る足も運ばない

 今、妾は恐怖心に囲われてしまっていた。

 肌で感じ取ったのは悲劇そのものじゃ


「ある日、僕と彼は長い休暇を貰った……休暇の初日、夜通し奴と酒を飲みたくて家に出向いたんだ……そしたら」


 奴が動けない妾に近づく。

 近づくに連れて本能的に受け付けない奴の声が大きくなってきた。


 もう、辞めて欲しい……そう切なる願いは叶う事なく、ただただ辛い話題に耳を逸らすことが出来なかったのじゃ


「首を括って……意識朦朧としていた奴を見つけてしまった。あの時は硝子片が心臓に刺さった様な痛みが走ったよ」


 肩に奴の手の感触が伝わった。

 暖かくもない、ぬるま湯の様な温度じゃ


「アイツは殺されたんだ……」


 妾は奴の顔を見ない様に、床だけを見ようと専念した、ブラブラと揺らせた奴の右手にツノ。

 そのツノは話を聞くに、その牛の癖者の……


 いつぞやの牛の癖者を王宮に迎えた時、そのツノの様なドッシリとしていた鋭利を覚えている。

 実際の牛と比較した事もあるが明らかに大きさが癖者の方が小さい。

 

 まあ、その話は悲劇にも程があるが

 半信半疑、奴から零から百信じる事は愚かじゃ。


 あぁ本当に腹が立つ、奴の考えには賛同できぬ

 人は皆、平等?それは当たり前じゃ。

 問題なのは奴が醜いと言い換えた事……

 そして場を円滑に和ませようとしたのか面白く無いジョークで妾の地雷を踏んだ事。


「もう良い、傷心は隠せ。いつか突かれるぞ?」


 妾はまた、部屋を後にしようとする。


 ――癖者の正体は自分の力で見つけてやる


「この国の財政の八割に科学と医療に注いだ!」


 颯爽と去る妾、その後ろから熱波が飛ぶような暑さが背中に吹いてきた。

 奴のギアが一段階上がったな。


 本当にしつこい


「エントランスの蓄音機はその賜物!この大陸で初めての技術!そして不慮にも犠牲になった癖者の遺体を集めて研究を進めている!」


 なるほど全て合点は通る。

 蓄音機に現在進行形で声を発生させている事……理城内に兵士が一人も見当たらないのは費用を抑える為か?

 そして、癖者の正体を突き止めたと言うのは

 

 ――あながち間違えではないのか?

 

 妾は扉の前まで行き立ち止まった。


「僕は死んだ彼の為にも暴かないといけない……本当の意味で癖者と僕ら真人間の()()を作るんだ」


 確かに癖者の謎が解ければ、癖者が真人間のような容姿を手に入れる事も出来るかも知れぬ。

 それが出来ぬとも科学的、医療的な根拠があれば癖者が化け物や偏見差別の声が少しでも減る可能性はあり得る。


 だが、あくまで可能性じゃ。

 長きに渡り根付いた価値観が一瞬で拭い去る事は不可能に近いであろう。


「で、もう突き止めたのか?」


 妾は背を向けたまま、奴に言い放った。

 現在、奴がどこに立ち、どんな顔をしているかなど想像しようとも思わない。

 根本的に妾と奴の考え方は違うからじゃ。



 同情はする。

 お互いに癖者だからと虐げられた者を間近で何度も何度も目撃し実際に触れているのだから。


「後、もう少しなんだ……いや……まあ」


 有耶無耶な答えが帰ってきた。

 オドオドとした声。数刻前の勢いはどこに落とした事やら。


「ハッキリせい情けないぞ?妾に伝えた理由は何かお主が妾達に協力を仰ぐ為じゃろ?」


 意を決して振り向いた。

 奴は一歩も動いていなく、茫然と妾を見ていた。


「――癖者の正体を突き止めている……だが、コレは一般に公表する事は不確定要素で溢れている、故に真偽と言うのは微々たる根拠に基づく」


 手に持ったツノを顔の前に持ってきて

 涙を浮かべた。

 それは嘘ではない、真実の涙。

 演技だとしたら一生の恥じゃがな


「ポロペ国、女王オーリア様は!実に癖者好きであると噂を耳にしていました。ユパロン国の大舞踏会に遣いを送り――」


 なに、大舞踏会に?気づきもしなかった。

 妾達以外に他国の者はいなく、当国の貴族達のみと聞いていたぞ?

 また、あの外交官か?


「直接、耳にした。そして目にした……」


 奴はツノを持った手をぶら下げ、もう一方の手をズボンのポケットに突っ込み、紙を出した。


「お主、それは……」


「はい、写真でございます。この写真は、ある癖者と女王が楽しく踊りを楽しんでいる場面ですね」


 写真の裏側しか見えず、実際にどのような写真かは確認する事が出来なかった。

 まさか撮影されていたとはな。


 あの外交官が促した号外は文字のみだった。

 奴の手に持っている物が流布してしまえば

 もう手が付けれないな。


「美しい……この写真を見て思わず涙したんだ。コレが僕が目指している平等の世界。貴女様とならその世界を共に築き上げれる!」


「ふっ、さっきお主は平等と言う事柄を醜いなどと変換させたのにか?せめて首尾一徹を貫き通していれば――」


 ()()()か。

 何を持って、人は言うのやら。


「あぁ、平等は汚物……だが、その汚物の中に宝石が埋まっていたら思わず呟くだろ?それだけの事」


 やはり奴とは馬が合いそうにない。



「埒が明かない……言ってみろ妾に何をさせたい」


 問答はこれで最後じゃ。

 ()()()()()()()そろそろ事が済んだ頃だろうしな。


 奴は写真をズボンのポケットに戻し

 ツノを両手で手に持ち直した。

 その顔には涙の跡が残っていたのだが、目元には薄ら涙が溜まっているように見えた。


 息を妾は潜めながらも呼吸を深く深く繰り返し

 室内に溜まる、植物の香りを感じる。

 扉は相変わらず大きく、その冷たい感触を背中に感じながら、奴が口を開くのを刻々と待っていた。



「――遠征です。此処よりずっと遠くの大陸へと」

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