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癖者好き女王と紳士な銃男  作者: 秋浦ユイ
《第1部 護衛編》独裁国家の茶会
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第14話 茶会①


 《モ・ルエニラの茶会当日》


 馬車で三時間の南の遠国じゃ。

 今は夏でも二、三ヶ月後には雪が降り続くらしい

 そんな厳しい環境下で追い打ちかける様に、この国はオルキスと名の指導者一人で支配される。

 

 酷い国政と聞く。

 貧富の差は著しく貧民は明日の食を得るのにも苦労すると言い……ただ国は何もせずに財を無駄に溜め込んでると。


 「さあ、着きました」

 ティーポットが粛々と伝える。

 妾達は王宮門の手前で停車し下車した。


 辺りを回すと曇り空に王宮……妾達の国と比べて規模は大きく城塞じゃな。

 門もそれに比例して大きく、比類ない。


 話ではこの城と王都は距離があるらしく、またベレッタの住む村からは相当な時間を有すそうじゃ。


 ――ゴォォォ!! ゴォォォ!!


 妾達が入った直後に門の閉じる音が聞こえた。

 思わず耳を押さえてしまった。

 その押さえた耳を楽にさせたのは城内に入って数歩の所。第一印象は最悪じゃが、これからどう()()()()()に参加出来るのやら。


 城内に入ると静かな音楽が聞こえる。

 何処かに蓄音機があるのかと辺りを見渡すと

 何処にもなく、もしやと思い天井を見上げるとそれを発見した。


 ――蓄音機はエントランスの天井に吊り下がる

 

 音は鳴り止まないが優雅なサウンドによって、城内が気高い雰囲気を醸し出す。


 まだ一人として兵は見ない。

 警戒していないということを示すためか?

 または奴が相当な人嫌いか……


『来てくれたのですねぇ、ポロぺ国の女王様!』


 姿がないのに声が聞こえた。

 誰の人影も見えない。

 妾に付いてきた護衛兵もティーポットも辺りを探すけれど、誰一人として見つけない。


 エントランス全体を見ると

 左右に太い石の柱が並び正面には聖堂。

 その中央の天井に吊るされている蓄音機

 左右の柱の向こう側に廊下が続いているのが分かるが、声の音は彼方ではない。


「そこか……」

 

  ――蓄音機?

 妾は瞬時に蓄音機が吊るされている真下に立ち

 耳を澄ます。音楽は相変わらず鳴り続けている。

 

「ご名答!オーリア女王様……よくお分かりで!」


 やはりそうだ、此処から声が聞こえる。

 どういう仕組みじゃ?予め録音していたのか?

 ならばどうして見つけたと同時に、この音声が?

 

「それじゃあ右の通路を通って、茶会会場までお越し下さいませ……」

 

 右の通路。

 妾達が入ってきた向きで右という事じゃな?

 言われた通りに右の通路へと向かう。

 コッコッと音が鳴り響く。

 人の気配もわからない。


「本当に……大丈夫なのでしょうか」

 ふと、護衛兵の一人が不安を吐露した

 今回はシルバーには別の件で同行はしていない。

 それと相まって不満が溢れたのだろうな。


「安心せいこんな露骨な罠な訳がなかろう。それに一国の女王に対して罠を仕掛ける程、頭のネジは外れていないだろうしな。」


 頭のネジの部分に関しては半分、願望も籠っているが、流石に罠である訳ではないだろう。

 

 妾とティーポット、護衛兵含めて五人で廊下を黙々と歩み続ける。

 少人数で来るには極めて危険な国家に訪れた。

 この判断を下したのは大法官のピート。


 奴が言うには『今回の茶会の裏にはオルキスが目論んでいる計画の誘いが含まれている』とな

 何を根拠にしたのかは話してはくれなかったが少数にした理由はこうだ。



 (奴は極が付くほどの繊細な変人)


「大きな白い扉ですね」

 ティーポットが口を漏らす

 確かに扉は大きい。門だと錯覚するほどに。


「さあ、お主らは予定通りに待機してくれ」

 ピートが言うには繊細故に高貴な血筋以外の人間には高圧的に振る舞い毛嫌うのだとか。

 癖者も相当に嫌うらしい。


「で、でも本当に大丈夫なのでしょうか?奴は支配者です……何をするか分からない。」

 ビクビクと震え上がる声で護衛兵の一人が言う。

 護衛兵、ティーポットらには鎧を全身に覆う様に指示している。

 そのせいか声が籠って聞こえて一層に情けない。


「いいから、往け……今回は茶会じゃ。」


 その白い大きな扉に妾は仁王立ちし護衛兵らをあしらう。さもないと一生進めないだろう。


 ふとティーポットに顔を向ける

 彼は了解したと言わんばかりに首を縦に振り護衛兵らを連れて戻って行った。


 ここまで全てピートの筋書き通り。

 その後は妾達が計画を練り上げた、大法官(やつ)に悟らぬ様に念入りにな……


 ――後は頼んだティーポット。


 コンコン


 妾は二回ノックをする。


「はぁーい、どうぞー!入ってぇ!」


 扉の先から興奮しているのか甲高い声が聞こえた

 甲高いとは言っても声質は、つい先ほど蓄音機から聞こえてきた物と同である事は確か。


 妾は扉に手を押し当て、開けようとする。

 大きな扉、故に開けるのも苦労するのだろうと試しに軽く力を入れる。


 キィーン


 思ったよりも扉は軽く、力のない妾でも開けた。


 扉の先はまるでジャングルのように植物が生い茂っており、奥には静かに植物を観察する男がいた。


 その手前には白の卓と白の椅子。

 椅子は向かい合わせになるように二脚設置されていて、卓上にはアフタヌーンティースタンド。

 

