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癖者好き女王と紳士な銃男  作者: 秋浦ユイ
《第1部 護衛編》独裁国家の茶会
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第12話 交際成立

 《一ヶ月前ベレッタが単身で隣国に向かった日》


「女王様、今なんと」

 ティーポットが目の前に現れて口にする


「今すぐにユパロンに向かうと言うておろう。」


「あっ、はい!かしこまりました。」


 ユパロン国に単身で向かったあの者の意志の強さが伺える。ベレッタ、お主の理念か?

 自身のせいで誤解を招いたことへの贖罪か?


 もし、そうであれば。

 ――妾は評価しない。


「ただ今、諸々出国準備をしています故、お時間頂戴いたします」


 ティーポットが王宮を彼方此方へと駆け回っては執務室前に佇む妾に報告をしてきた。


「あぁ分かった。」

 ポロペからユパロンからは三十分近く掛かる

 今は正午を過ぎた頃合いか。


「準備整いました」

 時間として数分も経っていない。

 流石のティーポットだな。


「あぁ、参るぞ」


 王宮を出て門を通ると屋根付きの馬車が停まっていた。黒を基調としてして馬も黒。

 前回、前々回ユパロンに赴いた時もこの馬車じゃ

 


 ――タダッ! タダッ!


 何処からか馬の蹄の音が地面を叩く音が聞こえた

 目の前の馬は当然、動いてない。

 ならば何処じゃ。


「ん、彼方の馬引きは?」

 傍らに立つティーポットが真っ正面を向いて呟いた。真正面に音の正体があると言うのか?


 妾は乗車予定だった馬車によって正面の視界が遮られていた故に確認できなかった。


「おい、そこの馬車を退かしてくれ」

 妾は駆者に申し出た。


 ゴゴゴゴ、と音が近くで聞こえ視界が広がった。


 ポロペ国の王都そこの名所である

 《露天市場ストリート》を直線に駆け走る、馬車が三台ほど見えた。

 

 ストリートの通行人達は、さぞ迷惑だっだろう。


 このタイミングで自国に乗り込んで来るとするならばユパロンの仕い達だろうか。


 馬車が一台、王宮の正面に停車した。

 その次に二台目、三台目と順々に門を囲う様に


 一台目の馬車からはゴルド王子。

 二台目からはシュルツ外交官。


 ――そして三台目からはベレッタが下車する。

 また、それぞれに兵が遅れて数人下車する。


「やあやあ昨夜振りですねぇ。連日、顔を見合うとは思っても見ませんでした。オーリア女王」


 シュルツが仰々しくお辞儀をしながら話す。

 何を(こうべ)を垂れている。

 全てお主が仕向けた事だろうに。


「奇遇だ、妾達もコレからユパロンに向かおうとしていたからな」


「ンフフ本当に奇遇ですねぇ。もしや、探し物を探す為に向かわれる予定でしたか?もしそうでしたら――」


 なんじゃ社交辞令のつもりか?

 シュルツは白々しく話し、顔をベレッタの方に向けて「コチラが、その探し物ではありませんか?」

 と一言主添えた。


 ベレッタは手錠をされていた。

 妾の方に顔を向けず、地面に向かって頭が垂れ下がっていた。

 喋る気力も聞く気力も何も残っていない、まるで人形の様にピタリとも動かなかった。


 数人の兵に連れ添われていて圧迫感がある。

 奴らの行動一つ一つが気味が悪い。


「辛気臭い……早う説明してくれぬか?何故にお主は虚報の号外を広めた」

 


 「そうですね、芝居も疲れてきましたし」

 顎に手を添えて物言わぬ顔で妾達を見下す。

 

 ティーポットと五人の兵がユパロン国の者達を警戒し一歩前へと出た。


 シュルツは彼らを横目に悠々とゴルド王子が立つ二台目の馬車まで歩き、また戻ってきた。

 今度はゴルド王子と共に。

 

 「さあゴルド王子様、あの事を話して差してあげましょう」


 シュルツが嬉々とした声色と表情でゴルド王子に添える。シュルツは少しコケた頬と薄髭が見える尊顔を妾へと一瞬、向けるとニヤリと口角を上げた。


 王子は何も言わずにただ妾を見つめていた。

 その瞳の奥に希望の光などはなかった。


「オーリア女王……私と共に夜を眺め永久にさえ感じる時を過ごし、愛という名の星座を一緒に見つけませんでしょうか」


 膝を付き、妾に手を差し出す。

 操り人形の如く感情は作られていて、そこに真の感情があるとは思えなかった。

 それに何だ、そのポエムは。

 シュルツが考えたのか?


