第10話 恋は盲目
「ポロペ国の護衛兵、ベレッタでございます!少々ゴルド王子とお話をさせていただきせんでしょうか!」
ユパロンの王宮の門前に立ちワタクシは声を張り上げたのは訳がある。
此処に来る前に国民達の談笑を耳にした
ワタクシ達の悪印象は相変わらずだ。
道中にも人々にワタクシを白い目で見ていたのを横目に通ってきました。
号外によって情報錯乱は覚悟していたが、想像以上に辛く苦しい……昔に戻った気分です
さあ一刻も早く、国民への誤解を解きたい。
門に立つ二人の兵がワタクシを警戒して何やら、打ち合わせをしている。
その後、一人の兵が門を開けて王宮に出向いた。
その間、ワタクシは乱れていた息を整えて待つともう一人の門兵は何も言わずワタクシを警戒する
その時間は果てしなく感じて途方もない。
――キィーン
過去二回、ユパロンの王宮に入城した時と同様に門は完全に開いた。
どうやら話を通してくれた様だが、それは何故?
直談判を自らしてきた身なのだが疑問に思う。
ユパロンの王が許可してくれたのだろうけれど
こんなポロペ国の護衛に何かに時間を割く訳が分からなかった。
「なぜ、ワタクシを受け入れたのでしょうか?門前払いを覚悟してたので少々驚きました」
開門と同時に真っ直ぐに歩く男がワタクシの目に映った、その者はニヤリと悪意ある表情をする
見るや否やワタクシは尽かさず問う。
「いやはや、そりゃ君を誘き寄せる為の算段だったからねぇ〜そりゃ受け入れるでしょう」
――シュルツ外交官だ
「外交官であるからと、独断で大掛かりな事をしては国王は堪った物でございませんか?」
彼が号外を仕向けたのだろう。
仕向けた本当の理由は何なのだ、ワタクシや女王を陥れる為なのか。
ゴルド王子との縁を万が一、女王が放り投げたとしても悪質的である。
「ふむ、我が国の内部事情など他国の末端に話す訳なかろう。だが、君を呼び寄せた理由は話してやっても良い。」
身構える様にワタクシは聞く。
シュルツ外交官はワタクシの僅か一メートルと言った所で立ち止まり話を続けた。
ワタクシの先入観を通してだが外交官は怒りを孕んだ声で言葉を紡いだ。
ただ、決して悟られないように繊細な声である。
「――時に銃男よ、お主は慕情や恋慕の心を持ち得ているのだろうか?」
何を話すかと思えば、まさか恋心があるかどうかの質問であった。
何を言うか、ワタクシも歴とした人間である。
姿形が普通の人間と違えど感情も何もかも人間だ
「矢張り貴方様はワタクシ達、癖者を偏見の目で見ているのですね。ワタクシ達は貴方達と変わらない人間であります。」
「偏見ねぇ、別に偏見じゃあないよ確認さ。偏見はね、人間が身に付ける最大限の防御それ故に偏見を一筋に批判するのは私は攻撃と見做している。」
「アハハ。ごめんねぇ」
その外交官は一息にワタクシを諭すと、ニコリと不気味な笑みを浮かべて声に出して軽く笑った。
「その話は取り敢えず置いておこう、無駄話より本題に入ろうか。」
淡々と対話の主導権を握る外交官にワタクシは柄にも無く沸々と頭の中で何かが煮えたぎる。
今まで広げていた手の平を握り締めた、まるで全ての感情を一点に込めるように。
「私が下世話を流した理由は全て、自国とポロペ国との友好関係を続ける為である。」
シュルツ外交官の眼鏡が日光によって白く反射し、彼の貪欲な仕事振りに不気味さを演出させた。
「ゴルド王子の手を引いた女王。そしてその孤高の女王を魅力した癖者。このままでは国民達はポロペに悪印象を抱き続けるだろう。」
「そこで――君だよ。君を利用して……君から始まめるのだよ癖者共の楽園の終焉をな。」
直線に人差し指をワタクシに向ける。
周りの環境は非常に慎ましく、ワタクシの味方は誰もしてくれない。
結局ワタクシは虐げられる存在なんですね。
心が荒んで行くのが分かる。
「ユパロンの国民の声は留まる事はないだろう。何せ王子を貶されたに等しいのだからね、そうなったらポロペ国にも直接的な不利益をもたらし最後には――」
もう真実は理解した。
彼は正真正銘、癖者嫌いなのだ。
何としても癖者を虐げ、遠ざけたいのだ。
「――癖者を切り捨てる。幾ら癖者好きの女王だとしても、そこは惜しまないだろう。」
彼の言葉から、ポロペと言う自然や利用価値のある領土を得る為に手段は選ばない。
そんな確固たる覚悟も感じる。
「……なぜワタクシを選んだのでしょうか」
憤りや憎みを堪え、粛々と質問をしようと心がけた。 けれど、ワタクシの声色で彼が何を感じたのかは知り得れなかった。
「単純だよ君は、恋をしているだろ――女王に。」
ドッドッ!