 そしてティーポット。


「今日という今日を心から楽しみにしていたよ」

 植物を観察する男は静かに言い放つ。

 奴がオルキスなのだろうか。


 乱暴狼藉(らんぼうろうぜき)な人間と想像していたのだが、実際は対局に位置する泰然自若(たいぜんじじゃく)な人間だと受け取ってしまう


 だが奴は支配者、指導者だ。狡猾で冷酷な人間だと言うことを忘れてはいけない。


「僕はモ・ルエニラを統べる男、オルキスだ。

 さあ座ってくれて構わない……ポロぺ国の尊き女王様よ」


 奴は振り向き妾を見つけた。

 表情は子供を見るような、または愛らしい小動物を愛でるような細くした目が印象的だった。


 三十代後半か少し上の若いとも老けているとも言えない肌感と体型。絶妙に白髪の混じった七対三の髪型だ。

 

 だが、それらの浮ついた印象を引っくり返すのは

 緑色基調としたズッシリとした軍服姿。

 


 ここは奴を逆撫でしないように従順にするのが常であろう、一歩を一歩を軽はずみに進めた。

 あっという間に卓に着く。


 鼻の中は植物の何とも言えない小痒さを感じつつ、息を大きく吸い出し吐き出す。


「妾も待ち遠しく一ヶ月を過ごしていた。茶会の場を設けて下さり誠に感謝する……」


 

 奴が先に席に座り

 カップに紅茶を注ぎ出した。

 ゆっくりと次に妾は席に座ると甘菓子の匂いが頬を触るが、何も反応を示さないようにした。


「紅茶はお好きかな?」


「あぁよく嗜むアールグレイが特に気に入りじゃ」


「そうなんですね、奇遇です。僕も好きだ……」

 頬を緩ませて奴は注ぎ終えた。

 既に妾の前には注ぎ終えたカップ一つが差し出されていて、アールグレイの爽やかな香りがする。


 奴が目を合わせてカップを手に持ち口を付けた。

 毒や異物は何一つ入ってないよと報せるように、または楽しい茶会に致しましょう。と願掛けをするように……


 嫌悪させないように妾も口に運び出す。


 ゴクッ 喉を通る音は自分しか聞こえていないと思うほど静かに。

 

 確かにアールグレイじゃ、特別美味しい訳じゃないし不味い訳でもない。


「他の王族の人達はお越しにならなかったのですね……護衛の方達は途中で引き返したようですが」


「あぁ他の者達は野暮用でな、本来は来れるはずだった。護衛の者達は茶会を邪魔しないようにと外に待機させた……」


 王族達の件については捏造じゃ。

 妾一人で、この危ない橋を渡るのが懸命じゃ。

 それに誰一人として茶会に参加したくないと言うことだしな。


「なるほど、皆様には『いつか会えることを楽しみにしている』とお伝え下さい」

 

 奴は淑やかに言い放ち

 ティースタンドの最下層の器に置かれた

 サンドイッチを皿に移し、食べた。


「あぁ、必ず……」


 またカップを啜り妾はティースタンドに目をやる。だが、食べ物を取り出す事はしなかった。


 本当に茶会をする為に妾は来たのか?

 ほどとなく奇妙な時間が過ぎ去る。


 奴の態度、化けの薄皮の下で何を考えている?

 本性を早く曝け出せ……

 植物が揺れる音と心地よく感じるようになった香りと、不気味で計り知れない男の咀嚼音と嚥下音のアンバランスさに取り込まされそうじゃ。


「……女王さん。貴女、癖者を駆逐したいと考えたことありますか?」


 突如として、問い掛けられた一言に

 

 ――妾は絶句した。

 駆逐などと言った残虐性に溢れたワードの奥に黒光る奴の思惑が透けて見えた。

 放ったその口で、ケーキをそっと入れる。

 フォークを音を立てずに皿に置き

 咀嚼を続けた。


 またもや目を細くして妾を見るなり、ナプキンで口を拭いた。

 

 一連の動作は全て慣れていて、理想的で美しいと言える。


「なぜ、そう思ったのですか」

 微塵の焦りも戸惑いも表さずして妾は、その細くした目に向かって一言放つ。


「貴女と僕は似ているからですよ……本当は憎いんでしょう?腹立たしいのでしょう?ほら今、君の鼓動に問い掛けてみてくれ」


 何を言う……癖者が憎い?腹立たしい?

 妾はそんな醜い思考を纏っている奴と一緒にそれたくはない。


「貴女の父君、癖者に殺害されたらしいじゃないか?今も国家に癖者を五万と居座せているのは後に一人残らず殲滅させようといるからだろう?」


 ――は?


 妾は席を立った、もうここにいる必要はない。

 

「あぁ!ごめんなさい!本のブラックジョークでふよ!ほらまだ菓子残ってますよ?カップにだって」

 

 これ以上、滞在していては思わず奴を平手打ちしかねない。

 頭のネジが三本ほど、外れておる。


 ジョークだとしてもコレほどまでの、不謹慎かつ無礼な奴と同じ空間にいたく無い。


「――そうだ癖者の正体知りたくないかい?」


 席から外れて、八歩ぐらいだろうか。

 その地点で突然、低い声で問われた


 癖者の正体だと。

 それは母君が生涯賭けても得ることの出来なかった答えだぞ?知る事が出来るならば……


 ――これ以上、何も望まない事だ

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