 さあ、どうしたものか。


 チラリとベレッタに視線を移す。

 相変わらず俯き気味じゃ。


 シュルツ外交官を見るとギロリと眼を開き無言の圧力を感じた。「返事をしろ」「早くしろ」などと言った声が今にも聞こえそうだ。


「あぁ、良いぞ。」


 仕方のない。

 断ればベレッタがどうなるかは分からない。

 今まで良好だった国家関係も崩れるだろう。


「ただ三年の交際期間がなければ、結婚は出来ぬ。それでもいいか?」


 今度は妾がシュルツにギロリと眼を向けた。

 仕返す様に。ただ、効果は今ひとつじゃろう。

 三年の交際期間の有無の事はシュルツも承知の事であろうから‥‥


 何年掛かろうが、ポロペ国との結び付きが欲しいと考えているのか本当に気味が悪い


「構いませんよ」


 ゴルド王子は一心に妾を見つめて答えてニコリと笑う。それも偽造品、全て台本もある事だろう。


「契約成立じゃな……交際成立書に手印が必要じゃが?」


「それも構わないよ」

 爽やかな物言いとは裏腹に操りの影を感じる

 シュルツお前がそこまでして得たい物は何なのじゃ?このポロペ国の領土か?


「そうか、ならば――」

 仕方なく契約を受けるとしよう。

 今すぐにティーポットに紙を持ってこせようか


「お二人共、おめでとう御座います!なんとお似合いな事でしょう!ポロペとユパロンの益々の繁栄の兆しが晴れ渡って見えます!」


 シュルツが口を挟む、鬱陶しいぐらいに物事に仰々しく答えてゆく。全てお主が書いた脚本の上に過ぎないと言うのに。


「さあ!拍手を!」


 ――パンッ! パンッ!


 シュルツが一人で大役を迫真の演技で演じて周りの者達に拍手を促した。

 一人で率先して拍手をするなり、拍手はユパロン側の勢力が増す一方で妾の近くには何一つ音は聞こえてこなかった。行った。


 それもそのはず

 ポロペ国の誰もその拍手には参加していないからな‥‥誰が、その猿芝居に混じるというのか。


「さあさあさあ……伝える事が出来ましたし、そろそろ私達も帰りましょうか。契約書の件は追って致しましょうか」


「本日は突然の訪問大変、失礼いたしました」


 拍手が途端に鳴り止む。

 まるで指揮者が拳を握り演者に合図をしたように

 だが合図となる行動は散見できなかったがな。


 拍手を止めたと思ったその次に颯爽と馬車に奴らは乗り込もうとしていた。

 ベレッタも一緒に連れて――


「待て、紛失物の譲渡が済んでいないぞ」


 ピタッとシュルツの後ろ姿が止まった。

 振り返らずにシュルツは

「あぁ、そうでしたねぇ」

 と低音を効かせた、声は妙に妾を狙って振るわす


「演劇はもういい、話せ……お主の目的かユパロンの国王の目的か知らないが限度を超しているぞ」


 語尾を強めた、もう舐められるのは溜まった物じゃないな。なぜ主導権が奴らにあると言うのか。

 考えれば考えるほどに憤りを感じる


「彼はユパロンの諜報を図った……そしてポロペ国に対しても不利に働く行為を何度も行った。故に彼は私達の共通の国賊なのですよ」


 ベレッタとシュルツ以外の全ての者が馬車に乗車し、ただ一人で演説を繰り返す。

 その演説も酷い物だ。


 全て偽りに過ぎない

 ベレッタはそんな事をしない。

 そもそも出来ない立場じゃ、故郷に置いてきた病者の母親と家族を養う為。

 自らを犠牲にしようとも、この国を選んで働きに来た人間じゃ。


「善良で紳士な人間が、そんな事をするはずがないだろう。」


「全てお主の戯言なのは見抜いてる。さあ早くベレッタの手錠を外してもらおう」


 シュルツは振り返り妾達に顔を向ける。


「“人間?” “癖者”でしょうに」

 日光が奴の眼鏡を反射し、不気味さを演出したと思えば直ぐに反射は消えコントラストの無い瞳が妾を突き刺す。


「大丈夫ですよ、お引き取りいたします。ただ人々は何と言うでしょうね。私はお勧めしませんよ、そのまま何事も無かったように彼を王宮に国家に残す事は……」


 シュルツはそう一言放ち、シュルツの手錠を外して馬車に乗り込んで行った。

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