ワタクシがその言葉を耳にした時、鼓動が大きくなった。 それはもう辺りの慎ましい環境が全て鼓動の音に置き換えられたように。
「私は女王の忠臣も確かに有りながら確かな恋心が存在しているのを君の行動で察したのだよ。」
「愛する者の為ならば足を運ばす健気さも確かめれたし、確定だねぇ。」
連ら連らと並べなれた憶測は全て、ワタクシの実る事も水を差す事も許さられない苗を言い当てる。
無論、愛と呼べる物を纏いながら仕事を運んでいた訳じゃない。
事実、ワタクシは常に心の視界にそれを入れる事を拒んでいたのだ。
「だが哀しきかな、女王は君など微塵も想う事はない。それどころが君は癖者として唯一の娯楽としてしか見られていない。」
「いいえ、その推量は誤っています。女王は確かにワタクシ達を人間として見ておられます。」
反論という反論は不得意分野である。
だが、ワタクシは咄嗟に口が動いてしまった。
シュルツ外交官は表情一つ変えずに受け止める。
顎に手を添えて何か吟味する。
「恋は盲目と言いましてねぇ、正に君はその渦中だよ。一般市民以下の癖者が立派に恋をするなんて烏滸がましいと思わないのかい、ましてや王族の最高位に立つお方ですよ?」
何も言葉が浮かんでこない。
全て事実であるからと理解してしまったからだ。
いえ、全て最初から解っていた事である。
唇を噛む代わりにワタクシは空を仰いだ。
もう、返す言葉は見当たらない。
ワタクシは紳士である以前に、癖者である。
幾ら律儀に上品に事を運んだとしても――
「今から君をポロペに連れ戻す。こちら側が用意した素敵な馬車でね。」
――ワタクシの社会的地位は存在しないに等しい
シュルツ外交官の身振り手振り。
その一挙手一投足を霞み行く瞳で捕える。
何もする事が出来ない無力感は身体を重くした。
その後の記憶はあまり覚えていない。
目を開けると目覚えのある光景が映った所でワタクシは我に返った。
正面の玉座に鎮座する女王。
その傍らにティーポット。
直線に二人ずつ使いの者が立たずむ。
ワタクシとの距離は遠く遠く感じる。
ふと、オーリア女王を初めて目にかかった時と同じ構図である事に気がついたのです。
だが、緊張が張り詰めていたあの時と違って場の雰囲気は、しじまに取り込まれていた。
女王はワタクシを、無心に見つめる。
綺麗なコバルトブルーの瞳の輝きが曇っていた。
他の者たちも同様である。
何も言わずに表情を変えずに時は過ぎてゆく
「――ベレッタ。護衛兵のベレッタよ」
どれだけ時間が過ぎたのだろうか。
互いに息を長時間潜めて放った言葉の先に、ワタクシの重心を突き動かした。
その鉛のような言葉の重さから理解した。
ワタクシはシュルツ外交官の手中に嵌ったのだと
「――お主を解雇する」
オーリア女王ならば、こんな決断しない。
そんな信憑性の無い持論と希望を展開して国を飛び出たあの頃に戻りたい。
自身の理念や正義に変に従い自滅してしまった
『恋は盲目』
シュルツ殿が言っていた通りだったかもしれない、何を女王の為、ゴルド王子の為だ……
ワタクシは非常に無念で堅く口を閉じ続ける。
「お主は業務放棄し国を出た上に随分とユパロン国に迷惑を掛けたじゃないか。王都で暴れ乱れて王宮前で騒ぐ……」
女王が感情を失ったように続ける。
虚偽の内容が含まれているが、シュルツ殿の仕業なのだろうか。
奴の目的はポロペとの良好関係の存続。
女王と癖者の悪評を流布させたのは癖者をポロペから追い出す為。
恐らくその後、強引にも女王または王女とゴルド王子と結び付きを得てポロペ国を手に入れる。
「隣国での良俗公俗を乱す行為と当国での業務放棄を王族の裏切り行為と見做し――」
王の間は、まるでワタクシと女王しかいない様だ
ただ、そう感じただけである。
現状は何にも変わらない
やっと故郷での支配と差別から逃れ、家族孝行できると考えていたのに。
こんな結末になるとは流石のワタクシも予想する事すらできなかったですね。
あぁ家族に顔向け出来ないですね、コレでは……
どんな顔で周りを見ればいいのでしょうか。
殺戮兵器の頭を持った行き場の無い人外。
ワタクシは人間などではなかったのだ。
「――国外通報に処す」
人間であれば、コレほどまでの処罰は下されない
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残り後、数話で区切りが付きますのでそれまで
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