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癖者好き女王と紳士な銃男  作者: 秋浦ユイ
《第1部 護衛編》独裁国家の茶会
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第13話 多数決

「私は認めません!絶対に!」


「アタシも……」


「でもお姉様のお気に入りでしょう?」


 一番初めに声を大にしたのはアウルム

 続いてカープルム、フェルム王女。


「だからって国賊行為をした張本人よ!それに号外の件もあるでしょ!」

 主張激しくベレッタの処罰に賛成するアウルム

 彼女は臆病な性格で安泰な道をよく選ぶ


「国賊行為って、シュルツ外交官さんの嘘でしょ?それに号外は写真は使われずに文章だけで書かれてる。誰も“銃男”なんて言ってないよ」


 続いて中立的な意見のフェルム。

 熾烈な口論になっているのは訳がある。

 当然ベレッタの処遇についてじゃ。


 ベレッタをこのまま王宮や国家に残すか、国外通報にするか否か。


 円卓には十席用意されていてそ六席、会議の為に埋まっている。

 当然、妾もその一席に座る。

 妾の右隣は次女のアウルム

 左隣は二女のカープルムが向かい合う様に座り

 三女のフェルムは二女の隣に座る。


「王女様方、静粛に……此処は冷静になりましょ」

 アウルムの隣に座る大法官のピートが話す

 

 ピートは大法官でもあり至極冷静だ。

 彼は真人間の若い男で先代女王の執事でもあった、実績も確かにあり妾達の信頼度もある。


「まずは、意見を整理致しましょうか。」

 三人の王女達を落ち着かせるように丁寧に言葉を運んでいくピート。


「ではまずオーリア女王様は王宮に残すと言う判断、同じくティーポット侍従長がそうです」


 粛々と意見整理を始めるピート。

 ティーポットはカープルムの隣に座る。

 彼はコクリと名前を呼ばれた時に頷く

 

 矢張りティーポットもベレッタには王宮に勤めてほしいと考えていたらしい。


「続いて国外通報に賛成はアウルム王女、カープルム王女の二名。そして中立はフェルム王女様」



 まあ概ね、彼女らの性格が反映した結果だな。

 アウルムは臆病故に危険な道は選ばない

 フェルムは末っ子だからか、中立的な意見や立場を進んで向かう。それは妾達を見て育った時に得た世渡り技術なのだろうか?

 カープルムに至っては日頃から無口ともあって何を考えているか分からないが懸命な方を選ぶ。


「結果ベレッタ派が二名、反ベレッタが二名。そして私とカープルム王女様が中立でございます。

 今ここにいない元帥殿、宮中顧問官は省いて考えていますが、異論はございますでしょうか。」


「異論?あるわよピート、欠席の二人を省くのは致し方ないとは言え、ピートとカープルムは意見を明確にして下さいませ」


 ピートの綺麗に並べていた積み木を壊す様にアウルムが手を挙げて振り払った。

 論は理解できる。

 ただ現在この場にいるのは六名。

 

 中立無しの投票となると

 完全なる拮抗になる事もあり、この場で適している問いとは違う


「いや、中立は中立でいい……ただ妾は理由を知りたい、妾を納得できる理由であれば妾の意見も変わる得る」


 その場が静まった。

 思えばこの会議を開いてから「ベレッタは王宮に残す」その一言しか話していなかったな。


「そうですね!まあ、まずは一言ずつ理由を述べていきましょうか!」


 手をパチンと合わせて音を鳴らすピート。

 妾は仕切り直しの合図に聞こえた。


「私はあの者がいるだけで周りに威圧感を与えかねないと最初から考えてました。実際に危害を与えてしまったので王宮には不要です。」


 アウルムが率先して話を始める

 

「お姉様?ふとした時に銃口を突き付けられた時の感情をどう考えますか?……私は恐怖でしかない」

 その声は戦々恐々を体現している、不安と恐怖心が感じられた。


 この場にいた誰もが揃って曇りを覆った表情をしていた。きっと、父君の事を想起しているのだろう

 父君は殺害された、だが射殺ではない刺殺じゃ。


 まあ、だからと想起するなとは思わない。

 むしろ惨劇を繰り返さない、忘れないと言う意識を肌で感じれて良かったとさえ思う。

 

「……アタシは彼が国内にいるべきではないと思います。理由はアウルム姉様が述べる通りです……

 どんな高位な存在であったとしても国賊行為や違法行為は処罰されるべきですので」

 

 一幕置いて

 論理的に組み立て理由を話すカープルム。

 至極当然、真っ当な意見じゃ。

 誰よりも勉学に励んでるからこその理由じゃな


「フェルムは中立よ!それは変わらない!お姉様方達と同じ立ち位置で客観的に物事を見れた方がいいでしょう。だから中立よ」


 自信満々に中立をアピールする末っ子のフェルムは何事にも客観視したいと言う思いが伝わる。

 妾達が両極端に意見が分かれた時に王族として王女として指摘が出来る理に適った考え方じゃ


「その中立目線で言うけれど、ベレッタさんを残す事にはデメリットしか存在しないですよ?ユパロンからの圧力もありますし両国民の声もあります!」


 アウルムは良くぞ言ってくれた!と言わんばかりに口角を上げてフェルムを見つめる

 ピートは音が鳴らないギリギリで手を重ね、離す素早い反復を行なっていた。


「オーリアお姉様の理由によっては、フェルムの中立的な見解はより現実を帯びる事でしょう」

 

 カープルムが淡々と妾に意見を述べる様な導線を作っていった。


 形勢は変わらずだが、目に感じる。

 皆ベレッタは国内から通報する方針へと気持ちを固めていっている。


 ――それは妾が許さない。


「理由は一つ……妾は奴に惚れたからじゃ」


 場の全ての時間が止まった。

 凍りついたように皆、ビクともしない。


 この言葉は本心かどうかと聞かれれば正直、嘘になるかもしれない。

 だが、こう話でもしない限りベレッタが残る手立てはない。


 妾はまだ知りたい。

 まだ奴を知り得ていない……

 

 いや、まだ彼の手助けにもなれていない。

 家族を養うのだろう?

 一ヶ月そこらで辞めさせられては

 遣る瀬無いだろうベレッタよ。


「それだけじゃ、それ以下でも以上でもない。次にティーポットじゃ話せ」


 時間が止まった空間に息を吹きかける様に颯爽とティーポットに主権を譲った。

 彼は焦る様子、一つなく息を整えていた。


 まあティーポットは察したのだろうな。

 妾の発言が出まかせであるぐらい。


「私は彼を本国に招待した身でございます。それ故にこの場の誰よりも彼に同情しています……彼は非常に紳士な存在でございます。たった一度の失敗で全てを台無しになってしまうのは可哀想です」


 ティーポットにしては情に訴える演説じゃ。

 いつもは恭しく答えるばかりで自分自身の芯とした意見など持ち得ていないのだとばかり思っていた

 

 そんな考えが恥ずべき事だと妾は瞬間に感じた。


 ティーポットはそれ以上、何も言わずに

 ただ静かにピートの方を向く。

 三人の王女達も静かにピートを覗く


「皆さんありがとうございました。皆さんの意見全て理解いたしました。それでは今から最後の多数決を取りますね。」


「その前にピート様の意見は?」

 フェルムが話を止めてピートに求めた


「……私の意見ですか?」

 困惑した様に聞き返すと答えを待たずしてピートは唸った


「うーん、そうですねぇ……反ベレッタ派は論理的で何処の波風が立たない真っ当な物でしたが。一方でベレッタ派は感情論で、実に私的私情が挟んだ意見でしたね」


 これまでの全てを整理してまとめた。

 確かに感情論でしかない。

 コレが妾の本音であるからな

 

「――私は許しませんよ」


 突然、ピートは声色を変えて主張する。


「ベレッタさんは平民生まれ。女王と交わることは決して許してはいけない事です。」


「私の主張は……コレで以上です。それでは皆さま挙手で構いません賛成派否定派の多数決を取りましょう」


 何事もなかった様に多数決を始めようとするピート。それを目に他の王女達は何を思っていたのだろうか?


 ピートの発言は釘を刺されたと言っていいな。

 出鱈目だとしても改めて、窮屈な立場に置かれているな妾は……


「それではベレッタ派の方、挙手をお願いします」


 妾とティーポットが手を挙げた。

 もうこの地点で勝ち目はない……

 いや、まだあるか?

 反ベレッタ派が前と変わらない、または中立に移動さえしていれば、また何か別の処遇が提案できるかもしれぬ。


「次に反ベレッタ派の方は挙手をお願いします」


 アウルム、カープルムが順々に挙手する。

 もうこれ以上増えないと確信した矢先に見えた


 ――ピートが挙手する姿を


「では残りのフェルム王女様は中立という事ですね。」


 フェルムはコクリと頷く。

 コレで大敗か。


「ベレッタ派か二名、反ベレッタ派が三名、中立が一名よってベレッタさんの処遇が決まりましたね」


 覚悟はしていた。

 勝てる確証はないと思いつつ淡い希望をずっと抱いていた。何にも変えれない結果を目にして


 一言だけ浮かんだ事がある。


 (ベレッタ、すまなかった)


 その一言をボソッと放つなり

 妾は腕を胸の前で組み、目を瞑った。

 暗闇の中で会議の声が聞こえる。


「ベレッタさんには申し訳ないですが、致し方ない事ですよ、ティーポット侍従長……オーリア女王」


 妾を宥めるピートの声が聞こえた。

 三人の王女の微かな声も耳にしたのだが、ハッキリとした会話はわからなかった。


「あの人はユパロンの外交官に目をつけられた。運がなかっただけ……」

 その一言だけは何故か上手く聞き取れた。


 ――運がなかっただけ?

 彼が癖者に産まれて銃の頭を持って産まれたこともか?運が悪いで済ましてはいけないだろ……


 何としても人間が癖者として産まれてしまう理由を明かさなければ不遇な者達が無念で仕方がない。


 妾は覚悟を決めた。

 受け入れる覚悟をじゃ。


「承知した……ベレッタは国外通報に処す」


 目を開けて、人一番に言い放った。


 絶対にお主を連れ戻す。

 報酬も三ヶ月分以上で手配しよう。

 コレで暫くの生活も母の病気も何とか……


 

 だから今は耐えてくれベレッタよ。


 心優しき、紳士な銃男よ

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